記憶障害が起こると、新しい情報の記憶が困難になります。
しかし、たとえ記憶障害が生じても、リハビリ次第では日常生活を支障なく送れるレベルまで記憶機能が回復する可能性があります。
本記事では、記憶障害に有効なリハビリ法について解説します。
- 視覚イメージ法
- 顔-名前連想法
- ペグ法
- 反復訓練
- 記憶障害の発症者と家族の心構え
記憶障害に有効なリハビリ法の正しい知識を身に着けて、今後の参考にしていただけたら幸いです。
ぜひ本記事を最後までお読みください。
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記憶障害とは
記憶障害とは、自分が体験した過去の出来事が抜け落ちる障害です。
新しい情報の記憶が困難になる症状も、記憶障害に含まれます。
いわゆる物忘れと異なり、「忘れたことを忘れる」点が大きな特徴です。
【記憶障害の例】
- 話したことを忘れて何度も同じ話をする
- 約束したこと自体を忘れる
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記憶障害のリハビリの種類
記憶障害は、リハビリ次第である程度の回復が見込めます。
今回は、自宅でも取り組みやすい記憶障害のリハビリ方法をご紹介します。
視覚イメージ法
視覚イメージ法は、視覚イメージを記憶に結び付けるリハビリ方法です。
記憶障害リハビリの中でも、「戦略的訓練法」あるいは「内的記憶戦略法」に分類されています。
視覚イメージ法では、記憶したい物・人・名前について、自分の視覚イメージと関連づけて覚える訓練をします。
記憶障害では、対象そのものを記憶することが困難です。
たとえば一人の男性と新しく出会い、その人の名前・顔をいくら覚えようとしても、記憶に残せません。
しかし、物・人・名前を自分なりの視覚イメージで紐づけると、記憶の中でその人のインパクトが大きくなります。
すると次に出会ったときに、顔と名前を一致しやすくなるのです。
なお、視覚イメージ法を利用したリハビリ方法には、「顔-名前連想法」や「ペグ法」などがあります。
以下に解説します。
顔-名前連想法
視覚イメージ法の中でも、代表的なリハビリ方法です。
特に、人の顔と名前を一致させたいときに有効です。
顔-名前連想法では、記憶したい相手の外見イメージを、その人の名前と結びつけて覚えることを意識します。
さらに、視覚イメージと名前を紐づけたことを記憶に残します。
記憶障害では忘れたこと自体を忘れてしまいます。
そこで、忘れないために、まず「覚えたこと」を意識して記憶に残すわけです。
次の機会に対象の人物と出会ったときには、まず「相手のイメージと名前を紐づけたこと」が思い出されます。
すると、「相手の名前を覚えたという記憶」に続けて、「相手の名前そのものの記憶」を思い出しやすくなるわけです。
相手の視覚イメージと名前を紐づけるときは、なるべくユニークなイメージを想起するようにしましょう。
インパクトが大きいほど、記憶がよみがえりやすくなるためです。
視覚イメージは、自分なりのイメージでかまいません。
極端に言えば、子犬のように小柄な相手を「熊」と覚えてもいいのです。
大切なのは、自分が思い出しやすいイメージであることです。
イメージは、深く考えこむより、第一印象で決めたほうが記憶に紐づけやすくなります。
外見でイメージすることが難しければ、印象的な「仕草」や「エピソード」を名前と結びつけるのも一つの手です。
【顔-名前連想法の具体例】
- 「持田さん」と出会う
- 持田さんの眉毛は太くて濃い
- 太くて濃い眉毛がまるで「海苔」みたいだ
- 海苔といえば「磯部餅」
- 磯部餅みたいな「持田さん」と覚える
ペグ法
「ペグ」は、「釘」のことです。
ペグ法は、釘で物を打ち付けて固定するように、「対象」と「対象」を固定化して覚えるリハビリ方法です。
ペグ法の簡単なやり方として、両手の指を使う方法を紹介します。
まず、10本の指を「ペグ」に見立て、ペグ1本に対し、覚えたい対象を1つずつ割り振ります。
次に、ペグごとに対象を割り当てたら、ペグと対象をワンセットで記憶します。
ペグと対象をワンセットで覚えることで、ペグを思い出せば、同時に割り振った対象を思い出しやすくなるという仕組みです。
またペグと対象を固定化するときは、順番を考えることも大切です。
たとえば、手の指を使う場合、親指・人差し指…小指の順番にペグ化しましょう。
順番を作ることで、物事を順序立てて思い出しやすくなります。
一度固定化したペグと対象は、何度も思い返しましょう。
反復することで、記憶に定着しやすくなるからです。
さらに、記憶を反復することは、いざというときに記憶を思い返す時間を短縮できるというメリットもあります。
【片手を使ったペグ法の具体例】
(記憶したい対象)
- 仕事で〇月〇日に▼さんに電話する
- ▼さんの電話番号は机のメモに記した
(ペグ化のやり方)
- 親指:〇月〇日
- 人差し指:電話
- 中指:▼さん
- 薬指:電話番号
- 小指:机のメモ
親指→人差し指→…小指と順番に思い出していけば、「〇月〇日にメモを見ながら▼さんに電話する」というストーリーを思い出せます。
反復訓練
次にご紹介するリハビリは、その名の通り、記憶したことを反復するリハビリ方法です。
「復習」を繰り返すことで、記憶に定着させやすくします。
記憶は、保持時間の長さに応じて「短期」「中期」「長期」に分類できます。
具体的な保持時間は、短期記憶は数分~数時間、長期であれば数日~数年単位です。
短期記憶は記憶容量が小さいのに対し、長期記憶は記憶要領が大きい点も、それぞれの特徴です。
自身に不要な情報は短期記憶に振り分けられるため、数分~数時間で忘れてしまいます。
一方、必要な情報は、長期記憶に分類され、数日~数年単位で記憶することが可能です。
情報の取捨選択は基本的に無意識に行いますが、記憶障害ではそもそも記憶を残すことが困難です。
短期であれ長期であれ、物事を覚え続けておけないことが多いのです。
そこで、記憶を残すために行うのが、反復訓練です。
まず前提として、人は基本的に「忘却」の生き物です。
人の記憶は一か月もすれば失われると言われています。
しかし、記憶を忘れ去る前に再び記憶し直せば、忘却までの期間がリセットされます。
つまり忘れる前に思い出すことで、記憶を長く保持し続けることが可能になるのです。
反復訓練によって、「忘れる前に思い出す」ことを繰り返せば、記憶機能に障害がある方でも長期記憶が可能になります。
なお、反復訓練は記憶障害者のリハビリだけでなく、試験勉強などにも広く用いられている記憶訓練方法です。
反復訓練では、反復の回数が多ければ多いほど、記憶の定着率が高まります。
また、反復するタイミングも重要です。
一般的には、以下のタイミングが理想的だとされます。
1回目:翌日
2回目:1週間後
3回目:2週間後
4回目:1カ月後
5回目:2カ月後
ただし上記は、健常者の反復訓練のタイミングです。
記憶障害を抱えている方は、記憶の保時時間が短いため、さらに短いスパンでの反復が求められます。
具体的なスパンは個人差があるため、記憶障害の程度に応じて調整してください。
さらに、反復訓練は、訓練する時間を工夫することで、より高い効果が期待できます。
ある実験では、記憶を司る海馬の活動は、午前中にピークを迎えるというデータが報告されました。
すなわち、記憶力が最も高まるのは午前中です。
一日の中でも午前中に反復訓練すると、効率のよいリハビリが見込めます。
記憶障害との向き合い方
ある日突然記憶障害を発症した場合、当事者や介護者はどのように障害と向き合うべきでしょうか。
それぞれの立場別に、記憶障害との向き合い方について解説します。
発症者
一般的に発症者自身は、記憶障害の自覚がないことがほとんどです。
記憶障害では記憶が「丸ごと抜け落ちる」ため、忘れたことに気づかないからです。
しかし、たとえ記憶障害への自覚や違和感があったとしても、むやみに不安がるのは止めましょう。
不安はストレスを増長させ、脳の血流悪化につながってしまいます。
記憶障害は、何らかの脳障害が原因です。
脳に負担をかけて記憶障害を悪化させないためにも、ありのままの自分を受け入れることが大切です。
介護者
家族が記憶障害になったら、ダメージを受けるのは介護する家族側です。
ときには、「なんで忘れるの!」などと、強い言葉を投げつけたくなることもあります。
しかし、記憶障害で一番困っているのは、発症者本人です。
自覚はなくとも周囲に責められれば、本人は強いストレスを感じます。
その際は、本人を否定したり責めたりせず、受け入れて安心させる環境を整えることが大切です。
記憶障害に効果的なリハビリのまとめ
ここまで、記憶障害に有効なリハビリ法についてお伝えしてきました。
- 視覚イメージ法は、視覚イメージを記憶に結び付けるリハビリ方法
- 顔-名前連想法は、記憶したい相手の外見イメージをその人の名前と結びつけて覚えるリハビリ方法
- ペグ法は、ペグと対象を固定化し、順番付けて記憶するリハビリ方法
- 反復訓練は、長期記憶を保持するのに有効なリハビリ方法
- 記憶障害が起こったら、当事者や家族は、障害があることを受け入れる
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。