日本では高齢化にともない、病院や施設などにおけるリハビリテーションの需要が高まっています。
リハビリの方法として、作業療法というものがあります。
作業療法では、どのようなリハビリをおこなっているのでしょうか?
今回、作業療法の領域やリハビリ内容を中心に以下について解説します。
- 作業療法とは
- 作業療法の内容とは
- 理学療法との違い
ぜひ最後までご覧いただき、作業療法の詳細についてご参考にしてください。
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作業療法とは
日本作業療法士協会による作業療法の定義は以下のようにされています。
「作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、教育、福祉、職業などの領域でおこなわれる、作業に焦点をあてた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。」
つまり、作業療法は対象者の日常生活における作業全般を支援するものです。
食事や買い物などの日常生活にかかわるすべての活動を「作業」といいます。
障害などによって、作業全般をおこなうことが困難な方を対象にして、作業療法士がリハビリテーションのプログラムを作成します。
日常動作での巧緻(こうち)動作といわれる、指先を器用に扱う動作を練習したり、心身機能の回復の手段として作業をおこないます。
作業療法では、基本的な動作能力から社会における適応能力を維持・改善し、その方らしい生活の獲得を目指します。
また、ご本人だけでなく取り巻く環境をより良いものにするための働きかけもおこなっています。
参考:日本作業療法士協会「日本作業療法士協会 作業療法の定義」
基本的動作能力
ここでは作業療法の観点で注目される基本的な動作能力と社会的適応能力について解説します。
基本的動作能力は以下の通りです。
- 運動機能
- 感覚・知覚
- 心臓・肺機能
- 精神・認知など
心身機能の改善をおこない、起き上がる動作や立ち上がる動作などの基本的動作の向上を目指します。
基本的動作から応用した動作をともなうものを「応用的動作能力」といいます。
応用的動作能力とは以下のような内容です。
- 食事
- トイレ
- 家事
- 排泄
- 入浴など
社会的適応能力
社会的適応能力は以下の通りです。
- 地域活動への参加
- 就学や就労など
上記のように社会に参加するための適応能力をいいます。
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作業療法の対象領域
作業療法における対象領域を詳しく解説します。
身体障害
病気で病院や施設でのリハビリテーションが必要になった場合、ご本人の状態を評価して治療や指導をおこなっていきます。
作業療法の対象である身体障害をご紹介します。
- 脳血管障害
- 脳腫瘍
- 脊髄損傷
- パーキンソン病
- 関節リウマチなど
精神障害
精神障害の場合、訪問での作業療法や就労支援、入院中の回復に向けた作業療法など、自立に向けた支援をおこないます。
作業療法の対象である精神障害をご紹介します。
- 統合失調症
- うつ病
- 双極性障害
- 高次脳機能障害
- 認知症など
発達障害
発達障害とは、生まれつきみられる脳の働き方の違いによって、行動面や情緒面に特徴がある状態をいいます。
作業療法の対象である発達障害をご紹介します。
- 自閉スペクトラム症
- 注意欠如・多動症
- 学習障害など
老年期障害
作業療法の対象である老年期障害をご紹介します。
- 高齢期における脳血管障害や認知症、パーキンソン病
- 廃用症候群
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作業療法のリハビリ内容
これまでの内容をまとめると、作業療法は大きく以下の2種類に分けられます。
身体障害の作業療法
身体障害の作業療法の説明として、入浴するまでの動作を例にご説明します。
入浴するための動作を細かく観察すると、以下のような動作がともないます。
- 服を脱ぐ
- 浴室のドアを開ける
- 浴室に入る
- 浴室のドアを閉める
- 体を洗う
- 浴槽にまたいで座るなど
このように、入浴するまでの動作をみてもさまざまな動作が必要です。
身体障害系の作業療法では、ご本人の状況を評価し、どの機能が足りていないのかを考えます。
そして、1人ひとりに合ったプログラムを立てて、支援をおこなっていきます。
精神障害の作業療法
精神障害の程度や回復速度はさまざまであり、個人差があります。
作業療法士は評価をおこない、症状を考えたうえで段階的に作業療法をおこなっていきます。
以下に、プログラムの一例をまとめました。
- キャッチボールなどの軽い運動
- 少人数でのレクリエーション
- 手芸や園芸などの創作活動
このようなプログラムによって、対象者の社会との関わりを支援していきます。
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理学療法との違い
日本理学療法士協会によると「理学療法とは病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法です」とされています。
理学療法の対象領域は以下のとおりです。
中枢神経疾患 | 脳卒中、脊髄損傷、脳外傷、腫瘍、脳炎など |
運動器疾患 | 骨折、腰痛、肩関節周囲炎、ヘルニア、靭帯損傷など |
呼吸器疾患 | 慢性閉塞性肺疾患、肺炎、結核後遺症など |
心疾患 | 心筋梗塞、狭心症など |
内科的疾患、体力低下 | 糖尿病、術後体力低下など |
次に、作業療法との違いをまとめました。
理学療法 | 作業療法 | |
目的 | 基本動作の回復・維持 | 応用動作と社会的適応 |
内容 | 起き上がり、歩行など | 食事、料理、買い物など |
場所 | 病院、老人保健施設、スポーツ施設など | 病院、精神科病院、障害者福祉施設など |
同じリハビリテーションでも、理学療法と作業療法の役割は大きく異なることがわかります。
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作業療法の将来的な需要性
作業療法士は一般病院や総合病院などでは人材が充実し、飽和状態となっています。
しかし、精神病院や介護施設、児童福祉施設などでは、作業療法士の人手が不足しています。
身体だけでなく、精神にも対応できる貴重な存在である作業療法士の活躍が期待できます。
今後の日本では、病院や介護施設などの負担や社会保障費の増加が考えられます。
これらの負担を抑えるためにも、高齢者の健康寿命をのばす「予防リハビリテーション」が期待されています。このような状況の中で活躍できるのは、リハビリテーションの専門家である作業療法士だといえます。
参考:厚生労働省「理学療法士・作業療法士の需給推計について」
脳卒中患者の年間割合
2017年の脳卒中年間患者数は約112万人で20年前と比較し、約60万人減少しました。
急性期医療や予防医学など医療の発展が発症数減少に関連していると考えられます。
しかし、依然100万人以上が脳卒中を発症し悩まされています。
死亡リスクから調査すると、脳血管疾患は死因全体の第3位を占めます。
介護が必要となる要因から調査すると全体の2位に位置しており、約20%を占めます。
40~64歳に焦点を当てると介護が必要となる要因の約半数が脳血管疾患です。
今後も脳血管疾患による要介護者が多い状態が続くことが予想されます。
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作業療法まとめ
作業療法の領域やリハビリ内容を中心にご紹介しました。
この記事のポイントをおさらいすると以下の通りです。
- 作業療法とは、患者の日常動作の向上や社会参加を目指す仕事
- 作業療法の内容や対象領域は、とても広いものとなっている
- 理学療法との違いは、応用的動作や社会的適応能力の獲得を目的に含むかどうか
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。