緑内障は遺伝すると聞いたことがある方もいるでしょう。
緑内障は失明の確率が高い病気のため、身内・自身が緑内障になったとき、「遺伝していたらどうしよう…」と不安に思う方も多いでしょう。
もし緑内障が遺伝したら、どうすればよいのでしょうか。
本記事では、緑内障の遺伝について、以下の点を中心にご紹介します。
- 緑内障は遺伝するのか
- 緑内障と遺伝子の関係
- 先天性の緑内障と原因
緑内障の遺伝について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
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緑内障とは
緑内障とは、視野が徐々に欠けていく眼病です。
原因は、眼圧の上昇によって、眼と脳をつなぐ視神経が損傷することです。
眼圧以外の原因としては、生活習慣・ストレスが指摘されています。
遺伝も緑内障の原因の1つです。
血縁に有病者がいる方は、将来的に緑内障を発症する可能性が高いです。
緑内障は失明する可能性があるため、日頃から予防・早期発見を心がけることが大切です。
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緑内障は遺伝するのか
結論からいうと、緑内障が確実に遺伝するかどうかは解明されていません。
親類縁者に緑内障がいる方でも、緑内障を発症せずに生涯を終える方は多くおられます。
一方、身内に緑内障がいる方は、一定の確率で緑内障を発症するのも事実です。
たとえば、目の中の隅角という部位が狭い方は緑内障になりやすいです。
隅角の形状が子孫に遺伝すると、その家系では緑内障の発症率が高くなります。
ただし、緑内障を起こす遺伝子は1つではありません。
たとえ目の形状が遺伝したからといって、必ずしも緑内障になるわけではないのです。
緑内障の遺伝は、遺伝子だけではなく環境にも大きく左右されます。
代表的なのは食生活です。
たとえば濃いめの味付けを好む家庭の方は、塩分過多によって高血圧になりやすいです。
高血圧は緑内障の危険因子です。
同じ食事を摂る以上、その家族内で高血圧と緑内障を併発する方が増えても不思議ではありません。
体質的に緑内障のリスクが低い家系でも、生活環境によっては、複数の緑内障患者が出ることはあります。
反対に、体質的に緑内障になりやすい家系でも、生活習慣を改めるなどすれば、緑内障を予防できる可能性はあります。
緑内障の遺伝|遺伝子について
緑内障の遺伝については、現在研究が進められています。
緑内障の遺伝や遺伝子との関係についてみていきましょう。
遺伝子の異常
緑内障の中には、遺伝性・先天性も含まれます。
遺伝性とは、親から子に引き継がれた異常な遺伝子が原因で緑内障になることです。
一方、先天性とは、生まれつき緑内障になりやすい遺伝子を持っていることです。
先天性の場合は、必ずしも親から異常な遺伝子を引き継いだとは限りません。
先天性の緑内障は、遺伝子の突然変異によって起こることもあります。
遺伝子の突然変異とは、その名の通り、遺伝子が突然変質してしまうことです。
体質的に緑内障になりにくい親から生まれた子供が、遺伝子変異によって、生まれつき緑内障を患っているケースは少なくありません。
突然変異によって生じた遺伝子は、次世代へ遺伝します。
もともと緑内障になりにくかった家系が、ある段階を境に、緑内障になりやすい家系になる可能性はゼロではないのです。
ただし、緑内障の遺伝子や遺伝性についてはハッキリ解明されていないのが実情です。
現在は、ヒトの遺伝子配列「ヒトゲノム」の解読をもとに、病気の原因遺伝子が研究されています。
高血圧・糖尿病・ガンなどに関しては、原因となる遺伝子が複数発見されました。
今後は緑内障になりやすい遺伝子についても、発見・解明が期待されています。
遺伝子治療
現在は、緑内障をはじめさまざまな病気の遺伝子治療が始まっています。
緑内障に関しては、遺伝子の配列を調べることで、発生率を把握できるようになりました。
緑内障の将来的なリスクを知ることは、緑内障予防の意識を高めるのに役立ちます。
たとえば発生率が高い方の場合、定期的な眼科検診を受けると、緑内障を早期発見しやすくなります。
遺伝子を使った緑内障治療の研究も進んでいます。
マウスを使った実験では、Dock3というタンパク質が視神経の成長を助けることが分かりました。
Dock3とグルタミン酸受容体「NR2B」が結合すると、視神経の壊死を抑制することも判明しました。
今後は、Dock3を利用した緑内障の治療法の確立が期待されています。
出典:東京都医学総合研究所【グルタミン酸毒性による網膜神経細胞死の抑制に成功】
緑内障の遺伝|年齢による違い
遺伝による緑内障は、年齢によっても発症の仕方が異なります。
子供と成人に分けて、緑内障の遺伝について解説します。
子供
子供が緑内障を発症した場合、遺伝性・先天性の可能性があります。
特に1歳未満で発症した場合は、遺伝の可能性が高いと指摘されています。
ただし、乳幼児の緑内障は、遺伝子の突然変異で起こることも多いです。
たとえば先天性の緑内障である「発達緑内障」では、CYP1B1という遺伝子の異常が報告されています。
子供の緑内障は、外傷や薬剤の副作用で起こるケースもゼロではありません。
子供が緑内障を発症したからといって、親の遺伝子に問題があるとは限らないのです。
子供の緑内障は、治療しても症状が残ることがあります。
成長につれて目の状態が悪化することもあるため、治療後も注意深く観察する必要があります。
成人男女
成人の緑内障は遺伝・先天性の場合もあれば、後天性の場合もあります。
そもそも緑内障は眼病の中では発症率がとても高い病気です。
40代以降の方の場合、20人に1人は緑内障ともいわれています。
緑内障の発症率が高まるのは50代前後からで、ピークを迎えるのは80代です。
近年は、20〜30代の若年者での発症も増えています。
若年者の緑内障は遺伝性・先天性の場合がありますが、後天性緑内障もゼロではありません。
緑内障は決して珍しい病気ではありません。
たとえ遺伝しなくても、子や孫が後天的に緑内障を発症する可能性が高いのです。
そのため身内が緑内障になったからといって、遺伝するかどうかをそこまで気に病む必要はありません。
大切なのは、緑内障にかかった場合にどのように対処するかです。
緑内障は放置すると失明するおそれが高い病気です。
一方、早期発見・治療すれば、失明のリスクは大きく低減します。
ちなみに、緑内障によって失われた視野は、治療しても2度と元には戻りません。
緑内障は視神経の障害によって起こる病気であり、損傷した神経は再生しないためです。
広い視野を維持できるかどうかは、緑内障の治療をいかに素早く開始するかにかかっています。
身内の有病者の有無にかかわらず、もし目・視野の違和感などがある場合は、念のため病院を受診してください。
緑内障は初期には自覚しにくいため、特に目に不安がない場合でも、年に1回程度は眼科検診を受けることが大切です。
緑内障の遺伝|先天性緑内障
先天性の緑内障の1つに、発達緑内障があります。
発達緑内障は、生まれつき眼圧が高いタイプの緑内障です。
原因として、目の隅角という部分が先天的に狭いことが挙げられます。
隅角は眼球内の水分(房水)の出入り口です。
生まれつき隅角が狭い方は、眼球内の水分が外に排出されにくいため、眼圧が上がって緑内障に至ります。
発達緑内障は早発型と遅発型の2タイプに分けられます。
それぞれの特徴をみていきましょう。
早発型発達緑内障
早発型発達緑内障は、1歳未満で発症する緑内障です。
原因は、先天的な隅角の異常によって眼圧が高くなることです。
隅角の異常は親からの遺伝だと考えられていました。
しかし最近は、CYP1B1という遺伝子の突然変異によって起こるとも指摘されています。
早発型発達緑内障の治療は手術治療が一般的です。
乳幼児の場合、手術をしても目・視野・視力に異常が残る可能性があります。
遅発型発達緑内障
遅発型発達緑内障は、10~20代で発症するのが特徴です。
遅発型発達緑内障の原因は、遺伝による隅角の異常と考えられています。
そのため血縁者に緑内障の有病者がいる方は、遅発型発達緑内障のリスクが高めです。
ただし、発症率自体はさほど高くありません。
身内に緑内障有病者がいる方の発症リスクは、身内に有病者がいない方に比べると、やや高い程度です。
10〜20代の緑内障は自覚症状が少ないため、発見が遅れがちです。
そのため、気がついたときには症状がかなり進行していたというケースは少なくありません。
特に血縁に緑内障有病者がいる方は、定期的に眼科検診を受けて、緑内障の早期発見・治療につなげましょう。
遅発型発達緑内障の治療は、高齢者の緑内障治療とほぼ同じです。
まずは点眼薬治療を行い、効果が得られない場合はレーザー治療・手術などを行います。
緑内障の遺伝|生活習慣
緑内障の発症は、遺伝だけでなく、生活習慣などにも大きく左右されます。
たとえ家系的に緑内障を発症しやすい方でも、生活習慣を見直せば発症・重症化リスクは低減できます。
反対に、緑内障を遺伝していなくても、生活習慣に問題があれば発症リスクは高まります。
緑内障のリスクを上げる生活習慣とは、たとえば以下があります。
- スマートフォン・パソコンの長時間使用
- ブルーライトを長時間浴びる
- 姿勢が悪い
- 肩・首凝り
- 偏った食生活
- 睡眠不足
- 運動不足
- 不規則な生活習慣
- 喫煙
上記が緑内障のリスクを高めるのは、眼圧を上昇させるためです。
眼圧とは眼球の圧力・硬さのことです。
たとえば猫背・パソコンの長時間使用・運動不足などは肩・首凝りの原因となります。
肩・首が凝ると、頭部への血行が悪化します。
すると目周辺の血行も阻害されるため、眼圧が上がりやすくなります。
ブルーライトも緑内障の大きな要因の1つです。
ブルーライトは非常に波長が大きいため、角膜・水晶体を通過して、眼底に直接届きます。
眼底にブルーライトが直接届くと、網膜・視神経がダメージを受けるため、緑内障のリスクが上がります。
栄養バランスの悪い食事・睡眠不足なども眼圧上昇の原因となります。
なお、眼圧が高くなると、以下のような症状があらわれやすくなります。
- 目の痛み
- かゆみ
- 眼精疲労
- 頭痛
- 吐き気
もし慢性的に上記の症状がある場合、眼圧が高くなっている可能性があります。
まず第一に生活習慣を見直し、改善されなければ眼科を受診してください。
緑内障の遺伝|妊娠・授乳中の注意点
妊娠中・授乳中の方が緑内障になった場合、治療を一時中止することが一般的です。
妊娠中・授乳中だからといって、緑内障の治療を止めてもよいのでしょうか。
それぞれに分けて解説していきます。
妊娠中
緑内障治療に用いる点眼薬の多くは、妊娠中の安全性が証明されていません。
そのため妊娠中に点眼薬を利用すると、母胎・胎児に思わぬ悪影響が出る可能性があります。
たとえばプロスタグランジン系は子宮・胎盤収縮作用があるため、流産・早産のリスクが高まります。
炭酸脱水素酵素阻害薬は胎児の発育不全を引き起こす可能性があります。
母親・胎児を守るためにも、妊娠中の緑内障点眼薬の使用は中止するのが無難です。
「治療を止めて緑内障が進行したらどうしよう」と不安になる方も多いでしょう。
たしかに緑内障の進行は不安ですが、まずは母胎・胎児の安全を優先してください。
ちなみに、妊娠中は眼圧が一時的に下がることが多いです。
授乳中
授乳中の方の場合、種類に注意すれば点眼薬治療を続けられる可能性があります。
たとえばトラボプロスト系のプロスタグランジン関連薬は、点眼回数が1日1回で、点眼後の血液移行も微量です。
母乳に影響が出にくいため、授乳中に使用しても問題ないと考えられています。
ただし、授乳中の点眼薬の利用については、眼科医・婦人科医によって方針が異なります。
場合によっては、授乳が終わるまで点眼薬の利用を制限されることもあります。
もし授乳中でも緑内障の治療を受けたい場合は、かかりつけ医とよく相談してください。
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緑内障の遺伝|白内障との関係
緑内障と似た眼病に白内障があります。
白内障は目の水晶体が白濁する眼病で、進行に伴って視力が低下します。
一方、緑内障は視野が徐々に欠けていく眼病です。
緑内障と白内障は、目が見えにくくなるという点ではよく似ています。
ただし、緑内障と白内障は、回復の仕方に決定的な違いがあります。
緑内障は、治療しても視野の完全な回復は望めません。
緑内障の治療の目的は、あくまで症状の進行を抑えることです。
対して白内障は、治療すれば視力をほぼ完全に取り戻せる可能性があります。
白内障と緑内障は合併することも少なくありません。
白内障は緑内障を進行させる原因でもあります。
そのため白内障と緑内障を併発した場合は、まず白内障を治療することが一般的です。
白内障の治療後も視野・視力の回復がみられない場合は、続けて緑内障の治療が行われます。
最近は、白内障と緑内障を同時手術するケースも増えています。
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緑内障の遺伝|眼科受診
親族に緑内障有病者がいる方は、いない方に比べると緑内障のリスクが高めです。
早期発見につなげるためにも、定期的に眼科検診を受けましょう。
緑内障の検査の内容は、身内の有病者の有無に左右されません。
ただし、検診・検査を受ける際は、身内に緑内障の方がいることを伝えてください。
緑内障は、遺伝にかかわらず誰にでも起こりうる病気です。
特に40代以降は、年齢と共にリスクが高まります。
身内に有病者がいない方でも、40歳を過ぎたら緑内障に気をつけてください。
特に緑内障は末期まで自覚できないことが多いため、日頃からセルフチェックなどを行って、早期発見につなげましょう。
セルフチェックだけでなく、眼科で定期的に検診を受けることも大切です。
40歳を過ぎたら、年に1度は眼科検診を受けることが望ましいです。
緑内障は失明率の高い病気ですが、早期に治療すれば視力を失わずに済みます。
ぜひ眼科検診を受けて、緑内障の早期発見に努めてください。
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緑内障の遺伝|検査内容
緑内障の主な検査内容は以下の通りです。
視力検査 | 緑内障による視力低下の有無を調べる |
眼底検査 | 特殊な装置で瞳に光を通し、網膜・視神経の異常を調べる |
眼圧検査 | 眼圧を調べる |
隅角検査 | 検診用コンタクトをはめて隅角の状態を調べる |
視野検査 | 視野の範囲や欠損の有無を調べる |
日本における視覚障害の原因と現状
2007年・2018年の日本人の視覚障害の原因疾患の全国調査では、以下のような結果が出ました。
【2007年】
1位 | 緑内障 | 21.0% |
2位 | 糖尿病網膜症 | 15.6% |
3位 | 網膜色素変性 | 12.0 % |
【2018年】
1位 | 緑内障 | 28.6% |
2位 | 網膜色素変性 | 14.0% |
3位 | 糖尿病網膜症 | 12.8% |
出典:岡山大学【視覚障害の原因疾患の全国調査:第 1 位は緑内障 ~高齢者に多く、増加傾向であることが判明】
2007年・2018年ともに、視覚障害の原因の第1位は緑内障です。
視覚障害の原因に占める緑内障の割合は、2007年は21.0%であるのに対し、2018年には28.6%に増加しています。
緑内障による視覚障害が増加している背景として、日本の高齢化が指摘されています。
緑内障は年齢を重ねるほど発症率が高まります。
日本では平均寿命が延びていることから、緑内障患者数も増加傾向がみられます。
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緑内障の遺伝リスクを下げる予防法
緑内障は発症原因・メカニズムが解明されていません。
そのため、確実な予防法も確立されていません。
しかし、緑内障には危険因子が存在することも確かです。
危険因子を減らすことで、緑内障のリスクも下がると考えられています。
緑内障のリスクを下げるには、以下のようなポイントに注意してください。
- 高血圧・糖尿病などの改善
- 栄養バランスのよい食事
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- ブルーライトの長時間使用を控える
- 首・肩こりの解消
- 眼圧を上昇させない(眼球のマッサージ・目に力を入れる)
緑内障を予防・改善するには、眼圧を上昇させないことが大切です。
ちなみに日本人の緑内障の7割は正常眼圧緑内障です。
正常眼圧緑内障は、眼圧が正常範囲の20mmHg以下で発症する緑内障です。
もともと眼圧は正常範囲ですが、緑内障を進行させないためには、1mmHgでも眼圧を下げなければなりません。
眼圧を下げるには、やはり生活習慣を見直すことが1番の方法です。
正常眼圧緑内障の治療には、緑内障用の点眼薬も有効です。
どのような治療を行うにしろ、眼圧は眼科でしか測定できません。
緑内障のタイプを知り、適切な治療を受けるためにも、症状に気づいたらまずは眼科を受診してください。
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緑内障の遺伝のまとめ
ここまで、緑内障の遺伝についてお伝えしてきました。
緑内障の遺伝を以下にまとめます。
- 緑内障の遺伝の有無は断定できないが、もともと緑内障は遺伝しなくても発症率が高い病気
- 生まれつき緑内障を患っている場合、親からの遺伝子ではなく、遺伝子の突然変異の可能性がある
- 先天性の緑内障は遺伝と遺伝子突然変異の両方の可能性がある
最後までお読みいただき、ありがとうございました。