認知症には、薬を使わずに治療する方法があるのはご存知でしょうか。
代表的な非薬物療法に音楽療法という方法があります。
音楽療法とは音楽を聴いたり楽器を演奏するなどして、音楽の持つ力を認知症の治療に使う療法です。
今回は音楽療法について紹介した上で、注意点や音楽療法に適したジャンルなどをご紹介します。
- 認知症の音楽療法の種類
- 認知症の音楽療法の効果
- 認知症の音楽療法で注意するポイント
音楽療法を行う際の参考にしていただくために、ぜひ最後までお読みください。
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音楽療法は認知症の非薬物療法の一種?
今から、ご紹介する音楽療法は、非薬物療法のメソッドとして活用されています。
まずは、薬物療法と非薬物療法の違いについて詳細を解説していきます。
薬物療法とは?
薬物療法とは、薬を使用して認知症の改善を試みる治療法です。
記憶・見当識・遂行障害などの中核症状と、不安・幻覚・徘徊・暴力といった精神行動症状に分けられます。
認知症の記憶面の原因は、神経伝達物質であるアセチルコリン不足です。
現状の医療では、アセチルコリンを抑制する酵素を抑える薬と、グルタミン酸という神経伝達物質を調整する薬が処方されています。
精神行動症状に対しては、精神薬で「意欲を高める、心を落ち着かせる」ことが可能です。
ただし、薬での治療は、副作用や適合していないと、むしろ症状を悪化させる恐れもあるため注意しましょう。
非薬物療法とは?
非薬物療法とは、薬を使わないアプローチで病気の治療法です。
該当する方法として、「音楽療法・心理療法・周囲の環境・家族・人間関係の改善」などが挙げられます。
認知症患者は、「抑うつ・せん妄・暴力・不眠・徘徊」などの行動・心理的症状が現れてくることが特徴です。
これらの状態は、患者さん周辺の刺激要因が絡んでいることが多く、周囲の環境や人との関わりから、アップダウンします。
そのため、認知症の方が暮らしやすくなる手助けをします。
例えば、好きな音楽を聴かせる(音楽療法)、過去を想起して、脳に刺激を与えて認知症を遅らせる(心理療法)などさまざまです。
ただし、本人が好まないものの場合は、効果が半減してしまうため、本人が意欲的に取り組めるものを選択しましょう。
薬物療法の種類は何がある?
中核症状では、アセチルコリンを補う薬もありましたが、無効と判断されています。
薬物療法の種類は、以下のとおりです。
- アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の処方
- グルタミン酸という神経伝達物質を調整する薬の処方
精神行動症状では、「向精神薬・抗不安薬・睡眠薬」が挙げられます。
また、高度のアルツハイマーに対しては、ドネペジルやメマンチンが使用できます
記憶障害を根本的に解決できるアプローチではなく、1年間遅らせることが可能です。
非薬物療法の種類は何がある?
非薬物療法の種類は、以下のとおりです。
いずれも、心・嗅覚・聴覚など多角的なアプローチを行います。
- リハビリテーション
- 心理療法
- 音楽療法
- 認知症患者を支援する家族
- 環境を整える
- アロマセラピー
- アニマルセラピー(動物介在療法)
- 園芸療法
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認知症の音楽療法の種類
認知症の音楽療法には受動的音楽療法と能動的音楽療法の2種類あります。
この2種類の違いや共通点などをご紹介します。
受動的音楽療法と能動的音楽療法の共通点は、どちらも音楽の持つ力を使って症状を改善するという点です。
ではそれぞれがどのような療法なのかをご紹介します。
受動的音楽療法
受動的音楽療法は、音楽を聴くことで認知症の症状を改善する療法です。
聴くという行為は、症状により身体がうまく動かない方やイライラして言うことを聞いてくれない方でも自然と行えます。
そのため多くの方にオススメできる療法になります。
能動的音楽療法
能動的音楽療法とは、音楽を聴く以外の音楽に関わる行為をすることで認知症の症状を改善する療法です。
例えば、楽器を演奏したり歌を歌う事がこれに当てはまります。
音楽療法の認知症への効果
音楽療法による認知症への効果はさまざまです。
その中から代表的な効果を6つご紹介します。
リラックス・ストレス軽減
音楽療法には、認知症の症状が原因となっている痛みや不安を軽減する効果があります。
幻覚やイライラからくる暴言や暴力などの不安を取り除くことが可能です。
これにより結果としてリラックス作用をもたらし、ストレスが軽減するのです。
脳の活性化
音楽療法には脳を活性化させる効果があります。
認知症の方は普段、2つ以上のことを同時に行うのはとても困難です。
しかし音楽療法は、楽器を演奏しながら歌を歌うなど同時に2つのことを楽しみながら自然と行えます。
そのため、ストレスをかけずに脳に刺激を与えることができます。
これにより脳が活性化し、認知症の進行を抑制することが可能です。
自信回復
認知症の初期症状である記憶障害が発症した場合でも、過去に聞いて覚えた楽曲や歌は覚えていることが多いといわれています。
昔に聞いた馴染みのある歌などを歌ってもらうことで「まだこの歌は覚えている」「昔の歌を忘れずに今でも歌えた」という自信回復に繋がります。
回想効果
音楽は過去の記憶と結びつきやすい特徴があります。
この特徴を利用して、認知症の方にとって懐かしい音楽を聞いてもらうことで自然と昔の記憶を呼び起こし、脳に刺激を与えることができます。
心の扉を開く
認知症の方は症状が原因で、コミュニケーションを取ることが難しい場合があります。
コミュニケーションが取れていないと、認知症の方は周囲の人へ不信感などを抱いてしまい、心の扉を閉じてしまうことが多くなります。
音楽療法では言葉を交わさなくても一緒に歌ったり、楽器を演奏することでコミュニケーションを取ることが可能です。
これにより徐々に周囲の人とも打ち解けていき、心の扉を開いてくれます。
気持ちの表現
認知症の症状が悪化することで、言葉が不自由になる場合があります。
そうなると自分の気持ちや感情を表現することが難しくなり、ストレスを溜め込みやすくなってしまう場合が多いです。
このストレスは音楽療法で解消することができます。
簡単に行える手拍子や楽器演奏、言葉になっていなくても大声を出すなどさまざまな方法でストレス発散が可能です。
これにより認知症の方は普段できていない気持ちの表現が可能になり、ストレスの発散と脳へ刺激を与える事が同時にできるのです。
認知症の音楽療法で注意するポイント
音楽療法はただ音楽を聞いてもらったりするだけではいけません。
これからご紹介するポイントに注意して正しく音楽療法を行いましょう。
聴力の確認
認知症の方に関わらず、年齢を重ねると加齢により音が聞き取りにくくなります。
音楽療法を行う際に音量が小さいと聞き取れなかったり、高音が聞き取りづらくなり、本来とは違う音で聞こえてしまう場合があるのです。
そのため、過去に聞いていた懐かしい音楽が違う音楽に聞こえてしまい、音楽療法の効果が発揮されないこともあります。
疲れやすさに注意
認知症の症状として多く見られるのが、集中力が続かない、脳が疲れやすくなる、注意力が散漫になるなどです。
認知症の方にとって楽しい音楽であっても、長い時間音楽に集中することはストレスになってしまう恐れがあります。
適度に休憩を挟んだり、集中力を必要としない音楽を聞かせるなど疲れを感じにくくする工夫が大切です。
本人の好みを知る
認知症の方によって、好きな音楽のジャンルや楽器など好みは人それぞれです。
また、聞いて懐かしいと思う音楽も世代などで別れるでしょう。
認知症の方一人一人の好みを知り、その人にあった音楽療法をする事が大切です。
一緒に楽しむ
音楽療法は1人よりも2人、2人よりも3人と一緒に楽しむ人がいることでより効果を発揮する療法です。
例えば、1人でなかなかうまく演奏できない楽器も教え合ったり励まし合うことで楽しむことができます。
つまり、音楽療法で重要なのは一緒に楽しむ人がいるかどうかといったことなのです。
認知症の音楽療法に適したジャンル
さまざまな音楽のジャンルがありますがその中でも、音楽療法に適したジャンルがあります。
どのジャンルが音楽療法に適しているのかを簡単にご紹介します。
音楽療法に適したジャンルはジャズなどがあります。
ジャズはゆっくりとした4ビートというテンポが基本となり作られている楽曲が多い特徴があります。
加えて、音を半音下げることでジャズ特有のメロディを作り出しています。
この独特なメロディとテンポにより長い時間聞いても飽きにくく、リラックスする効果を生み出しているのです。
しかし、ジャンルに関わらず、本人の好きな曲や思い出の曲を聴くことが集中力や記憶力の改善につながるため、より効率的に効果を得られるように意識しましょう。
音楽療法以外の非薬物療法は?
音楽療法以外にも薬物を使用しない療法がありますので、簡単にご紹介します。
芸術療法
塗り絵や俳句などの創作活動を行うことで、認知症の進行を遅らせたり、認知症を予防する療法です。
別名アートセラピーとも呼ばれています。
園芸療法
園芸活動を行うことで、花や草木などの自然と関わり認知症の症状を改善する療法です。
この療法を行うには、園芸だけではなく医療や心理など多くの分野の知識が必要になります。
回想療法
過去の写真や昔に聞いてた音楽などを用いることで、過去を思い出し脳を活性化させる療法です。
他にも馴染みがあり、懐かしいと思える思い出の品があれば出来る療法なので、気軽に行うことができます。
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音楽療法が専門の音楽療法士が存在する?
音楽療法療法士とは、その名のとおり音楽を通じて高齢者・障害者などの心のサポートを行う専門家です。
医療福祉に関する音楽活動を通じて、認知症の予防にも導入されています。
療法士という名のため、理学療法士のような国家資格をイメージしてしまいます。
しかし、音楽療法士は、本音楽療法学会などが主催する民間資格なのです。
音楽療法士の資格には、下記のような認定資格があります。
資格の名称 | 発行している団体 |
認定音楽療法士 | 日本音楽療法学会 |
音楽療法士1種・2種 | 全国音楽療法士養成協議会 |
自治体による認定資格 | 岐阜、奈良、兵庫県の3県で規定されている資格 |
このように、団体に応じて異なる資格が発行可能です。
いずれも、高校卒業後から、各団体認定のカリキュラムを修了することが必須です。
- 音楽療法を専門とする学校への入学
- 必要なカリキュラムの修了
- 学会認定音楽療法士資格資産(筆記)
- 学会認定音楽療法士資格資産(面接)
- 資格取得
上記のような流れに従い、取得できます。
詳細は、日本音楽療法学会のHPを参考にしてください。
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認知症と音楽療法まとめ
ここまで、認知症の音楽療法の種類や効果、注意点や適したジャンルなどを中心にお伝えしてきました。
- 認知症の音楽療法の種類は「受動的音楽療法」「能動的音楽療法」
- 音楽療法で得られる認知症への効果は「リラックス・ストレス軽減」「脳の活性化」「自信回復」「回想効果」「心の扉を開く」など
- 音楽療法で注意するポイントは「聴力の確認」「疲れやすさに注意」「本人の好みを知る」「一緒に楽しむ」
- 音楽療法に適したジャンルにはジャズがあるが、本人の好きな曲や思い出の曲を聴くことが大切
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。