高齢化が進む日本では、年々認知症の方が増加しています。
ご自身やご家族の中にも認知症を疑う瞬間があるかもしれません。
すぐに病院に行くのがためらわれる、また、行けない事情がある場合、ご家庭でも認知症か判断するための簡易的な認知機能テストがあります。
認知機能テストの中に長谷川式認知症スケールというものがあることをご存知でしょうか?
今回は、長谷川式認知症スケールについて以下の点を中心にご紹介します。
- 長谷川式認知症スケールの9つの評価項目とは
- 長谷川式認知症スケールの評価方法とは
- 長谷川式認知症スケールを家庭で行う際の注意点
長谷川式認知症スケールの知識を付けて、認知症の対策の1つとするためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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長谷川式認知症スケールとは?
認知症検査に関心がある方は、長谷川式認知症スケールをご存じかもしれません。
そもそも長谷川式認知症スケールとはどのようなテストなのでしょうか?
目的
まず、長谷川式認知症スケールの目的について説明します。
長谷川式認知症スケールは、認知症かどうか判断するための一種のツールです。
簡易的な認知機能テストによって、大まかな認知機能の有無を調べることが目的です。
実施場所
現在では、高い信頼性から認知症の評価方法として日本国内の多くの医療機関でも使用されています。
また、家庭内でもネット上などで簡単に問題を入手することができ、無料で気軽にテストできるという最大のメリットがあります。
ただし、より正確な評価を得るためには医療機関で受ける必要があります。
費用
その際の費用は保険無しで800円(1割負担で80円)です。
その他再診料や諸費用は別途かかるため、医療機関を利用する場合は、事前に調べておくと良いでしょう。
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長谷川式認知症スケールの9つの評価項目
長谷川式認知症スケールは評価項目ごとに簡単な質問があり、それに答えていくという形を取ります。
そのため、多くの人にとって初見でも抵抗なく受けられます。
家庭でテストする場合、長谷川式認知症スケールの評価が認知症を確定させるものではなく、セルフチェックであることは覚えておいてください。
認知症かどうか気になる点があれば、医療機関に相談することをおすすめします。
各質問項目の意図とは?
認知機能には、見当識、記憶、理解力などの機能があります。
長谷川式認知症スケールでは、9個の質問により認知機能を評価しています。
それぞれの質問でどのような評価を行っているか、解説します。
年齢
見当識と遠隔記憶を評価しています。
年齢がわかるということは、自分自身のことを理解していると評価できます。
また、自分が重ねてきた記憶を覚えているということにもなります。
日付の見当識
見当識のなかでも、日時の理解を確認します。
場所の見当識
見当識のなかでも、場所の理解を確認します。
即時記憶
聞いたことを短時間であれば覚えていられるか、を確認します。
計算
記憶力とワーキングメモリーを確認します。
聞いた数字を覚え、引き算をするという少し複雑な処理ができるかどうか評価します。
引き算の結果に対し、さらに「7を引く」ためには、一定の時間記憶を保持していなければいけません。
計算することにより、記憶の保持についても確認しています。
逆唱
短期間の記憶力と、指示に対する理解力を確認します。
遅延再生
覚えた言葉をしばらく保持し、記憶を呼び起こせるか確認します。
認知症の初期の段階から苦手になることが多い項目です。
視覚記憶
目で見たものを記憶できるか、記憶を呼び起こせるか確認します。
語想起・流暢性
「野菜」というキーワードから想起する能力と、1つの回答だけでなく、流暢に会話ができるかを確認します。
長谷川式認知症スケールの評価方法|点数配分は?
長谷川式認知症スケールのイメージはできましたか?
次に各質問項目の点数配分と点数結果について解説していきます。
各質問項目の点数配分について
各質問項目について、点数配分が決められています。
質問によっては、加点の基準などが細かく定められています。
年齢
本人の年齢を答える:1点
数え年や誕生日を迎えているかで誤差が生じるため、2年までの間違いは正解とします。
生年月日だけ答えた場合は、正解とはみなしません。
日付の見当識
年、月、日、曜日を答える:各1点(合計4点)
すべて答えたら4点、年月のみ答えられたら2点という具合です。
場所の見当識
自発的に答え、正解する:2点
病院ですか?自宅ですか?などのヒントを与えて正解する:1点
ヒントを与えても間違える:0点
即時記憶
答えた数に応じ、1点を加点(合計3点)
計算
93と答えられる:1点
93、86と答えられる:2点
ここでは、最大2点を加点します。
79以降も答えられた場合も、2点以上の加点はありません。
逆唱
3桁の数字を逆唱できる:1点
4桁の数字を逆唱できる:2点
遅延再生
答えた数に応じ、1点を加点(合計3点)
すぐに答えられない場合、それぞれに「植物」「動物」などのヒントを与えてもよいです。
ヒントを与えた場合も、点数は同じです。
視覚記憶
答えた数に応じ、1点を加点(合計5点)
語想起・流暢性
答えられた数により、以下の通り点数を加えます。
0~5個:03点
6個:1点
7個:2点
8個:3点
9個:4点
10個:5点
同じ名前の野菜を複数回答えた場合も否定せず、重複したものはあとで減点します。
認知症の疑いがある点数は何点以上?
長谷川式認知症スケールは、ご紹介した点数配分で、合計30点が満点です。
獲得した点数により、認知症の疑いがあるか、おおよその進行の度合いを測ります。
点数区分は、以下の通りです。
- 20点以上:認知症の可能性は低い
- 11~19点:軽度~中等度の認知症
- 10点以下:中等度~重度の認知症
ただし、長谷川式認知症スケールは、記憶に関連した質問を中心に作成されています。
認知症の中には、記憶障がいが比較的少ないタイプのものもあり、その場合は長谷川式認知症スケールでは正確な判定は難しいです。
長谷川式認知症スケールを家庭で行う際の注意点
先ほども述べたように、長谷川式認知症スケールは家庭でも無料で質問を入手して行うことができます。
しかし、簡単に受けられる反面で、家庭で行う場合には注意点もあります。
家庭内での長谷川式認知症スケールを行う際の注意点を念頭に置いて、認知症の対策に上手く利用してみてください。
検査環境
テレビなどの騒音がある場所では、リラックスしてテストできず気が散ってしまうことがあります。
静かな落ち着ける場所でテストを行うことをおすすめします。
耳の聞こえ
質問が早かったり小さかったりすると、聴力の問題で問題を聞き取れず、本来の認知症の判断ができないかもしれません。
ゆっくりと大きな声ではっきり質問を伝えるようにしましょう。
精神状態
うつ病などで認知機能が低下している場合があります。
精神状態が関わる認知機能の低下は医療機関に相談しましょう。
学習効果
同じ問題を繰り返していると、問題自体を覚えてしまい答えがワンパターン化してしまうこともあります。
正しい評価をするために、テストの頻度や問題パターンを変えてみることもおすすめします。
自尊心の配慮
長谷川式認知症スケールは認知症の判定ツールの1つとして認識されています。
「認知症かどうかをテストされている」と思うと、本人はあまり気持ちの良いものではありません。
認知症の早期発見は大事ですが、本人の自尊心への配慮も忘れないようにしましょう。
長谷川式認知症スケール以外の認知症検査は何がある?
ここまで認知症検査として長谷川式認知症スケールを紹介しました。
長谷川式認知症スケール以外にも、認知症の診断にはさまざまな検査があります。
病院で認知症の診断を受ける場合、複数の検査を行い、総合的に判断して認知症の診断をします。
代表的な検査について、一つずつご紹介します。
Mini-Cog
3つの単語を覚えたり、時計を描いたりすることで、記銘力や遅延再生能力を確認します。
2分程度で行うことができる、簡易的なスクリーニングテストです。
MoCA(Montreal Cognitive Assessment)
MoCAは、軽度認知機能障害(MCI)を検出するために開発された検査です。
10分程度の質問や時計描画などの項目で、視空間・遂行機能、命名、記憶、注意、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、見当識と、多くの領域を評価することができます。
高次脳機能障害や糖尿病患者の脳機能障害のスクリーニングにも有効です。
DASC-21(Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items: 地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート)
21の評価項目を用いて、認知機能と生活機能を総合的に評価します。
IADL(手段的日常生活動作)に関する項目が充実しているので、軽度認知症による生活機能障害を確認しやすいことが特徴です。
生活に直接かかわる項目を用いるため、家族や専門職が支援内容を調整する際にも役立ちます。
ABC-DS(ABC dementia scale:ABC認知症スケール)
13の質問を用いて、認知機能、行動・心理症状、日常生活動作の評価を同時に行います。
専門職でなくても、簡単に短時間で評価を行えるよう開発された検査方法です。
スクリーニング検査としてだけでなく、認知症の重症度を評価する際にも有効です。
MMSE (Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)
11項目の簡単な質問により、認知機能の評価を行います。
見当識や記憶力のほか、簡単な動作を指示し、言語や文章を理解できるか、図形を認識できるかを評価します。
ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
世界的に使われている検査方法です。
言語の問題、図形の問題が含まれており、記憶力や集中力、注意力を評価します。
脳画像検査
CTやMRI検査を行い、脳の萎縮や梗塞などの異常を確認します。
認知機能検査はスクリーニングのための検査であり、正確な診断をするためには、脳画像検査も必要です。
画像検査の結果により、認知症の種類や進行度合いを確認することができます。
その他の検査
認知症の検査として、血液検査を行うことも少なくありません。
血液検査で認知機能を確認することはできません。
しかし、認知機能の低下は、認知症以外の病気の影響で起こる場合があるため、他の病気がないかを調べるために行われます。
長谷川式認知症スケールの実際のテストでやり方を実演
1、お歳は幾つですか?(2歳までの誤差は正解)
2、今日は何年の何月何日ですか?(年月日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつ)
3、私たちが今いるところはどこですか?
(自発的に出れば2点、5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?の中から正しい選択をすれば1点)
4、これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。
(以下の系列のいずれか1つで、採用した系列に◯印をつけておく)
1:a)桜 b)猫 c)電車
2:a)梅 b)犬 c)自動車
5、100から7を順番に引いてください。(100−7は?、それからまた7を引くと?と質問する。最初の答えが不正解の場合、打ち切る)
6、私がこれから言う数字を逆から言ってください。(6−8−2、3−5−2−9を逆に言ってもらう、3桁逆唱に失敗したら、打ち切る)
7、先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください。
(自発的に回答があれば各2点、もし回答がない場合以下のヒントを与え正解であれば1点)
8、これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言ってください。
(時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など必ず相互に無関係なもの)
9、知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。
(答えた野菜を記入する。途 中で詰まり、約10秒間待っても出ない場合にはそこで打ち切る。)
0〜5=0点 6=1点 7=2点 8=3点 9=4点 10=5点
長谷川式認知症スケールの算定結果はどう解釈する?重症度はわかる?
長谷川式認知症スケールで算定された点数の判定方法は次の通りです。
- HDS−Rの最高得点は30点。
- 20点以下は認知症
- 21点以上は非認知症
HDS−Rによる重症度分類は行われませんが、各重症度郡間に有意差が認められているので、平均得点は以下のものを参考とします。
認知症重症度(目安) | 点数 |
日認知症 | 24±4 |
軽度 | 19±5 |
中等度 | 15±4 |
やや高度 | 11±5 |
非常に高度 | 4±3 |
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長谷川式認知症スケールでMCI(軽度認知障害)を診断することは可能?
前述の通り、長谷川式認知症スケールは記憶力が主となる質問形式の評価です。
軽度アルツハイマー型認知症を発見しやすい特徴があります。
しかし、軽度認知障害(MCI)を診断する場合、明確な基準がありません。
MCIを診断する場合はMMSEやMoCAの評価表を使用することをおすすめします。
具体的な評価内容とMCI基準は以下の通りです。
MMSE
長谷川式認知症スケール同様質問形式による認知機能評価です。
見当識や記憶力以外に、口頭指示理解、文章理解・書字、図形模写など評価できます。
30点満点で23点以下が認知症の疑い、24点以上27点以下の場合MCIを疑います。
MoCA
MCIをスクリーニングすることを目的とした認知機能評価です。
糖尿病患者の認知機能障害の評価に有効性が高いといわれています。
MoCAは以下の9項目を評価します。
視空間・遂行機能 | 命名 | 記憶 | 注意力 | 復唱 |
語想起 | 抽象概念 | 遅延再生 | 見当識 |
30点満点で25点以下の場合MCIを疑います。
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長谷川式認知症スケールで認知症と診断されたら
長谷川式認知症スケールなどの検査の結果、認知症と診断された後を考えてください。
本人や家族が今後健やかに生活するために様々な準備やサポートが必要です。
具体的には以下の通りです。
本人が準備すること
認知症と診断後は認知症を遅らせる手段を身につけることが重要です。
かかりつけ医と相談し、定期的な認知症の評価と治療を続けていきましょう。
認知症に特化した認知症サポート医を紹介してもらうことも1つの手段です。
日常生活を工夫することで認知症予防に取り組むことができます。
適度な運動や食生活、サロンなど社会の場に参加することは認知症予防につながります。
注意点として、急な生活変化は対応が難しくなり、認知症悪化の原因になります。
焦らずできることから少しずつ生活を整えることをおすすめします。
家族・友人・周囲の人が心がけること
ほとんどの認知症は徐々に進行するため、家族にとって長い期間介護が始まります。
認知症に関する予備知識を高めることで予後予測が立てやすくなります。
認知症介護の注意点として、家族で問題のすべてを抱えてしまう場合があります。
自分でできる介護の限界を見定めて、友人や地域に頼ることも大切です。
また早期より地域包括支援センターなどと相談し今後のサービスを考えることも重要です。
家族のストレスを発散するために公的サービスを利用し時間を作ることも1つの手段です。
また、認知症家族の会などに参加し、悩みを共有することでストレス軽減につながります。
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長谷川式認知症スケールのまとめ
ここまで長谷川式認知症スケールについてお伝えしました。
要点を以下にまとめます。
- 長谷川式認知症スケールの9つの評価項目とは、年齢、日付の見当識、場所の見当識、即時記憶、計算、逆唱、遅延再生、視覚記憶、語想起・流暢性
- 長谷川式認知症スケールの評価方法とは、記憶力や注意力、聴力、視力などから判断される
- 長谷川式認知症スケールを家庭で行う際は、検査環境、聴力、学習効果、自尊心を守ることに注意が必要
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。