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自分でできることをもう一度
2021.11.18
田中さまの生活歴と入居時の認知症の症状
かつての田中さまはアパートの管理人をしながら、畑仕事を1日も休まず行う働き者。日課は、喫茶店で気の知れた仲間とのおしゃべり。とても社交的で、町内の役員も引き受ける責任感の強い方だ。
認知症を発症してからは、デイサービスを利用し自宅で生活をしていた。81歳で大きなやけどを負って入院してから大声を出すようになり、自宅で過ごすことが難しく、愛の家グループホームおがせに入居した。
少しでも元気になれるようなケアを
87歳で風邪と尿路感染症により発熱を繰り返したことで、体力の低下が見られてきた。車いすに座っていても眠ってしまうため、ベッドで過ごすことが増えた。人に手伝われることを嫌う田中さまは、スプーンで食事を口に近づけても口を開けず、次第に食事が摂れなくなっていった。
以前のように社交的な姿はなく、日に日に弱っていく様子に、もう一度笑顔で過ごす時間を取り戻したいと自立支援ケアを始めた。
自立支援ケア
①食事量の安定に向けた体力づくり
体力が低下し、座った姿勢を保つことができずベッドで過ごす時間が多くなっていた田中さま。活動性を取り戻すためにも、まずは食事の時間だけでも車いすに乗れるよう援助した。姿勢が安定するよう足台を設置し、体力をつけるために足を動かす運動も行った
②水分とプロテインを摂って栄養状態を改善
尿路感染症の改善や予防には十分な水分を摂ることが大切と言われているため、まず水分摂取量の見直しを行った。甘いもの好きの田中さまのため、コーヒーや紅茶の甘みづけに砂糖ではなくオリゴ糖を使用した。オリゴ糖は砂糖と比べてカロリー低く、食物繊維も含まれており整腸効果もある。体調を見ながらおやつを提供し、プロテインと主治医から処方された高栄養ドリンクをすすめることで、栄養状態の改善を図った。
無関心から明るい表情に変わるまで
取り組み後、はじめの3か月間はあまり変化がなく、スタッフがスプーンでご飯を口に運ぶと手で払いのけ、「いらん」と大声を出していた。
そんな田中さまに変化が見られたのは4か月が経った頃。水分は当初の612mlから956mlへと少しずつ摂れるようになったことで、脳の覚醒状態が上がり、車いすでの姿勢も安定し、窓の方を見て外の様子に興味を持つようになった。すると食事の時に茶碗に視線がいき、自分でスプーンを持つことができるようになった。途中で疲れてしまうこともあったが、スタッフの介助を受け入れるようになり、徐々に食事量が増えた。食事は摂れるようになったものの低栄養の状態が続いていたため、栄養状態のさらなる改善を目指し、プロテインの量を増やした。
変化は表情にも表れるようになった。5か月目、窓の外を見る田中さまに天気の話をすると返事をするようになり、笑顔も見られた。水分量の増量や栄養改善により、活動性や免疫力があがり、何度も繰り返していた尿路感染症の発症もみられなくなった。
少しずつ体力もついてきたため、桜が見頃になった頃、花見にお連れした。「桜が咲きましたね」と声をかけると「ほうか」と返事をされ、次回のお誘いをすると「はい」と明るい表情を見せてくださった。一緒に外出できたのは数年ぶりのことだった。
より田中さまらしく過ごせるように
自立支援ケアから7か月目。田中さまは、スプーンを上手に使って口まで運び、食事の量も増え、体力もついてきた。ベッドでの時間が多かったが、今では「働き者」の田中さまらしさが少しずつ見られるようになり、日中は車いすに姿勢よく座って、新聞を読むようにもなった。
ある日、「百姓やらないかん。役(町内役員)もやっとるで寄合がある」と昔を思い出したように話された田中さま。かつて大好きだった喫茶店での町内の会合を楽しみにしていたように、その新たな目標に向けて、田中さまとスタッフの二人三脚の取り組みは続いている。