少子高齢化に伴い、高齢者の一人暮らしが増加しています。
しかし、一人暮らしの高齢者をめぐっては、さまざまな問題も発生しています。
命に関わるできごとや、犯罪被害に遭うなどの危険性は見過ごせません。
高齢者の一人暮らしの問題とはどのようなものなのでしょうか。
本記事では高齢者の一人暮らしの問題について以下の点を中心にご紹介します。
- 高齢者の一人暮らしが増えている理由は何か
- 高齢者の一人暮らしにはどのような問題があるのか
- 問題の解決方法や相談する窓口について
高齢者の一人暮らしの問題について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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高齢者の一人暮らしは増えている
少子高齢化が進み、高齢者の一人暮らしが増えています。
まずは「平成30年版高齢社会白書(全体版)の65歳以上の一人暮らしの者の動向」を見てみましょう。
65歳以上の人口に占める一人暮らしの割合が示されています。
1980年には男性4.3%、女性11.2%でした。
しかし、2015年には男性13.3%、女性21.1%と、かなり増えていることがわかります。
次に国土交通省住宅局「平成15年住宅需要実態調査」を見てみましょう。
高齢期における子との住まい方に関する意向の結果です。
子との同居の意向を示す割合が1983年には45.3%となっています。
子供と同居したいと考える高齢者が半数近くに上っています。
一方、2003年の調査では14.9%まで減少しています。
厚生労働省の調査では、高齢者の一人暮らしは今後も増加すると推計されています。
現在、高齢者の一人暮らしは決してめずらしいことではありません。
- 社会を取り巻く状況が変化している
- 高齢者自身の生活に対する意向が変化している
上記を踏まえると、さらに高齢者の一人暮らしが当たり前になると考えられます。
出典:厚生労働省 平成30年高齢者白書
国土交通省住宅局 平成15年住宅需要実態調査
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なぜ高齢者の一人暮らしが増えているのか
ひと昔前までは、親子3代にわたる拡大家族世帯が当たり前でした。
しかし、さまざまな要因により高齢者の一人暮らしは増えています。
具体的には以下のような要因が考えられます。
- 家族を頼れない理由がある
- 家族が他界している
- 今の生活に満足している
- 慣れ親しんだ環境を変えたくない
それぞれ以下で解説していきます。
家族を頼れない理由がある
内閣府の「高齢者の経済生活に関する意識調査」(平成23年)を見てみましょう。
一人暮らしの60歳以上の高齢者が、困ったときに頼れる人の有無を示しています。
頼れる人がいないと答えた割合は、男性で20%、女性で8.5%でした。
何らかの理由で、生活の困りごとや手伝いなどを家族に頼れない方がいるとわかります。
子供が独立して遠方にいる、ライフスタイルの違いなど事情はさまざまだと考えられます。
出典:内閣府「平成23年度 高齢者の経済生活に関する意識調査」
家族が他界している
高齢化だけではなく、核家族化も高齢者の一人暮らしが増えている一因と考えられます。
65歳以上の方がいる世帯のうち、夫婦のみの世帯は、2017年のデータで32.5%です。
配偶者の他界によって一人暮らしになる可能性がある世帯は770万世帯に上ります。
仮に独立した子供がいたとしても、親元へすぐに戻るのは難しいと予想されます。
従って、一時的であったとしても、一人暮らしを経験する可能性は誰にでもあるでしょう。
出典:内閣府「令和元年版 高齢社会白書」
今の生活に満足している
令和元年度の高齢者白書によると「経済的に心配はない」と答えた高齢者は64.6%でした。
半数以上の高齢者が、経済的に不安を感じることなく生活できていることがわかります。
また、何らかの社会活動を行っていると答えた60歳以上の方は58.3%でした。
社会活動とは、労働、ボランティア活動、町内会、おけいこなどです。
半数以上の方が何らかの活動によって社会とのつながりを維持しています。
「平成26年度一人暮らし高齢者に関する意識調査」における幸福感に関する結果です。
「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点として65歳以上の方の平均は6.59点でした。
年齢別で見ると80歳以上の平均点は6.97点と高い水準を示しています。
経済的な不安も少なく、社会とつながりをもって生活している様子が伺えます。
高齢者は、今の生活に対して満足度が高いことがわかります。
出典:内閣府「令和元年版 高齢社会白書」
出典:内閣府「平成26年度 一人暮らし高齢者に関する意識調査結果」
慣れ親しんだ環境を変えたくない
65歳以上の方のいる世帯のうち、持ち家に住んでいる方は82.7%に上ります。
また、現在住んでいる地域に住み続けたいと考える方は、60歳以上で93.1%です。
現在の地域に住み続けたいと答える割合は、年齢が高くなるほど増える傾向にあります。
内閣府の「平成26年高齢者の日常生活に関する意識調査」の結果を見てみましょう。
60歳以上の高齢者における現在の住宅の満足度は76.3%です。
特に持家の満足度は79.1%と高くなっています。
住んでいる地域や住宅に対しての満足度は高く、現在の住まいを変えたいと思う人が少ないことがわかります。
高齢者の一人暮らしに起こりうる問題
これまで述べてきたように、高齢者の一人暮らしは珍しくありません。
しかし、安全安心に一人暮らしを送るためにいくつか注意した方がよいことがあります。
高齢者の一人暮らしによって起こりうる問題には以下のようなものがあります。
- 認知症の進行
- 孤独死、孤立死
- 生活意欲の低下
- 詐欺などの犯罪による被害
それぞれ詳しく見ていきましょう。
認知症の進行
認知症とは、脳の異常により認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態です。
お金の勘定ができなくなる、慣れた道で迷うなどの初期症状があります。
症状を自覚できないことも多く、一人暮らしの方は発見が遅れる可能性があります。
さらに、一人暮らしでは、話し相手がおらず刺激が少ない環境で過ごすことになります。
認知症の症状がある方が刺激の少ない生活を送っていると、生活が単調になりがちです。
単調な生活により、認知症が進行する危険性があります。
認知症では、記憶力や日時の感覚が低下することがあります。
記憶力、日時の感覚の低下によって見られるサインには以下のようなものがあります。
- ゴミの分別ができなくなる
- ゴミ出しの日程がわからなくなる
- 火の不始末が見られる
- 古くなった物を食べ、体調を崩す
上記のような場面は、電話などの対面しない連絡では見逃される可能性もあります。
生活環境の様子がわかるような連絡方法を検討しましょう。
また、認知機能が低下することで、特殊詐欺などの被害に遭うことも考えられます。
認知症の進行を防ぐことが大切です。
孤独死
孤独死とは、誰にも看取られることなく息を引き取ることをさします。
家族に連絡をとっていたとしても、看取られることなく死亡した場合はあてはまります。
東京都観察医務院発行の「自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計(平成30年)」の結果を見てみましょう。
2003年は1441人であるのに対し、2018年は3867人と倍以上に増えています。
65歳以上の高齢者の孤独死件数は増加傾向です。
一人暮らしの場合は、徐々に衰弱して、救助を呼べずに死に至ってしまうこともあります。
心筋梗塞や脳卒中などを急に発症して突然亡くなるなども含まれます。
家族や地域社会と疎遠だった人の孤独死を、孤立死ということもあります。
出典:東京都監察医務院「東京都観察医務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計」
生活意欲の低下
一人暮らしは、誰にも干渉されないことがメリットです。
しかし、干渉されないことで生活リズムが乱れ、生活意欲の低下を招くことがあります。
調理や掃除など、生活を維持するために動くことさえも億劫になります。
定年を迎えることが、生活意欲低下のきっかけになることもあります。
現役時代はバリバリと仕事をこなしていても、定年後は社会と交流する機会が減ります。
すると、生活の中に生きがいや楽しみを見いだせなくなるのです。
- 自宅にこもって一日中ボーっとテレビを見ている
- 寝てばかりいる
- 活動量が減少する
- 筋力、体力が低下する
上記のような生活が続くとフレイル状態(心身の虚弱な状態)になる危険性があります。
フレイルとは、健康と要介護の中間の状態です。
適切な対処ができるか否かで、改善することも、悪化して要介護になることもあります。
詐欺などの犯罪による被害
警察庁「令和2年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」の結果をご紹介します。
特殊詐欺の被害者は、全体の85.7%を65歳以上の高齢者が占めています。
一人暮らしの高齢者の弱みにつけこんだ犯罪が後を絶ちません。
詐欺の一例を挙げると、息子や親族をかたって現金をだまし取るオレオレ詐欺があります。
自宅の点検やリフォームを装って不必要な契約を迫る例もあります。
老後のために蓄えていた貯金の大半を騙し取られ、経済的に困窮する事例もあります。
詐欺被害に遭う原因として、独居で周囲に相談できる人がいないことが考えられます。
また、認知症を患って判断力が低下している可能性もあります。
出典:警察庁「令和2年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」
高齢者の一人暮らしの問題を解消するために
高齢者の一人暮らしが増える一方で、課題があることを述べてきました。
一人暮らしの高齢者に起こりうる問題に対して、どのような対処法があるのでしょうか。
以下で詳しくご紹介します。
認知症の進行にはデイサービスやショートステイを利用する
認知症は、早期に発見することで進行を遅らせることができます。
近所の方やご家族に、認知症のサインがないか注意深く観察するとよいでしょう。
認知症が進行すると見られるサインには
- 片付けができず家の周りが散らかる
- 季節に合わない服を着ている
などがあります。
認知症の進行を遅らせるために、運動や認知機能のリハビリが有効とされています。
一人で行うのが難しい場合は、デイサービスやショートステイの利用を考えてみましょう。
サービスを利用することで、人とのコミュニケーションを取ることができます。
また、専門スタッフによるリハビリやレクリエーションを受けることもできます。
バランスの良い食事の提供や身の回りの介護なども受けられます。
認知症のサインが見られたら、お住まいの自治体にある市役所に相談をしてみてください。
高齢者福祉課や高齢介護課など、高齢者の福祉や介護に関する相談窓口があります。
孤独死を防ぐために地域のネットワークや家族との連絡を心がける
社会とのつながりをもつことで孤独死に対する不安が軽減します。
不測の事態が起こったときに気づいてもらえるような対策をしておきましょう。
市町村によっては高齢者を見守る、独自の規則や条例が制定されています。
「近所付き合い促進」や「見守り体制の構築」を図る動きがあります。
お住まいの自治体に問い合わせをすることで情報を得られます。
高齢者の一人暮らしで心配だという方は、調べてみてはいかがでしょうか。
孤独死を防ぐには、配食サービスを利用するのもおすすめです。
- 栄養のバランスがとれた食事を食べられる
- 訪問の度に安否確認も兼ねられる
配達員の方が定期的に訪れるので、異変を察知してもらいやすくなります。
また、ご家族と決めごとを作っておくことも重要です。
- 朝と夕方に必ず電話をかける
- 外出する日に行き先と帰宅予定時刻を伝えておく
など、必ず行うようにしておくと、万一の事態に速く対応できる場合があります。
近所に住んでいる方も、以下のようなサインには注意しましょう。
- ポストが新聞や郵便物であふれている
- 夜にカーテンが開いたままになっている
- 洗濯物がずっと干したままになっている
- 部屋の明かりがついたままになっている
一人暮らしの高齢者本人だけでなく、地域全体でお互いを気にかけることが大切です。
生活意欲の低下には訪問や通所サービスを利用する
閉じこもりがちな生活を送る方は、話し相手や外出の機会をつくることが重要です。
活動する機会が減ると体の不調にもつながる恐れがあります。
意欲を向上させるきっかけに、サービスやイベントを活用してもよいでしょう。
- 介護保険による定期的なヘルパーの訪問
- デイサービス、デイケアなどの通所サービス
- 地域の公民館で行う体操教室
ヘルパーの訪問に関しては、市区町村役場の相談窓口へご連絡ください。
地域のイベントは回覧板などを通してお知らせがあります。
定期的に確認してみてはいかがでしょうか。
サービスの利用に関しては、家族やヘルパーが手助けをすることも必要かもしれません。
一人暮らしの高齢者が、生きがいや楽しみを見つけられるよう見守りましょう。
詐欺業者には警戒していることをアピールする
特殊詐欺は、次々と新しい手口が出てきます。
一人暮らしの高齢者を守る対策の一例です。
警戒していることを知らせる、もしくは基本的に対応をしないことがポイントです。
- 在宅時でも留守番電話に設定する
- 発信者番号が非通知の場合は着信拒否の設定をする
- 「この会話は録音されています」などの音声を流す設定をする
- 万が一電話に出てしまっても、合言葉を決めておく
などの対策をとっておきましょう。
一人暮らしの家族がいる場合には、こまめに連絡をとるようにしましょう。
また、近所の人に見守りをお願いするなど孤立させないようにすることも大切です。
高齢者の一人暮らしにおける問題点まとめ
今回は高齢者の一人暮らしにおける問題についてご紹介しました。
高齢者の一人暮らしにおける問題についての要点を以下にまとめます。
- 高齢者の一人暮らしが増えている背景には、現状の生活に満足である、同居する家族がいないなどがある
- 一人暮らしの問題には認知症の進行、閉じこもり、孤独死、犯罪被害などがある
- 公的サービス、民間サービス、町内会などの取り組みを利用するとよい
- 市区町村役場に相談窓口がある
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。