WHOは「認知機能低下および認知症のリスク低減」のためのガイドラインの中で、禁煙を認知症予防のために強く推奨しています。
禁煙をした方が体によいことは、ご存知の方が多いのではないでしょうか。
実際にタバコによる悪影響は健康被害だけにとどまりません。
多岐に渡る影響はどのようなものがあるのでしょうか。
この記事では
- 認知症のリスクを低減するためのポイントとは
- 禁煙で予防できる疾患はどのようなものがあるのか
- 喫煙を続けることのリスクとは
- 禁煙を成功させるためのコツ
- 禁煙を成功させるために踏むべきステップとは
- 認知症のリスクを高める気を付けなくてはいけない生活習慣とは
WHO推奨する禁煙と認知症リスク低減について、理解をするためにこの記事がお役に立てば幸いです。
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禁煙と認知症リスク低減の関係とは
認知症は、一旦正常に発達した精神機能が減退・低下し、社会生活を営めなくなった状態のことを言います。
認知症の多くは、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程で起きています。
タバコに含まれるニコチンは、血管収縮作用により血液の流れを悪くします。
脳への酸素が供給されなくなり、脳細胞が死滅し、認知症の原因の1つになります。
そのため、禁煙をすることは認知症発症のリスクを低減させることにつながるのです。
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認知症リスク低減のためのポイント12項目
WHOが推奨する認知症リスク低減のためのポイントとして
- 禁煙する
- 身体活動を習慣化する
- 栄養バランスの取れた食事をする
- アルコールの危険で有害な摂取を止める
- 認知トレーニングを行う
- 社会活動で健康と幸福を感じる
- 体重を適切な基準で維持する
- 高血圧の管理を行う
- 糖尿病の管理を行う
- 脂質異常症を適切に管理する
- うつ病の治療をガイドラインにしたがって治療する
- 難聴の早期発見と介入を行う
があります。
それぞれ詳しく説明していきます。
禁煙する
タバコは、9つある認知症の危険因子のうちの1つとされています。
先に述べたように、ニコチンによる血管収縮作用が認知症の原因となります。
タバコを吸うと、ニコチンの血管収縮作用により血流が悪くなります。
脳への酸素が供給されなくなり、脳細胞が死滅していきます。
その結果、認知症を引き起こす要因となるのです。
他の健康リスクだけでなく、認知症リスクを低減させるためにも禁煙は有効です。
身体活動を習慣化する
運動不足は、高血圧・肥満・糖尿病などの認知症の危険因子を増やします。
また、身体活動は脳の構造によい影響を与える可能性があることがわかっています。
身体的活動によって全身の血流がよくなり、酸素や栄養が脳にしっかり届くからです。
さらに、身体活動によって五感を刺激され、脳が活性化し心身の健康を保つことが出来ます。
身体活動は筋力トレーニングよりも有酸素トレーニングの方が効果の程度は大きいことがわかっています。
有酸素運動は1回につき、少なくとも10分以上、週に3回以上行うとよいでしょう。
具体的には、散歩、ジョギング、水泳やヨガがおすすめです。
栄養バランスの取れた食事をする
食生活は、糖尿病や脳血管疾患のような認知症リスクを高める多くの病的状態の予防に関わっています。
健康的な食事が認知障害を予防する可能性があります。
具体的には、果物と野菜と魚類の摂取が認知症リスクを低減させることがわかっています。
魚(多価不飽和脂肪)を多く摂るほど、記憶力低下が抑えられるからです。
アルコールの危険で有害な摂取を止める
大量に飲酒する人には脳が小さくなる脳萎縮が高い割合でみられています。
近年の調査によれば、飲酒量と脳萎縮の程度には正の相関がみられることが報告されています。
さらに、施設に入所している認知症の高齢者の29%は大量飲酒が原因の認知症と考えられたという調査結果があります。
すなわち飲酒量が増えるほど脳が萎縮すると言うことです。
一方で飲酒による脳萎縮は、断酒することによって改善することも知られています。
認知トレーニングを行う
認知トレーニングは、認知機能低下や認知症のリスクの低減に効果があると言われています。
認知予備能と言う言葉があります。
これは、認知症および認知機能低下が発症するリスクを減らす保護因子として考えられてきました。
認知予備能は、認知刺激や認知トレーニングによって増加させることができます。
具体的な認知トレーニングは、運動活動と知的活動に分けられます。
運動活動には有酸素運動、無酸素運動(筋力トレーニング)があります。
知的活動には脳トレゲーム、手遊び、パズルなどがあります。
社会活動で健康と幸福を感じる
社会的関わりが失われることは、高齢者において認知機能障害や認知症のリスクを高める可能性があると言われています。
社会的交流を通じての精神的刺激を受ける機会が少なくなり、脳の健康の維持が困難になるからです。
ただ、社会活動と認知機能低下や認知症のリスクの低減との関連については十分なエビデンスはありません。
しかしながら社会参加と社会的な支援は健康と幸福とに強く結びついています。社会的な関わりは一生を通じて継続していくことが大事です。
体重を適切な基準で維持する
肥満は、様々な疾患の要因となることは広く知られています。
体重を減らすことは、認知症の発症リスクを減らすことができると言われています。
認知機能障害および認知症の病因に関連する耐糖能、インスリン感受性、血圧、酸化ストレス、および炎症反応の改善が期待されるからです。
肥満へのアプローチには
- バランスの取れた食事による体重コントロールする
- 低グリセミック指数の食品(まめ、レンズ豆、オーツ麦および無糖の果物)を積極的に摂取する
- 座位行動を減らし、ウォーキングなど身体能力に適した定期的な身体活動を毎日実践する
などがあります。
ただし、肥満だけではなく老年期の体重減少が認知症発症の危険因子であるという結果もあるので、適正体重を保つことを心がけましょう。
高血圧の管理を行う
認知症発症リスクの低減には、高血圧の管理が有効です。
アルツハイマー病も脳血管障害や微少脳血管病の合併が多く認められ、高血圧との関連は報告されています。
高血圧は脳卒中後などに生じる血管性認知症のリスクとなります。
特に年齢の影響は大きく、若年期の高血圧は中年期の認知機能低下の、中年期の高血圧は高齢期の認知機能低下のリスクになることは広く知られています。
糖尿病の管理を行う
不良な血糖管理は認知機能の低下や悪化と関連しています。
インスリンは脳細胞にエネルギーを送るのを調整したり、アルツハイマー病の原因となる物質であるアミロイドを分解してくれます。
しかしコントロール不良では、脳細胞がエネルギーを取り込みにくくなったり、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβが蓄積していったりし、認知症になりやすくなると考えられます。
脂質異常症を適切に管理する
脂質異常症によって動脈硬化が進行すると、脳内の血管も硬化が進んでしまい、通常よりも血液の流れが悪くなります。
脳血管性認知症は、まさに「脳の血流が悪くなることで発症する認知症」とされています。
脂質異常症による動脈硬化によって引き起こすリスクが高くなることが考えられるのです。
血中コレステロール濃度の上昇は、修正可能な心血管病の危険因子の1つです。
WHOの調査によると、世界の虚血性心疾患の3分の1は脂質異常症に起因し、年間260万人の死亡の原因であると推定されています。
出典:WHOガイドライン「認知機能低下および認知症のリスク低減」
人口のかなりの割合に障害をもたらしていると考えられています。
血清コレステロール値高値は、アルツハイマー病および認知症の発症との密接な関係が指摘されています。
うつ病の治療をガイドラインに従って行う
うつ病は、それ自体が認知症のリスク因子になります。
専門家の研究では、若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなることがわかっています。
うつ病は治療せずに放置すると悪化するので、早めの受診が必要です。
認知症と区別がつきにくいこともありますが、専門家を受診し適切な治療を受けられるようにしましょう。
難聴の早期発見と介入を行う
難聴が認知症の発症に大きく影響することが明らかになってきました。
音の刺激や脳に伝えられる情報量が少ない状態にさらされてしまうと、脳の萎縮や、神経細胞の弱まりが進みます。
さらに、難聴のためにコミュニケーションがうまくいかなくなると、人との会話をつい避けるようになってしまいます。
そうすると、次第に抑うつ状態に陥ったり、社会的に孤立してしまう危険もあります。
難聴は放置せずに、早めの発見と補聴器の使用を心がけましょう。
禁煙で得られる効果
多くの健康を損なうリスクがあるタバコですが、禁煙をすることで得られることがあります。
- 受動喫煙による周囲への害をなくせる
- 血圧と脈拍が正常値に下がる
- 手足の温度が上がる
- 血中の一酸化炭素濃度が低下する
- 血中酸素濃度が上昇する
- 心臓発作を起こしにくくなる
- 味覚や嗅覚がよくなる
- 歩くのが楽になる
- 経済的な余裕ができる
禁煙で得られる9つの効果について詳しく説明していきます。
受動喫煙による周囲への害をなくせる
受動喫煙についての健康被害については、多く知られています。
たとえば流涙、頭痛などの症状や、肺がんや虚血性心疾患等の疾患の死亡率等が上昇します。
非喫煙妊婦でも、受動喫煙により低出生体重児の出産の発生率が上昇するといった研究結果が近年多く報告されています。
小児では喘息、気管支炎といった呼吸器疾患等や乳幼児突然死症候群と関連があると報告されています。
禁煙をすることで、ご自身の家族や友人、周りの人の健康を守ることにつながります。
血圧と脈拍が正常値に下がる
喫煙によって血中に入ったニコチンは、交感神経と副交感神経の両者に作用します。
交感神経に作用することで心拍数と血圧が上昇し、同時に期外収縮(脈拍が飛ぶ不整脈)が誘発されます。
しかし、禁煙をするとわずか20分で脈、血圧が正常値まで下がることがわかっています。
手足の温度が上がる
タバコの煙に含まれるニコチンは交感神経系を刺激して末梢血管の収縮と血圧上昇、心拍数の増加をきたします。
毛細血管が収縮が、体温を低下させます。
しかしタバコを吸うのを止めると、血管収縮作用がなくなるため血管が広がります。
20分後に徐々に手足の温度が上がってきます。
血中の一酸化炭素濃度が低下する
タバコの煙には、人体に悪影響を及ぼす有害物質が数多く含まれています。
一酸化炭素が血液中のヘモグロビンと強固に結合して(酸素の約250倍)慢性の酸素欠乏状態を引き起こします。
喫煙による一酸化炭素摂取で死亡することはありません。
しかし、一酸化炭素摂取は持久力低下などをもたらすほか、動脈硬化の一因にもなります。
ですが、タバコをやめて8時間後には一酸化炭素濃度が元に戻ると言われています。
血中酸素濃度が上昇する
喫煙中は血液の酸素運搬を阻害されています。
一酸化炭素と言うヘモグロビンとの結合力が酸素の200倍以上という厄介な物質のせいです。
しかし、禁煙をして8時間後には、酸素濃度は正常まで戻ることがわかっています。
心臓発作を起こしにくくなる
タバコの煙に含まれるニコチンは交感神経系を刺激して末梢血管の収縮と血圧上昇、心拍数の増加をきたします。
交感神経に作用することで心拍数と血圧が上昇し、同時に期外収縮(脈拍が飛ぶ不整脈)が誘発されます。
心臓の血管が収縮しやすい病状に加え、喫煙がさらに血管を細くし、発作を起こしやすくします。
しかし、禁煙をして24時間後には心臓発作のリスクが少し下がります。
味覚や嗅覚がよくなる
人間は舌にある味蕾(みらい)と言う部分で味(渋味・苦味・酸味・甘味)を感じています。
タバコを吸うことにより、舌の味蕾細胞がニコチンやタールにより、悪影響を受け、味覚が鈍くなります。
軽度の味覚障害で、特に薄い味が感じ取れなくなります。
喫煙者が濃い味付けを好むのは軽度味覚障害になっているからです。
歩くのが楽になる
喫煙中は、気管支の収縮や血流悪化により疲れやすく、息も上がりやすいです。
禁煙をすると気管支の収縮が取れて呼吸が楽になり、肺活量が増加し始めます。
また、睡眠のリズムが正常に戻り始めます。
体全体の血液の流れが改善し、歩行が楽になります。
禁煙して数日後には歩くのが楽になったと実感出来るでしょう。
経済的な余裕ができる
1箱440円のタバコを1日20本吸っているとします。
1か月のタバコ代は440円×30=13,200円です。
- 1年では18万円
- 10年では180万円
- 30年では540万円
- 60年では1080万円
にもなります。
禁煙することで、決して小さくない経済的余裕が生まれるのです。
禁煙で予防できる疾患|認知症以外も防げる
禁煙をすることで、認知症以外の様々な疾患の予防につながります。
以下で詳しく説明していきます。
がん
これまでの研究で、喫煙が肺がんをはじめとする様々ながんの原因となることが科学的に明らかにされています。
タバコの煙の中には、約5,300種類の化学物質が含まれており、この中には約70種類の発がん性物質も含まれています。
これらの有害な物質は、タバコを吸うとすぐに肺に届き、血液を通じて全身の臓器に運ばれ、DNAに傷をつけるなどしてがんの原因となるからです。
特に関連のある
- 大腸がん
- 乳がん
- 急性骨髄性白血病
- 腎盂尿管・腎細胞がん
の4つについて、詳しく説明していきます。
大腸がん
大腸がんは、腸(結腸・直腸)に発生するがんです。腺腫という良性のポリープががん化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものがあります。
早期の段階では自覚症状はほとんどなく、進行すると症状が出ることが多くなります。
代表的な症状として、便に血が混じる(血便や下血)、便の表面に血液が付着するなどがあります。
タバコを吸う人は、吸わない人に比べて、大腸がんになりやすいことがわかっています。
性別差はなく、タバコを吸う人は、吸わない人に比べて、大腸がんの発生率が1.4倍でした。
出典:国立がん研究センター「お酒・たばこと大腸がんの関連について」
タバコの煙は、血流によって直接触れない大腸の粘膜からも発がん性物質が検出されます。
このため、がんが発生しやすくなると考えられています。
乳がん
乳がんは乳腺の組織にできるがんです。
多くは乳管から発生しますが、一部は乳腺小葉から発生します。
乳がんの主な症状は、乳房のしこり・乳房にえくぼやただれができる・左右の乳房の形が非対称になる・乳頭から分泌物が出るなどがあります。
喫煙によって乳がんの発生のリスクが上昇する可能性があります。
タバコの煙には数多くの発がん物質が含まれ、タバコを吸うと代謝物が乳房組織に形成されるからです。
さらに、受動喫煙が乳がんの発生に影響することもわかっています。
非喫煙女性を対象にした実験では、受動喫煙を受けていたグループの乳がんリスクは、受動喫煙のないグループの2.6倍高いという結果が出ています。
出典:国立がん研究センター「喫煙・受動喫煙と乳がん発生率の関係について」
急性骨髄性白血病
急性骨髄性白血病は、骨髄中で骨髄芽球(白血球に分化する過程の未熟な細胞)に異常が起こって、がん化した細胞(白血病細胞)が骨髄で異常に増える病気です。
白血病細胞が増加することによって正常な血液細胞がつくられなくなり、赤血球、血小板、白血球が減少します。
そのため、貧血の症状として息切れや動悸、血小板が少なくなるために鼻血や歯ぐきからの出血、発熱などの症状があらわれます。
頭痛や関節痛などの症状があらわれることもあります。
喫煙により急性骨髄性白血病のリスクが約1.7倍になります。
喫煙が急性骨髄性白血病のリスクを上昇させるメカニズムとしては、発がん性のあるベンゼンや放射性物質がタバコに含まれるからです。
出典:国立がん研究センター「日本人における喫煙と急性骨髄性白血病罹患リスク」
腎盂尿管・腎細胞がん
腎盂尿管がんは、腎盂や尿管内壁の尿路上皮細胞ががん化したものです。
腎盂と尿管のどちらか、または両方にがんが発生することもあります。
比較的早期から肉眼的血尿と言った自覚症状があらわれやすいという特徴を持っています。
腎細胞がんは、尿をつくる過程で働く尿細管の細胞ががん化したものです
早期には自覚症状に乏しく、ある程度進行しても無症状のことがほとんどです。
進行がんの場合、肉眼的血尿や腹部のしこりなどの症状があらわれることもあります。
腎盂・尿管がんの原因として挙げられる最大の生活因子は喫煙です。
タバコを吸う人は、タバコを吸わない人に比べて腎盂・尿管がんの発症リスクが約3倍に、45年以上の長期にわたってタバコを吸っている人に至っては、腎盂・尿管がんを発症するリスクが7.2倍に膨れ上がると言われています。
出典:日本医療機能評価機構「喫煙を含め腎盂・尿管癌の危険因子にはどのようなものがあるか?」
呼吸器疾患
タバコの煙の影響を受けやすいのが、呼吸器系です。
タバコの煙に含まれる多数の有害化学物質に直接さらされるからです。
タバコの煙は、主に活性酸素やフリーラジカルなどを過剰に産生するため、酸化ストレスの増大や炎症などを引き起こします。
喫煙の影響を受けやすい
- 結核
- 結核突発性線維症
について詳しく説明していきます。
結核
結核は、結核菌によって発生する感染症の1つです。
結核菌は主に肺の内部で増えるため、咳、痰、発熱、呼吸困難等、風邪のような症状を呈することが多いです。
しかし、肺以外の臓器が冒されることもあり、腎臓、リンパ節、骨、脳など体のあらゆる部分に影響が及ぶことがあります。
喫煙者は非喫煙者の4倍結核を発症しやすいと言われています。
喫煙は、結核が発病しやすい体調にしてしまうからです。
出典:広島県医師会「結核が喫煙者に蔓延」
さらに、喫煙する結核患者は、結核が再発しやすく、また死亡する危険も非喫煙者に比べて高いです。
また受動喫煙により、家族が結核を発病する危険も高めてしまいます。
特発性肺線維症
特発性肺線維症とは、肺胞に傷ができ、その修復のためにコラーゲンなどが増加して間質が厚くなる病気です。
そのため、咳が出たり、酸素がうまく取り込めなくなり息苦しくなります。
喫煙者は非喫煙者より特発性肺線維症にかかりやすいことがわかっています。
タバコの煙によって、抹消気管の炎症や萎縮、細気管支周囲が線維化を引き起こすからです。
関節リウマチ
関節リウマチとは、免疫の異常により関節に炎症が起こり、関節の痛みや腫れが生じる病気です。進行すると、関節の変形や機能障害を来たします。
原因は未だ不明ですが、遺伝的要因や、喫煙、歯周病などの環境要因の関与が指摘されています。
関節リウマチは喫煙関連疾患です。
1日20本以上20年以上吸う人は、吸わない人と比べてリウマチ発症率は約2倍に、40年以上吸うと約14倍にもなることが報告されています。
喫煙は関節リウマチの治療効果も20%から60%減弱させることがわかっています。
関節リウマチの特効薬と考えられている生物学的製剤ですら約30%も効果が減弱してしまいます。
出典:道後温泉病院「関節リウマチとたばこについて」
日常生活動作低下
日常生活動作(ADL)とは、日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作のことです。
日常生活動作の低下は、
- 体力
- 筋力、筋肉量
- 骨密度
- 内臓機能
などの身体機能が低下することです。
身体的機能低下により立位・歩行の障害、バランス能力の低下、巧緻性・協調性の低下、易疲労性、食欲低下などが起こります。
喫煙者の日常生活動作低下のリスクは、非喫煙者の2.0〜2.4倍と言われています。
喫煙によって引き起こされる様々な疾患や呼吸苦による運動不足が原因です。
出典:「喫煙習慣と日常生活動作低下との関連」
自立したよりよい人生にするためには、日常生活動作の維持は必要不可欠です。
閉経後の骨密度低下
閉経は、50歳頃に月経が終了することです。
閉経にともない急速に骨密度が低下することが知られています。
これは、女性ホルモンであるエストロゲンが閉経により急速に失われ、それにともない、骨を吸収する破骨細胞の活性が強まり、骨密度の低下が起こることによります。
喫煙の習慣のある女性は、骨密度の低下のリスクが高いです。
タバコは血流を悪くするため胃腸の働きを抑えてしまいます。
食欲の低下はカルシウムの吸収や骨から血液中へのカルシウムの流出を防ぐ女性ホルモンの分泌を妨げるからです。
大腿骨近位部骨折
大腿骨近位部骨折とは、大腿骨の近位部(脚の付け根、股関節の一部分)で起こった骨折を指します。多くは骨の脆弱な高齢者が転倒することによって発生します。
喫煙している人の骨折リスクは、禁煙した人や喫煙しない人の約1.3〜1.8倍になると言われています。
タバコに含まれるニコチンの作用でカルシウムが吸収されなくなることによって骨密度が低下し、転倒による骨折のリスクが高いからです。
また、喫煙は骨折リスクを高めるだけでなく、骨折してから治るまでの時間も長引かせることがわかってきました。
ニコチンによる血流減少が患部の血流量が少なくさせるからです。
骨折の治癒の過程では、骨膜からの血行が非常に重要であることがわかっています。
禁煙をすることで、骨折に強い体をつくることが重要です。
腹部大動脈瘤
腹部大動脈が部分的に大きくなる病気で、通常は20mm程度の大動脈が30mm以上に膨らんだ状態です。
症状がなく、気づかれないままに大動脈瘤が大きくなって破裂することがあります。
破裂すると胸やお腹の中に大量に出血し、激しい胸や背中の痛み、腹痛が起こり、ショック状態となり命が危険です。
喫煙は、加齢による動脈硬化や高血圧とともに腹部大動脈瘤の大きなリスク因子です。
タバコを吸わなかったら腹部大動脈瘤のリスクは約半分になっていたという結果も出ています。
タバコのニコチンが血管内に強い酸化ストレスを引き起こしているからです。
妊娠・出産のリスクを高める
喫煙は、妊娠・出産の過程においても、様々な健康影響を及ぼします。
- 生殖能力の低下
- 子宮外妊娠
- 常置胎盤早期剥離
- 前置胎盤
などのリスクがあります。
それぞれ詳しく説明していきます。
生殖能力低下
タバコには、血流を悪くしたり、血管の老化を早める「ニコチン」、酸素運搬を妨げる「一酸化炭素」のほか、約40種類の発ガン物質が含まれています。
これらの有毒物質は、卵子や精子の質を悪くしてしまうことがわかっています。
女性では、卵巣機能を低下させ、女性ホルモンの分泌が減少します。
また、卵巣年齢が5〜10歳老化し、閉経を5~10年早めます。
男性では、精子の数が減り、運動率も低下します。
さらに見た目の数が正常でも、精子の受精能力が低下してしまいます。
常位胎盤早期剥離
胎児が子宮から出てくる前に、胎盤が先に剥がれてしまうことがあり、これを常位胎盤早期剥離と呼びます。
常位胎盤早期剥離は母子の命に危険が及ぶ大変恐ろしい合併症です。
喫煙をしているとニコチンの影響で胎盤がうまく形成されず、赤ちゃんへ栄養や酸素が行き届かない状態になります。
前置胎盤
胎盤が正常より低い位置(膣に近い側)に付着してしまい、そのために胎盤が子宮の出口(内子宮口)の一部または全部を覆っている状態のことです。
タバコに含まれるタール、ニコチン、一酸化炭素などの有毒な物質が原因の1つです。
歯科疾患
タバコの煙には数千もの化学物質が含まれていて、そのうちニコチンや発癌性物質などの有害物質は200とも300とも言われます。
喫煙者は、口臭・ヤニがついて汚いだけではなく、歯周病(歯槽膿漏)にかかりやすく、悪化のリスクも高いです。
さらに、治療しても治りにくいことがわかっています。
ある統計データによると、歯周病にかかる危険は1日10本以上喫煙すると5.4倍に、10年以上吸っていると4.3倍に上昇し、また重症化しやすくなります。
出典:日本臨床歯周病学会「歯周病と煙草の関係」
う蝕(虫歯)
非喫煙者より喫煙者は虫歯の発症リスクが高いです。なぜなら、喫煙習慣は虫歯が発生しやすい口腔環境を作りやすい傾向にあるからです。
タバコを吸うことで、口内の乾燥、免疫力低下、細菌繁殖の温床、歯根面が露出して象牙質が剥き出しになります。
口腔内環境の悪化は、虫歯発生と因果関係があります。
口腔インプラント失敗
喫煙者は、非喫煙者と比べてインプラント周囲炎になるリスクが2~6倍あります。
インプラント失敗の原因は
- ニコチンによる血流阻害
- 一酸化炭素による酸素供給阻害
- 白血球の活動を抑制
- 新しい組織を作る細胞の増殖を抑制
- 免疫力の低下
などが挙げられます。
喫煙による口腔内環境は、インプラントの定着阻害や感染症悪化を招きます。
歯の喪失
タバコを吸っている人は吸わない人に比べて自分の歯を失うリスクが高いことがわかっています。
現在または過去喫煙者で1日21本以上喫煙グループの9本以上歯を失うリスクは、非喫煙者グループの約2倍でした。
タバコに含まれるニコチンなどの毒素は歯周組織を破壊し、間接的にも免疫力を弱め、歯周ポケットに菌の繁殖しやすい環境をつくります。
歯周病や虫歯の悪化により歯を失うことになります。
禁煙を成功させるためのコツ
これまで、禁煙をすることのメリットについてみてきました。
それでは、どうすれば禁煙を成功させられるのでしょうか。
禁煙を成功させるための7つのコツを紹介していきます。
自力で禁煙しようとしない
禁煙に挑戦した人の7割が失敗に終わっている程、自力での禁煙は難しいと言われています。
タバコを吸うと肺からニコチンが取り込まれ、すぐに脳内のニコチン性アセチルコリン受容体に結合します。
快楽に関わる脳内神経伝達物質であるドーパミンが大量に放出され、強い快感が得られます。
タバコを吸うと禁断症状が消えるので「気持ちが落ち着く」「ホッとする」といった気持ちになります。
これが禁煙が難しい最大の原因であるニコチン依存症です。
ニコチン依存症は、血中のニコチン濃度がある一定以下になると不快感を覚え、喫煙を繰り返してしまう疾患です。
ニコチン依存症になると、自力での禁煙はかなり難しいと言えます。
医療機関を受診する
禁煙治療の諸費用保険診療で3ヵ月間に5回受診する場合、およそ12,000円~14,000円です。全額自己負担で治療を受ける場合は、およそ30,000円~です。(ニコチンパッチの種類や処方される枚数、医療機関等により金額が異なります。)
施設基準を満たした保険医療機関で、患者基準を満たした患者の方は、初回から12週間にわたり計5回、「ニコチン依存症管理料」として禁煙治療に保険が適用されます。
保険診療は条件と期間が決められているため必ずしも、保険適応で治療が出来るとは限りません。
喫煙の害を考えて書き出す
禁煙をしようかどうか迷っている時は、喫煙の害を書き出してみましょう。
様々な疾患のリスク、運動能力の低下、口臭の原因、経済面など多く書き出せると思います。
書き出したものをみるとタバコを吸う利点がないことに気が付くと思います。
禁煙するメリットを書き出す
喫煙の害を書き出したあとは、禁煙するメリットを書き出してみましょう。
健康になる、若返る、体力がつく、長生きできる、食事がおいしくなるなど沢山のメリットが書き出せます。
禁煙をするメリットを明確にすることが成功へのコツです。
自分がなぜ喫煙しているか考えてみる
自分だけの禁煙理由を確認します。
動機付けはとても大切でくじけそうになったときに、自分を奮い立たせることができます。
『お金を貯めたいから』などの理由でもかまいません。
ただ『貯めたお金で何をしたいか』まで考えることができると、目標が明確になり達成の役に立ちます。
簡単な目標からクリアする
禁煙は、大変なことです。
いきなり今日からやめる!というのは、難しいでしょう。失敗した時に自信を無くしてしまうかもしれません。
まずは、1時間吸わないことや吸いたくなったらガムを嚙むなど小さな目標を設定しましょう。
そして、目標を達成した自分を褒めてください。
達成した経験は自分に自信をつけさせてくれます。
家族や友だち、同僚に手伝ってもらう
周囲の理解や適切なサポートもまた非常に重要です
特に禁煙初期は、ちょっとしたことで喫煙行動を再開してしまうことがあります。
その代表例が、宴会などのお酒の席です。
お酒が入ると気が緩みがちですし、周囲の人が面白半分にすすめてしまって断りにくい空気になってしまった、ということもあるかも知れません。
たった1本の喫煙でせっかくの禁煙が中断してしまい、失敗に終わることは珍しくありません。
付き合いでの宴会などを本当に必要な会なのか、ちょっと考えさせるような一言をかけてあげることも、禁煙継続に有効なことがあります。
禁煙を成功に導く5ステップ
禁煙は、自力でやめることが難しく周囲のサポートや医療機関の受診などが必要になってきます。
禁煙を成功に導く5ステップを具体的に説明していきます。
自身の喫煙行動を振り返る
まずは、自身の喫煙行動を振り返ります。
吸った時間や吸った時の状況や気分、吸いたい程度を5段階で表記し手帳などに書いていきます。
さらに、メモをみながら自身の行動をふり返って感じたことをまとめていきます。
これまで意識していなかった自分を客観視できるようになったり、意識してタバコを吸うようになります。
自身の行動のふり返りの積み重ねが禁煙に役に立ちます。
あなた自身が思うタバコの『よい所』『悪い所』を書き出してみましょう。
『よい所』の例は、気分がおちつく、気分転換になるなどです。
逆に、『悪い所』の例は、お金がかかる、吸う場所を探すのが大変などです。
あなた自身が思うタバコのメリット、デメリットを挙げてみることで、タバコを吸うメリットがあまりないことに気が付くかもしれません。
禁煙は人から言われても成功できません。自分自身で、禁煙の必要性に気が付くことが大事です。
また、紙に書いてみることで新しい自分の気持ちに気が付いたり、頭や心が整理されたりすることにつながります。
タバコの害について知る
先に説明してきたように、タバコの健康への害は非常に多岐に渡るものです。
また、受動喫煙による周囲の人の健康リスクの増大や経済的な負担もあります。
タバコの害について正しく知ることで、禁煙する理由を明確化することができます。
ニコチン依存度をチェックする
自分がどれくらいニコチンに依存しているかを、以下の質問票で確認してみましょう。
自分の状況を知ることが、禁煙成功へのポイントになります。
質問 | 答え | |||
0点 | 1点 | 2点 | 3点 | |
起床後、どれくらいで最初のタバコを吸いますか | 60分以降 | 31〜60分 | 6〜30分 | 5分以内 |
禁煙の場所でもタバコが吸えないことが辛いですか | いいえ | はい | ||
1日のタバコで、どちらがやめづらいですか | 目覚めの1本以外 | 目覚めの1本 | ||
1日、何本のタバコを吸いますか | 10本以下 | 11〜20本 | 21〜30本 | 31本以上 |
起床後数時間の方が、他の時間帯よりも多くタバコを吸いますか | いいえ | はい | ||
病気で寝込んでいるときでもタバコを吸いますか | いいえ | はい |
出典:日本呼吸器学会「禁煙のすすめ」
上記質問1から6の回答の合計点数を計算し、下記の表に当てはめてニコチン依存度を判定しましょう。
点数 | 0点から3点 | 4点から6点 | 7点から10点 |
ニコチン依存度 | 低いライトスモーカーレベル | 中程度ミドルスモーカーレベル | 高いヘビースモーカーレベル |
医療機関を受診して禁煙治療をする
- 禁煙は自力で行うよりも、医療機関で治療をした方が成功率が4〜5倍になると言われています。
- 治療薬により、ニコチン切れの症状を軽くすることができるからです。
また、保険を利用すれば比較的費用を抑えて治療を受けることができます。
保険による禁煙治療の料金は、12週5回分で13,000円~19,000円になります。
保険で禁煙治療を行うためには条件があります。
- ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)でニコチン依存症と判定された。
- 35歳以上の方は1日のタバコの喫煙本数×喫煙年数が200以上になる。
- すぐに禁煙することを希望している。
- 禁煙治療についての説明を受け、治療を受けることを文書により同意している方。
保険適応内での治療は、12週5回分となります。
周りの人に禁煙宣言をする
周囲の理解や適切なサポートもまた非常に重要です。
特に禁煙初期は、ちょっとしたことで喫煙行動を再開してしまうことがあるからです。
禁煙する気持ちがたかまったら、禁煙開始日を決めてください。
禁煙開始日は、仕事が忙しい時や飲み会の時はさけましょう。
禁煙開始日が決まったら、周りの方へ宣言してみましょう。
禁煙に限らず、簡単ではない目的を達成するためには、孤独ではないことを知ることは重要です。
認知症のリスクを高める生活習慣
喫煙以外で、認知症のリスクを高める生活習慣について説明していきます。
運動する習慣がない
生活習慣病予防としても運動は大切なのですが、そもそも体を動かすのも脳が機能しているから、つまり、運動で脳を刺激することにもなるのです。
また、腰や関節などの運動器に疾患があり痛みや動きの制限があると、生活の幅が狭まり、認知症になった場合、症状が急激に進行してしまうことも多いのです。
運動習慣を身につけ、きちんと栄養を摂って筋肉づくりをするなど、体のメンテナンスを行いましょう。
適正体重ではない
アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症は、糖尿病や脳血管障害など生活習慣から引き起こされる病気との関連が強く、それらの予防や治療は、確実に間接的な認知症予防となります。
すでに生活習慣病にかかっている場合は適切な治療を受け、そうでない場合は定期健診を受けるなど、生活習慣病の予防に励みましょう。
必要なエネルギー摂取量を超過して食べている
過剰なエネルギー摂取は、肥満となります。
肥満は、糖尿病や脳血管障害との関連が強いです。
認知症は、生活習慣との関連が強いため、必要以上に食べずに腹八分目まででとどめておきましょう。
塩分が多い食事を摂っている
塩分の過剰摂取は、認知機能障害と関連付けられており、認知症のリスク因子です。
塩分を控えることで認知症発生のリスクが下がる可能性があります。
控える時は、出汁を取る、薬味をたっぷり使うなどして美味しく塩分を減らすことが大事です。
糖質の摂取量が多い
ご飯やパンなどの主食や、甘いお菓子などの糖質を摂りすぎると、余分なブドウ糖が血液中に溢れ出し、認知症のリスク要因である糖尿病につながります。
毎食のご飯を少し減らしたり、おやつを控えめにするなどを意識しましょう。
脂質を摂りすぎる
脂質異常症は、脳血管性認知症の発症の可能性を高めます。
「動脈硬化」が関係しているからです。
脂質異常症によって動脈硬化が進行すると、脳内の血管も硬化が進んでしまい、通常よりも血液の流れが悪くなります。
脳血管性認知症は、まさに「脳の血流が悪くなることで発症する認知症」とされており、脂質異常症による動脈硬化によって引き起こすリスクが高くなることが考えられるのです。
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【WHO推奨】禁煙まとめ
ここまでWHOが推奨する禁煙と認知症について、お伝えしてきました。
認知症と禁煙についてまとめると以下になります。
- 認知症のリスクを低減するためのポイントは、禁煙や運動、各疾患のコントロール
- 禁煙で予防できる疾患は、がん、呼吸器疾患、骨折など
- 喫煙を続けることのリスクは、様々な疾患の原因となったり、経済的負担が増していくこと
- 禁煙を成功させるためのコツは、自身を客観視し、周りのサポートを得る
- 禁煙を成功させるためには5つのステップがあり、具体的にはタバコと自分自身をよく知り、周りを巻き込んでいく
- 認知症のリスクを高める気を付けなくてはいけない生活習慣は、運動と食事
いかがでしたでしょうか。これらの情報がみなさんの役に立てたら幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。