身体を動かすことは健康増進に役立つとされています。
実際にWHOも、健康増進・認知症予防を目的とした身体活動ガイドラインを発表しています。
WHO推奨の身体活動とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
本記事では、WHOの身体活動について以下の点を中心にご紹介します。
- WHO推奨の身体活動とは
- 身体活動と認知症リスクの関係性
- 認知症予防に役立つ高齢者の身体活動とは
WHOが推奨する身体活動について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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WHOにおける身体活動とは
WHOは年齢・生活状況にあわせた身体活動ガイドラインを推奨しています。
まずはWHO推奨の身体活動について、基本的な情報をご紹介します。
出典:【WHO身体活動・座位行動 ガイドライン (日本語版)】
年齢によって推奨されている身体活動の内容が異なる
WHOが推奨する身体活動は、年齢・妊娠や持病の有無にあわせて内容が異なります。
具体的な区分は次の通りです。
- 子供と青少年:5-17歳
- 成人:18-64歳
- 高齢者:65歳以上
- 妊娠中および産後の女性
- 慢性疾患を有する成人および高齢者:18歳以上
- 障害のある子供・青少年:5-17歳
- 障害のある成人:18歳以上
運動や仕事だけでなく普段の日常生活も含まれている
WHOの身体活動には、運動・スポーツだけでなく、日常生活の動作も含まれます。
日常生活の動作とは、たとえば次のようなものがあります。
- 家事
- 労働・通勤
- エレベーターではなく階段を使う
- TVコマーシャルの間は立ち上がる
- ガーデニングやDIYなどの趣味
極端にいえば、じっと座っている・寝ている以外の動作は、どんなものでも身体活動に含まれます。
特に高齢者(65歳以上)にはより細かくするべき身体活動が多い
WHO推奨のガイドラインでは、特に65歳以上の身体活動が細かく分類されています。
65歳以上の身体活動内容の区分は次の通りです。
- 有酸素性身体活動
- 筋力向上活動
- マルチコンポーネント身体活動
WHOが特に重視するのはバランスと協調です。
バランスと協調とは、全身の各部位をバランス良く思い通りに動かせる状態を指します。
たとえばなめらかな歩行などが代表的です。
バランスと協調を重視する理由は、転倒予防や健康の増進です。
高齢の方は転倒・病気などから寝たきり状態になることが少なくありません。
転倒や病気を防ぎ、健康寿命を長く保つためにも、バランスの良い身体活動を積極的に行うことが大切です。
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身体活動と認知症の関係
身体活動は認知症のリスクを低減させると指摘されています。
ここからは、身体活動と認知症の関係性をご紹介していきます。
身体活動を行っている人の方が病気の発症リスクが低いとされている
そもそも身体活動は、認知症を含め病気全般のリスクを下げると考えられています。
たとえば身体活動を行う方は、心臓病・2型糖尿病・がんのリスクが低いと考えられています。
身体活動には、うつ病・不安などの精神的な問題を予防する効果も期待できます。
身体活動は筋力や柔軟性の維持にもつながるため、肥満予防や体型管理にも役立ちます。
出典:厚生労働省【疾病予防および健康に対する身体活動・運動の効用と実効性に影響する要因】
出典:東京都【身体活動・運動|とうきょう健康ステーション】
身体活動が脳に良い影響を起こすといわれている
身体活動は認知症のリスクを低減させると考えられています。
特に予防効果が期待ができるのは、アルツハイマー型・血管性の認知症です。
身体活動が認知症のリスクを低減させるメカニズムは複雑で、はっきりは解明されていません。
一説では、身体活動による脳への血流増加が認知症予防に役立つとされています。
健康寿命を長く保って寝たきりを予防することが、認知症予防につながることもあります。
身体活動による睡眠の質の向上も認知症予防との関係が指摘されています。
身体活動によって適度に疲弊すると、夜はぐっすり眠りやすくなります。
深い睡眠は脳の回復に役立つため、認知機能の向上・維持につながります。
身体活動は社会的な側面からも認知症予防に役立ちます。
たとえばうつ病は脳機能の低下が原因で起こる精神病です。
うつ病は孤立を招きやすいため、放置すると認知症に発展することも少なくありません。
身体活動は脳への血流を増やすことで、脳機能を維持・向上させる効果があります。
脳機能の低下を防ぐことは、うつ病の発症リスクの低減につながります。
同時にうつ病による認知症の予防も期待できるというわけです。
身体活動はさまざまな側面から認知症リスク低減にアプローチします。
認知症予防に役立つ身体活動は、運動・スポーツに限りません。
たとえば家事・散歩などによって積極的に身体を動かすことが、認知機能低下の予防につながります。
出典:【認知症に対する運動および身体活動の効果】
WHOが65歳以上の方に推奨する身体活動
WHOの65歳以上に対する身体活動の内容をご紹介します。
積極的な身体活動は、高齢の方の寝たきり・病気・認知症の予防に役立ちます。
週当たりの有酸素運動の時間が決まっている
WHOのガイドラインは、65歳以上の方に対して、1週間に一定以上の有酸素運動を推奨しています。
具体的な1週あたりの有酸素運動時間は次の通りです。
- 中強度の有酸素性の身体活動:150~300分/週
- 高強度の有酸素性の身体活動:75~150分/週
有酸素運動は、中強度・高強度の身体活動を組みあわせてもかまいません。
余裕がある方は、さらなる健康のためにもう少し長めの有酸素運動もおすすめです。
具体的な目安は次の通りです。
- 中強度の有酸素性の身体活動:300分/週
- 高強度の有酸素性の身体活動:150分/週
中強度の身体活動とは、少し汗ばむ・息が切れる程度の運動を指します。
たとえば、やや早足のウォーキングなどが挙げられます。
高強度の身体活動では、中強度の運動よりも負荷の大きな運動をしましょう。
たとえば筋トレなどが代表的です。
出典:【WHO身体活動・座位行動 ガイドライン (日本語版)】
出典:厚生労働省【身体活動・運動の単位】
有酸素運動は1回に10分以上続ける
WHOの身体活動ガイドラインでは、週あたりの推奨運動時間が設定されています。
しかし実際には、身体状況・病気などの理由で推奨時間を満たすのが難しいこともあるでしょう。
十分な身体活動が難しい場合は、厳密に推奨運動時間を満たす必要はありません。
実際にWHOのガイドラインにも、「少しの身体活動でも、何もしないよりは良い」と記されています。
しかし健康増進や認知症予防のためには、1日に短時間でも良いので身体活動をすることが望ましいのは確かです。
WHOは認知症予防などのために、少なくとも1日10分の有酸素運動の継続を呼びかけています。
日本の厚生労働省は、「いつでもどこでもプラス10」を推奨しています。
いつでもどこでもプラス10は、1日10分身体活動(有酸素運動)を増やそうというものです。
身体活動の場所・内容は問いません。
たとえば通勤にバスを使わずバス停1つ分だけ10分歩くなどでもOKです。
出典:厚生労働省【いつでもどこでも】
バランス能力を向上させる身体活動を週3日以上行う
WHOの身体活動ガイドラインは、バランス能力を向上させる身体活動も推奨しています。
65歳以上の方は、週3日以上を目安に取り組みましょう。
バランス能力とは、身体の各部位を連携させながらなめらかに動かす能力です。
たとえば「歩く」という動作を例にとりましょう。
歩くときは、背中の筋肉・足・腕を連携して動かす必要があります。
たとえば背中の筋肉は歩行中の姿勢を保つうえで重要です。
腕は歩行中の身体のバランスを保つ役割を果たします。
たとえ足の動き・姿勢に問題がなくとも、腕の動きが悪い場合はバランスを保てません。
最悪の場合は、転倒するおそれもあります。
簡単な動作である「歩く」を例にとっても、身体の各部位をバランス良く動かす重要性がお分かりいただけたでしょう。
身体の各部位をなめらかに連携させるには、訓練が必要です。
そこで必要とされるのが、バランス能力を向上させる身体活動というわけです。
バランス能力を向上させる身体活動とは、片足立ちが代表的です。
最近は、バランスボールなどのバランストレーニンググッズも数多く登場しています。
出典:厚生労働省【バランス運動の効果と実際 | e-ヘルスネット(厚生労働省)】
筋力トレーニングは週2回以上
WHOの身体活動ガイドラインでは、週に2回以上、中強度の負荷のかかる身体活動が推奨されています。
具体的には、全身の主要な筋肉を使うような筋力トレーニングを行いましょう。
代表的な身体活動はスクワット・腕立て伏せなどです。
ダンベルなどのトレーニンググッズを使うのもおすすめです。
体調が悪い時などは出来る範囲で行う
病気・ケガなどで十分な身体活動が難しい場合は、無理をする必要はありません。
身体活動は、ご自身の体調などと相談しながら無理のない範囲で取り組みましょう。
一方で、出来る限り1日中座りっぱなし・寝たきりになるのは避けることが大切です。
身体活動を全くせずにいると、筋力やバランス能力はどんどん低下するためです。
反対に、毎日少しでも身体を動かすことは身体レベルの向上につながります。
寝たきり状態の方でも、少しずつ身体活動を重ねることで、自力での立位・歩行が可能になることもあります。
身体レベルの維持・向上のためにも、出来る範囲で毎日身体を動かしましょう。
1分だけベッドから降りて立つのも、立派な身体活動になります。
転倒・体調悪化の可能性が高い場合は、もちろん無理に身体を動かす必要はありません。
WHOでの身体活動で認知症は予防できる?
WHOは、身体活動の認知症予防効果についてガイドラインを発表しています。
厚生労働省はWHOのガイドラインをもとに、ガイドラインの内容を検討する調査を行いました。
ここからは、WHO推奨の身体活動と認知症の予防について、厚生労働省が検討した内容をご紹介していきます。
出典:【認知機能低下および認知症 のリスク低減】
- 対象者:認知機能正常または軽度認知障害の成人(年齢 18 歳以上)
- 対象者への介入方法:有酸素運動、筋力トレーニング、複合的な身体活動
根拠はあったのか
身体活動は軽度認知障害の方に対して、ポジティブな効果があることが認められました。
質はさほど高くないものの、ポジティブな影響を示すエビデンスも得られています。
軽度認知症に対してより高い効果が期待できるのは、筋力トレーニングより有酸素運動です。
結果として身体活動はどうするべきか
認知症予防のためには身体活動は強く推奨されています。
認知機能が正常な成人の方は、WHOが推奨する身体活動を行いましょう。
一方、軽度認知障害の方には条件付きの身体活動が推奨されています。
WHOの身体活動で認知症予防のための運動
WHOは認知症予防・健康増進のために、身体活動を推奨しています。
具体的には、どのような身体活動をすべきでしょうか。
ストレッチ
認知症予防にはストレッチがおすすめです。
ストレッチには次のような種類があります。
- アキレス腱伸ばし
- 肩回し
- 足首回し
- ラジオ体操
ストレッチをするときは、音楽をかけて行うのもおすすめです。
音楽にあわせて身体を動かすことは、頭の良い体操になるためです。
コグニサイズ
コグニサイズは認知症予防のために開発された運動法です。
コグニサイズの特徴は頭と身体の両方を使う点です。
頭と身体を同時に使うことで、より脳が活性化しやすくなります。
コグニサイズには、たとえば次のようなものがあります。
- ウォーキングしながらしりとり
- ステップを踏みながら手を叩く
- 右手で腰をさすり左手でももを叩く
コグニサイズのように、2つの課題を同時にこなす動作は「デュアルタスク」と呼ばれます。
有酸素運動
有酸素運動は認知症リスク低減に役立つとされています。
有酸素運動には次のような種類があります。
- ウォーキング
- ジョギング
ウォーキング
ウォーキングには脳内のアセチルコリンを増やす効果があると指摘されています。
アセチルコリンには、脳の血流を増やすことで脳機能を高める効果があります。
歩く速さは、息がぎりぎり切れない程度を意識しましょう。
最近は認知症予防としてソーシャル・ウォーキングも推進されています。
ソーシャル・ウォーキングは、人と楽しく関わりながらウォーキングを行うことです。
たとえばみんなで会話を楽しんだり、近所の素敵な店を見つけながら歩いたりすると良いでしょう。
ジョギング
ジョギングも認知症予防におすすめです。
ジョギングとは、人と会話ができる程度のスピードで走ることです。
最近は、認知症予防としてスロー・ジョギングも推奨されています。
スロー・ジョギングは、歩くのと同じくらいのスピードで行うジョギングです。
一般的なジョギングより負荷が小さいため、運動が苦手な方にも取り組みやすいでしょう。
WHOの身体活動は高齢者の負荷が大きい
WHOのガイドラインでは、65歳以上の高齢の方は、認知症予防などのために身体活動を行うのが望ましいとされています。
しかし一方で、身体活動がかえって高齢者の方の身体に負担をかけることも危惧されます。
高齢者の方は、若年者に比べて身体の不調が起こりやすいためです。
たとえば筋力の低下・足や腰の痛みなどは、多くの高齢者の方が抱えるトラブルです。
不調を抱えたまま無理に身体活動を行うと、かえって身体を痛める可能性があります。
身体を痛めて寝付いてしまい、そのまま寝たきりに移行する…というケースもゼロではありません。
高齢者の方が身体活動を行う際は、ご自身の身体レベルや体調と相談することが大切です。
たとえば自力で立つのが難しい場合は、座ったまま足踏みするだけでも十分です。
身体活動は健康増進に役立ちますが、くれぐれも無理のない範囲で行いましょう。
出典:厚生労働省【健康日本 21(第二次)最終評価報告書(案)】
WHOの身体活動のまとめ
ここまでWHOの身体活動についてお伝えしてきました。
WHOの身体活動の要点を以下にまとめます。
- WHO推奨の身体活動は、年齢・身体状況別に細かく分類されている
- 身体活動は認知症リスクを低減させることが分かっている
- 認知症予防に役立つ高齢者の身体活動は、有酸素運動・週2日以上の筋力トレーニング・週3日以上のバランス能力トレーニングなど
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。