ワンポイントリハビリ その9
立ち上がる動作が難しくなるのは、何も足腰の筋力の衰えだけではありません。立ち上がるためには、体を前傾させて足の裏に体重をしっかりと乗せる必要があります。この体を前に傾ける動きは、病気や怪我などによりベッド上で過ごす時間が長くなってしまった高齢者にとっては恐ろしい動きになるようです。
座ってお辞儀するように体を前傾するのは、単純で簡単な動きですからこんなことが恐ろしく感じて、うまく立ち上がれないなんて想像するのは難しいと思います。日常生活で体を前傾させる動作を考えて見ますと、座って靴を履く時や、お風呂で足やつま先を洗う動きなどがあります。特に、病院や施設の生活では、これらの動作は早々に介助される動作になりやすいものです。上靴を履いて生活する施設も多いのですが、他の動作の自立状況とは無関係に、それが自然の流れのように靴は介助で履かせてもらう、という光景を目にすることが多いです。
座って体を前傾する動きを観察して見ると、ある意味、身を投げ出す動きになりますし、投げ出した先には空間が広がり自分を守ってくれるものはありません。介助する者にとっても、体の前傾はベッドや椅子からの転落を想像しやすいため、靴を履く動作などは無意識に先回りして介助の手が出てしまいやすいのではないかと思います。
立ち上がる動作は、歩行はもとより車椅子や便座への移乗など他の様々な動作をつなぐ大切なものです。立ち上がるまでに至らなくても、お尻を浮かそうと体を自ら前傾させることで足腰の筋力維持にもなります。したがって、体を前に傾ける動きを普段から習慣づけるために、座って床に手を伸ばす動きをオススメします。
例えば、ベッドから起き上がり座位になった後に何回か片方の手を床に向かって伸ばすだけです。最初は床まで手が伸びなくても、自分の脚のスネをさする程度で良いです。おそらく、これだけでも恐ろしくてできない方もいると思います。その場合は、ベッドの高さを数センチでも下げて見てください。床が少し近くに見えるだけで、本人の動きを引き出してくれるはずです。もちろん、実際に靴を自分で履いてみようとされても良いと思います。
この程度の運動でも、その後の立ち上がる動作や車椅子への移乗動作が本人から動き出していただけるようになりやすいと思います。きっと立ち上がりの介助もしやすくなるはずです。