認知機能の低下によって記憶障害や見当識障害が現れる認知症。
認知症には種類がいくつかあり、症状の特徴や進行速度などに違いがあります。
また原因となる疾患もそれぞれ違います。
原因疾患の種類や割合はどのようになっているのでしょうか?
今回は認知症の原因疾患をご紹介した上で、各疾患の治療法や予防法をご紹介します。
- 認知症の原因疾患
- 認知症の原因疾患の治療法
- 認知症の原因疾患の予防法
認知症の原因疾患に関して理解を深めるためにも、ぜひ最後までお読みください。
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認知症の原因疾患
認知症には大きく分けて5つの原因疾患があります。
ここからは、原因疾患の症状や引き起こされる認知症についてご紹介します。
神経変性疾患
神経変性疾患とは、脳や脊髄にある特定の神経細胞が障害を受けることでさまざまな症状が起こる病気のことです。
詳しい原因は分かっていませんが、高齢者が発症しやすいことから、加齢が原因の一つと考えられています。
神経変性疾患によって引き起こされる認知症には、アルツハイマー型やレビー小体型、前頭側頭型が挙げられます。
神経変性疾患による認知症の中でもアルツハイマー型認知症が最も多く、全認知症の半数以上を占めています。
代表的な神経変性疾患には、アルツハイマー病やパーキンソン病などがあります。
アルツハイマー病を発症すると記憶障害や見当識障害などが現れ、進行に伴って身体機能の低下がみられるようになります。
パーキンソン病では手足の震えや筋肉のこわばりなどの運動症状が現れ、日常生活にさまざまな支障をきたします。
脳血管疾患
脳血管疾患とは、脳の血管に何らかのトラブルが生じることで脳細胞が破壊される病気のことです。
脳の血管が破れ出血することで起こる出血性脳血管疾患と、脳の血管が詰まることで起こる虚血性脳血管疾患の2種類があります。
代表的な出血性脳血管疾患には脳出血やくも膜下出血、虚血性脳血管疾患には脳梗塞が挙げられます。
これらは血管性認知症の原因疾患であり、認知症の中での発症者数がアルツハイマー型認知症の次に多いです。
内分泌・代謝の疾患
認知症は認知機能の低下によって発症するため、脳の障害のみが原因と考える方が多いかもしれません。
しかし、脳に障害が起こらない疾患によっても認知症によく似た症状を引き起こす場合があります。
その中でも代表的な疾患が、橋本病(慢性甲状腺炎)です。
甲状腺はホルモンを生成する部位であり、生成された甲状腺ホルモンは新陳代謝を調節する働きがあります。
橋本病を発症した場合、甲状腺に対して抗体が作られ、甲状腺が破壊されて正常に機能しなくなります。
その結果、甲状腺機能低下症を引き起こし、認知機能の低下をはじめ倦怠感やむくみ、食欲低下などさまざまな症状が現れます。
腫瘍性疾患
代表的な腫瘍性疾患には、脳腫瘍や正常圧水頭症などがあります。
いずれも脳が圧迫されることにより、認知機能の低下が起こります。
脳腫瘍は頭蓋骨の中に発生する腫瘍の総称です。
脳細胞や脳神経などから発生する原発性脳腫瘍と、肺や大腸など他の臓器で発生したがんが脳に転移する転移性脳腫瘍の2種類があります。
どちらも軽い頭痛が初期にみられますが、次第に人格変化や判断力の低下など認知症に似た症状が現れます。
また、正常圧水頭症は脳内に水が溜まり、圧迫されることによって発症します。
くも膜下出血などが原因となって発症する続発性と、原因不明である突発性の2種類があります。
記憶障害や意欲・関心の低下などの症状がみられるようになります。
その他
上記以外で、代表的な認知症の原因疾患は以下の通りです。
中毒性疾患
代表的な中毒性疾患にはウェルニッケ脳症があり、主にアルコール依存症が原因となって発症します。
アルコールを分解する際にビタミンB1が使われますが、過度な飲酒を続けることでビタミンB1が不足します。
その結果、ウェルニッケ脳症を引き起こし、歩行障害や意識障害などが現れます。
また、長期的に多量の飲酒を続けることによって脳が萎縮し、認知機能の低下が起こるとされています。
脳は加齢によっても萎縮するため、特に高齢者の方はアルコールの影響を受けやすいです。
しかし、多量な飲酒が習慣化しているのであれば、若い方にも発症のリスクがあります。
感染性疾患
ウイルスや細菌などによる脳の炎症が原因となり、認知機能の低下が起こる場合があります。
代表的な感染性疾患はクロイツフェルト・ヤコブ病です。
プリオン蛋白という物質が異常プリオン蛋白になり脳内に蓄積することで発症します。
初期ではめまいや立ちくらみ、物忘れなどの比較的軽度な症状が現れます。
そのため、すぐにクロイツフェルト・ヤコブ病と疑うことは非常に難しいです。
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認知症の原因疾患の治療法
認知症の発症リスクを下げるためには、原因疾患を治療することが必要不可欠です。
ここからは、認知症の原因疾患の治療法をご紹介します。
神経変性疾患の治療法
残念ながら、神経変性疾患の根本的な治療法はまだ見つかっていません。
しかし、薬物治療やリハビリなどによって進行を遅らせることは可能です。
アルツハイマー病の薬物治療では、アリセプトやレミニールなどのコリンエステラーゼ阻害薬が使用されます。
また、パズルや計算などの脳トレや回想法による非薬物療法も行われます。
回想法は、昔の写真や馴染みのあるものを用いながら思い出話を語り合う心理療法の一つです。
いずれも認知機能を維持したり、脳を活性化したりする効果が期待できます。
パーキンソン病の薬物治療では、L-ドパやドパミンアゴニストなどのドパミン系薬剤が使用されます。
また、体力や筋力の低下を防ぐための体操やストレッチなども行われます。
脳血管疾患の治療法
脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患は、薬物による内科的治療が中心となります。
血液の固まりを溶かしたり抑えたりする薬などが使用されます。
脳血管性疾患は早期治療が非常に重要となり、今後の生活を大きく左右します。
早期治療を開始することで、手足の痺れや麻痺などの障害を最小限に抑えることが可能です。
薬物治療の他にも、関節可動域訓練や精神的なケアなども行われます。
手足に麻痺がある場合は動かさないことで関節が固まり、機能回復が見込めなくなります。
そのため、関節可動域訓練は非常に重要なリハビリです。
麻痺の程度は人によって異なりますが、可能な場合は座った状態で訓練を開始します。
その後、立った状態の訓練や歩行訓練に移行していきます。
また、不安や恐怖心などを抱く方が多く、うつ状態になるケースも少なくありません。
その場合は、カウンセリングや薬物治療などが行われることもあります。
内分泌・代謝の治療
経過観察として甲状腺ホルモン量のチェックを年に1~2回程度行います。
その際に甲状腺ホルモンの低下がみられた場合は、ホルモンを補充する飲み薬が使用されます。
しかし、甲状腺機能低下症がみられても、甲状腺ホルモンの分泌量が正常であれば特に治療を行うことはありません。
腫瘍性疾患の治療法
脳腫瘍の治療は、腫瘍の種類や患者さんの身体の状態などから検討されます。
良性腫瘍の場合は手術で切除できるものが多く、治癒が期待できます。
切除が困難な場合は腫瘍の一部を切除したのち、放射線治療を行うこともあります。
悪性腫瘍の場合は種類や悪性度に応じ、手術や放射線、薬物治療などを組み合わせます。
正常圧水頭症の治療には、脊髄シャント術と呼ばれる手術が行われます。
脊髄シャント術とはカテーテルを体内に埋め込み、溜まった髄液を排除する手術です。
認知症の原因疾患の予防法
認知症の原因疾患を治療することは必要不可欠ですが、予防することも非常に重要です。
ここからは、認知症の原因疾患の予防法をご紹介します。
神経変性疾患の予防法
アルツハイマー病とパーキンソン病に共通している予防法は、適度な運動を習慣化することです。
運動は血流を促進したり、脳を活性化させたりする効果があります。
また、パーキンソン病はドパミンの減少によって発症しますが、運動にはドパミンの分泌量を増やす効果があります。
無理に激しい運動をするのではなく、ウォーキングや水泳といった身体に負荷がかかる程度のものが望ましいです。
その他にも、人とのコミュニケーションをとり、ストレスを溜めないことが予防に繋がります。
楽しいコミュニケーションは脳に刺激を与え、活性化する効果があります。
また、ポジティブな感情が湧くことでドパミンの分泌量が増えます。
そのため、同じ趣味を持つ仲間と一緒に運動を行うことで脳に刺激を与えると同時に、ストレス発散が期待できます。
脳血管疾患の予防法
脳血管疾患には生活習慣病が深く関わっています。
そのため、生活習慣病を予防することが脳血管疾患の予防に繋がります。
生活習慣病を予防するためには、規則正しい生活が必要不可欠です。
たとえば、栄養バランスを考えた食事を摂ったり、十分な睡眠時間を確保したりするなどです。
その他にも、喫煙や飲酒を控えたり、運動をしたりすることも重要な生活習慣となります。
生活習慣病の予防法は特別なことをするのではなく、基本的な生活習慣を送ることが重要なのです。
内分泌・代謝の予防法
甲状腺ホルモンの低下を完全に防ぐことは困難ですが、ヨウ素が多く含まれる食品を摂取しすぎないことが予防法になるとされています。
ヨウ素が多い食品を摂取しすぎると、甲状腺ホルモンの生成を抑制する可能性があります。
ヨウ素の含有量が特に多い食品は、昆布やひじきなどの海藻類です。
海藻類は普段の食事で摂取することが多いため、気づかないうちに必要量以上のヨウ素を摂取している場合があります。
そのため、量に十分注意した上で摂取することが大切です。
腫瘍性疾患の予防法
残念ながら脳腫瘍には確実な予防法がありませんが、健康的な生活を送ることが重要になります。
正常圧水頭症も脳梗塞などが原因となって発症する場合があるため、生活習慣が深く関わってきます。
そのため、食事や運動、睡眠はもちろんのこと、喫煙や飲酒などを控えながら規則正しい生活習慣を心がけることが大切です。
確実な予防法がないとしても、規則正しい生活に越したことはありません。
年齢問わず、規則正しい生活を送ることが脳や身体、さらには心の健康に繋がるのだと考えられています。
原因疾患の種類によっては認知症が治る?
ここまで、原因疾患別の認知症をいくつかご紹介しました。
その中でも正常圧水頭症は、手術により改善・回復が見込めます。
しかし、正常圧水頭症自体の認知度が低く、医師ですら詳しくないこともあるため、発見が遅れるケースも少なくありません。
正常圧水頭症の三大症状は、「歩行障害」「認知障害」「排尿障害」です。
中でも歩行障害と認知障害が同時に現れている場合は、正常圧水頭症の疑いがあります。
そのため、早めの受診が必要となります。
また、受診する場合は脳神経外科をおすすめします。
脳神経外科には正常圧水頭症に詳しい医師が多くいるため、誤診や発見の遅れを防ぐことができます。
早期発見によって回復が見込めるため、少しでも異変に気づいた場合はすぐに脳神経外科を受診することが重要です。
まとめ:認知症の原因疾患
ここまで、認知症の原因疾患についてご紹介しました。
要点を以下にまとめます。
- 認知症にはいくつかの種類があり、原因となる疾患も異なる
- 認知症の原因疾患には、薬物治療やリハビリ、精神的なケアなどさまざまな治療が行われる
- 食事や運動などの規則正しい生活習慣が認知症の原因疾患の予防に繋がる
- 正常圧水頭症は治せる認知症と呼ばれ、早期発見が重要となる
これらの情報が皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。