脳卒中の後遺症は、半身麻痺から失語症までさまざまです。
脳卒中の後遺症は、リハビリテーションなどによって治療を行います。
そもそも脳卒中とはどういうものなのでしょうか。
脳卒中の後遺症にはどういう種類があるのでしょうか。
本記事では脳卒中の後遺症について以下の点を中心にご紹介します。
- 脳卒中とは
- 脳卒中の後遺症とは
- 脳卒中の後遺症の治療方法とは
脳卒中の後遺症について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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脳卒中とは
脳卒中とは脳の血管が破れる、詰まるなどが原因で脳に障害が起きる疾患です。
脳卒中は脳血管障害とも呼ばれています。
脳卒中は原因により、
- 脳の血管が詰まる(脳梗塞)
- 脳の血管が破れる(脳出血、くも膜下出血)
の大きく2種類に分けられます。
脳卒中を発症すると、損傷した部位により運動機能や言語機能などが失われたり、場合によっては死に至ることもあります。
脳卒中は日本人の死因の三大疾病の一つに挙げられています。
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脳卒中による後遺症一覧
脳卒中の後遺症は脳のどこの部位が損傷するかで症状が変わります。
脳卒中にはどういう後遺症の種類があるのか紹介します。
運動障害
脳の前頭前野に損傷がある場合は、運動障害の後遺症があらわれることがあります。
普段運動するときは、前頭葉に存在する運動野から体を動かすための指令が出ます。
指令は神経を通して脳から脊髄へ伝わります。
そして、脊髄から筋肉に伝わることで筋肉を動かすことができるのです。
神経は脳から脊髄を通るとき交差しているので、
- 前頭葉の左側が損傷すると右半身
- 前頭葉の右側が損傷すると左半身
左右反対に後遺症があらわれます。
どちらかの半身に後遺症があらわれる場合が多く、左右同時に起こることは稀です。
しかし広範囲で大きい損傷では、手足を動かすことすらできなくなる場合もあります。
感覚障害
触覚などの感覚は、神経を通して脊髄から視床という部分で中継され感覚野に伝わります。
そのため、視床や頭頂葉が損傷を受けると、感覚障害の後遺症があらわれます。
片側の半身に症状が出ることが多く、重度では全く感覚がわからなくなる場合もあります。
頭頂葉は視覚や聴覚などの感覚情報をまとめ、前頭葉に伝えています。
そのため、頭頂葉を損傷している場合、
- 感覚がまとめられない
- 感覚情報を伝えられない
ということで、運動にも影響があります。
視野障害
視野情報は後頭葉で処理されます。
視野情報が送られる経路である、
- 側頭葉
- 大脳基底核
- 後頭葉
以上の部位のいずれかが脳卒中で損傷すると、視野障害が起こる場合があります。
視野障害は半盲や視野が部分的に欠けるような症状があらわれます。
他に、眼球を動かすための神経が障害を受けることで物が二重に見える場合もあります。
眼に症状が出る場合は片側に後遺症があらわれる場合が多くみられます。
片側だけ見えにくくなる障害で、同名半盲(どうめいはんもう)といわれます。
両側の後頭葉が損傷すると、眼は正常でも、物を認識できなくなります。
嚥下障害
嚥下障害とは、飲食物をうまく飲み込めない状態のことです。
運動障害や感覚障害により
- 舌や喉の動きが悪くなる
- 飲み込む筋肉が落ちている
などが原因になります。
気管に入らないようにする喉頭蓋(こうとうがい)の動きも悪くなります。
そのため、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起こしやすくなります。
そのほか、食欲がなくなり食事量が減ることで体力や筋力の低下にも繋がります。
失語症・構音障害
失語症とは、左側の大脳にある言語中枢が障害されて
- 読む
- 書く
- 話す
- 聴く
がうまくいかなくなることを指します。
大きく分けて、
- 感覚性失語(言葉は話せるが、聞いたことを理解できない)
- 運動性失語(言葉は理解できるが、うまく話せない)
2つの失語症があります。
損傷部分によって症状は異なり、両方どちらも障害を受けた「全失語」の場合もあります。
前頭葉にある言語中枢に障害があることで、運動性失語症になります。
そして、側頭葉にある言語中枢に障害があることで、感覚性失語症になります。
構音障害は、声を発するときに、不規則・不明瞭な話し方になる障害です。
前頭葉の言語中枢の近くに、舌や口の運動に関係する部位があります。
そのため、運動性失語症と一緒に構音障害も発生することがよくみられます。
高次脳機能障害
高次脳機能障害は脳の血管障害などにより、
- 注意障害
- 記憶障害
- 失語症(うまく話せない)
- 失行症(体は問題ないのにうまく動かせない)
- 失認症(知能はあるが物事を認識できない)
などを起こしていることをいいます。
高次脳機能障害が起こると、日常生活に大きな支障を及ぼします。
特に問題なのが自分自身では自覚しづらいことが挙げられます。
リハビリすることで一定の回復がみられる場合もあります。
しかし、回復には個人差があります。
身体機能が回復しても、高次脳機能障害は最後まで残っている場合も多くみられます。
高次脳機能障害の後遺症が最も多い原因は脳卒中によるものです。
排尿障害
尿に関する機能は、脳のさまざまな部分で制御されています。
排尿障害とは尿を溜めたり、排出したりする機能に障害が起きている状態のことをいいます。
尿を排出するときは、膀胱を収縮させて尿道を弛緩させます。
尿を溜めるときは、膀胱を弛緩させて尿道を収縮させます。
そして、尿に関する機能を複雑な仕組みで神経が制御しています。
そのため、脳卒中により神経が損傷することで、排尿障害が起こることがあります。
感情障害
感情障害は軽度の刺激で笑ったり、泣いたりして、感情の制御ができない状態です。
感情失禁とも呼ばれ、さまざまな脳障害で発症し、脳梗塞の後遺症の一つでもあります。
脳梗塞の再発を繰り返すことで症状は悪化します。
現在では、感情障害のみを治療する方法は、存在しません。
一部には、うつが原因になっている場合があります。
そのため、うつ病治療で症状が軽減することがあります。
うつ
脳卒中の発症により、うつ病になる人は多くみられます。
脳の特定の部位を損傷することにより、うつ病を発症するといわれています。
感情を調整する前頭葉が障害を受けることで発症しやすいためです。
うつに対しては、周囲のサポートや環境の改善が必要になります。
脳卒中の後遺症は脳の部位によって変わる
前頭葉は物事を判断したり、感情や集中力の制御をするなどの機能を持っています。
前頭葉が損傷すると、怒りやすくなる、注意散漫になる、などの症状がみられます。
他にも、後頭葉は視覚機能を持っているため、損傷すると視覚に障害があらわれます。
損傷部位によって、あらわれる症状が変わります。
どんな部位を損傷して、どんな後遺症があらわれやすいのかを知ることが大切です。
前頭葉
前頭葉は以下の機能を持っています。
- さまざまな行為を開始する
- 体の動作を制御する
- 思考回路を制御する
- 表情や感情を制御する
一般的に前頭葉が損傷を受けると、問題の解決能力などの能力が失われます。
しかし、損傷を受けた部位に応じて、異なる障害がみられることもあります。
たとえば、前頭葉の後部が損傷すると運動障害が起こります。
左右の脳は、それぞれ反対側の体の動きを制御しているため、
- 左側が損傷すると体の右側
- 右側が損傷すると体の左側
損傷した左右反対側の半身に筋力低下または麻痺が起こります。
前頭葉の中間部が損傷すると思考がにぶくなり、
- 無関心
- 注意力の低下
- 意欲の低下
などの症状があらわれ、質問などへの反応が遅れるようになります。
前頭葉の中間部後方の部位が損傷すると、運動性失語症になりやすくなります。
運動性失語は、言葉の意味は理解できていても発声が難しくなる失語症です。
前頭葉の前部が損傷すると以下の後遺症があらわれる場合があります。
- 作業記憶(記憶の一時保持)が難しくなる
- 流暢に話せなくなる
- 周囲への無関心
- 注意が散漫
- 質問などへの反応が遅れる
- 自分の欲望が制御できない
脳のそれぞれの部位は、それぞれ特定の機能を管理しています。
そのため、脳の損傷した部位により、あらわれる後遺症は変わります。
後頭葉
後頭葉は以下の機能を持っています。
- 視覚情報を処理する
- 視覚的記憶を可能にする
- 頭頂葉から送られてくる空間的な情報と視覚情報を統合する
後頭葉の損傷により目が見えなくなることを皮質盲といいます。
視野に症状(片側の視野に障害)があらわれるときは、同名半盲といいます。
側頭葉
側頭葉は以下の機能を持っています
- 短期記憶を長期記憶に変換する
- 長期記憶を引き出す
- 音と映像を理解し、意味を認識する
- 「聞く」「話す」行為と認識した情報を統合する
ほとんどの人は、言語理解は左側頭葉の一部分で制御されています。
言語理解の部位を損傷すると、感覚性失語症になることがあります。
右側頭葉の特定の領域が損傷することで、音など音楽の記憶が障害されることがあります。
その結果、歌えなくなることがあります。
一般的に記憶障害では、両側の側頭葉が損傷しないと、永続的な記憶障害はありません。
頭頂葉
頭頂葉は以下の機能を持っています。
- 体の他の部位から送られてくる感覚情報を処理する
- 触覚などから得られる情報を知覚としてまとめる
- 言語の理解などに影響を与える
- 位置の把握と方向感覚の維持に必要な空間記憶を保存する
- 体の各部分の位置や姿勢を把握するための情報を処理する
特定の機能は、片側で強く制御されている傾向があります。
反対側の頭頂葉には、別の機能があり、空間の認識などを処理しています。
反対側(非優位側)の頭頂葉が損傷すると、
- 失行(簡単な動作ができなくなる)
- 空間把握(空間内の位置関係を把握)ができない
などの後遺症があらわれることがあります。
片側の頭頂葉前部が損傷すると、損傷した反対側の半身に感覚障害が起こります。
感覚障害では、
- 触れている位置
- 振動
- 痛覚
- 温度
などを識別することが困難になります。
頭頂葉の真ん中の部分が損傷を受けると、
- 左右失認(左右がわからない)
- 計算や文字を書けなくなる
- 固有感覚(体の各部位の場所を感じること)がわからない
などの症状があらわれます。
脳卒中による後遺症の治療方法
脳卒中後遺症の治療方法は主に2つ挙げられます。
しかし、脳梗塞以外は外科治療が基本になるので脳梗塞以外は、リハビリだけになります。
リハビリにも段階があり、最初から無理してハードなリハビリを行えば命の危険性もあります。
そのため、適切な治療方法についても理解しておく必要があります。
薬物療法
脳梗塞に対する薬物療法は、再発予防が目的になります。
脳梗塞の再発予防薬は2種類あります。
1つは抗凝固薬です。
血液の凝固作用を抑制して、心臓や静脈内に血栓を作られにくくします。
不整脈の種類の一つである、心房細動が原因で起こる脳梗塞の予防に使われます。
もう1つは抗血小板薬です。
血小板の作用を抑制して血液の流れを良くし、動脈内に血栓が作られにくくします。
動脈硬化や血管の収縮が原因となる脳梗塞の予防に使われます。
最初は点滴で行い、症状が落ち着いてから飲み薬に切り替えます。
脳卒中を引き起こす危険がある高血圧や動脈硬化に対し、
- 降圧剤(血圧を下げる)
- 高脂血症薬(コレステロールを下げる)
などが処方される場合もあります。
リハビリテーション
後遺症が生じた場合でも、日常生活をおくれるようにするための治療です。
医学的な検討をした上で、
- 理学療法
- 作業療法
- 言語聴覚療法
などを行います。
脳梗塞を発症した後のリハビリは大きく分けて
- 急性期
- 回復期
- 維持期
の3段階あります。
そして、それぞれの段階によって適切にリハビリを行う必要があります。
発症後2週間までが急性期で、脳卒中の治療と同時にリハビリを始めます。
発症から3〜6ヶ月の期間は回復期と呼ばれ、日常動作や言語の訓練などを行います。
回復期以降は維持期や生活期と呼ばれ、生活の範囲を広げ動作に慣れるリハビリを行います。
脳卒中の後遺症を軽減するためのリハビリ
一般に脳卒中リハビリテーション治療は3段階に分けられます。
急性期 | 寝たきりの予防とセルフケアを目的とする |
回復期 | できるだけ最大の機能回復を目的とする |
生活期 | 回復した機能を維持することを目的とする |
急性期
治療直後は状態が変化しやすく、危険な状態になりやすいために生命維持が最優先です。
急性期で行うリハビリテーション
- 手足の関節可動域を広げる
- 麻痺のある手足を良い位置で保つ
- 寝返りを打つ
最初から座位になったり、急に手足を動かすことには危険がともないます。
回復度合いをみながら
- ベッドの角度を少しずつ上げたまま生活する
- 麻痺の起きやすい部位の関節を少しずつ動かす
などの練習を行います。
同じ疾患でも同じ後遺症が起きるとは限らない点が、ケガと異なる点です。
脳の損傷部位は同じであっても、後遺症の種類には個人差があります。
そして、回復速度にも差異が生じます。
回復期
状態や血圧が安定してきたら、症状に応じてさまざまなリハビリが開始されます。
基本的には、日常生活で必要な動作が行えるように
- 運動機能
- 嚥下機能
- 高次脳機能
などを改善させるリハビリが中心になります。
運動機能に関するリハビリでは
- 基本動作の自立(自力で座る、立つ)
- 歩行(歩行器などを用いた歩行練習)
- 応用動作(手芸や工作などの作業)
- 日常動作(食事やトイレ、着替え、入浴など)
などの訓練を繰り返し行います。
嚥下・言語機能に関するリハビリでは、
- 口周り(発声したり舌・口・のどの筋肉を動かす)
- 顔周り(首回りや肩などの筋肉を動かす)
- 間接的嚥下(凍った綿棒で喉の奥を刺激するなど)
- 直接的嚥下(ゼリーや水などを使った飲み込む練習)
などの訓練を行います。
高次脳機能障害に関するリハビリでは、
- 注意障害
- 遂行機能障害
- 半側空間無視
- 失行
- 失認
など、さまざまな障害の中から、どの障害かを認識することから始めます。
そして、障害に応じて日常生活を安全に行うためにリハビリを工夫していきます。
- プリント教材などの物を使う
- 同じ行動を繰り返す練習
- 行動の順序を確認する
などの訓練を行います。
維持期
維持期は、軽い運動も取り入れた日常生活の動作に慣れるリハビリを行います。
- クリニックで物理療法を受ける
- 生活の中の日常動作
- 散歩や軽い運動
一度回復した機能も、退院後、動かないでいることで再び機能低下が進みます。
そのため、回復後も定期的にリハビリを行いましょう。
脳卒中の後遺症の割合
18~65歳の脳卒中患者における発症後3カ月経過後の後遺症について調査研究があります。
約20%の方は脳卒中の症状が全く見られなくなりました。
また、約半数の方は軽度の後遺症がみられるものの日常生活は自立していました。
一方、約20%の方は脳卒中による後遺症が強く、生活面で介助が必要となりました。
特に5~6%の方は重度の障害が残り、常時介護が必要な状態になりました。
7%の方は脳卒中発病後3か月以内に死亡しています。
若年者でも重度の後遺症が残る方多く、死亡率が低くないことがわかります。
発症後3か月経過後の生活場所に関する調査報告がります。
64%の方は3か月以内に退院し、自宅復帰できています。
後遺症が無症状、軽症のほとんどの方は退院できていることがわかります。
18%の方はリハビリテーション専門の病院に転院しています。
脳卒中後遺症が強い方は長い時間リハビリテーションが必要なことがわかります。
出典 厚生労働省 「脳卒中患者(18-65歳)の予後」
脳卒中の後遺症を残さないためには
脳卒中の発症後すぐに体を動かすと、症状が悪化すると考えられてきました。
しかし、現在は発症直後から早期にリハビリを行うことが推奨されています。
手足そのものはケガしていませんので、脳以外に於いては健康な状態です。
そのため、長期の寝たきりを避け、廃用症候群にならないようにします。
そして、十分に基礎体力を維持する事が出来れば、早期の社会復帰にもつながります。
早期にリハビリを行うことで、後遺症を軽くし、合併症も予防できます。
また、脳卒中の疑いがある場合は、早急に病院へ行き診察を受けることも大切です。
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脳卒中の後遺症は軽度な場合が7割
厚生労働省の統計データによると、脳卒中の後遺症で軽度の障害までの方が69%です。
軽度の障害は「発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える」という段階です。
脳卒中の後遺症は早期治療ができれば、軽く抑えることが可能です。
脳梗塞の場合は、発症から数時間以内にかぎって行える特殊な治療法もあります。
しかし、脳卒中は日本人の死因上位の三大疾病の一つです。
発見が遅れることで死に直結する病気であることを意識しておきましょう。
出典:「死因分析|厚生労働省 (mhlw.go.jp)」
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脳卒中の後遺症のまとめ
ここまで脳卒中の後遺症についてお伝えしてきました。
脳卒中の後遺症の要点をまとめると以下の通りです。
- 脳卒中とは脳の血管が破れたり、詰まったりすることで起こる病気
- 脳卒中の後遺症とは運動障害、感覚障害、失語症など多岐にわたる
- 脳卒中の後遺症の治療方法は、薬物療法とリハビリ療法
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。