カルシウム不足の代表的なリスクは骨粗鬆症です。
カルシウム不足は、骨粗鬆症だけでなく、カルシウム・パラドックスという重大な疾患を招くこともあります。
カルシウム・パラドックスの原因や症状とはどのようなものでしょうか。
本記事では、カルシウム・パラドックスについて、以下の点を中心にご紹介します。
- カルシウム・パラドックスとは
- カルシウム・パラドックスが起こる原因
- カルシウム・パラドックスによる健康被害
カルシウム・パラドックスについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
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カルシウムのはたらき
体内のカルシウムのほとんどは骨に含まれ、残りは血液・細胞などに存在します。
骨に含まれるカルシウムの主な働きは、骨を丈夫にすることです。
一方、血液・細胞に含まれるカルシウムには、筋肉の収縮やホルモン分泌、脳からの神経伝導をコントロールする働きがあります。
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カルシウム・パラドックスとは?
カルシウム・パラドックスは、体内のカルシウムが不足したときに、血液・細胞中のカルシウム量が増加する現象です。
カルシウムは体内で合成されないため、食品などから補給が必要です。
もし仮に外からの補給が断たれると、体内のカルシウム量は次第に減少していくはずです。
しかし不思議なことに、カルシウムの補給が無くなると、反対に血中のカルシウム量が増加することがあります。
補給がないのに量が増えるという逆説、つまりカルシウム・パラドックスが起こるのです。
なお、パラドックスは「逆説」を意味します。
補給しなくても体内のカルシウムが増えるのは、単純にみれば幸運な現象です。
しかし実は、血中のカルシウムが増えたのは見せかけであって、体内の他の場所では深刻なカルシウム不足が起きています。
カルシウム不足は心身に不調をもたらします。
さらに血中のカルシウム濃度が異常に上がることで、身体にさまざまな悪影響が出ます。
ときには命の危険に発展することもあるため、カルシウム・パラドックスは予防しなくてはならない現象です。
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カルシウム・パラドックスが起こるしくみ
カルシウム・パラドックスが起こるのは、副甲状腺ホルモンの暴走によって、骨から過剰なカルシウムが流れ出すためです。
順番は以下のとおりです。
- 極度のカルシウム不足
- 副甲状腺ホルモンが過剰分泌される
- 骨から血中にカルシウムが流れ出す
人体には、血中のカルシウム濃度を一定に保つ仕組みが備わっています。
たとえば血中のカルシウム濃度が高い場合、余分なカルシウムは骨に取り込まれて貯蔵されます。
反対に血中のカルシウム濃度が下がると、骨に貯蔵されたカルシウムが血液中に送り出されます。
つまりカルシウムは、骨と血液を行き来することで体内濃度を維持しています。
カルシウムの出入りにかかわっているのが、副甲状腺ホルモンです。
副甲状腺ホルモンは、骨から血液へのカルシウム移動を促すホルモンです。
たとえば血液中のカルシウムが減ると、副甲状腺ホルモンは自動的に分泌が盛んになります。
反対に血中のカルシウム濃度が高くなれば、副甲状腺ホルモンの分泌は自動的に少なくなります。
しかし、ときには副甲状腺ホルモンの分泌が止まらなくなることがあります。
代表的なのが、体内のカルシウムが極端に不足した場合です。
体内から極端にカルシウムが減ると、身体が危機感を覚えて副甲状腺ホルモンを過剰に分泌させます。
簡単にいえば、副甲状腺ホルモンの暴走が起こるわけです。
分泌機能の抑制が効かないため、血中のカルシウム濃度が上がっても副甲状腺ホルモンの分泌は止まりません。
結果、骨からは必要以上のカルシウムが流れ出し、血中のカルシウム量が増えすぎるカルシウム・パラドックスの状態に至ります。
ところで、なぜ身体は、血液中にカルシウムを確保しようとするのでしょうか。
答えは、血中カルシウムが全身の筋肉の収縮にかかわるためです。
全身の筋肉とは、心臓をはじめとする内臓も含みます。
つまり血中カルシウムが不足すると、内臓機能に重大なトラブルが起こる可能性があるのです。
心臓に重大なトラブルがあれば、当然ながら生命維持も難しくなります。
そのため副甲状腺ホルモンが暴走し、血液中にカルシウムを確保しようとするわけです。
カルシウム・パラドックスは、生命を守るために、ホルモンが暴走した結果起こる現象といえます。
カルシウム・パラドックスによる健康問題
カルシウム・パラドックスは、身体にさまざまな悪影響をもたらします。
代表的な健康被害は以下の4つです
- 骨粗鬆症
- 高血圧や動脈硬化、心疾患
- ホルモン分泌の障害
- 筋肉の異常
詳しく紹介します。
骨のカルシウムが減って骨粗鬆症に
カルシウム・パラドックスは、骨粗鬆症や骨軟化症のリスクを高めます。
骨粗鬆症は、骨の中身がスカスカになる疾患です。
一方、骨軟化症は、骨が柔らかくなって骨折・変形しやすくなる疾患です。
骨粗鬆症や骨軟化症が起こる原因は、骨からカルシウムが流れ出てしまうためです。
カルシウムは骨の原料となる成分です。
具体的にはカルシウムが骨に貯蓄されることで、骨を固く頑丈にする作用があります。
カルシウム・パラドックスになると、骨から血液中に大量のカルシウムが流れ出します。
結果、骨の原料が足りなくなるため、骨がスカスカになるケースや、柔らかくなるケースが増えます。
高血圧や動脈硬化、心疾患の原因になる
カルシウム・パラドックスは高血圧・動脈硬化・心疾患を招くことが少なくありません。
理由は、過剰なカルシウムが血管を狭めるためです。
カルシウム・パラドックスによって血液中に大量のカルシウムが流れ出すと、余ったカルシウムは血管の筋肉中に取り込まれます。
血管中に入ったカルシウムは、血管を硬くする作用があります。
つまり、動脈硬化を引き起こすわけです。
さらに血管の筋肉中に入ったカルシウムは、筋肉を収縮させることで血管を狭くする作用があります。
血管が縮まると血流が悪くなるため、心臓はより強い力で血液を送り出さねばなりません。
結果、心臓や血管に負担がかかり、高血圧状態に至ります。
高血圧は動脈硬化や心筋梗塞などの血管・心臓トラブル等に発展することもしばしばです。
高血圧について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
ホルモン分泌の障害がおこる
カルシウム・パラドックスはインスリンの分泌障害を起こすことがあります。
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる作用があります。
カルシウムは血糖値の上昇を察知すると、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促します。
しかしカルシウム・パラドックスが起こると、血糖値が上昇しても、膵臓への働きかけがうまくいかなくなります。
結果、血糖値が上昇しているにもかかわらず、インスリンが分泌されにくくなります。
インスリン不足は、糖尿病の代表的な原因です。
つまりカルシウム・パラドックスは、インスリン分泌に作用することで糖尿病のリスクを高めます。
筋肉の動きにも影響
カルシウムには筋肉を収縮させる作用があります。
そのためカルシウム・パラドックスによって血液中にカルシウムが増えすぎると、筋肉の動きに異常が出やすくなります。
代表的なのは、けいれんや痺れ、手足の震えなどです。
また、心臓や内臓も筋肉でできているため、カルシウム・パラドックスの影響を受ける可能性があります。
カルシウム不足のサイン
カルシウム・パラドックスはカルシウム不足で起こる現象です。
予防するには、まずカルシウム不足にならないことが大切です。
カルシウム不足になると、身体には以下のようなサインがあらわれやすくなります。
心当たりがある方は、カルシウムの積極的な摂取に努めましょう。
筋肉の痙攣・痛み | 虫歯・歯周病などの歯のトラブル |
足がつる・まぶたがぴくぴく動く | 爪の皮がむけやすい |
疲れやすい | 物忘れが多い |
頭痛 | 強いストレスを感じる |
寝つきが悪い・眠りが浅い | 髪・肌が荒れやすい |
カルシウムは骨を作るための代表的な栄養素です。しかし、実は日本人は慢性的にカルシウムが不足しがちであることをご存知でしょうか?カルシウム不足の原因は何でしょうか?また、カルシウムが不足するとどのような症状が出るのでしょうか?[…]
カルシウム不足を解消するために
カルシウム不足を防ぐためにも、カルシウムの摂取を心がけましょう。
なお、カルシウムは吸収率が悪い成分です。
効率よく吸収するには、以下のような方法でカルシウムを摂るのがおすすめです。
カルシウムの吸収効率が高い食品を選ぶ
カルシウムが豊富な食品は、魚介類・藻類・乳類などです。
魚介類 | さくらえび、ししゃも、マイワシの丸干し、ワカサギ、しじみ |
乳類 | 牛乳、チーズ、ヨーグルト、スキムミルク |
藻類 | 乾燥ひじき、乾しワカメ、寒天 |
中でも牛乳・乳製品に含まれるカルシウムは、その他の食品より吸収率が高いのが特徴です。
カルシウムを効率的に摂るには、乳製品を中心に、小魚や海藻などをバランスよく摂りましょう。
ビタミンDはカルシウム吸収効率を高める
カルシウムを摂るときは、一緒にビタミンDも摂取しましょう。
ビタミンDは、腸でカルシウム吸収をサポートする働きがあるためです。
ビタミンDを含む食品は以下のとおりです。
とくにキノコ類に豊富です。
あん肝 | 全卵 |
しらす | 干しシイタケ |
ソウダガツオ | マイタケ |
うなぎ | キクラゲ |
豚レバー | えのき |
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日本人はカルシウムが足りていない
カルシウムの摂取量目安は年齢・性別などで異なります。
年齢別・男女別の1日のカルシウムの摂取基準量を以下にまとめました。
年齢(歳) | 男性(mg) | 女性(mg) |
12~14 | 1000 | 800 |
15~17 | 800 | 650 |
18~29 | 800 | 650 |
30~49 | 750 | 650 |
50~74 | 750 | 650 |
75以上 | 700 | 600 |
出典:厚生労働省【日本人の食事摂取基準(2020年版)】
成人では1日につき、650~800mgのカルシウムの摂取が必要です。
しかし、日本人の多くはカルシウムが不足しています。
以下は2019年日本人の男女別カルシウム摂取量です。
男性(mg) | 505 |
女性(mg) | 517 |
出典:厚生労働省【栄養素等摂取量】
摂取状況は年齢によっても異なります。
特にカルシウム不足が目立つのは、男女とも20~50代です。
カルシウムが不足すると、必ずカルシウム・パラドックスが起こるわけではありません。
しかし、カルシウム・パラドックスのリスクが高まる点は否めません。
カルシウム・パラドックスによるさまざまな不調を防ぐためにも、日ごろからカルシウム不足にならないよう注意しましょう。
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カルシウムの過剰摂取の影響は?
前述の通り、日本人はカルシウム摂取量が不足している場合が多いため、カルシウムを過剰摂取することは極めて稀です。
しかし、カルシウムを過剰摂取した場合の身体的影響や症状を理解しておくことは、適切な摂取量を心がける上で大切です。
カルシウムを過剰摂取した場合に起こる症状の例は以下の通りです。
- 腎機能不全
- 腎臓結石
- 軟組織の石灰化
- 高カルシウム血症
- 高カルシウム尿症
- 便秘
- 亜鉛、鉄などのミネラルの吸収阻害
血中のカルシウム量のバランスが崩れることによって、これらの症状が起きる可能性があります。
発見が遅れ重篤化すると生命を脅かすリスクもあります。
サプリメントなどを用いてカルシウムを多く摂取している場合は、摂取量に注意が必要です。
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カルシウム・パラドックスまとめ
ここまでカルシウム・パラドックスについてお伝えしてきました。
カルシウム・パラドックスの要点を以下にまとめます。
- カルシウム・パラドックスとは、体内のカルシウムが不足しているにもかかわらず、血中のカルシウム量が異常に増えること
- カルシウム・パラドックスが起こる原因は、血中のカルシウム量を増やそうとして、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されること
- カルシウム・パラドックスは、骨粗鬆症・高血圧・糖尿病・筋肉のけいれんなどの健康被害を起こすことがある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。