味覚障害に悩んでいる人が増えています。
味覚に異常を感じたら、亜鉛の不足が原因かも知れません。
亜鉛の不足の影響や味覚障害を防ぐ対策にはどんな方法があるでしょうか。
本記事では、亜鉛の不足と味覚障害について、以下の点を中心にご紹介します。
- 亜鉛不足と味覚障害
- 亜鉛不足の解消
- 高齢者の亜鉛不足
亜鉛不足と味覚障害について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までご覧ください。
栄養素について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読み下さい。
栄養素は、健康を保つために欠かせない成分です。栄養素には具体的にどのような働きがあるのか御存じですか。本記事では栄養素について、以下の点を中心にご紹介します。 五大栄養素とは 五大栄養素の働き 一日あたりの[…]
スポンサーリンク
亜鉛欠乏症とは
亜鉛が不足しているとは、どのような状態のことを言うのでしょうか。
亜鉛欠乏症の診療指針が、日本臨床栄養学会より報告されています。
診療指針を抜粋し、亜鉛欠乏症の確定診断条件を以下にご紹介します。
【診療指針の抜粋】
- 下記の症状/検査所見のうち1項目以上を満たす
1)臨床症状・所見 皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡(難治性)、食欲低下、発育障害(小児で体重増加不良、低身長)、性腺機能不全、易感染症、味覚障害、貧血、不妊症
2)検査所見 血清アルカリホスファターゼ(ALP)低値 - 上記症状の原因となる他の疾患が否定される
- 血清亜鉛値 60μg/dL未満:亜鉛欠乏症
60~80μg/dL未満:潜在性亜鉛欠乏 - 亜鉛を補充することにより症状が改善する
出典:日本臨床栄養学会【亜鉛欠乏症の診療指針2018】
スポンサーリンク
亜鉛の不足は味覚障害を引き起こす
亜鉛の不足と味覚障害にはどのような関係があるのでしょうか。
以下の3点にまとめてご紹介します。
- 味を感じるしくみ
- 味蕾細胞の再生に亜鉛が重要
- 味覚障害の7割は亜鉛不足によるもの
味を感じるしくみ
私たちの体には、食べ物を口にしたときに味を感じるしくみがあります。
「味蕾」という器官が、基本味の甘み・苦味・塩味・酸味・うま味を認識するセンサーの働きをします。
味蕾は、口腔・咽頭・喉頭に存在し、特に舌の表面の乳頭に多く存在します。
味蕾は約50~150個の紡錘形をした味細胞が集まってできた細胞集団です。
味細胞の一端は舌表面で味を受容し、もう一端は神経を介して味の情報を脳へ伝えます。
味細胞には味質特異性があり、それぞれの味もしくは複数の味質に対し応答します。
味を感じるしくみのどこかに障害が起こると、味覚障害の症状を起こすことになります。
味覚障害は以下の症状となって現れます。
- 味覚低下(味がしない、味がわからない、特定の味だけが感じにくい)
- 異味症(いつもと違う味がする、食べていないのに甘みや苦味、塩辛い味を感じる)
味覚低下や異味症といった味覚症状のほとんどは、舌や口腔の異常によって起こります。
味蕾細胞の再生に亜鉛が重要
亜鉛は味蕾細胞の再生に重要な役割を果たします。
味覚のセンサーといわれる味蕾の新陳代謝は、大変活発で約10日でサイクルすると言われています。
味蕾細胞の新陳代謝が正常に行われることで、味覚を正しく認識することができます。
反対に、新陳代謝がうまく行われないと味蕾細胞は減少します。
そして、味覚センサーの働きに不調が生じてしまいます。
亜鉛は味蕾細胞の新陳代謝に大きくかかわる栄養素で、人間の体の成長・維持に必須のミネラルと言われています。
細胞を再生する際に必要なタンパク質の形成や、遺伝子情報の伝達は、亜鉛の重要な役割の1つです。
亜鉛が不足すると、味の受容器である味蕾の新陳代謝のサイクルが伸びます。
ほかにも、味細胞の形態学的異常が起こるとの報告もあります。
味覚障害の7割は亜鉛不足によるもの
味覚障害の約7割は亜鉛の不足が原因とされています。
すべてが直接関係しているのではなく、間接的に関与しているものまで合わせると、割合として大きくなります。
直接的、間接的に亜鉛欠乏が関与している味覚障害は主に、
- 薬物性味覚障害
- 特発性味覚障害
- 亜鉛欠乏性味覚障害
- 心因性味覚障害
- 全身性味覚障害
などの5つとなります。
それぞれの原因について要点を以下にまとめます。
薬物性味覚障害 | 長期的に服用すると、薬物の中には体内の亜鉛と結合して尿中に排泄され亜鉛欠乏をきたすものがある |
特発性味覚障害 | 原因は不明な味覚障害であるが、大部分は食事性潜在性亜鉛欠乏症とされる |
亜鉛欠乏性味覚障害 | 亜鉛欠乏が、味蕾の味細胞の分化を遅延させ、味覚受容体の感度低下につながる |
心因性味覚障害 | 軽度のうつ病や神経性食欲不振に伴う味覚障害の発症 |
全身性味覚障害 | 糖尿病、肝障害、腎不全、甲状腺機能低下症、胃・腸切除などの患者に生じる |
出典:厚生労働省【重篤副作用疾患別対応マニュアル】
亜鉛不足によるその他の影響
亜鉛は、味覚障害以外にも多くの体の機能に影響を及ぼします。
亜鉛が不足した場合は以下のような病態が発症します。
- 皮膚炎・脱毛
- 貧血
- 発育障害
- 性腺機能不全
- 食欲低下
- 下痢
- 骨粗しょう症
- 創傷治癒遅延
- 易感染症
亜鉛不足を解消するために
亜鉛不足を解消するためには、どうすればいいのかも気になりますよね。
簡単に出来ることがありますので、以下3点にまとめてご紹介します。
- 亜鉛を多く含む食べ物
- 亜鉛の吸収を助ける栄養素
- 亜鉛の効率的な摂取のしかた
亜鉛を多く含む食べ物
亜鉛は魚介類、肉類、種実類、穀類に多く含まれています。
含有量の多いおすすめの食材を以下に5つご紹介します。
- 牡蠣
- 牛赤身肉
- カシューナッツ
- 卵黄
- プロセスチーズ
亜鉛の吸収を助ける栄養素
亜鉛と一緒に摂取することで、吸収を助ける栄養素があります。
吸収を助ける栄養素とは、動物性タンパク質やビタミンA、ビタミンC、クエン酸です。
例えば、牡蠣+レモン(ビタミンC、クエン酸)、牛赤身肉+人参(ビタミンA)です。
少しの工夫だけでよいので、おすすめです。
亜鉛の効率的な摂取のしかた
亜鉛は水溶性で非常に水に溶けやすい性質があります。
そのため鍋やスープにすると、亜鉛を効率よく摂取できます。
特に、牡蠣鍋やシジミ汁などがおすすめです。
高齢者は亜鉛が足りていない!
亜鉛の不足が心配されている中でも、特に高齢者の方は注意が必要です。
厚生労働省のデータによると、摂取の推奨量は18~74歳男性で11mg/日、75歳以上で10mg/日、18歳以上の女性で8mg/日です。
国民健康・栄養調査の亜鉛摂取量の平均値(2019年度報告値)と比べると、20歳以降の男女とも摂取量は推奨量を下回っています。
特に男性高齢者の亜鉛摂取量は、70~74歳男性で-2.1mg/日、75歳以上で-1.5mg/日も推奨量から下回っています。
高齢者の亜鉛摂取不足の実態から、高齢者の亜鉛欠乏症発症のリスクが高いことがわかります。
高齢者の亜鉛不足の原因には、以下の理由があります。
- 食事量減退による摂取量不足
- 消化機能の低下
- 亜鉛欠乏を合併しやすい生活習慣病の罹患患者が多い
- 薬剤使用が多い
- 寝たきりの場合の床ずれによる新陳代謝不良
高齢者は加齢により食が細くなることで、必要な量の亜鉛が不足しがちです。
亜鉛の不足による味覚障害が、さらに食欲不振につながるという悪循環も心配されます。
日頃から必要な量の亜鉛が摂取できるよう、自身も周りの方も注意が必要です。
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」(P374)
出典:日本臨床栄養学会「亜鉛欠乏症の診療指針2018」
出典:国立健康・栄養研究所「国民健康・栄養調査」(2019年度データ参照)
認知症と味覚障害の関係について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読み下さい。
「味覚障害は認知症に関係がない」と思っている方は少なくないでしょう。しかし、認知症を発症すると味覚障害が起こることがあります。今回は認知症と味覚の関係について説明した上で、予防に効果的な食材や味覚障害をチェックする上で重要なポイ[…]
亜鉛欠乏による味覚障害まとめ
今回、亜鉛不足で起こる味覚障害の情報を中心にお伝えしました。
要点を以下にまとめます。
- 亜鉛が不足すると、味を感じる味蕾細胞の再生に影響を及ぼし、味覚障害を引き起こす
- 亜鉛不足の解消のために亜鉛を多く含む魚介類、肉類、種実類、穀類を摂取する
- 特に高齢者は亜鉛欠乏症になるリスクが高い
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。