脂質異常症とは何らかの原因で、血液中の脂質の値が正常値から外れた状態をいいます。
WHOは認知症リスク低減のためのポイントとして、脂質異常症の管理を指摘しています。
脂質異常症は、認知症とどのような関連があるのでしょうか?
WHO推奨の脂質異常症の管理とは、どのようにしたら良いのでしょうか?
本記事では、WHO推奨の脂質異常症の管理について以下の点を中心にご紹介します。
- 脂質異常症とは
- 脂質異常症と認知症の関連性とは
- WHO推奨の脂質異常症の管理とは
- 脂質異常症の食事療法とは
WHO推奨の脂質異常症の管理について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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脂質異常症とは
脂質異常症とは何らかの原因で、血液中の脂質の値が正常値から外れた状態をいいます。
脂質異常症には、以下の3種類があります。
- LDL(悪玉)コレステロール高値
- 中性脂肪高値
- HDL(善玉)コレステロール低値
脂質異常症はいずれも進行すると動脈硬化となり、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす恐れがあります。
脂質異常症を放置すると、命にかかわる危険性を伴う病気につながる場合があります。
脂質異常症を予防し、動脈硬化にならないように生活習慣を整えることが重要です。
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脂質異常症と認知症の関連性
脂質異常症と認知症の関連性について、WHOガイドライン「認知機能低下および認知症のリスク低減」に記載されている研究内容から見てみましょう。
研究内容
脂質異常症のある認知機能正常または軽度認知障害の成人にとって、脂質異常症治療は、認知機能低下や認知症のリスク低減において、プラセボあるいは介入なしよりも効果的か
対象者
認知機能正常または軽度認知障害の脂質異常症の成人
研究背景
世界の虚血性心疾患の3分の1は、脂質異常症に起因しており、年間260万人の死亡原因と推定されています。
総コレステロールの上昇は、経済的な豊かさと相関しており、高所得国の成人の総コレステロール値は高く、低所得国の 2 倍以上です。
1970年代半ばに、血中コレステロール値の上昇が認知症の発症リスク上昇に関連する可能性があるという知見が唱えられていました。
それ以来、多くの疫学研究が行われてきましたが、 これらの結果に一定した見解は得られていません。
近年、失敗に終わった臨床試験に参加していたアルツハイマー病患者へのスタチン使用の再解析が行われ、シンバスタチンが認知機能低下の進行を遅らせる可能性が示唆されています。
研究結果
中年期の脂質異常症の管理が、認知機能低下や認知症の発症リスクを低減することを示唆する間接的なエビデンス が得られています。
脂質異常症の管理
脂質異常症の管理とは、どのようにしたら良いのでしょうか?
質異常症の管理について、診断基準や治療方法の概要を見てみましょう。
脂質異常症の診断基準
脂質異常症の診断基準について、脂質異常症治療ガイドラインを基に見てみましょう。
LDL(悪玉)コレステロール高値 | 140mg/dL以上 |
境界域LDLコレステロール高値 | 120~139mg/dL |
中性脂肪(TG)高値 | 150mg/dL以上 |
HDL(善玉)コレステロール低値 | 40mg/dL未満 |
脂質異常症の診断基準値は、スクリーニングのためのものではありません。
脂質異常症の診断に用いられる採血は、空腹時採血を原則とします。
- 空腹時は、10〜12時間以上の絶食とする。
- 水やお茶などカロリーのない水分摂取は可。
食事療法と運動療法による基本適正体重の維持が重要
脂質異常症の危険因子は、生活習慣にあります。
脂質異常症は、以下のような生活習慣の方がなりやすいといわれています。
- 食べ過ぎや飲み過ぎの食生活
- コレステロールを多く含む食品や高カロリー食など偏った食生活
- 運動習慣がなく運動不足
また、高血圧や糖尿病などの方も脂質異常症になりやすいといわれています。
脂質異常症を改善するためには、食事療法と運動療法による基本適正体重の維持が重要になります。
脂質異常症の食事療法
脂質異常症の食事療法は、どのような点に注意したら良いのでしょうか?
脂質異常症の食事療法について詳しく見てみましょう。
肉の脂身を控えて飽和脂肪酸の摂取量を減らす
肉類の脂身には、飽和脂肪酸やコレステロールが多く含まれています。
肉類の脂身は、赤身ではなく白い部分であり、バラ肉、ひき肉、鶏肉の皮なども含みます。
一般的に、冷蔵庫の中で固まっている油脂は、飽和脂肪酸が多い油脂になります。
飽和脂肪酸の摂りすぎは、LDLコレステロール高値の原因となります。
飽和脂肪酸が多く含まれている肉類の脂身を控えることでLDLコレステロールを下げることができます。
砂糖や果糖を含む加工食品を控える
砂糖や果糖を含む以下のような加工食品には、飽和脂肪酸が多く含まれています。
- バター
- チョコレート
- アイスクリーム
- 生クリームなど
飽和脂肪酸を摂りすぎることは、LDLコレステロール高値を招いてしまいます。
また、カカオの油脂やパームヤシ、インスタントラーメンなどの加工食品にも飽和脂肪酸が多く含まれています。
いずれにしてもLDLコレステロール高値を防ぐためには、加工食品は控えめにしましょう。
アルコール飲料を控える
アルコール飲料の摂りすぎは、血清中性脂肪の高値を招いてしまいます。
また、アルコールは高カロリーであるとともに、自制心がゆるみ、食事療法が守れなくなる場合があります。
アルコールとともに摂取するスナック菓子やナッツ類もコレステロールが多く含まれているため注意が必要です。
アルコール飲料は、ビール中ビン1本または日本酒1合程度の「ほどほどの飲酒」は循環器疾患にプラスの効果があるといわれています。
しかし、過度の飲酒は脂質異常症のリスク因子になります。
「ほどほどの飲酒」を心がけましょう。
魚を積極的に食べる
魚には、以下のような良質な脂質が含まれています。
- オメガ3脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)
- EPA(エイコサペタエン酸)
上記の脂質は、LDLコレステロールや中性脂肪を減らす作用があります。
魚の中でも特に良質な脂質が多く含まれている魚には、以下のようなものがあります。
- あじ、いわし、さば、さんまなどの青魚
- かつお、まぐろなどの赤身魚
- 魚のカマの部分
1食あたりの目安量80gの魚を中心としたバランスの良い食事を心がけましょう。
大豆や大豆製品を食べる
大豆は、良質なたんぱく質が含まれていることから、「畑の肉」とも呼ばれています。
大豆に含まれているタンパク質には、LDLコレステロールを減らす作用があります。
また、大豆イソフラボンには、LDLコレステロールや中性脂肪を減らす作用があります。
大豆や大豆製品の1食あたりの摂取目安量は以下のようになっています。
- 納豆1パック
- 豆腐や厚揚げ1/3丁
- 大豆水煮50g
- 豆乳コップ1杯
野菜、きのこ、こんにゃく、海藻を多く食べる
野菜やきのこ、こんにゃく、海藻には、食物繊維が多く含まれています。
食物繊維は、体内のコレステロールの吸収を抑制し、排泄を促進します。
緑黄色野菜には、以下のような抗酸化作用成分が多く含まれています。
- βカロテン
- ビタミンC
- ビタミンE
- ポリフェノールなど
抗酸化作用成分は、LDLコレステロールの酸化を抑制します。
野菜、きのこ、こんにゃく、海藻は多く摂取しても肥満の原因になることはありません。
1日の摂取目安量は、350gです。
未精製穀物や雑穀を食べる
主食といわれるご飯、パン、麺類などの炭水化物の摂りすぎは、中性脂肪の上昇につながります。
中性脂肪を下げるためには、血糖値の上昇を緩やかにし、インスリンの分泌を抑制させる必要があります。
未精製穀物や雑穀は、GI値(グリセミック・インデックス)が低い食品になります。
GI値が低い食品は、血糖値の上昇を緩やかにします。
ご飯の場合、精白米よりも玄米の方が、GI値が低い食品になります。
また、麺類の場合、うどんよりもそばの方が、GI値が低い食品になります。
1食あたりの炭水化物の摂取目安量は、うどん1玉、食パン6枚切り1枚、じゃがいも中1個になります。
甘味の少ない果物を食べる
中性脂肪が高めの場合は、脂物だけではなく、甘いものを減らすことが重要です。
甘いものを過剰に摂取すると、体内で過剰となったエネルギー源は中性脂肪となります。
つまり、体内に体脂肪として蓄積されるのです。
糖分が多いソフトドリンクや菓子類は控えましょう。
また、果物は甘味の少ないものを1日1個程度を目安にしましょう。
乳製品を適度に摂る
牛乳やチーズなどの乳製品の摂りすぎは、LDLコレステロールの上昇に繋がります。
おやつにチーズを食べたり、牛乳を毎食時飲んだりするのは、乳製品の摂りすぎになります。
また、ヨーグルトも乳製品であるため、過剰摂取は脂質異常につながります。
牛乳は、1日コップ1杯、ヨーグルトは1日1個が適量になります。
減塩して薄味を心がける
脂質異常症の方は、塩分制限にも注意する必要があります。
脂質異常症が進行すると見られる動脈硬化は、塩分の過剰摂取による高血圧でも見られます。
また、塩分は脂質異常をさらに悪化させるというデータもあります。
そのため、コレステロールを減らす食生活とともに減塩して薄味を心がける必要があります。
2018年の厚生労働省の発表によると、日本人の1日の食塩摂取量は平均10.8gです。
理想の塩分摂取量は6g未満にしなければならないといわれています。
調味料やだしをうまく利用しましょう。
また食品に含まれている塩分量にも注意する必要があります。
脂質異常症の運動療法
脂質異常症の運動療法は、どのように行ったら良いのでしょうか?
脂質異常症の運動療法について詳しく見てみましょう。
息が弾む程度の有酸素運動をする
息が弾む程度の有酸素運動は、コレステロールや中性脂肪を下げる作用があります。
息が弾む程度の運動は、運動強度としては低・中強度の「ややきつい」と感じる程度の運動になります。
安静に座っている時を1メッツとし、中強度以上の運動は3メッツ以上の強度で表されます。
有酸素運動とは、筋肉への負荷が比較的軽い運動のことをいいます。
酸素が血糖や脂肪とともにエネルギーとして消費されることから有酸素運動と呼ばれています。
心拍数が100~120、最大酸素摂取量50%程度の運動が目安になります。
毎日合計30分以上の運動をする
運動療法の時間は、毎日合計30分以上継続することが望ましいとされています。
1日合計30分以上、少なくとも週3日を目安に行いましょう。
1日30分以上の運動が難しい場合は、短時間の運動を数回に分けて行っても良いでしょう。
中性脂肪を下げることを目的とする場合は、数ヶ月以上継続して運動を続ける必要があります。
いずれにしても無理のない範囲で運動を継続しましょう。
循環器疾患などの合併症がある場合は、かかりつけの医師に相談しましょう。
脂質異常症の管理におすすめの有酸素運動7つ
脂質異常症の運動療法におすすめの有酸素運動7つについて見てみましょう。
ウォーキング
通常速度のウォーキングは、中強度程度の運動に相当し、3メッツの強度になります。
早歩き
早歩きは、通常の歩行よりも早い速度での歩行であり、3メッツ以上の強度になります。
水泳
水泳は、関節に負荷がかからず、運動強度としては8メッツに相当します。
エアロビクスダンス
エアロビクスダンスの運動強度は、7メッツ相当になります。
スロージョギング
スロージョギングは早歩きよりも早い速度であり、運動強度は6メッツに相当します。
サイクリング
サイクリングの運動強度は、4メッツに相当します。
ベンチステップ運動
ベンチステップ運動とは、大きな筋をダイナミックに動かす身体運動になります。
ベンチステップ運動の運動強度は、8.5メッツになります。
脂質異常症の怖さとは?
脂質異常症は、認知症や認知症以外の疾患のリスクになる可能性もあります。
脂質異常症を放置すると、どのような疾患を招いてしまう可能性があるのか詳しく見てみましょう。
動脈硬化は気づかないうちに進む
動脈硬化は、気づかないうちに進行していきます。
血液中のLDLコレステロールが増加すると、コレステロールは動脈壁の内側に入り込み蓄積します。
LDLコレステロールが動脈壁に蓄積することで、動脈壁は徐々に厚く硬くなります。
一方、HDLコレステロールが減少すると、余分なコレステロールが回収されずに蓄積されたままになります。
また、中性脂肪が増えると、LDLコレステロールが増加し、HDLコレステロールが減少しやすくなります。
LDLコレステロールは、動脈硬化に直接悪影響を及ぼす因子です。
しかし、HDLコレステロールと中性脂肪の異常も間接的に動脈硬化を促進させます。
重大な疾患を突然発症する
脂質異常症を放置しておくと、動脈硬化となり、いずれは重大な疾患を発症してしまう場合があります。
脂質異常症から引き起こす可能性がある疾患について詳しく見てみましょう。
狭心症
心臓の筋肉に酸素や栄養を供給する冠動脈が狭くなる病気を狭心症といいます。
狭心症では、以下のような症状が突然見られる場合があります。
- 胸に痛みや圧迫感
- 動悸
- 息切れ
- 異常な発汗
- 振戦
- 顔面蒼白
上記のような症状を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。
心筋梗塞
冠動脈を始めとする心臓からの血管がつまってしまう病気を心筋梗塞といいます。
心筋梗塞も狭心症と同様の症状が突然見られ、ときには死に直結する危険性もあります。
脳梗塞
脳の血管がつまってしまう病気を脳梗塞といいます。
脳梗塞では、以下のような症状が見られる場合があります。
- 激しい頭痛
- 吐き気や嘔吐
- 脱力感
- けいれん
- 昏睡
左右どちらかの脳の血管が硬化してしまうと、体の片側の運動障害やしびれなどの症状があらわれることがあり、重篤な場合には重い障害が残る可能性があります。
末梢動脈疾患
動脈硬化に伴い、下腿のさまざまな場所の血管が狭くなりつまってしまう病気を末梢動脈疾患といいます。
初期症状は見られませんが、次第に間欠性跛行や安静時に冷感や痛みを伴う場合があります。
大動脈瘤
心臓から全身に血液を送り出す大動脈の内壁に溜まったコレステロールでつくられた大きな塊を大動脈瘤といいます。
この大動脈瘤が破裂すると大出血に至り、生命の危機にさらされます。
解離性大動脈瘤
大動脈瘤の血管が縦に裂ける病気を解離性大動脈瘤といいます。
解離性大動脈瘤の外側には、外膜が1枚しかなく、破裂すると死の危険があります。
突然死や重い後遺症が残る危険性がある
脂質異常症は、知らず知らずのうちに動脈硬化を招き、重大な疾患を突然発症する可能性があります。
これらの疾患は、突然死や重い後遺症が残る危険性があります。
しかし、これらの疾患の原因となる脂質異常症や動脈硬化では、ほとんど自覚症状がありません。
そのため、日頃から脂質異常症を予防するための生活習慣を心がけ、動脈硬化を阻止することが大切です。
【WHO推奨】脂質異常症の管理まとめ
ここまでWHO推奨の脂質異常症の管理についてお伝えしてきました。
WHO推奨の脂質異常症の管理についての要点を以下にまとめます。
- 脂質異常症とは何らかの原因で、血液中の脂質の値が正常値から外れた状態をいう
- 脂質異常症と認知症の関連性は、中年期で間接的なエビデンスが得られている
- WHO推奨の脂質異常症の管理には、診断基準を基に食事療法と運動療法が重要である
- 脂質異常症の食事療法には、飽和脂肪酸の摂取量を減らすなどがある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。