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健達ねっと>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】生体調節作用を発揮する食品の官能特性に関する研究

【専門家インタビュー】生体調節作用を発揮する食品の官能特性に関する研究

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研究内容について

編集部:難吸収性ポリフェノール摂食による青班核―ノルアドレナリン神経刺激作用の解明についての研究内容とその研究成果について教えてください。

越阪部様:ポリフェノールの中でも強い渋味を呈する物質群は、消化管からは吸収されないことが知られています。一方、渋味を呈する難吸収性ポリフェノール(以下渋味物質)を経口摂取すると、直後から末梢血流量の顕著な上昇が見られます。様々な検討の結果、この末梢血流の上昇は、交感神経活動亢進の結果であることが分かりました。

交感神経活動は環境の変化によって変動し、私たちの恒常性を調節しています。例えば運動、熱い・冷たいといった温度刺激、辛味、機械刺激などといったストレスにより交感神経が活性化し、逃避や対決に必要な生理的変化を引き起こします。こうして私たちのカラダは、ストレス刺激に対峙しようとします。

これらのことから、「渋味」という刺激が、私たち哺乳類にとって「ストレス」となるのではないかと考え、脳内の神経伝達物質やストレスホルモンの変化を観察することにしました。その結果、渋味物質は脳幹に存在する青斑核を刺激してノルアドレナリンを脳内に広く投射すること、その刺激は視床下部においてストレス応答反応を引き起こし、脳幹への投射は交感神経活動を亢進させ、心血管系やエネルギー代謝系を活性化することがわかりました。

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

 

越阪部様:ポリフェノールにはメタボリックシンドロームのリスク低減作用があり、心血管系疾患を予防することが明らかとなっており、最近では脳機能を活性化することも示されています。 しかしながら、摂取したポリフェノールは消化管からはほとんど吸収されないことが明らかになったことから、その標的臓器は口腔を含む消化管であると考えられています。

昨今、健康の維持・増進と腸内環境、特に腸内細菌叢の関連性に注目が集まっていますが、ポリフェノールの場合、摂取直後から末梢や脳の血流を上昇させるため、大腸より上部の消化管が関与しているのではないかと推察されます。

そこで我々は、トクホや機能性表示食品の関与成分である20種類超のポリフェノール化合物について、末梢血流に対する影響を観察するとともに、その「味」との関係性を解析しました。その結果、①渋味物質:強い活性、②苦味物質:若干の活性、③ほとんど味がしない物質:活性無し という3つのクラスターに分類できることが明らかとなりました。そこで、活性の本体が「渋味」ではないかと着想するに至りました。(Q1に続く)

編集部:「ポリフェノール・パラドックスの解明」についての研究成果について教えてください。

越阪部様:食品中に含まれる栄養素以外の成分(食品因子)は、医薬品などの化学物質と同様に、一部が吸収されて体内に分布し、何らかの生理作用を発現すると考えられていました。ところが二十年前、私たちの研究によって、経口で摂取したポリフェノールは消化管からはほとんど吸収されず、血中で検出することが難しいことがわかりました。一方前述したように、ポリフェノールをヒトが反復摂取すると、メタボリックシンドロームのリスクファクターが改善されることも明らかとなってきました。”吸収されないのに効果を発揮する”というこの矛盾した現象が「ポリフェノール・パラドックス」と呼ばれています。(Q2に続く)

編集部:越阪部様が考える本研究の意義を教えてください。

越阪部様:これまで食品の機能は、①栄養素としての機能、②官能特性(味・匂い・食感など)、③生体調節機能(機能性食品)の3つに分類され、別々に研究が進んできました。一方本研究では、食品の官能特性である「渋味」刺激が脳に伝達され、脳幹への投射が交感神経を通じて末梢の臓器を調節するという、②と③の相互作用がはじめて確認されました。今回の”食品の官能特性が生体調節作用を発揮する”という発見は、食文化を含めた「食とヒトの関係性」に新たな研究分野を展開するきっかけになるのではと考えています。

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今後の目標について

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

越阪部様:本研究で示された”食品の官能特性が生体調節作用を発揮する”という発見は、食文化を含めた「食とヒトの関係性」に新たな研究分野―例えば「感覚栄養学」―を展開するきっかけになるのではと考えています。

食品の官能特性としては味だけではなく、”匂い””食感””色彩”など多くの要素があり、それらは生体調節といった直接的な作用を示すだけでなく、記憶されることによって、ヒトの心理に大きく影響することも予想されます。今後は、様々な要素を様々な方向からの複合的に解析し、Well-beingに貢献できるような成果を目指していきます。

健達ねっとのユーザー様へ一言

人生百年時代に突入したことで、多くのヒトが健康上の悩みを抱えてしまう結果となってしまった とも考えられます。だからといって甘言につられて、新しい商品に手を出すよりも、①バランスの取れた食事、②運動、③睡眠 をいかに実践していけるのかについて考えるのが大事なのではないでしょうか。

 

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薬の使い方

芝浦工業大学 システム理工学部 教授

越阪部 奈緒美おさかべ なおみ

博士(薬学)
薬剤師
教授

  • 博士(薬学)
  • 薬剤師
  • 教授

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