口に入った物をうまく飲み込めない嚥下障害。
嚥下障害は、認知症の方に多く見られる症状の一つです。
認知症と嚥下障害の関係がよく分かっていない方も多いのではないでしょうか?
- 認知症ごとの嚥下障害の特徴
- 嚥下障害の症状
- 嚥下障害の原因
- 嚥下障害のリハビリ
疑問を解消するためにも、参考にしていただけると幸いです。
是非最後までお読みください。
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認知症ごとの嚥下障害の特徴
認知症の方に多く見られる嚥下障害ですが、問題なのはこの誤嚥を引き起こす点です。
認知症の種類によって、嚥下障害の症状は大きく異なります。
まず、私たちが食事をするときは様々な動作が組み合わさって食べ物を胃に運んでいます。
嚥下とは、食べ物を認識し、口の中で噛み砕いて胃に運ぶまでの動作のことです。
この一連の動作の中で、1つでも上手く出来ない箇所があると嚥下障害となります。
嚥下障害の中でも、飲み込んだものが誤って気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)という症状があります。
誤嚥が原因で発症する誤嚥性肺炎も嚥下障害による危険な症状の1つです。
ここでは症状の区別がつけやすい、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症について解説します。
アルツハイマー型認知症
認知症の約半数を占めるといわれているのが、アルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症の場合、食べ物を認識する動作に支障が出やすいです。
アルツハイマー型認知症は認知機能の低下によって引き起こされるため、身体機能は維持されます。
そのため、食事を認識できなくてもむせずに飲み込む事は出来ます。
食べ物を認識できず、口の中に溜め込んでしまうといった症状が多いです。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は身体機能に障害をきたすことが多い認知症です。
そのため、飲み込む動作が困難になります。
喉のそれぞれの働きが低下する事で、飲み込めずにむせ込んでしまうことが多く見られます。
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嚥下障害の症状
嚥下には様々な動作が組み合わさっていると解説しましたが、症状は様々です。
ここでは具体的な嚥下障害の症状を解説します。
むせる
汁物や飲み物といった水分で誤嚥しそうになり、反射的にむせ込んで外に出そうとする症状です。
水分と固形物が混ざった味噌汁や、薬の内服でもむせが起こりやすく注意が必要です。
症状が進行すると、自分の唾液でもむせるようになります。
咳き込む
喉にあたった水分や食べ物が外にでず、気管に入り込むと咳き込む症状が見られます。
これは食事中以外でも、唾液や痰などの流れ込みによって起こる場合が多く報告されています。
何かを飲み込もうと意識していない時に起こる事が多く、注意が必要です。
飲み込みづらい
何かを飲み込むためには、鼻腔と喉の奥にある気管の入り口をふさぎます。
この動作は反射的に行われる運動で、気管が障害されると飲み込みに時間がかかります。
そのため、飲み込みずらいと感じるのです。
飲み込みに時間がかかると、飲み込みやすい麺類やのど越しの良いものを好むようになります。
食べ物が口からこぼれる
嚥下障害は口に入れて食べ物を噛むところから、飲み込むまで様々な箇所で障害が起こります。
人間は口を開けたままでは飲み込む事が出来ないので、飲み込む準備として口を閉じます。
食べ物が口に入ったら口を閉じるという動作が障害されると、食べ物をこぼすのです。
喉につかえる
いったん飲み込めても、のどから胃に向かって送り込む動作が障害されると、喉につかえを感じます。
次に硬い物を飲み込んで押し込もうとしたり、食事中に何度も水を飲むなどが見られます。
痰が出る
誤嚥すると、気管内の分泌物が増え、痰が多くなります。
肺炎の初期症状の可能性もあるため、注意が必要です。
食べるのに時間がかかる
飲み込むまでのどの部分が障害されても、食べるのに時間がかかるのが嚥下障害の特徴です。
食事に時間がかかると、疲労を感じ食欲が落ちます。
また食べられるものが限られるため、食べる意欲を失うきっかけになりやすいのです。
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嚥下障害の原因
嚥下障害を引き起こす原因は、具体的にどんな事が挙げられるのでしょうか。
以下、3つの原因についてわかりやすく解説します。
器質的原因
食べ物を飲み込むまでの口から胃までの間に構造上の問題があることを指します。
例えば、口の中が荒れていたり、咽頭がんなどで喉の通り道がふさがれているなどの形態異常です。
生まれつきではなく、後からこの嚥下に関係する部位に異変が起こる事で症状が出ます。
まれに、先天的な奇形が原因になる事もあります。
機能的原因
構造上問題はなく、口や喉など飲み込みに必要な筋肉や神経に原因がある場合です。
これは認知症がなくても、加齢によって筋力が衰える事で症状がみられる事もあります。
筋力の低下は物を噛む力だけでなく、飲み込むときに気道が閉じず誤嚥のリスクを高めてしまうのです。
心理的原因
うつ病など、心の問題で起こる様々な疾患によって食欲が減退し、嚥下障害につながる場合があります。
急に誤嚥するような事はまれですが、食事を取らなくなり嚥下障害を引き起こします。
正しい嚥下の流れ
嚥下障害について理解が深まったところで、正しい嚥下の流れを知っておきましょう。
ここでは口の中から胃に入るまでを3つの時期に分けて解説します。
口腔期
口に入って噛んだものを、口の中から喉まで送り込む時期を指します。
ここでは口を閉じて舌がしっかりと上顎に付く事で、口の中の圧を高め喉まで送ります。
咽頭期
喉まで送り込まれた物を食道の入り口まで送る時期です。
食道の入り口が開くのと同時に、鼻腔や気管の入り口が閉じる事で誤嚥を予防する時期とも言えます。
誤嚥を起こしてしまうかどうか、非常に重要な時期がこの咽頭期です。
食道期
食道には蠕動(ぜんどう)運動と言って、食道そのものが内部にあるものを押し出そうとする動きがあります。
蠕動運動と重力によって食道から胃へ送り込む時期を食道期と呼びます。
嚥下障害のリハビリ
嚥下障害は早期にリハビリに取り組めば劇的な改善がみられる場合があります。
食べられなくなってしまったとあきらめず、繰り返し根気強くリハビリに取り組む事が大切です。
ここでは病院で行う治療だけではなく、食べ物を使わずに家庭で簡単に出来るものをご紹介します。
間接訓練
実際に食べ物を使うのではなく、噛む力と飲み込む力を回復させる訓練です。
食べ物を使わない間接的に機能を高める訓練なので、自宅で安全に取り組む事が出来ます。
口唇・舌・頬の運動
手を使って口唇・舌・頬を前後に優しく引っ張ったり、口を大きく開けて動かします。
口周辺の筋肉をほぐし、筋力の改善を目指します。
発声トレーニング
正しい発声を意識してしっかりと声をだす訓練です。
発声は喉を開いたり閉じたりする事で音の強弱などを変えているため、特に咽頭期の機能改善に効果的です。
呼吸筋の強化
発声トレーニングと似ていますが、正しい姿勢で正しい呼吸が出来るよう訓練します。
腹式呼吸でしっかりと肺へ空気を送り込み、勢いよく吐き出す事で誤嚥した際、吐き出す筋肉を鍛えます。
姿勢保持
姿勢が崩れると嚥下機能が低下し、誤嚥のリスクが高まります。
普段から姿勢に気を付けてまとまった時間同じ姿勢を保てるよう、体幹を鍛えます。
寝てばかりいた場合は起き上がって、体を支える時間を増やす事から始めると良いです。
リラクゼーション
肩や首、全身がこわばっていると嚥下に使う筋肉がうまく使えず誤嚥に繋がります。
軽いストレッチをして体をほぐしましょう。
体の力を意図的に抜く訓練も効果的です。
直接訓練
ゼリーなどを使って少量ずつ飲み込む練習です。
最初は少量のゼリーを丸飲みする所から初めて、徐々に食事の形態を普段の食事に近づけます。
この直接訓練は誤嚥のリスクがあるため、看護師や医師などの指導のもと行います。
食事形態の調整
障害の段階に合わせて、食事の硬さやとろみの量を調整します。
細かく刻んであると食べやすい方もいれば、逆に口の中で広がってしまい食べにくい方もいます。
その人の症状に合わせて、誤嚥のリスクが最小限になるよう細かく調整が必要です。
一見、むせずに飲み込んでいる場合でも、実は反射が起こっていないだけの可能性もあります。
必ず医師の指導の下で食事の形態を調整するようにしましょう。
複数回嚥下訓練
口の中に入れたものを1度で飲み込まず、何度かに分けて飲み込む方法です。
少しずつ回数を分けて飲み込むと、のどに食べ物がたまらず誤嚥を予防できます。
交互嚥下
粘り気があったり、パサパサとしたものは喉に残りやすく危険です。
とろみのついた物やゼリーを挟み、交互に飲み込むことで喉に残りにくくなります。
嚥下体操
嚥下機能維持・向上のための取組
嚥下機能は認知症などの様々な病気が原因で低下します。
ここでは高齢者の嚥下機能低下を防ぐための様々な取り組みをご紹介します。
大田区の取り組み
大田区では介護予防事業の一環として「口から始める健康講座」を開催しています。
「口から始める健康講座」は高齢者の死因として誤嚥性肺炎が多かったことから始まった取り組みです。
また、歯科医師会に要介護者を訪問して、検診や誤嚥機能の評価を行うことを委託しています。
認知症の要介護者の方などを歯科衛生士や歯科医師が訪問します。
新宿区の取り組み
新宿区では嚥下機能を支援するための「新宿ごっくんプロジェクト」を開催しています。
また、嚥下機能をチェックするための連携ツールを開発普及しています。
柏市の取り組み
柏市では歯科衛生士が講師となり、「口腔ケア健口講座」などを実施しています。
また、訪問歯科診療の提供も行います。
出典:厚生労働省「高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上 のための取組に関する調査」
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認知症と嚥下障害のまとめ
ここまで認知症と嚥下障害についてお伝えしてきました。
要点を以下にまとめます。
- アルツハイマー型認知症では、食べ物を認識する動作に支障が出やすい
- レビー小体型認知症では、飲み込む動作に支障が出やすい
- 嚥下障害では、むせや咳き込み、飲み込みづらいなどの症状が見られる
- 嚥下障害は器質的原因、機能的原因、心理的原因によって引き起こされる
- 嚥下障害に対するリハビリには間接的訓練、直接訓練がある
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。