介護職員にとって、利用者の自己決定や自立を支援することはとても重要です。
しかし、介護の現場、とりわけ認知症を患う利用者と接する場合、利用者が希望する内容を理解して対応することは難しいです。
その中でユマニチュードは、利用者の考えを理解し、自己決定や自立を支援する認知症ケア技法の1つとして注目されています。
今回は、ユマニチュードについて、次の項目を中心に解説します。
- ユマニチュードとは
- ユマニチュードのポイント
- ユマニチュードがどのように活用されるのか
- ユマニチュードを導入する重要性
ユマニチュードの理解を深めて、明日の認知症ケアに役立つための内容をまとめています。
ぜひ、最後までお読みください。
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ユマニチュードとは
ユマニチュードとは、認知機能が低下した高齢者や認知症の方に対するケア技法の1つです。
ユマニチュードは、認知症ケアを拒否するなどのケア困難な認知症患者とのコミュニケーション方法として有効です。
フランス人の体育学の専門家イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが提唱した「人間らしさを取り戻す」という意味をもつ造語です。
従来の「何でもやってあげている」介護に問題提起し、「患者が持っている能力を奪わず最大限引き出す」ことが重要であると提唱しました。
ユマニチュードには、以下のような思想や技術が必要です。
- ケアに従事する人の「哲学」
- 言語・非言語的コミュニケーション技法
- 上記哲学やコミュニケーション技法に基づいた実践的ケア
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ユマニチュードの目標
ユマニチュードを行ううえでは、健康に害を及ぼさないことが絶対条件となります。
そのため、健康状態や能力に応じたケアの手法の選択が重要であり、一人ひとりに応じた目標を設定する必要があります。
ユマニチュードの目標には、次の3つの段階があります。
- ① 身体機能や能力などの回復
- ② 身体機能や能力の維持
- ③ 最後まで寄り添う
それぞれ詳しく解説していきます。
第一の目標|身体機能や能力などの回復
1つ目の目標は、身体機能や能力など回復を目指したケアをすることです。
洗顔を例に説明します。
職員が、ベッド上にいる高齢者のもとへ洗面器をもっていき、洗顔を促すようなケアでは、高齢者の足を使う機会が阻害されます。
ユマニチュードでは高齢者の立位バランスや歩行機能を高めることを目標とし、ベッドから洗面台まで歩き、立ったまま顔を洗うよう支援します。
それによって、歩くための筋力やバランス能力の回復につながります。
第二の目標|身体機能や能力の維持
身体機能や能力などの回復が難しい場合、2つ目の目標として、現状の能力を維持するケアを行います。
歩くことが難しい人の洗顔へのケアの方法を例に説明します。
立って歩くことが難しい場合、車いすに移乗し、車いす上で洗顔することを目標として設定します。
自分で洗顔する、立位をとり車いすへの移乗動作を行うようケアすることは、身体機能を保つことに繋がります。
第三の目標|最後まで寄り添う
能力の維持も難しい場合、最後の目標は「人間らしさ」を最後まで保つことができるようケアすることです。
自ら移動できない人の洗顔へのケアの方法を例に説明します。
そばに寄り添い、「今から顔を拭きますね」と声をかけ、清拭介助に対し自己決定できる機会を提供します。
支援者本位で顔を拭くといった自己決定の機会を奪ったり、モチベーションを低下させたりすることがないよう注意が必要です。
ユマニチュードにおける4つの柱
ユマニチュードを行ううえで、4つの柱というケア技術があります。
4つの柱とは、見る・話す・触れる・立つ技術です。
この4つの柱は、単独で働きかけるだけではうまくいきません。
同時に複数組み合わせて行う「マルチモーダル・ケア(複数の要素を取り入れたケア)」が重要です。
4つの柱の具体的な説明は、以下の通りです。
第一の柱|見る
介助者は利用者をケアする際、ただ仕事の対象部位に注目してしまう傾向があります。
しかし、「見る」という行為は、利用者にメッセージを伝えることができる手段でもあります。
例えば、長時間見つめることで友情や愛情示すこともできる一方、上から利用者を見ると、威圧感を与えてしまう可能性もあります。
利用者に想いを伝える見方のポイントとして、以下の3つがあります。
- 目線の高さを合わせ、対等な立場であると伝える
- 近くで見て、親密さを伝える
- 正面から見て、正直さを伝える
第二の柱|話す
利用者ケアの際、自らの発した言葉が相手に誤って伝わる場合があります。
「じっとしてください」や「何ですか?」という言葉は、命令として伝わったり、利用者が不快に思ったりする場合があるため、注意が必要です。
話す技術で重要なことは、相手を大切に思っていることを伝えることです。
具体的な話し方は以下の通りです。
- 低めの声:安定した関係を構築する
- 大きすぎない声:穏やかで安心した状況を作る
- 前向きな言葉:心地よい状態を実現する
また、声掛けに対して返事がない場合のコミュニケーション技法として、「オートフィードバック法」があります。
これは、介助者の介護を自ら実況する技法です。
無言の状態は、利用者に「存在感のなさ」を想起させかねません。
オートフィードバック法を行うことで無言の時間を減らし、孤独感を減少させる効果があります。
第三の柱|触れる
身体介助において触れることは必須です。
しかし、触れる行為は、時として相手の自由を奪う「つかむ」行為になることがあるため、注意を払う必要があります。
触れる行為は相手にメッセージを伝える有効な手段です。
大切に思う気持ちを伝えるために、触れる場所や触れ方を意識して接しましょう。
触れ方のポイントは以下の通りです。
- 広い面積で触れる
- むやみにつかまない
- 相手に合わせて手を動かす
- 背中や肩など鈍感な場所から触れる
第四の柱|立つ
立つ行為は、血圧や排泄などの生理機能を整えることはもちろん、尊厳を保持する働きがあり、人間にとって重要な要素です。
また、最低20分以上立つことで、立位保持に関わる機能を維持することができます。
更衣やトイレなど、1日の生活の中で立位をとる時間を設定することで寝たきりを予防し、利用者の自信にもつながります。
ユマニチュードにおける5つのステップ
ユマニチュードにおける4つの柱を実施するために、5つのステップを実施します。
5つのステップは以下の通りです。
- ① 出会いの準備
- ② ケアの準備
- ③ 知覚の連結
- ④ 感情の固定
- ⑤ 再会の約束
この5つのステップは、ケアの始まりから終わりまで一連の物語になるよう考えられたシステムです。
5つのステップを適切に繰り返すことで、利用者と介護者の間に良質な関係を築くことができます。
ユマニチュードの5つのステップとは、具体的に次のような内容で示されます。
ステップ1|出会いの準備
利用者の部屋に入る前からケアは始まります。
利用者に対し介護者が訪れたことを伝え、部屋に入ってよいか、顔を合わせてよいかを尋ねる必要があります。
これは、突然利用者の部屋に入ると、利用者が自身のプライバシーが守られていないと感じ、不安な思いを抱く可能性があるためです。
事前に出会いを伝えることで、利用者が介護者の存在に気づくことができ、落ち着いて次のケアにつなげることが可能となります。
ステップ2|ケアの準備
次に行うことは、介護者が利用者に対し行うケアを説明し、同意を得ることです。
相手の反応を確認せずケアに入ると、強制的に何かされると利用者が思い込み、反射的に抵抗される恐れがあります。
もし相手の同意が得られなければ、一度ケアをあきらめることも重要です。
ステップ3|知覚の連結
相手の同意が得られて初めて実際のケアに移ります。
先述した4つの柱の内、「見る」「話す」「触れる」を2つ以上同時に使うことが重要です。
「同じ目線に立ち、背中に優しく触れる」といった行為を通して、調和的なメッセージを届けることで、利用者は安心感が高まり、ケアを受け入れやすくなります。
ステップ4|感情の固定
ケアが終了した後、すぐ振り返りをします。
その際、ケアを受けていた時間がよい出来事であったという感情の記憶を残せるよう意識して働きかけることが大切です。
認知症の方は時間や出来事を忘れることはありますが、感情の記憶は比較的保たれやすい傾向があります。
「気持ちよくすごせましたね」とケアを前向きに捉えたり、「私も楽しかったです」と介護者の喜びの声を伝えると、よい印象が伝わり利用者の記憶に残りやすいです。
ステップ5|再会の約束
ケアの振り返りまで終わったら、利用者から離れる前に次のケアの約束をします。
再開の約束をすることで、感情の記憶が残りやすくなり、次のケアの際にお互いがスムーズに対応できるようになります。
メモを残すことで、メモを目にするたびに、再会を楽しみにする利用者もいるでしょう。
ユマニチュードの効果
ユマニチュードはケアの現場にどのような効果があるでしょうか。
まず、被介護者(ケアを受ける人)への効果について説明します。
被介護者(ケアを受ける人)への効果
被介護者(ケアを受ける人)への効果として「感情が穏やかになる」ことが挙げられます。
また、海外では「医療費の削減」効果についての報告もあります。
感情が穏やかになる
ユマニチュードは認知機能が低下した高齢者や認知症の方に「あなたは大切な存在である」と伝える技術です。
そして、自分が一人の人間として大切にされていることが伝わるからこそ、認知症の人の感情が穏やかになります。
ある研究論文では、ユマニチュードの実践で、急性期病院に入院中の認知症の人の攻撃的言動が減ったと報告されています。
日本でのアンケート調査でもユマニチュードの効果について、介護者の自由回答で「(被介護者が)穏やかになった」「(被介護者の表情が)柔らかくなった」という回答が得られています。
医療費の削減
フランスの報告では、介護や看護の専門職だけではなく事務スタッフや清掃スタッフも含めた全職員がユマニチュード研修を行いました。
そうして施設全体で実践したところ、年間の医療費が約4000万円削減するという結果が得られました。
これは、認知症の人への向精神薬の使用や施設から病院への搬送が減少したためです。
薬を使わなくても認知症の人を穏やかにできるという効果が数字に反映されていると言えます。
介護者(ケアをする人)への効果
ユマニチュードにより、被介護者(ケアを受ける人)の感情が穏やかになるということは、介護者(ケアをする人)にもプラスな効果をもたらします。
ケア負担の軽減
認知症の人へのケアで負担が伴う1つの原因は、ケアを受け入れてくれないことがあるためです。
そのため介護に時間がかかり、拒否が見られるなかで強引にケアを進めると身体的、心理的な負担が大きくなります。
ユマニチュードにより、認知症の人の感情が穏やかになることで、これらの問題が緩和されます。
バーンアウトの減少
認知症の人からケアの拒否を受けたり、攻撃的言動を受けたりすることは、介護や看護の専門職のバーンアウト(燃え尽き症候群)の原因になります。
コミュニケーションが難しいと感じていた認知症の人がケアを受け入れてくれるようになることで、バーンアウトの減少につながります。
そのことは仕事の満足度の向上や離職率の低減につながると期待できます。
実際、海外の施設では、ユマニチュードを導入することで、介護や看護の専門職の離職率が低減したという報告がなされています。
ユマニチュードの注意点
ユマニチュードを実施するうえで、注意点があります。
ゆとりを持った時間を作る
ユマニチュードを実施する際、1つずつ確認をとりながらケアを進める必要があるため、ケアに多くの時間が必要です。
人手が少ない施設の場合、特に時間が限られてしまうため、ゆとりのある時間を確保する必要があります。
無理をさせない
利用者の自立を促す目標を設定する際、利用者が無理をしないとできない場合があり、かえって転倒などリスクにつながる場合があります。
何でも利用者がすることが正しいのではなく、利用者のできることを尊重し、できないことをケアすることも大切です。
ユマニチュードの資格とは?
日本ユマニチュード学会は施設単位で認証制度を設けています。
ユマニチュードの5原則と生活労働憲章を基に認証基準を満たした施設に認証を与えます。
ユマニチュード認証制度は以下の特徴があります。
- ケアの質の可視化
- 福祉サービス第三者評価など各種制度との連携
- 認証基準の到達度合いや進捗情報を見える化
ユマニチュードの認証の取得方法は以下の通りです。
- 認証準備会員として入会
- 認証取組を誓約して宣言
- 認証取得への取り組み:プロジェクトチーム発足と計画立案、自己評価と分析など
- 認証審査:評価調査員による訪問視察、評価、審査会で審査、学会理事会で承認
- 認証取得:学会からラベル付与
ユマニチュード認証制度は以下の3段階で認証します。
- ブロンズ:ブロンズの必須評価基準項目を含む全体で3割以上クリア
- シルバー:シルバーの必須評価基準項目を含む全体で5割以上クリア
- ゴールド:ゴールドの必須評価基準項目を含む全体で8割以上クリア
ユマニチュード認証制度は施設単位での資格となります。
資格を取得するまでに組織を挙げてユマニチュードに取り組むことができます。
結果、以下の効果を得ることができます。
- BPSDの減少
- 職員の精神的負担減少、離職率減少
- おむつなど消耗品の使用量減少によるコスト削減
出典:日本ユマニチュード学会【ユマニチュード認証制度ガイド】
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家族介護におけるユマニチュード|ユマニチュードの実施例
日本ユマニチュード学会では、会員限定コミュニティ「雨宿りの木」にて、「家族介護について語り合う会」を行っています。
そこでは、具体的な認知症の症状との向き合い方が紹介されています。
例えば、食事中にうとうとしてしまう傾眠症状の方に対して、手でつまめるように食事を変えることを提案しています。
ユマニチュードによって、症状に対する一対一対応の解答ではなく、新たな観点からの解決法を得ることができるかもしれません。
認知症の方のうとうとしてしまう症状、傾眠について知りたい方は以下の記事を参照してください。 皆様の身近に、認知症の方はいらっしゃいますでしょうか?認知症の症状は多岐に渡るため、身近な人が認知症になると戸惑ってしまう方が多いです。そんな認知症の症状の一つである、傾眠という症状をご存知ですか?本記事では、認知症の方に起こり[…]
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介護施設における認知症の割合
入所型の介護施設において、認知症ケアは避けて通ることができません。
入所者の内、95%以上が認知症を患っており、その内半数以上が日常生活自立度がランクⅢ以上といわれています。
そのため、介護の仕事をするうえで、ユマニチュードの哲学や技術は重要です。
ユマニチュードを取り入れることによって、多くの入所者が安心して入所生活を営むことができるようになります。
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ユマニチュードまとめ
この記事では、ユマニチュードについて、基本的な知識をお伝えしました。
この記事のポイントをおさらいすると以下の通りです。
- ユマニチュードとは利用者の能力を引き出す技法の1つである
- ユマニチュードには4つの柱と5つのステップがあり、うまく取り入れることでよい感情が蓄積され、介助者と利用者の間で良好な関係を築くことができる
- ユマニチュードには、利用者の健康状態や能力に応じて3つの目標があり、無理なくサポートするよう注意が必要である
- 施設利用者の多くは認知症を患っているため、ユマニチュードの技法は重要である
最後までお読みいただき、ありがとうございました。