認知症予防として読書など認知機能を賦活させる試みが重要であることは知られています。
WHO(世界保健機関)は認知症予防を目的に認知的介入を行うことを推奨しています。
しかし、認知的介入はどのような対象者や内容が重要かあまり知られていません。
- 認知的介入とは何なのでしょうか?
- 認知的介入の主な内容は何なのでしょうか?
本記事ではWHOの認知的介入について以下の点を中心にご紹介します。
- 認知的介入とは
- 認知的介入の主な内容とは
- どのように認知症と判断するか
WHOの認知的介入について理解するためにも参考にしていただければ幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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認知的介入とは?
認知的介入とは認知機能低下や認知症のリスクを低下させる手段の1つです。
認知的介入の対象は認知機能正常または軽度認知障害の成人で、認知症の方は含みません。
認知刺激や認知トレーニングを行うことで認知活動の増加が期待されています。
WHOは認知的介入に関する様々な研究をまとめています。
健康な高齢者に対する認知トレーニングの介入に関する研究報告があります。
認知トレーニングを行った場合、認知機能全般を中程度改善させる結果となっています。
しかし、認知症の発症に対する効果は確認されませんでした。
他に、軽度認知障害の成人に対する認知トレーニングの介入に関する研究報告があります。
認知トレーニングを行った場合、認知機能全般をわずかに改善させる結果となっています。
また、認知トレーニングは認知症発症を遅らせることができるとの報告があります。
上記2つの研究結果より、認知的介入は認知機能を改善させる効果が期待できます。
WHOは上記対象者に対し認知的介入による認知機能の改善を条件付きで推奨しています。
しかし、認知症のリスクを減らすことはまだ十分に証明できていません。
WHOは上記対象者に対し認知的介入による認知症リスクの低下を推奨していません。
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認知的介入の主な内容
認知的介入は「思考」「記憶」「判断」など様々な知的活動を高めることが重要です。
特別な手段や道具は必要ではなく、日常生活の中で取り入れることができます。
認知的介入には認知刺激や認知トレーニングがあります。
WHOは認知刺激について、「認知機能および社会機能の改善を目的とした様々な活動への参加」を指しています。
また、WHOは認知トレーニングについて、「特定の認知機能を高めるため個々の標準化された課題を指針に沿って実践すること」と提唱しています。
認知的介入の主な内容は以下の通りです。
- 読書・新聞
- 勉強
- ゲーム
- 映画などを見る
- 音楽
- 芸術活動
- 日常生活での知的活動
- デュアルタスク
上記内容の詳細は以下の通りです。
読書・新聞
本や新聞は活字を見て理解する読解力が必要です。
文章から場面や情景、登場人物などを想像する必要があります。
集中力や記憶力、想像力など様々な脳機能が活性化することができ、認知機能を高めます。
認知症の方が読書をするメリットについても解説しているので、こちらもご参照ください。
勉強
勉強することで認知機能を高めることができます。
計算問題は計算力や記憶力を高めることができます。
買いもののときに商品の合計金額を暗算することも認知トレーニングとして有用です。
認知機能を高める勉強の教材は様々な種類があります。
例として、間違い探しは観察力や集中力を高め、成功体験を高めることができます。
また、都道府県クイズは昔の記憶を想起することができ、回想法としてもおすすめです。
認知症への脳トレの効果についても解説していますので、こちらもご参照ください。
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ゲーム
ゲームを行うと非日常の刺激を体感することができます。
ゲームのルールを理解する、相手の考えを予測するなど様々な脳機能を使います。
また、集団でゲームを行うと他者と交流することができます。
コミュニケーションを通じて様々な脳の活性化が期待できます。
認知症を予防するゲームについても紹介していますので、こちらもご参照下さい。
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映画などを見る
映画やDVDなど映像は内容を理解する、感動するなど様々な脳の活性化が期待できます。
集団で映像を視聴した場合、話題が広がり、他者との交流が高まります。
また、懐かしい映像を鑑賞すると昔を振り返ることができ、回想法としてもおすすめです。
音楽
音楽は認知症予防の効果が期待できる認知トレーニングの1つです。
好きな音楽を聞くと気分が安定し、楽しい感情を高めることができます。
また、慣れ親しんだ音楽を聞くと歌詞を思い出すなど記憶力を高める効果があります。
楽器は手指を使うことや楽譜を見る、音を聴くなど1度に多くの活動が必要となります。
楽器演奏すると様々な脳機能を使用し、活性化が期待できます。
芸術活動
絵画や編みものなどの芸術活動は認知機能を高める効果が期待できます。
主に想像力を高めることができ、ストレス解消など精神的安定も期待できます。
絵画は触覚や嗅覚など5感を使って描くことで脳の活性化や精神的安定が期待できます。
編みものは網の目を数えたり手先を使うなど記憶力や集中力を高めることが期待できます。
日常生活での知的活動
日常生活を営む上で認知機能が必要となる場面はたくさんあります。
買いものの場合購入する商品を記憶する、金額を計算するなど多くの脳活動が必要です。
調理の場合は献立を考える、食材の有無を確かめるなど想起トレーニングにつながります。
より簡単な日常生活の知的活動としては様々な出来事などを思い出す方法です。
今日は何曜日、昨日食べたご飯は、など出来事を思い出すことで脳が活性化できます。
デュアルタスク
デュアルタスクとは1度に2つ以上のことを同時に行う認知トレーニング方法です。
デュアルタスクを行うと様々な脳を活性化させ認知機能の向上が期待できます。
デュアルタスクの例は以下の通りです。
- 歌いながら洗濯ものをたたむ
- ひとりじゃんけん
- ウォーキング中に計算する
運動による認知機能のトレーニング
運動は身体機能以外に認知トレーニングの1つとして効果があることが報告されています。
WHOは身体活動が認知機能正常者の認知機能低下リスクを低下させると推奨しています。
運動を行うと脳血流量が増加し、神経系の賦活や脳容量を増加させるとの報告があります。
運動はうつ症状など精神症状の緩和が期待でき、認知機能の向上が期待できます。
運動により筋力増加や疲労軽減など身体活動量の向上が期待できます。
転倒予防や寝たきり予防に加え、脳を賦活させる刺激量を増加させることができます。
運動は様々な認知症の発症リスクを予防する効果があります。
WHOは身体活動がアルツハイマー病など認知症発症リスクを低減すると報告しています。
認知トレーニングにつなげるために運動の種類や量が重要になります。
WHOは65歳以上の身体活動について以下のように国際勧告しています。
- 週150分の中等度有酸素運動、週75分の高強度有酸素運動またその組み合わせ
- 有酸素運動は1回につき少なくとも10分以上続けること
- 週3日以上行うこと
- 筋力トレーニングは週2回以上行うこと
長寿科学振興財団は、認知トレーニングにつながる運動の種類や量を提示しています。
具体的には以下の通りです。
- 運動量、時間:週2~3回以上、30分以上
- 運動の種類:ウォーキング、サイクリング、水泳、ゴルフなど
- 運動の内容:上記運動を複数組み合わせて行う
運動だけでなく、認知トレーニングなどと組み合わせると認知機能改善効果が高まります。
出典:長寿科学振興財団「第4章認知症の予防 4.運動の視点から」
全国の認知症患者数
認知症の方は全国的に年々増加傾向にあります。
増加する認知症に対し、国は対策として総合戦略を計画しています。
認知症の有症率、国の施策は以下の通りです。
認知症の有症率
2020年の時点で、65歳以上の認知症の方は約600万人と推計されています。
有症率は今後増加すると言われており、2025年には約20%(約5人に1人)になると予想されています。
65歳未満の認知症の方は3.57万人と推計されています。
有症率は10万人当たり50.9人と予想されています。
出典:厚生労働省「認知症」
保健指導リソースガイド「「若年性認知症」の有病者数は10万人当たり51人 7割が退職を余儀なくされる 就労・社会参加の支援が必要」
認知症に対する国の施策
認知症に対し、国は認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を提唱しています。
新オレンジプランの基本的な考え方は、
- 認知症の方の意思が尊重される
- できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らす
- 自分らしく暮らし続ける
社会の実現を目指しています。
国は、新オレンジプランを推進するために7つの柱を設けています。
具体的には以下の通りです。
- 認知症理解を深めるための普及啓発推進
- 認知症の容態に応じた医療や介護等の提供
- 若年性認知症施策の強化
- 認知症の方の介護者支援
- 認知症の方を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
- 認知症の予防、診断、治療、リハビリ、介護など研究開発及びその成果の普及推進
- 認知症の方、その家族の視点の重視
出典:厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」
WHOの認知的介入まとめ
ここまでWHOの認知的介入についてお伝えしてきました。
WHOの認知的介入の要点をまとめると以下の通りです。
- 認知的介入とは認知機能低下や認知症のリスクを低減させる認知トレーニングの1つ
- 認知的介入の主な内容とは読書や芸術など様々な知的活動
- 認知症は65歳以上の5人に1人が発症するため国の施策に沿った支援が必要
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。