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健達ねっと>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】患者の自然治癒力にアプローチするための研究

【専門家インタビュー】患者の自然治癒力にアプローチするための研究

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研究内容について

編集部:「人工呼吸器関連事象の発生率と予後」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

中永様:秋田大学医学部附属病院集中治療室(ICU)に入室し、3暦日以上人工呼吸器が装着された169例を対象としました。人工呼吸器関連事象(ventilator-associated events, VAE)陽性は16例(9.5%)で、人工呼吸器装着延べ日数は3,290日、VAE発生率は4.86例/1,000人工呼吸器装着日数でした。人工呼吸器装着日数は、VAE陽性群は陰性群に比べて長くなっていました(24.9±18.6 日 vs. 10.4±9.7 日、P<0.001)。APACHEⅡscoreはVAE陽性群24.6±7.29、陰性群19.2±6.29でした(P<0.01)。APACHEから算出した平均予測死亡率はVAE陽性群52.1±26.6%、陰性群31.4±21.5%でした(P<0.001)。病院実死亡率はVAE陽性群81.3%(16例中13例)、陰性群15.7%(153例中24例)であり(P<0.001)、標 準 化 死 亡 比(standardized mortality ratio, SMR)はVAE陽 性 群1.6、陰 性 群0.5でした。本研究から、VAEはICU入室時の重症度が高い場合に陽性となり、またICU入室時の予測以上に死亡率を高くする可能性が示されました。

参考文献:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/25/2/25_25_149/_pdf

 

編集部:その研究を行った経緯を教えてください。

 

中永様:米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention, CDC)の医療安全ネットワーク(National Healthcare Safety Network, NHSN)では、新たな指標であるVAEを策定し、2013年からVAEサーベイランスを運用しています。本研究は,CDC/NHSNの報告様式に従って、秋田大学医学部附属病院ICUのVAE発生率を求め、VAE陽性群の予後の評価を行ったものです。

 

編集部:「パニック発作に対する漢方治療の経験」についての研究内容とその研究成果について教えてください。

中永様:秋田大学医学部附属病院救急科で加療を行ったパニック発作6例について、漢方治療を施行し、その経過を報告しました。最初の2例はジアゼパムを併用しましたが、他の4例は漢方薬だけで改善しています。パニック発作の症状のほとんどは西洋医学的には交感神経の過緊張、東洋医学的には気逆により引き起こされると考えられています。パニック発作では心悸亢進を主とする奔豚気型以外にも、胸痛を主とする咳逆上気型、非典型的な水逆・嘔逆型,厥逆・厥冷型など様々な証を呈すると考えられており、実際には多岐にわたる漢方薬が処方されています。本研究では西洋薬だけでは症状を繰り返し、救急受診せざるを得ないパニック発作に対して、漢方治療を駆使することで急性期にも対応できる可能性があることを示唆しています。

参考文献:http://www.jsomt.jp/journal/pdf/056040165.pdf

 

編集部:中永様が考える本研究の意義を教えてください。

 

中永様:現代の西洋医学を軸とした医療環境においては、救急・集中治療領域に漢方治療が活用される機会は少ないです。しかし、歴史を紐解くと、『傷寒論』『金匱要略』の中には、急性感染症、中毒、蘇生の対処法についての記述があり、まさに当時の「救急マニュアル」とも言えました。そのような先代の知恵を現代社会に合うように換骨奪胎すれば、救急・集中治療領域においても漢方治療の応用は十分に応用可能です。西洋医学と漢方医学は相反するものではなく、補完するもので、両者を巧みに併用しつつ、患者さんに一番ふさわしい医療を提供することが重要であると考えています。

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今後の目標について

編集部:中永様の研究における最終的な目標を教えてください。

 

中永様:最終的な目標は個々の患者さんにとって一番ふさわしい医療を探索することです。われわれは患者さんを治すのではなく、ご本人が持っている自然治癒力を高めるお手伝いをするのだという気持ちで研究に向き合っています。特に自分の専門分野である救急・集中治療医学分野において、診断・治療に直結する臨床研究を行っていきたいと思っています。実臨床において、まだまだ改善・検討の余地があると思われる症例に時として遭遇します。その一助となるような研究を西洋医学・東洋医学に拘らずに多角的に行いつつ、若手研究者が自発的に積極的に研究できる環境造りを整えることが喫緊の課題だと考えています。

 

編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?

中永様:救急・集中治療領域においては未だに生存率が厳しい多臓器不全に対して、新しい血液浄化療法(選択的血漿交換+持続的血液透析)の開発を行っています。今後は多施設研究に繋げていく方針です。現在は学会主導で様々な研究テーマの助成をいただけるようになりました。そのような機会を大いに活用していきたいと思います。

地域に根差した問題として自殺予防対策が必要です。長年、救急医療からみた自殺企図予防対策を講じる研究を行っており、継続・発展させたいと思います。

救急・集中治療でも漢方治療が応用できる手ごたえを感じています。先に挙げたパニック発作だけではなく、破傷風に対する芍薬甘草湯、外傷に対する治打撲一方、軽症COVID-19に対する柴葛解肌湯など既に英文化したものもあります。それらを多施設研究で治療効果を確認し、海外にも発信していく予定です。

健達ねっとのユーザー様へ一言

東洋医学を学んでいると日常生活、特に食物の重要性を実感します(医食同源、腹八文目、身土不二、一物全体食など)。英語でも”You are what you eat.”という言い回しがあり、人の身体・精神の状態は食事(何を食べているか)で決まる、と考えられています。食の乱れから体調を崩して救急受診に繋がっている患者さんもおられますので、今一度、日常生活を振り返ってみられてはいかがでしょうか。病気になられた方は自身の人生を振り返り、修正できそうなところは今からでも修正されるといいと思います。人生すべてに学びはありますので、何歳でも遅すぎることはありません。調子が悪くても、血液検査や画像検査では異常が出ない場合があります。東洋医学には未病という概念があり、そのような症候に対応していますので、専門家に相談されるのもいいかもしれません。

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薬の使い方

秋田大学 大学院 医学系研究科 教授

中永 士師明なかえ はじめ

日本救急医学会専門医・指導医・評議員
日本東洋医学会専門医・指導医・代議員
日本集中治療医学会集中治療専門医・評議員

  • 日本救急医学会専門医・指導医・評議員
  • 日本東洋医学会専門医・指導医・代議員
  • 日本集中治療医学会集中治療専門医・評議員

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