高齢の方々にとって、不安を抱きやすい症状の一つが「物忘れ」です。
物忘れというと認知症が頭をよぎるかもしれません。
しかし、認知症に似ている仮性認知症という症状をご存知でしょうか。
仮性認知症とは、うつ病の症状や薬の副作用などが原因で大脳の前部分に位置する「前頭葉」の機能不全が引き起こされ、注意力や集中力、さらに判断力、記憶力の低下により一見認知症のように見える状態です。
うつ病が原因となることが最も多く、うつ病性仮性認知症とも呼ばれています。
仮性認知症は脳に障害が起きているわけではないので、認知症とは異なりうつ病の症状改善とともに改善が見込めます。
今回は、仮性認知症に焦点を当て、以下の項目を中心に解説します。
- 仮性認知症の症状とその原因
- 仮性認知症と認知症の症状の違い
- 家族や周囲の方の対処方法
疑問を解消するためにも、参考にしていただけると幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
スポンサーリンク
仮性認知症の症状
仮性認知症になると、実際にどのような症状が出るのでしょうか?
主な症状には、精神症状と身体症状があります。
具体的な症状を以下にまとめました。
精神症状
- うっかりミスや物忘れが多くなる
仮性認知症は、大脳の前部分に位置する「前頭葉」の機能不全が原因で起こります。
前頭葉の血流量は、年齢とともに低下していきます。
それにともない注意力や集中力が低下し、うっかりミスや物忘れが多くなってしまいます。
- 集中力低下・無気力・無関心
前述で触れた前頭葉の機能不全の影響を受け、ずっと習慣的に行っていたこと(仕事や家事など)ができなくなります。
無口になり、ぼーっとしている時間が増えて引きこもりがちにもなります。
趣味や好きなことさえ興味がなくなってしまいます。
- 妄想して不安になり緊張状態へ
現実ではないことを現実だと思い、不安によって常に緊張状態になってしまいます。
具体例として、「不治の病にかかってしまったと思い込む」「家族(周囲)に迷惑をかけてしまって苦しい」などが挙げられます。
- 死にたいと訴える
不安や緊張状態が続いたり、周囲の共感や理解が得られないと、自殺につながることがあります。
身体症状
- 強い身体の不調を訴えるが、病院の検査で異常が見つからない
身体の不調とは、全身の倦怠感や頭痛、便秘など様々な症状があります。
心配になり病院の検査を受けてみても異常が見つかりません。
異常が見つからなくても、本人はとても苦しんでいるので、精神的な不安や焦燥感にかられてしまいます。
- 体重が減ってくる
うつ病の症状によって、自律神経が乱れ食欲不振になります。
そのため体重が減ってきます。
- 熟睡できない
うつ病の症状の自律神経の乱れから、睡眠障害を引き起こしてしまいます。
夜中に何度も起きてしまうなど熟睡できません。
スポンサーリンク
仮性認知症と認知症の違い
ここでは、仮性認知症と認知症の違いについて解説していきます。
仮性認知症と認知症では、初期に現れる症状、特徴、進行する早さに違いが見られます。
しかし、仮性認知症の症状は認知症ととても似ているため、診断は専門の医師でも難しいと言われています。
これからおおまかな違いについて見ていきましょう。
初期症状
仮性認知症の場合、体調不良が見受けられます。
例を挙げると、睡眠が十分に取れなかったり、食欲不振になったりします。
認知症の場合、物忘れなどの記憶障害が特に多く見受けられます。
認知機能障害
仮性認知症の場合、理解力や判断力の低下を自覚して不安になり、抑うつになることがあります。
死にたいと思うこともあります。
認知症の場合、認知機能の低下を自覚して不安になり、抑うつになることはありますが、死にたいと思う気持ちにはなりにくいです。
記憶障害
仮性認知症の場合、集中力の低下によって物事を覚えることが難しくなります。
新しい出来事や重要なこと、個人的なことは滅多に忘れません。
認知症の場合は、新しい出来事を脳にとどめておくことが難しくなります。
しかし、当の本人に自覚がなく、物忘れや記憶障害がないかのように否定する傾向が見られます。
言語機能
仮性認知症では、会話の中で返答が遅れがちになることがあります。
認知症の場合、言葉に詰まったり、話しかけたりしても困った顔をしているだけだったり、「失語」の症状が出ます。
相手の言いたいことがわからない、言いたいことが表現できないケースなどです。
会話相手の言っていることをオウム返しするようなこともあります。
感情
仮性認知症の場合、孤独感や無価値感、絶望感といった自己否定の考えにとらわれてしまいがちです。
そのため、引きこもってしまうケースも多いです。
認知症の場合、安心して落ち着けないため、各々に多彩な感情が見受けられます。
例えば、すぐに怒りだしたり、「幻覚」「幻聴」「妄想」などが出現したり、夜に落ち着きなく動き回ったりなどが挙げられます。
摂食障害
仮性認知症の場合、食欲不振や拒食になることがあります。
認知症の場合、食欲不振になることはほとんどありませんが、過食や異食をしてしまうことがあります。
認知症の初期症状と聞くと、「物忘れ」や「徘徊」などの症状を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。 しかし、認知症の初期症状はそれだけではありません。 今回は、以下を中心にご紹介します。認知症の初期症状認知症の初期症状が進行す[…]
仮性認知症セルフチェック!
仮性認知症の場合は、思考力の低下や意欲低下による認知症に似た症状が見られます。
反対に、認知症では思考力低下や意欲低下に加えて徘徊や昼夜逆転などの症状が現れてきます。
仮性認知症と認知症の違いを以下の表にまとめました。
どちらの項目が多く当てはまるかチェックしてみましょう。
仮性認知症 | 認知症 | |
発症までの期間 | 急に発症することが多い 明確な発症時期が分かりやすい | 徐々に進行していく 明確な時期を特定することは難しい |
うつ病の既往歴 | あり | なし |
初期症状 | 気分低下、意欲低下 | 物忘れ |
記憶力 | 最近、昔のことを思い出せない | 最近の記憶が思い出せない |
集中力 | 変わらない | 低下する |
問題解決 | 「わからない」と即答 | 考えて正答する姿勢 |
言語能力 | 回答が遅い、遅れる | ものの名前が思い出せない |
食事 | 食欲低下、拒食 | 問題ない |
睡眠 | 不眠 | 昼夜逆転 |
妄想 | 不安や妄想 罪悪感 | 身体が変わったような感覚 物取られ妄想 嫉妬 |
仮性認知症では、認知症とは違い気分の落ち込みに関係する症状が多く見られる特徴があります。
医療機関を受診したときに、脳画像において異変がある場合は認知症の可能性が高くなります。
反対に、脳に変化を及ぼさない仮性認知症では脳画像において異変がないことが多くなります。
仮性認知症の原因
何が原因で仮性認知症になってしまうのでしょうか?
前述の通り、仮性認知症は大脳の前部分に位置する前頭葉の機能不全が原因で起こります。
前頭葉の血流量は、加齢に伴って低下してしまいます。
その他に、ストレスや薬の副作用も考えられます。
加齢
すでに何度か触れましたが、仮性認知症の原因の一つに加齢があります。
仮性認知症の原因は、大脳の前部分に位置する前頭葉の機能不全です。
前頭葉の血流量は、年齢とともに低下してしまいます。
前頭葉の血流量が低下すると、注意力や集中力の低下も見られます。
精神的ストレス
大きなストレスがきっかけで仮性認知症になることもあります。
症状が現れてから数週間から数ヶ月単位で進行していくケースが多いです。
一般的な例を以下にまとめます。
人生の節目で起こりがちなことなので、注意しましょう。
- 子どもの独立により暇になった
- 退職によって社会的地位を失った
- パートナーとの離婚や死別
身体的ストレス
仮性認知症は、身体の不調がきっかけで発症することが多々あります。
しかし、病院で検査で受けても、何の異常もないと言われてしまうケースも多いです。
何の異常もないと言われても原因不明の不調は続くため、家族や周囲の理解を得ることさえ困難となります。
精神的ストレスのきっかけにもなります。
うれしい出来事
仮性認知症のきっかけとして、人生の節目で起こりがちなことについて説明しました。
ただし、悲しい出来事だけではありません。
結婚や昇進などのうれしい出来事や環境の変化が引き金となることもあります。
薬の副作用
仮性認知症は、薬の副作用が原因で起こることもあります。
特に高齢者は服用する薬の種類が増えがちです。
日本老年医学会では、薬の多剤服用を改善する必要があることを提唱しています。
薬の種類が6種類以上になると副作用のリスクが高まるからです。
特に、脳の活動を抑える睡眠薬などは認知症のような症状を起こしやすいです。
例えば、物忘れ、ふらつき、転倒、うつ、食欲不振、せん妄などが見られます。
うつ病と認知症は一見まったく違う病気のようですが、共通点もあります。うつ病と認知症の関係や違いをご存知ですか?今回は、うつ病と認知症について以下の点を中心に解説します。うつ病と認知症の関係うつ病と認知症の[…]
仮性認知症の治療
ここでは、仮性認知症の治療についてご説明します。
仮性認知症は治療にどのくらいの時間がかかるのでしょうか?
また、治療方法である「休養」「薬物療法」「精神療法」についてもご説明します。
治療期間
仮性認知症は、早期発見、早期治療が重要です。
適切な治療により、症状の改善が見込めます。
数ヶ月~半年以上で症状が軽くなる人が多いです。
心と身体を十分に休め、薬物療法や精神療法を続ける流れになります。
仮性認知症はうつ病が関わっているため、うつ病と同じ治療が用いられます。
うつ病の症状は、診断を受けてから回復するまでに時間がかかります。
効果が現れるまでには時間がかかるので、焦らずに治療を継続しましょう。
休養
仮性認知症の症状を改善させるために最も大切なことは、心と身体を休めることです。
中には休むこと自体に罪悪感を持ってしまい、しっかりと休むことを受け入れられない方もいます。
薬物療法
薬物療法は、食欲不振、睡眠障害、不安や緊張の改善に効果を発揮します。
しかし高齢者は、若い人と比べて副作用が出やすいうえに効果が出にくいです。
服用中の持病の薬との飲み合わせが悪いため使用できないということもあります。
このようなケースを想定して、薬物療法は少量から始められます。
精神療法
精神療法では、仮性認知症の原因であるストレスは何なのか検証します。
調子が良い状態を保てる対処法を学び、再発を防止することが目的です。
なお、個々の患者さんに応じて時期や内容が変わってきます。
最も一般的な方法は次の2つです。
- 認知行動療法
認知行動療法は、元々持っていた心の力を取り戻し、困難を乗り越えられる強い心を育てる方法です。
精神療法の一つとなっています。
認知行動療法では、思考を柔軟にし気分を軽くすることでストレスを減らせるようサポートします。
・対人関係療法
うつ病の症状を引き起こす元となった対人関係問題の解消を目指します。
根源となっているストレスを取り除いていこうとする方法です。
認知症と診断された場合、さまざまな不安要素に頭を悩ませるかもしれません。また、認知症は治療できるの?と疑問に思う人も多いともいます。現在、例外を除いて認知症を完全に治す治療法は見つかっていません。しかし認知症は認知症治療薬の服用などによ[…]
身内の人が仮性認知症になったとき
家族が仮性認知症になってしまったら、どのように対処すれば良いのでしょうか?
対処ポイントについて以下に詳しくまとめました。
話をきく
仮性認知症になると、身体の不調に苦しみ、その苦しさを強く訴えることが多いです。
しかし、病院で検査しても異常が見つからないケースが多く、不安や焦燥感がつのってしまいます。
家族や周囲の方には、本人の感じている苦しみに共感して話をじっくり聞いてあげることが求められます。
安心できる環境をつくる
心が不調の時は、安心して十分に休むことが大切です。
一緒にゆっくり過ごせる時間を持つことで安心感を与え、症状の改善を助けることにもつながります。
原因探しをしない
仮性認知症の方の家族は、つい原因を特定したくなってしまうかもしれません。
実際は、様々な要因が関わって特定できないことも多々あります。
原因特定より今できることを考え、本人を安心させてあげることが先決です。
励まさない
仮性認知症の方を励ますと、症状を悪化させてしまうことがあります。
もうすでに十分頑張りすぎたせいで、この病気になってしまった方には、励まさないようしましょう。
一方で、励ますことが効果的な時期もあるので、担当医に相談してみましょう。
自殺のサインに気づく
様々な体調不良や不安、絶望感などから自殺を考えるケースもあります。
自殺を考えている人というのは、意識的または無意識的にそのサインを発するといわれています。
代表的なサインでは、お酒の量が増えていたり、家族のサポートが得られず一人で苦しみを抱えていたり、死にたいと口することが挙げられます。
ここに挙げたサインがいくつも見られる場合は、すぐに専門医に診てもらえるようサポートしましょう。
認知症は誰しもがなり得る症状です。もしも大切な家族が認知症になったら、不安な気持ちで胸が一杯になるでしょう。しかし、認知症の兆候を理解し、焦らずできることをしていくことが大切です。今回は認知症の判断基準をご紹介した上で、家族が認[…]
仮性認知症についてのまとめ
ここまで仮性認知症について詳しくお伝えしてきました。
- 仮性認知症の主な症状は、「精神症状」と「身体症状」
- 仮性認知症になる主な原因は、前頭葉の機能不全とストレス
- 仮性認知症と認知症では、初期に現れる症状、特徴、進行する早さが違う
- 本人の感じている苦しみに共感して話をじっくり聞いてあげることが大切
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。
最後までお読みただき、ありがとうございました。