認知症は誰もが発症する可能性を持っており、発症した際には周囲の助けを必要とします。
また、近年高齢化は世界でも進み、世界の中でも認知症ケアについて様々な取り組みがされているのをご存知でしょうか?
ご自身の周りの方が認知症を発症した際にどのように接するべきか、日本と海外の認知症ケアの取り組みを元に確認していきましょう。
本記事では海外の認知症について以下の点を中心にご紹介します。
- 認知症とは
- 海外の認知症ケア
- 日本の認知症対策
- 認知症の治療薬
認知症について理解を深めるためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
認知症の症状や予防について詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてください。
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認知症とは?
認知症とは、様々な要因により脳の神経細胞が破壊・減少し認知機能が低下する病気です。
認知機能が低下することで日常生活に支障をきたしていきます。
また、認知症には複数の種類があり、代表的なものでは
- アルツハイマー型認知症
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
の4つが挙げられます。
近年、日本は高齢化が進み、認知症患者数が増加していることが確認されています。
世界的に見ても認知症患者数は増加傾向にあり、高齢者だけではなく若年層の発症も報告されているようです。
出典:厚生労働省【認知症|心の病気を知る|メンタルヘルス】
レビー小体型認知症について詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてください。
三大認知症の一つとされているレビー小体型認知症。発症すれば幻視や妄想をともなう可能性のあるレビー小体型認知症ですが、どのような対策や予防があるのでしょうか?今回は、レビー小体型認知症について以下の点を中心にご紹介します。[…]
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海外の認知症予防
世界的に認知症は増加傾向にあります。
海外でも認知症を予防する為に様々な研究がされています。
また、近年米欧では認知症の発症率低下が見られ、注目されています。
日本や中国では増加傾向にある認知症ですが、米欧ではなぜ減少傾向にあるのでしょうか?
決定的な原因は分かりません。
仮説の1つに「血圧やコレステロールといった心血管の危険因子の制御が改善されたこと」とあります。
認知症患者のほとんどの方が、血管損傷などの脳の異常を抱えています。
そのため、高血圧であることから仮説がたてられました。
その後、仮説から高血圧・糖尿病・難聴などを予防・管理することで認知症の発症率が下がる可能性があると発表されました。
しかし、決定的に因果関係を裏付けるエビデンスはありません。
そのためまだ断言はできませんが、認知症予防の研究が進んでいることは確かではないでしょうか。
出典:厚生労働省【海外の認知症予防等ガイドラインの整理に関する調査研究事業 報告書】
認知症予防について詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてください。
脳細胞の減少や死滅、活動の低下などで認知機能に障害が起きる認知症。「加齢とともに認知症になるのは仕方ない」と諦めていませんか?認知症を予防する方法はいくつかあります。今回は、認知症を予防する上で大切な「食事」や「運動」について詳しくご紹[…]
海外の認知症ケア
海外の認知症ケアの特徴として、「周りが認知症への理解を示し、認知症の方にも出来るかぎり普段の生活を送って頂くこと」があります。
そこで、世界でも有名な認知症ケアをおこなっている、スウェーデン・オランダ・イギリスの実例を元に確認してみましょう。
スウェーデンの認知症ケア
スウェーデンは国レベルで福祉を重要視している国として有名です。
そこで、スウェーデンでは認知症ケアをどのようにおこなっているのでしょうか。
スウェーデンの認知症ケアの概要
1972年にスウェーデンは世界でいち早く高齢社会を迎え、高齢者ケアを今までの医療中心から福祉中心に変えていきました。
具体的に、認知症にかかる国の経費の85%を福祉ケアが占め、医療はわずか5%です。
このことから、医療中心のケアから暮らしを支える認知症ケアにシフトしていったことがわかります。
医療よりも福祉に力を注ぐスウェーデンでは、認知症の方に対し、「オムソーリケア」という取り組みを共通しておこなっています。
オムソーリケアをおこなっているスウェーデンでは、認知症の方の大半が自宅で暮らしています。
自宅で暮らせている理由は認知症が悪化していないからとされています。
では、なぜ認知症が悪化しないのでしょうか?
その大きな理由にはオムソーリケアが関係していると考えられています。
オムソーリケア
オムソーリとは、スウェーデンに古くからある言葉で「悲しみや幸せを分かち合う」という意味があります。
「オムソーリ」ケアは9つのキーワードで構成されており、以下の通りです。
- 患者にとって必要なケアは何か観察し、提供するニーズケア
- できないことだけを援助する「自立支援」
- 利用者の状態をチーム全員で把握するチームプレイ
- マニュアルだけにとらわれない非マニュアル
- 拒否が強い患者には入念で丁寧なケアをする
- 機転をきかせて、臨機応変に
- 介護者自身が自分の心を静かに保つ
- 些細なことからも会話を膨らませ、相手からも会話を引き出す
- ともだちのような親しさと節度を保つ
オムソーリケアは、これらの9つのキーワードを念頭に、感情をもつ人間によっておこなわれる、入念で心遣いある支援だといえます。
また、日本でも2035年に団塊世代が85歳を超え、それに伴い認知症の方も増えていくと予想されています。
そのため、日本でも認知症の方への新しいケアが必要とされています。
オムソーリケアは日本にとっても有益な概念といえます。
オランダの認知症ケア
オランダの認知症ケアには、世界的にも有名な「ホフヴェイ」があります。
ホフヴェイ
ホフヴェイとは、認知症の方が以前と同じような生活の中で暮らすことを目的に作られた認知症患者専用の老人ホームです。
老人ホームと聞くと大きな建物の施設を想像すると思います。
しかし、ホフヴェイは違います。
ホフヴェイの見た目はまるで「村」のようです。
ホフヴェイが世界的に有名になった理由がこの「村」形態にあります。
ホフヴェイは、オランダ・アムステルダム郊外にある認知症の方専用の村です。
2012年から「認知症の人だけが暮らす村」として作られた福祉施設です。
入居者約150人に対し、スタッフは約240人配置されています。
スタッフはナース服などの制服は着用せず、「住民の1人」として入居者に接します。
また、ホフヴェイスタッフは認知症の方への接し方を熟知した認知症ケアのプロフェッショナルです。
ホフヴェイの居住エリアは23棟あり、入居者は各自のライフスタイルに合わせ、居住エリアを選べます。
ホブウェイの住居エリアのカテゴリー
1軒に同じようなライフスタイルをもつ認知症の方が6〜8人で共同生活していきます。
住居エリアのカテゴリーは7つあり、以下の通りです。
伝統・職人タイプ | 大工など、自分の職業を誇りに思っている方やオランダ文化や伝統を重んじている方など |
クリスチャン | キリスト教に深い信仰を持つ方 |
文化人タイプ | 音楽や芸術が好きな方や、劇場・映画・博物館・コンサートが好きな方など |
富裕層 | 上流階級向けの生活様式 |
家庭的タイプ | 家事などを大切にしている方や、家庭的な方など |
インドネシア | オランダから独立後に移り住んだ、インドネシアにルーツを持つ方 |
都会タイプ | 都会的な生活が好きで、カフェやレストランでの食事を楽しみたい方 |
ホフヴェイではこれら7つのカテゴリーを用意することで、認知症の方がこれまで生活してきた環境の延長線上で過ごすことができると考えられています。
また、ホフヴェイでは、認知症の方が入所する際不安を感じないよう、村全体で工夫がされています。
例えば、ホフヴェイ内の施設にオランダでよく見る典型的な施設内装を採用しています。
認知症の方がホフヴェイを「新しい生活の場」と認識するよう導いているようです。
総じてわかることは、オランダの認知症ケアは、認知症の方の個人のライフスタイルが重視されているということです。
認知症の原因について詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてください。
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イギリスの認知症ケア
イギリスでは、認知症の方が周りの方たちから理解・尊重・支援されることを念頭に置いた「認知症フレンドリーコミュニティ」が浸透しています。
認知症フレンドリーコミュニティ
認知症フレンドリーコミュニティとは、認知症の方々が理解・尊重・支援され、自信を持って地域の活動に参加、貢献できるコミュニティのことをいいます。
要約すると、「認知症の方にやさしいまちづくり」をしようという取り組みです。
イギリスでは2009年に認知症ケアが国家戦略に掲げられ、以降認知症フレンドリーコミュニティが各地へ広がりを見せました。
認知症フレンドリーコミュニティで重要なこと
認知症フレンドリーコミュニティで最も重要とされているのが、認知症アクション連盟です。
認知症アクション連盟とは、認知症の方や家族、取り組みに賛同した地元企業、公共施設など幅広い組織からなる集まりです。
認知症の方のご家族や様々な方面から支える方たちの視点や物事の考え、目標などを共有し、プロジェクトを実施していきます。
例えば、1つの取り組みとして、様々な方に認知症への理解を深めてもらうための場を設け、認知症の方への接し方などを学びます。
また、小学校へ認知症の方が足を運び、子供たちに対しても認知症への理解を深めてもらう活動がされています。
様々な人や世代に認知症を理解してもらい、認知症の方への尊重の気持ちを持って接してもらいます。
その結果、認知症フレンドリーコミュニティができあがっていきます。
また、各地域だけでなく、この取り組みに賛同した民間企業の一部でも、認知症の方向けのサービス提供が始まっているようです。
日本の認知症対策
日本でも今後高齢者が増えていき、それに伴い認知症の方も増えると予想されています。
そこで、日本でも認知症対策への取り組みが重要視されています。
日本での認知症対策は、基本的な考えとして「予防」と「共生」が大切とされています。
「予防」は「認知症にならないこと」ではなく、「認知症の発症を遅らせること」や「認知症の進行を遅らせること」を指します。
具体的な取り組みとして、「予防」では認知症予防に繋がる活動の推進や、予防に関するエビデンスの収集推進が掲げられています。
また、「共生」では認知症バリアフリーの推進、若年性認知症の方への支援・社会参加支援を念頭に、共生するための様々な取り組みがされています。
そして、日本での認知症対策の最終的な目標は、「認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望をもって日常生活を過ごせる社会」です。
出典:厚生労働省【認知症施策推進大綱】
先ほど紹介したスウェーデン、オランダ、イギリスの3カ国と同じ方向性であることが分かります。
認知症は誰もがなる可能性があり、治すことの難しい病気です。
認知症の理解を深め、認知症の方も周囲の方も暮らしやすい街づくりが今後の課題と言えます。
アルツハイマー型認知症の治療楽が承認
認知症は治すことの難しい病気とご紹介しました。
しかし、近年アルツハイマー型認知症の治療薬が開発されました。
このことを受け、2021年12月にアメリカ食品医薬品局がアルツハイマー型認知症の治療薬の製造・販売を承認しました。
このアルツハイマー型認知症の治療薬は、日本の製薬会社が開発したものです。
日本での承認も心待ちにされていますが、現在はまだ承認されていません。
しかし、アルツハイマー型認知症の治療薬が開発されたこと、アメリカですでに承認されたことは認知症ケアの大きな1歩と言えます。
出典:厚生労働省【田村大臣会見概要】
アルツハイマー病について詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてください。
アルツハイマー病によって、日常生活を送るのも困難な高齢者の方がいます。もし、周りにアルツハイマー病で苦しんでいる方がいたら、どのように対処すべきなのでしょうか?今回はアルツハイマー病について、以下の項目を中心に解説します。アルツ[…]
海外の認知症ケアについてのまとめ
今回は、海外の認知症ケアとアルツハイマー型認知症の治療薬について紹介しました。
海外の認知症ケアと治療薬についての要点を以下にまとめます。
- 認知症とは様々な要因により脳の神経細胞が破壊・減少し認知機能が低下する病気
- 海外では認知症への理解と認知症の方が安心して生活できる環境を整える取り組みがされている
- 日本では認知症の進行を遅らせ、認知症の方と周囲の方が共生できる環境づくりがされている
- アルツハイマー型認知症の治療薬が開発されたが、日本では承認されていない
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。