脳出血の回復過程では、身体状況に合わせてさまざまなリハビリを行います。
ところで、脳出血後の回復過程とはどのようなものでしょうか。
また、どのようなリハビリを行えばよいのでしょうか。
本記事では、脳出血の回復過程について、以下の点を中心にご紹介します。
- 脳出血の回復過程とは
- 脳出血の回復過程別のリハビリ
- 脳出血の回復過程で役に立つリハビリグッズ
脳出血の回復過程について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までご覧ください
スポンサーリンク
脳出血とは
脳出血とは、脳の血管が破れて出血した状態です。
脳血管から溢れ出した血液は、脳神経を圧迫することで、
- 頭痛
- 麻痺
などの症状を引き起こします。
あるいは、あふれ出した血液が固まって「血腫」となることも少なくありません。
血腫も脳神経を圧迫する原因です。
スポンサーリンク
脳出血により起こる障害
脳出血後は、さまざまな障害があらわれます。
溢れ出した血液や血腫が脳神経細胞を破壊することが原因です。
破壊された脳神経細胞は2度と元には戻りません。
そのため脳出血は、治癒後も重大な後遺症が残ることが多いです。
あらわれる症状・後遺症は、出血が起こる場所・程度によって異なります。
脳出血の症状・後遺症としては以下が代表的です。
麻痺・運動障害 | 片側の手足だけが動かしづらい・顔の片側だけが歪んでいる・箸が持てない・歩行中に身体が傾く・足を引きずる |
言語障害 | ろれつが回らない・言葉が出てきづらい・他人の言葉を理解できない |
感覚障害 | 片側の手足のしびれ・片側の手足の感覚がなくなる |
視覚障害 | 片目が見えない・視野の一部が欠ける・二重映しに見える |
意識障害 | けいれん・意識の混濁・失神 |
その他 | めまい・頭痛・嘔吐・吐き気・記憶力の低下・判断力の低下など |
脳出血による後遺症は、リハビリで軽減することも可能です。
医療法人新松田会 愛宕病院【脳出血(脳神経センター)】
脳梗塞というと、突然倒れて意識を失うイメージを持っている方が多いかもしれません。しかし、それは脳梗塞の症状のほんの一部なのです。脳梗塞の原因や症状についてよく理解することで、もしもの時に適切な対応ができるようにしましょう。また、[…]
脳出血発症後の回復過程とリハビリ方法
脳出血の発症後は、以下のような回復過程を経ます。
- 急性期
- 回復期
- 生活期
脳出血後は、麻痺などが残りやすいです。
後遺症が重度の場合、そのまま寝たきり状態に移行することも少なくありません。
後遺症を軽くして寝たきりを防ぐには、回復過程に応じたリハビリを行う必要があります。
ここからは、回復過程別にリハビリの目的や内容をご紹介します。
脳出血後の回復過程を理解するためにも、ぜひ参考にしてください。
急性期(発症~数日)
急性期は、脳出血の回復過程のうち、最初の段階です。
脳出血発症後から2週間程度が該当します。
急性期のリハビリの主な目的は、廃用症候群の予防です。
廃用症候群とは、過度な安静によって身体機能が低下する状態を指します。
脳出血によって寝つくと、そのぶん運動の機会が減少します。
運動の機会が減ると、手足の筋肉はだんだん衰えていきます。
脳出血が治癒するころには、足腰がすっかり弱っているケースは少なくありません。
結果、自力で起き上がれなくなってしまい、そのまま寝たきり状態に移行するケースは多々見られます。
寝たきりを防ぐためにも、脳出血の発症後は、なるべく手足の筋力の維持に努める必要があります。
手足の筋力を維持するには、以下のようなリハビリが行われます。
- 体位変換
- 自力で座って姿勢を維持する
- 手足を動かして関節の硬直を防ぐ
急性期のリハビリは、多くの場合、脳出血発症後48時間以内に開始されます。
ただし、リハビリ開始時期は脳内の出血状況や身体状況などによって個人差があります。
回復期(急性期後~5、6ヵ月)
回復期は、脳出血の回復過程のうち2番目の段階です。
急性期の次の回復過程が該当します。
回復期は、発症後2週間〜半年程度が該当します。
より具体的には、急性期の症状が落ち着いてから退院するまでの期間を指します。
回復期は、急性期に比べると容体が安定するため、集中的なリハビリを行います。
回復期のリハビリの目的は、日常生活に必要な動作・身体機能の強化です。
回復期の代表的なリハビリ方法は、以下のようなものがあります。
運動機能のリハビリ
回復期では、日常生活に必要な運動機能のリハビリを行います。
たとえば、以下のようなリハビリが中心となります。
- 歩行訓練
- ベッドから立ち上がる訓練
- 車いすに乗り移る訓練
- 食事・入浴・排泄・着脱などの訓練
リハビリは、理学療法士や作業療法士の指導のもとで行うことが一般的です。
言語・嚥下機能のリハビリ
発声・食事に必要な機能の回復を目指します。
具体的には、口・舌・のど周りの筋肉を強化するリハビリをします。
- 舌回し運動
- 水やゼリーなどを飲み込む訓練
- 凍った綿棒でのどの多くを刺激する
言語・嚥下機能訓練は、言語聴覚士などが担当することが多いです。
高次脳機能障害のリハビリ
高次脳機能障害とは、脳の損傷によって、認知機能などが著しく低下した状態です。
たとえば、以下のような障害が代表的です。
- 記憶障害(数分前の記憶がない・忘れたことを忘れる)
- 遂行機能障害(計画を立てて物事を実行できない)
- 失行(身体機能に問題はないが、目的をもって動かせない)
- 失認(目は見えているが、対象物を認識できない)
- 失語(発語機能に問題はないが、意味のある言葉をしゃべられない)
- 見当識障害(時間・場所・人が認識できない)
- 理解力・思考力の低下
あらわれる症状は、脳の損傷部位によって異なります。
そのため、実際に行うリハビリの内容も、症状に応じて大きく変わります。
たとえば、遂行機能障害がある場合は、同じ動作を繰り返す反復訓練が有効です。
失語がある場合は、写真やカードなどを使って言葉と意味を一致させていきます。
記憶障害がある場合は、メモを取る習慣をつけることで物忘れをカバーします。
ロボットによるリハビリ
回復期には、ロボットを使用することもあります。
主な目的は、身体機能の強化です。
たとえば、足の筋肉が落ちている方は、ロボットで足の動きをサポートします。
ロボットの助けを借りながらリハビリをすると、歩行に必要な筋肉は自然と鍛えられます。
最終的には、ロボットなしでも歩けるようになるまで足が鍛えられるというわけです。
さらにロボットは脳機能の向上にも役立ちます。
ロボットによって筋肉を正しく使うことで、その筋肉を制御する脳が刺激されるためです。
退院後のためのリハビリ
回復期では、退院後を想定したリハビリを行います。
具体的には、自宅に近い環境・場面を再現して、リハビリに取り組みます。
- ADL訓練:食事・入浴・排泄・着脱などの訓練
- 摂食・嚥下訓練:自力で食事を摂るための訓練
- 失語のリハビリ:円滑な会話や読み書きをするための訓練
脳出血から時間が経つにつれ、リハビリの成果が出にくくなることがあります。
たとえば、どれほどリハビリに取り組んでも、一定の麻痺が残るケースは多々見られます。
リハビリの効果が得にくくなると、モチベーションが下がりやすくなります。
しかし、回復期のリハビリを怠ると、身体機能はさらに低下しやすくなります。
そのため回復期は、目に見える成果がなくとも、継続的にリハビリを続けることが大切です。
ただし、回復期はリハビリのし過ぎにも注意する必要があります。
過度なリハビリは、身体に負担をかけるため、かえって身体機能を損なうことがあるためです。
ボツリヌス療法
ボツリヌス療法は、ボツリヌストキシンを注射することで、筋肉の緊張を緩める方法です。
特に、手足のつっぱりがある方に有効です。
ちなみにボツリヌストキシンとは、ボツリヌス菌が作り出す物質です。
磁気・電気刺激療法
磁気・電気刺激療法は、麻痺などの改善に用いられることが多いです。
目的は、電気刺激を手足の筋肉・神経に与えることで、筋肉を動かしやすくすることです。
電気刺激には、脳から手足に送られる指令を増強する作用もあります。
経頭蓋磁気刺激療法
経頭蓋磁気刺激療法は、頭蓋骨越しに脳に軽い磁気・電気を流す方法です。
電気を流す際は、特殊なコイルを使用します。
脳が刺激されると、脳神経の働きが活性化します。
特に、うつ症状などの精神障害が目立つ方に有効な方法です
生活期(退院後~)
生活期は、脳出血の回復過程のうち、最後の段階です。
具体的には退院後の期間が該当します。
生活期では、自宅・介護施設などで、実際に日常生活を送りながらリハビリに取り組みます。
自宅で簡単にできるリハビリの例をご紹介します。
【手首のストレッチ】
- 椅子に座ってテーブルの上で両手の指を組む
- 左右の手首を交互に曲げる
- 上記の動作を数回繰り返す
麻痺がある側の手首は、曲がりづらい可能性があります。
曲がりづらい場合、無理に曲げる必要はありません。
無理に手首を曲げると、かえって筋や靱帯を傷める可能性があるためです。
ストレッチは、自分が無理なくできる範囲で取り組みましょう。
ちなみに、関節や筋は毎日動かすことで柔軟性が高まります。
最初は動かしづらいかもしれませんが、諦めず毎日コツコツとストレッチに取り組んでみてください。
【肘と肩のストレッチ】
- 椅子に浅く腰かけ、両手を組んで肘をまっすぐ伸ばす
- 両手を組んで肘を伸ばしたの状態のまま前かがみになり、手を床につける
- 手を床につけた状態から腕をまっすぐ頭上に持ち上げ、上体を起こす
- 上記の3つの動作を15~20回繰り返す
必ず椅子に座って行ってください。
立ったまま行うと、バランスを崩して転倒するおそれがあります。
手を伸ばすときは、できるところまででかまいません。
毎日少しずつ取り組んで、身体の柔軟性を高めましょう。
脳卒中患者の予後について
脳出血は、脳卒中の1種です。
脳卒中とは、脳血管が破れたり、詰まったりして、脳細胞が破壊された状態です。
脳出血を含め脳卒中後は、後遺症がないという方も少なくありません。
実際にまったく症候がない方や、多少の後遺症はあるものの日常生活に支障がない方は、全体の69%を占めます。
対して、中等~重度の後遺症が残った方は全体の23%です。
残りの7%は死亡という結果になりました。
なお、脳卒中発症から3か月後の生活場所を調べたところ、最も多いのは自宅でした。
次に多いのはリハビリテーション病院です。
出典:厚生労働省【図表1-2-6 脳卒中患者(18-65歳)の予後】
家庭で役立つ便利グッズ
後遺症で麻痺が残ると、自宅に戻っても、以前と同じように生活することは困難です。
支障が出やすいのは、
- 食事
- 階段昇降
- ベッドの乗り降り
- 入浴
などがあります。
原因として、身体麻痺などが挙げられます。
最近は、身体麻痺がある方の生活をサポートするグッズが増えてきています。
退院後、自宅で役立つ便利グッズについてご紹介します。
食事
食事を助ける便利グッズをご紹介します。
ぜひ参考にしてください。
自助食器と自助箸
麻痺が残ると、茶碗・箸を持つのが難しくなります。
すこしでも持ちやすいように、以下のような食器をそろえましょう。
- 大きめな取っ手がついた食器
- 滑りにくい素材の食器
- すくいやすいように傾斜がついた食器
- 蓋がついたコップ
- 利き手と反対でも持ちやすい箸
瓶やペットボトルのオープナー
麻痺がある方は、手に力が入りにくいため、瓶やペットボトルの蓋をあけるのが困難です。
そんなときに役に立つのが、オープナーです。
蓋の上にかぶせると、握力が弱い方でも開栓しやすくなります。
起き上がる・昇り降りする
階段・ベッドの昇降が難しい場合は、手すりを利用しましょう。
最近は、壁に取り付けるタイプだけでなく、据え置き型の手すりも増えています。
手すりは、介護保険サービスの対象です。
レンタルサービスを利用できるほか、設置費の支給を受けられることもあります。
入浴
風呂場は、転倒が起こりやすい場所です。
事故を防ぐためにも、ぜひ以下のグッズを活用してください。
シャワーチェアー
シャワーチェアーは、介護入浴用椅子です。
ひじ掛けがついているため、洗髪や洗身中の転倒を防いでくれます。
また、立ち上がり時のふらつきを軽減する効果も期待できます。
シャワーチェアーは、介護保険サービスの対象アイテムです。
ドーナツ型のボディータオル
真ん中に穴が開いている洗身生地です。
頭からかぶり、肩に引っ掛けて使用します。
身体に固定しながら洗身できるため、握力が弱い方でも、タオルを床に落とす心配がありません。
つまり、タオルを拾おうとして転倒する、などの事故を防ぎやすくなります。
タオルを持つのが難しい方は、ミトン型の洗身布を利用するのもおすすめです。
脳出血の危険因子
脳出血のリスクを高める要因をご紹介します。
脳出血予防のためにも、ぜひ参考にしてください。
高血圧
高血圧は、脳出血の最大の危険因子です。
ちなみに、高血圧とは、血圧が140/90mmHg以上の状態です。
血圧は、心臓が血液を送り出すときに血管にかかる負荷のことです。
血圧が高くなると、血管にかかる負荷も大きくなります。
負荷が大きくなりすぎると、血管は耐え切れずにやがて破れます。
血管の破れが脳で発生すると、脳出血が起こります。
出典:国立循環器病院研究センター【高血圧】
脂質異常症
脂質異常症は、血中の悪玉コレステロール量が異常に増える状態です。
善玉コレステロール量が異常に少なくなる場合も含まれます。
脂質異常症になると、血液がドロドロになります。
ドロドロになった血液は血管を傷つけ、動脈硬化を引き起こします。
動脈硬化が起こると、血管が脆くなります。
結果、血管が血流に耐え切れずに破れてしまい、脳出血に至ります。
糖尿病
血糖値が慢性的に高い状態です。
原因は、血糖値を下げるホルモン「インスリン」の働きが低下することです。
糖尿病は、脳出血の大きな要因である
- 高血圧
- 動脈硬化
を引き起こします。
不整脈
不整脈は、心拍のリズムが異常になることです。
心拍が乱れると、血液の成分が沈殿して血栓ができやすくなります。
血栓とは、血の塊のことです。
心臓でできた血栓が血液に乗って脳に運ばれると、血管の破れ・詰まりの原因となります。
出典:近畿中央病院【不整脈とは】
歯周病
歯周病が脳卒中を招くこともあります。
歯周病菌の毒素が血管内に入り込むと、動脈硬化のリスクが高まるためです。
動脈硬化が起こると、血管が脆くなるため、破れたり避けたりするリスクが高まります。
喫煙
喫煙は、脳出血をはじめ脳卒中の代表的な原因の1つです。
タバコの煙に含まれるニコチンは、血管を傷つけるためです。
実際に喫煙習慣のある方は、非喫煙者に比べて脳卒中のリスクが2~3倍高いと指摘されています。
脳出血や脳卒中予防のためには、タバコはやめるのがベストです。
いきなり禁煙するのが難しい場合は、徐々に本数を減らして、最終的にゼロ本を目指しましょう。
大量の飲酒
大量飲酒は、脳出血を引き起こします。
アルコールは、高血圧を招くためです。
脳出血を防ぐためにも、お酒はほどほどにしましょう。
1日の酒量の目安は以下の通りです。
- 日本酒・焼酎:1合
- ビール:500ml
- ワイン:グラス2杯
- ウイスキー:60mL
脳卒中を予防するには、適度に肝臓を休ませることも大切です。
週に2回はお酒を飲まない日を設けましょう。
出典:厚生労働省【アルコール|厚生労働省】
脳出血の回復過程のまとめ
ここまで、脳出血の回復過程についてお伝えしてきました。
脳出血の回復過程についてまとめると以下の通りです。
- 脳出血の回復過程は、急性期・回復期・生活期に分けられる
- 脳出血後は、回復過程に応じて廃用症候群の予防・日常復帰などを目的としたリハビリを行う
- 脳出血の回復過程で役に立つリハビリグッズには、自助食器・箸や据え置き型の手すり、シャワーチェアーなどがある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。