フレイルとは、加齢によって起こる心身の衰えた状態を指します。
ご自身や身近な方が最近元気がないと感じれば、フレイル状態になっているのが原因かもしれません。
ではどうすればフレイルを予防することができるのでしょうか?
本記事ではフレイル予防の方法や、判断基準、原因などについて以下の点を中心にご紹介します。
- 原因と起こるメカニズムについて解説
- 症状や判断基準にある5つの項目について解説
- 予防方法を解説
フレイルの予防法について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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フレイルとは?
フレイルとは、英語でいう「frailty」を日本語訳した言葉です。
「脆弱」や「虚弱」などを意味し、2014年に日本老年医学会が提唱した、虚弱な高齢者を表す概念的な考え方といわれています。
持病をいくつか抱えている方などは、病気が相互に影響して心身機能が低下し、弱りやすくなります。
フレイル状態になると、死亡率が上昇したり病気にかかりやすくなるのが特徴です。
- ただの風邪から肺炎などに悪化して入院
- 少しの段差でつまずき転倒し骨折
- 入院による環境の変化による認知機能や精神状態の悪化
上記の例をきっかけに、心身機能の低下が一層進んで寝たきり状態へとなりやすいためフレイルが危険視されています。
しかし、フレイルは健常者と要介護者の中間と位置づけられており、適切な介入と支援によって衰えた心身の回復ができるといわれています。
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フレイルの原因
フレイルは、何かひとつが原因となって起こるわけではありません。
加齢によって起こる変化が複合的に影響しあい、フレイル状態になっていくと考えられています。
加齢によっておこる変化には下記のものが挙げられます。
原因 | 現象 |
運動機能の低下 | 歩くのが遅くなる 筋肉量が減り、筋力が低下する(サルコペニア) |
認知、精神機能の低下 | 物忘れが増える、覚えられなくなる 元気が湧かなくなる |
体調の変化 | 体重が減る 低栄養になる 疲れやすくなる |
病気の疾患 | 心臓、呼吸器、整形外科、内科的な疾患などにかかる 心臓の疾患により活動する機会が減る 糖尿病によって食事量や体重が減る 関節の痛みで動くことが億劫になる |
社会的・環境的な変化 | 配偶者、親しい友人との死別 外出機会の減少 |
上記の要因が影響し合い、フレイルを引き起こすといわれています。
フレイルの症状と判断基準
フレイルの判断にはさまざまな基準がありますが、Friedの基準を用いることが多いです。
Friedの基準には項目が5つあり、該当する項目の数によってフレイルもしくはプレフレイル(フレイルの前段階)と判断をします。
項目 | 現象 |
体重減少 | 意図せず半年に2kg以上の体重減少 |
疲れやすい | 直近の2週間で理由もなく疲れた感じがする |
歩行速度の減少 | 通常歩行速度が1.0m/秒以下 |
握力の減少 | 男性28kg以下、女性18kg以下 |
身体活動の減少 | 軽い運動・体操や定期的な運動・スポーツを週に1度もしない |
出典:フレイル研究所「2020年改訂 日本版CHS基準(J-CHS基準)」
上記5項目のうち3項目以上該当するとフレイル、1,2項目該当するとプレフレイルと判断します。
ひとつも該当しなければ正常と判断できます。
フレイル予防とは?
「フレイル予防」には2つの意味があります。
- フレイル状態にならないようにする
- すでになっているフレイル状態の進行を防ぐ
健常な高齢者でも、運動機能の低下、認知機能の低下、社会的孤立感の悪化など、様々な要因を背景にフレイル状態になっていくと考えられています。
また、フレイルが進行するといずれは要介護状態となってしまいます。
健常からフレイル、要介護へと低下の道筋をたどらないためには、「フレイルにならないこと」と、「フレイルの進行を防ぐこと」への対策をしていくことが重要です。
どちらも対応方法は似ていますので、「フレイル予防」といわれれば、上記2つのことを指すという認識でよいでしょう。
フレイルを予防するには
フレイルを予防するには、持病の悪化を防ぐ、運動機能や認知機能を維持・回復させる、社会的孤立感の解消をすることが大切です。
それではフレイルの予防に効果があるものをご紹介します。
持病のコントロール
ご自身の持病を把握し対策することが大切です。
健康状態を保つことが一番のフレイル予防策になります。
- 高血圧、糖尿病などの内科疾患
- 腎臓や心臓などの内臓疾患
- 喫煙習慣などによる呼吸器疾患
- 膝や腰の痛みなどの整形外科疾患
上記の疾患による症状が慢性的に続いている方は、医療機関で診察をきちんと受け、服薬指導や生活習慣改善のアドバイスを受けましょう。
持病がコントロールされれば体調の悪化を防ぐことができ、活動的に生活できます。
運動療法
フレイルを予防するために運動が効果的です。
- ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動
- スクワット、ストレッチなどの筋肉や関節の運動
- ラジオ体操や水泳などの全身運動
上記の運動をご自身の体力に合わせて無理のない程度に行いましょう。
頑張りすぎてかえって身体を壊してしまわないように注意しながら行うことが大切です。
無理せず続けるコツは、「テレビのCM中にだけスクワットをする」、「椅子に10数えながら座る」など、簡単な内容にすることです。
栄養療法
栄養バランスのとれた食事を3食とることが大切です。
栄養がとれないと、体力がつかず活動的に動けなくなってしまいます。
また、低栄養状態になると運動療法の効果も得にくく、筋肉量の増加が期待できません。
運動によって筋肉量を増やし、丈夫な体をつくるためには、たんぱく質を積極的にとるよう心がけましょう。
以下の記事では栄養バランスについてより詳しく解説しています。
ぜひ併せてご覧ください。
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感染症の予防
高齢の方は免疫が低下し、季節によって流行する感染症(インフルエンザなど)にかかりやすいといわれています。
免疫を向上させ感染症を予防するためには、上記の運動療法や栄養療法を適切に行っていきましょう。
また、ワクチンの接種による免疫の獲得も有効です。
感染症が流行する前に、早めに接種しましょう。
歯のケア
栄養をとるためには、歯のケアをして食べ物をしっかりと噛むことが大切です。
歯をいい状態に保つためには、日頃からの歯磨きや虫歯の治療にも気を配るようにしましょう。
また、すでに歯が少なくなっている場合でも、口の中を清潔に保つことは大切です。
雑菌が繁殖しないように定期的に入れ歯を洗浄し、汚れや臭いをとるようにしましょう。
フレイルの予防法について、横浜総合病院臨床研究センターの長田乾先生に解説していただきました。詳しくは以下の記事をご覧ください。
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フレイル予防はいつから始めるべき?
フレイルの予防は、いつから始めるべきなのでしょうか?
フレイルの予防は、中年期といわれる50歳から始めると良いでしょう。
中年期は、高血圧や糖尿病をはじめとする生活習慣病になりやすい時期です。
フレイルの予防策について年代別に詳しく見てみましょう。
50~64歳
フレイルを予防するためには、50~64歳の時期が最も重要な時期といえます。
50~64歳の年代は、子育てや仕事を終え、セカンドライフの準備期間になります。
野菜中心の食生活を心がけ、カロリーの摂りすぎに注意する必要があります。
規則正しい食生活や歯周病予防を心がけ、生活習慣病の予防に努めましょう。
高血圧や糖尿病をはじめとする生活習慣病を予防することは、
- 脳卒中
- 心臓病
- 腎臓病
などの合併症のリスクを減らしたり、重症化の予防につながります。
50~64歳の時期に生活習慣病や合併症のリスクを減らすことは、65歳以降のフレイル予防にもつながります。
65~74歳
フレイルの予防を意識した取り組みを始めるのは、65~74歳の時期です。
フレイルを予防する取り組みとしては、
- 栄養バランスの整った食生活
- 継続した運動による体力づくり
- 人とのつながりをつくる社会参加
- 口腔内の健康を保つ
の4つになります。
フレイルを予防する取り組みの中でも最も重要といわれているのは、食生活です。
野菜やタンパク質を中心とし、食べ過ぎない食生活を心掛けましょう。
75歳以上
75歳以上は、フレイル予防を重点に健康管理や健康づくりを行う時期です。
食生活では、肉や魚、卵を十分に摂取し、タンパク質不足にならないようにしましょう。
75歳以上は、筋力や足腰が弱ってくる時期です。
ラジオ体操や散歩、ジョギングなど身体に負担がかからない程度で運動を継続して行いましょう。
人とのつながりを維持することは、フレイル予防につながります。
積極的に社会参加に取り組みましょう。
口腔内の健康を維持することもフレイル予防につながります。
歯周病を予防し、口腔内を清潔に保ち、咀嚼や嚥下能力の維持に努めましょう。
フレイル状態の危険性
フレイル状態の危険なところは、少しの体調変化や怪我をきっかけに、悪循環に陥りやすいことです。
フレイルの原因が加齢によっておこる心身・社会・環境変化の複合的な影響によるものだからです。
例えば、関節の痛みで動くことが億劫になれば、足の力が衰えます。
足の力が衰えると外に出る機会が減り、社会との交流が減ります。
交流が減り家に閉じこもりがちになると、物忘れやうつ症状などの認知機能・精神機能の低下がみられるのです。
つまり、認知機能・精神機能の低下により、自己管理が難しくなると、新たな病気に罹患する危険性が高まります。
このように、フレイルは加齢によって起こる変化が他の症状を引き起こす原因となり、悪循環に陥りやすくなります。
悪循環が続くことで要介護状態となり、徐々に寝たきり状態になってしまうこともあります。
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フレイル予防になる食事の仕方
フレイルを予防するためには、バランスのとれた食事を3食とることが大切です。
できるだけ多くの種類の食品を食べ、栄養をとりましょう。
食事を考えるときは、以下のように種類ごとに分けて食材を選んでいくとよいです。
- 主食:ご飯、パン、麺類
- 主菜:肉、魚、卵、大豆料理
- 副菜:野菜、きのこ、いも、海草料理
主食・主菜・副菜の例を見ながら、食材をバランス良く組み合わせた料理を作りましょう。
例えば、主食がご飯、主菜が焼き魚、副菜が味噌汁とサラダのような組み合わせです。
また、栄養素の中で特に多く摂りたいものがたんぱく質です。
たんぱく質は、筋肉を構成する大事な栄養素だからです。
高齢者はたんぱく質の摂取量低下によって、筋肉量が減少するといわれているため、色々な食品から摂取しましょう。
たんぱく質は普段の食事にひと手間加えるだけで多くとることができます。
【上記の主食、主菜、副菜の例にひと手間を加えた場合】
- 主食:ご飯に納豆を加えて納豆ご飯にする
- 主菜:たんぱく質量の多い魚(鮭など)を手軽に焼いて食べる
- 副菜:味噌汁に豚肉を入れて豚汁にする
以上のようにいつもの食事にプラスすることでバランスの取れた食事になります。
さらに、食べる力を維持することも大切です。
固いものを積極的に食べ、あごや舌の力も維持できるようにしていきましょう。
そして、家族や友人と一緒に食事をし、楽しい時間を共有することも大切です。
以下の記事では栄養バランスを整える役割を持つ栄養補助食品について解説しています。
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フレイルの予防のまとめ
今回はフレイルの予防法についてご紹介しました。
フレイルの予防法についての要点を以下にまとめます。
- フレイル予防には病気のコントロール、適度な運動、栄養の摂取、感染予防、歯の健康維持などが推奨されている
- フレイルの判断基準にある5つの項目の該当数によってフレイル状態か否かがわかる
- フレイルはさまざまな原因が複合的に重なりあって起こる
- 早期の介入と支援によって悪循環を断つことができる
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。