認知症の治療には、「回想療法」や「音楽療法」などの非薬物療法が活用されています。
その中に、「バリデーション療法」と呼ばれる治療法があることを知っていますか?
今回はバリデーションの効果をご紹介した上で、バリデーションの基本的態度や効果的なテクニックをご紹介します。
- バリデーションの目的と効果
- バリデーションの基本的態度と効果的なテクニック
この記事をぜひ最後までご覧いただき、バリデーション療法の知識を深めるための参考にしてください。
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バリデーションとは
バリデーションとは、アルツハイマー型や類似の認知症の高齢者とコミュニケーションを取るための方法の1つです。
日本に限らず、国外でもアメリカやスウェーデンなどを中心に1万を超える施設で取り入れられています。
たとえ認知症により記憶力や体力などを失ったとしても「感情」だけは失うことがありません。
その感情に焦点を当て認知症の方の持つ世界に共感し、認め、受け入れていくことを基本としています。
ネガティブな感情も抑え込むことで余計に怒りや悲しみを増加させてしまいます。
しかし、バリデーションでは表出されたネガティブな感情に対しても共感し、共有することを志しています。
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バリデーションの目的
認知症の方に対し、バリデーション療法を行うことには明確な目的があります。
ここからはバリデーションの目的をご紹介します。
感情表出を促す
認知症の方は自分の思いや、したいことなどを上手く言葉にできず、孤立してしまう方が多いです。
バリデーションでは、「言葉」よりも感情表出を促すことに焦点を置いています。
抑え込むことで不安や恐れなどのマイナスな感情がさらに膨らみ、より感情的になりやすくなります。
しかし、バリデーションでは不安や恐れ、怒りや悲しみなどのマイナスな感情を制御するのではなく、むしろ表出させることを目的としています。
そして、バリデーションでの基本的な姿勢は「共感すること」です。
マイナスな感情を表出させ、聞き手が否定せず共感しながらコミュニケーションを取ることが重要です。
マイナスな感情を表出させ共感することで認知症の方が感情的にならず、穏やかな日常生活を送ることに繋がります。
やり残しに取り組む
やり残しとは過去に負った傷やトラウマ、後悔などの思い残しです。
マイナスな感情を表出させ共感しながらコミュニケーションを取り、やり残しと向き合います。
やり残しと向き合うことは自分の存在価値やここまで歩んできた人生の意味を再確認する手助けとなります。
その結果、認知症の方が抱える喪失感を埋めることができ、傷付けられた自尊心も回復するなど様々な問題が解決されるでしょう。
認知症に対するバリデーションの効果
ここまで、バリデーションの目的をご紹介しました。
ここからは認知症に対するバリデーションの効果をご紹介します。
認知症の方
- 抱えていたストレスや不安が軽減される
- 認知症の症状である行動・心理症状が緩和される
- 存在価値を確認することで自尊心が回復し、生きる希望を持つことができる
- 途絶えていた他者や社会との交流を再び持つことができる
ご家族や介護の方
- 認知症の方の言動を理解することで否定せず共感し、受け入れることができる
- フラストレーションの軽減や解消に繋がる
- 認知症の方との信頼関係が構築される
- 認知症の方との関わり方に自信を持つことが、仕事そのものの自信に繋がる
認知症に効果的なバリデーションの基本的態度
バリデーション療法を行う際、「基本的態度」と言われる非常に重要なものがあります。
ここからは認知症に効果的なバリデーションの基本的態度をご紹介します。
傾聴する
「傾聴」とは、ただ話を聞くという意味ではありません。
認知症の方の心の奥にある気持ちを汲み取り、耳を傾けながら聴くことです。
聞き手は認知症の方が本当に言いたいことや伝えたいことを積極的に聴くことが重要です。
たとえば、認知症の方が食事を取った直後に「お腹が空いた」と言ったとします。
そこで「さっき食べたばかりです」と言うのは逆効果になります。
まずはしっかりと話を聴き「何が食べたいですか?」「いつから食べていないのですか?」「誰と食べたいですか?」と心に寄り添うことが大切です。
認知症の方が本当に訴えたいことや聞いてほしいことを自ら言えるような返し方が重要です。
共感する
共感するというのは、認知症の方が感じていることと同じように感じることです。
認知症の方の感情が表れている部分を観察し合わせていくことが大切です。
感情が現われる部分は、「表情」「呼吸のペース」「姿勢」などです。
評価しない
認知症の方の言動に対して「ダメですよ」「間違っていますよ」と否定や評価をするのではなく、ありのままを受け入れることが重要です。
また「怒らないで」「泣かないで」と感情を制御させることもしてはいけません。
誘導しない
バリデーションでは、誘導や強制は厳禁です。
介護者が認知症の方のペースに合わせることが非常に重要です。
初めは会話や行動を自分のペースに持っていきたくなったり、忍耐が必要かもしれません。
しかし表情や姿勢、呼吸や歩くペースなどを認知症の方に合わせていくことが重要です。
嘘をつかない
会話の中で噓をつくことは信頼関係に関わることです。
たとえば、認知症の方が「家に帰りたい」と言ったときに「もうすぐ帰れるよ」と嘘をつくのはかえって逆効果になるので注意が必要です。
ごまかさない
嘘をつかないことだけではなく、ごまかさないこともバリデーションの基本的態度の1つです。
認知症の方の「家に帰りたい」に対し、「明日になったら帰りましょう」「お茶を飲んでから帰りましょう」などとごまかしその場をしのごうとするのは厳禁です。
認知症に効果的なバリデーションのテクニック
認知症に効果的なバリデーションのテクニックには、「言語的テクニック」と「非言語的テクニック」の2種類があります。
意識して行えば簡単なことばかりなので、ぜひ参考にしてください。
言語的テクニック
言語的テクニックは以下の8つです。
オープンクエスチョン
オープンクエスチョンでは、認知症の方が発した言葉に対し「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」を使い、自由に答えられるようにします。
単純な「はい」と「いいえ」では答えられない自由度の高い質問を多く使うことがコツです。
「いつどこで何をしたのですか?」と1度に複数質問するのではなく「それはどこですか?」と1つに絞ります。
しかし、「なぜ?」という質問は認知症の方が答えにくく混乱させる可能性があるので控えましょう。
リフレージング
リフレージングは、認知症の方が発した言葉の中で重要だと感じた言葉を繰り返すことです。
たとえば「苦い食べ物は嫌いなの」と言われた場合は「苦い食べ物が嫌いなのですね」と返します。
何でもただリフレージングすれば良いのではなく、声の大きさや話すスピードは認知症の方に合わせるようにしましょう。
正しいやり方でリフレージングを行えばしっかり伝わったと感じてもらえるでしょう。
レミニシング
レミニシングは認知症の方に過去の出来事について質問をして昔話をしてもらうものです。
何度も繰り返し話すエピソードの中には「人生の価値」や「心残り」など重要なメッセージが込められていることが多いです。
重要なメッセージに気付くことで、心残りを取り戻す手助けができることに繋がります。
反対のことを想像する
認知症の方に反対のことを想像してもらうことで、暗い気持ちから明るい気持ちに変えることができます。
たとえば、
「何もしたくない」→「以前はしたいことがあったのですか?」
「娘にお金を盗まれた」→「盗まれていないものは何ですか?」
「誰にも会いたくない」→「昔は会いたい人がいましたか?」
などです。
このように反対のことを想像させることでネガティブなことでもポジティブに変えることができます。
極端な表現をする
「極端な表現をする」というのは、極端なケースを想像させることで感情を内に溜め込まず、表現しやすくさせるものです。
たとえば「足が痛い」と言われたら「これまでの人生で1番痛いですか?」と質問します。
曖昧な表現をする
「曖昧な表現をする」というのは、認知症の方の言っていることが理解できない場合に曖昧な表現を使って会話を続けることです。
たとえば「それは面白いですか?」「どのような感じですか?」などです。
先ほどお伝えした「極端な表現」と「曖昧な表現」は矛盾しているように感じるかもしれませんが、場合別に上手く使い分けることが大切です。
好きな感覚を用いる
「聴覚」「嗅覚」「視覚」などの中に、認知症の方が特に好きな感覚があります。
そして認知症の方がよく使う言葉から好きな感覚を把握し、その感覚を思い出せるような話題を振ります。
たとえば「綺麗な景色ですね」「どんな匂いがしますか?」「フワフワして気持ち良いですね」などです。
はっきりとした低い優しい声で話す
低く、優しく、温かい声ではっきりと話すことを意識します。
認知症の方が怒りや悲しみなどのマイナスな感情を表しているときは、共感して合わせることが重要です。
非言語的テクニック
非言語的テクニックは以下の6つです。
センタリング
センタリングは、ゆっくりと呼吸をし精神を集中させることです。
自分の中に怒りや悲しみなどのマイナスな感情を抱えたまま会話をすると、認知症の方に傾聴や共感をする余裕が持てません。
センタリングを行い、自分の中からマイナスな感情を追い払いましょう。
そうすることで認知症の方の気持ちを理解し寄り添うことができます。
アイコンタクト
アイコンタクトは認知症の方の正面に座り目を合わせることです。
しっかり受け止めていることや愛情が伝わり、安心感を持ってもらえます。
ミラーリング
ミラーリングは認知症の方の正面に座り、動作や姿勢、話し方などを真似することです。
認知症の方がため息をついたら介護者もため息をつくなど、行動を合わせることが感情を合わせることにも繋がります。
タッチング
認知症の方は、視覚や聴覚が衰えることで孤独感を抱きやすくなります。
そうした認知症の方の頬に優しく触れたり、頭を撫でたりして、他者の存在が近くにあることを伝えます。
しかし、触れられることを嫌がる場合は無理に触れずタッチングを中断しましょう。
音楽を使う
認知症の方が好きな歌や、思い出の曲を一緒に聞いたり歌ったりします。
満たされていない人間的欲求と行動を結びつける
認知症の方の言動から、どのような欲求があるかを考えます。
「人から愛されたい」「社会の役に立ちたい」「ストレスを発散したい」などの欲求を結びつけることで、言動の裏に隠された意味を見つけることができます。
認知症ケアはバリデーション以外もある?
ここまで、バリデーションについてご紹介しました。
認知症ケアはバリデーション以外にも存在します。
ここからは、バリデーション以外の認知症ケアを2つご紹介します。
ユマニチュード
ユマニチュードには、「見る」「触れる」「話す」「立つ」の4つの基本的技法があります。
4つの技法を実践することで、認知症の方に「あなたは大切です」ということを伝えます。
コミュニケーションだけに頼るのではなく、言葉ではないメッセージとして認知症の方に思いを伝えます。
バリデーションは共感して接することを重要視しているケアですが、ユマニチュードは人間らしいケアに重点を置いています。
では、「4つの基本的技法」を1つずつご紹介します。
見る
目線を合わせ、近距離で視線を送ります。
言葉ではなく視線を合わせることで、認知症の方の味方であることが伝わります。
話す
反応を示さない認知症の方に対しても積極的に話しかけ、常に前向きな言葉を与えます。
触れる
ケアをする際に本人の手や背中に優しく触れることで、安心感を与えます。
立つ
自分の足を使って立つことで、自分が人間であることの実感に繋がります。
立つ時間を作るようにします。
パーソン・センタード・ケア
パーソン・センタード・ケアは認知症の方を1人の人間として尊重し、「その人の立場に立って理解しながらケアを行う」という認知症ケアの考え方の1つです。
パーソン・センタード・ケアの実践では、認知症の方の「心理ニーズ」を理解することが重要です。
心理ニーズは1人の人間として無条件で尊重する「愛」を中心とし、
- 自分らしさ
- 結びつき
- たずさわること
- 共にあること
- くつろぎ
という5つの心理的要素があります。
バリデーションワーカーになるには
バリデーションワーカーはバリデーション療法の専門家資格です。
バリデーションワーカーになるには公認日本バリデーション学会の認定資格が必要です。
公認日本バリデーション学会の認定資格を得るには以下が必要です。
- 全6回のスクリーニングと実践学習の受講
- 課題の提出
- 筆記・実技試験の合格
スクリーニングと実践学習受講の概要は以下の通りです。
- 開催会場 :東京と大阪の2会場
- 定員 :東京25名、大阪30名
- 受講料 :295,000円
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バリデーションと認知症のまとめ
今回は、バリデーションについてご紹介しました。
以下がまとめになります。
- バリデーションとは、アルツハイマー型や類似の認知症の方とコミュニケーションを取るための方法の1つ
- バリデーションを行うことで認知症の方のストレスや不安が軽減されたり、介護者のフラストレーションの軽減や解消に繋がる
- バリデーションのテクニックには「言語的テクニック」と「非言語的テクニック」の2種類がある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。