WHOは認知症のリスク低減のガイドラインを提示しています。
難聴はWHOの認知症のリスク低減のガイドラインの項目の1つに入っています。
難聴が認知症のリスクになるのは何故でしょうか?
難聴についてどのような管理をすれば良いのでしょうか?
本記事ではWHOの難聴の管理について以下の点を中心にご紹介します。
- 難聴と認知症のリスクの関連性について
- 難聴の管理方法について
- WHOの難聴に関する報告について
本記事ではWHOの難聴の管理について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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WHOの難聴基準
難聴とは以下のような症状をいいます。
- 音が聞こえにくい
- 言葉が聞き取りにくい
- 全く聞こえない
耳のしくみと役割は大まかに以下のようになります。
【耳のしくみと役割】
部位 | 役割 | |
外耳 | 耳の入口から鼓膜までの部分 | 音を伝えること |
中耳 | 鼓膜、耳小骨、鼓室、乳突蜂巣 | |
内耳 | 蝸牛と三半規管などがある部分 | 音を感じて脳に伝えること |
難聴は外耳~内耳のどこか、もしくは大脳の聴覚中枢に異常があった場合に発症します。
難聴は音が聞こえるしくみの異常のある部位によって以下の3つに分けられます。
- 伝音難聴 :外耳から中耳にかけて異常があって音がうまく伝わらない難聴
- 感音難聴 :内耳や脳に異常があって音をうまく感じ取れない難聴
- 混合性難聴 :伝音難聴と感音難聴が混在した難聴
WHOでは難聴の程度を平均聴力レベルの値に応じて以下のように区分しています。
【難聴の程度】
難聴の程度 | 平均聴力レベル(dB) |
軽度 | 26~40 |
中等度 | 41~55 |
準重度 | 56~70 |
重度 | 71~90 |
最重度 | 91以上 |
出典:【聴覚障害についての基礎知識】
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WHOガイドライン|難聴は認知症のリスクが2倍って本当?
難聴の原因及び難聴と認知症や他の疾患との関係についてご紹介します。
難聴の原因
難聴の原因は聴覚障害(病気や障害による)以外には以下の3つとされています。
- 大きな音を聞き続けること
- 動脈硬化症
- 加齢性難聴
それぞれの原因についてご紹介します。
大きな音を聞き続けること
大きな音を聞き続けることで起こる難聴には以下の2つがあります。
- 騒音性難聴:職場において工場の機械音や工事音にさらされることで起こる難聴
- 音響性難聴:爆発音やコンサート・ライブ会場の大音響やヘッドフォンやイヤフォンを大音量で聞き続けることで起こる難聴
WHOは特に近年「ヘッドフォン難聴」や「イヤフォン難聴」と呼ばれる難聴に対して警鐘を鳴らしています。
動脈硬化症
動脈硬化とは血管の内膜にコレステロールなどが溜まることで起こります。
コレステロールが溜まると血管の内腔が狭くなり血流悪化・血管の弾力低下が起こります。
動脈硬化は体の末梢部にも及ぶため、蝸牛神経に関わる毛細血管の血流に影響を与えます。
毛細血管の血流が滞ると蝸牛神経が栄養不足で機能せずに難聴が進行することになります。
動脈硬化は加齢だけが原因で起こる病気ではありません。
したがって、難聴は若年層でも起こる可能性がある病気といえます。
加齢性難聴
加齢性難聴は、加齢以外に難聴の原因が見当たらないものをいいます。
加齢性難聴の主な原因は加齢によって
- 内耳にある細胞や神経(蝸牛神経)の劣化や機能障害
- 脳の認知能力の低下
などが複合的に起こっているためと考えられています。
難聴と認知症の関係
難聴は認知症の危険因子と考えられています。
2019年にWHOは認知機能を予防できる可能性のある12の危険因子の改善テーマに「難聴の管理」を含めています。
出典:WHO【認知機能低下及び認知症のリスク低減 WHOガイドライン】
また、2020年にはランセット国際委員会が「認知症は12のリスク要因を改善することにより約40%予防可能」とレポートしています。
出典:【認知症の予防、介入、ケア:ランセット委員会の2020年レポート】
難聴が認知症の危険因子となる理由として以下の2つが挙げられます。
- 難聴により音の刺激や脳への情報量の低下による脳の萎縮や神経細胞の弱体化
- 難聴によりコミュニケーションを取りにくくなり抑うつ状態や社会的に孤立する
いずれも難聴が認知症の発症に大きな影響を与えることが明らかになっています。
また2011年の米国ジョンズ・ホプキンス大学の研究では以下のような報告がされています。
【健聴者に比べた認知症発症リスク】
- 軽度難聴者 :2倍
- 中等度難聴者 :3倍
- 重度難聴者 :5倍
出典:【Hearing Loss and Dementia – Who’s Listening? – PMC】
難聴が引き起こすその他の病気
難聴が引き起こすその他の影響として、筑波大学の研究グループの調査で明らかになったものがあります。
調査で明らかになったのは、「高齢者の聴こえにくさ」は重要な機能障害ということです。
健康寿命に影響を及ぼす機能障害として
- 外出活動制限(難聴による相対リスクが2倍)
- 心理的苦痛(難聴による相対リスクが2.1倍)
- もの忘れ(難聴による相対リスクは7.1倍)
を挙げています。
外出活動制限や心理的苦痛は抑うつや不安などの精神症状を発症する要因となります。
また、もの忘れは認知症の初期症状ともいえます。
出典:【高齢者の難聴は「外出活動制限」「心理的苦痛」「もの忘れ」を増やす 13万人強を調査 | ニュース | 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会】
WHOガイドライン|難聴の管理方法
WHOは「認知機能低下及び認知症のリスク低減」のガイドラインで12のテーマを挙げています。
「難聴の管理」が12のテーマの1つになっている背景には以下のようなものがあります。
- 難聴は加齢と共に良く起こる障害である
- 難聴は世界人口の中で永年続く障害の主な原因の第4位(WHO、2011年)である
- 65歳以上の成人の3人に1人は難聴と推定される
「難聴の管理」が非常に重要なテーマであることがわかります。
難聴の管理方法について以下の項目でご紹介します。
予防法
難聴の管理として以下のように加齢以外の原因を避けることで難聴の予防が期待できます。
耳をいたわる生活
耳をいたわる生活を心がけることは難聴の管理の1つです。
耳をいたわる生活として以下のようなことが挙げられます。
- ヘッドフォンやイヤフォンで音楽を大音量で聴かない
- 常時騒音や大きな音がでている場所を避ける
- 工場の機械音や工事音下で仕事をしている方は耳栓を使用する
- 静かな場所などで耳を休ませる時間を作る
生活習慣の見直し
生活習慣の見直しも難聴の管理の大事な1つです。
厚生労働省は「健康日本21(第二次)」で以下のような生活習慣の改善を呼びかけています。
- 食事の適正な量と栄養のバランス
- 健康を維持するための身体活動・運動
- 休養(健康作りのための睡眠)
- 適正飲酒
- 禁煙
- 歯・口腔の健康
出典:厚生労働省【わたしたちは健康家族!健康日本21(第二次)】
定期検診
定期健診を受けることも難聴の管理の1つです。
定期的に耳鼻咽喉科で検診を受けましょう。
難聴予防で大切なことの1つは早期発見・早期治療です。
管理法
難聴の管理の方法(治療するための介入方法)として以下のようなものがあります。
補聴器
認知機能低下や認知症のリスク低減のために補聴器の使用が推奨されています。
WHO ICOPEガイドラインでは、難聴がある高齢者に補聴器の提供を推奨しています。
出典:WHO【高齢者のための統合ケアに関する WHO ガイドライン (ICOPE)】
補聴器は中等度から高度の難聴で多く使われます。
補聴器は音を増幅する装置で以下のような種類と特徴があります。
- 耳かけ型(増幅力が最も高いが見た目は良くない)
- 耳穴型(重度の難聴に最適だが電話使用に支障がある)
- カナル型(軽度から中等度の難聴に適しているが電話の使用には支障がある)
- 完全外耳道挿入型(軽度から中等度の難聴に用いられるが高価)
人工内耳
人工内耳は重度から最重度の人(音が聞き取れない・言葉が把握できない人)の大部分で有益な方法です。
人工内耳は蝸牛に多チャンネルの電極を埋め込んで聴神経に電気信号を直接伝えます。
体外装置(音声処理装置)から送られた電気信号が埋め込まれた受信装置を経て電極に伝わり、聴神経を刺激する仕組みです。
脳幹インプラント
脳幹インプラントは補聴器や人工内耳を用いることができない方に行われる方法です。
補聴器や人工内耳を用いることができない理由には
- 頭蓋底(側頭コツ)の両側で起こった骨折で聴神経が破壊されている方
- 神経線維腫症などで聴神経が破壊されている方
- 先天的に聴神経がない小児
などがあります。
脳幹インプラントは電極を脳幹に埋め込みます。
電極は人工内耳と同じ音声処理装置と受信装置に接続されます。
その他
その他の重度の難聴対策として以下のような補助的な装置があります。
- 光警報装置(玄関の呼び鈴がなっているときなどを知らせる装置)
- 音声明良化システム(多くの雑音が競合する場所での聞き取りがしやすいシステム)
- テレビの字幕放送
- 会話を自動で文字起こしできるアプリ
WHO|難聴リスクを低減する国際基準(イベント等)
WHOは「会場やイベントでの難聴のリスクを低減する6つの国際基準」を発表しています。
世界で多くの若者が大音量の音楽やゲーム音に長時間さらされていることへの警鐘です。
世界で12歳から35歳で10億人以上の人々が聴力を失う危険性があるとされています。
難聴リスクを低減する6つの国際基準は以下のようなものです。
- 平均騒音レベルの最大値を100dBとする
- 正しく調整された機器を用いて音量レベルのライブモニタリングと録音を行う
- 心地良い音質と負担にならないリスニングのために、会場の音響と音響システムを最適化する
- 聴覚を保護する個人用器具を観客に提供し、その使用方法を説明すること
- 耳を休ませ、聴覚障害のリスクを低減するための静寂な空間の利用
- スタッフに対する教育・情報提供
出典:【WHO最新ニュース(WHO:難聴とリスク低減の国際基準/)】
【WHOの難聴に関する報告】2050年には4人に1人が難聴!?
WHOの「世界聴覚報告書」では2050年には4人に1人が難聴を抱えて生活するだろうとしています。
報告書では難聴の予防と対策を早急に進める必要性を強調しています。
具体的な難聴の予防と対策は、耳と聴覚のケアサービスの投資と普及拡大としています。
耳と聴覚のケアサービスとして挙げられているのは以下のようなものです。
小児に対しては
- 風疹や髄膜炎の予防接種
- 妊産婦や新生児のケアの改善
- 中耳炎のスクリーニングと早期管理
などの対策で難聴のほぼ60%が予防可能としています。
成人に対しては
- 騒音対策
- 安全な聴取
- 耳毒性のある薬の監視
- 耳の衛生管理
などで良好な聴力を維持することで難聴の可能性を低減できるとしています。
出典:WHO【世界聴覚報告書:2050年までに4人に1人が聴覚障がいに | 公益社団法人 日本WHO協会】
WHOが難聴管理のために音響機器に基準を設けるって本当?
WHOはスマートフォンやオーディオなど音響機器に難聴リスクがあると警告しています。
スマートフォンやオーディオで大音量の音を長時間聴くことによる難聴のリスクです。
難聴リスクは12歳から35歳の若い世代の半数近い約11億人が対象になるというものです。
WHOは聴覚障害にならない安全な音レベルの国際基準を示しています。
国際基準に合った機器類の製造を世界の政府やメーカーに求めているのです。
WHOは安全な音レベルの国際基準は
- 大人:音量80dBで1週間に最大40時間
- 子供:音量75dBで1週間に最大40時間
としています。
さらに、利用者が聴いた音量レベルと程度がわかる機能を音響機器に付けることも求めています。
出典:【世界の若者11億人が大音量で聴覚障害のリスク WHOがスマホなどの音響機器に基準 | Science Portal – 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」】
WHO難聴の管理のまとめ
ここまでWHOの難聴の管理についてお伝えしてきました。
WHOの難聴の管理についての要点を以下にまとめます。
- 難聴者は健聴者に比べて認知症発症リスクが軽度難聴者で2倍、中等度難聴者では3倍、重度難聴者で5倍あるとの報告がある
- WHOの難聴の管理方法には予防法、管理法(治療のための介入法)、難聴リスク低減の国際基準(イベント等)などがある
- WHOは難聴に関する報告の中で2050年には4人に1人が難聴になる恐れがあると早期の予防と対策を強調している
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。