ペースメーカーは不整脈の治療に欠かせない治療法です。
特に徐脈性不整脈の場合は治療の第一選択肢といわれています。
ペースメーカーはなぜ不整脈に有効な治療法なのでしょうか?
ペースメーカーが必要な徐脈性不整脈とはどのような病気でしょうか?
本記事では不整脈とペースメーカーについて以下の点を中心にご紹介します。
- ペースメーカー適応となる不整脈とは
- 徐脈性不整脈のセルフチェックについて
- ペースメーカーの種類について
不整脈とペースメーカーについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
スポンサーリンク
ペースメーカーとは
ペースメーカーは徐脈性不整脈の治療に使われます。
徐脈性不整脈は脈が遅くなることで、めまいや疲労感、失神などの症状があらわれます。
ペースメーカーは徐脈により遅くなった⼼臓の拍動を助け正常に戻す働きをします。
植込まれた機器から⼀定のリズムで電気信号を⼼臓へ送ることで拍動を助けます。
現在のペースメーカーは性能の向上に加え⼩型軽量化、電池の⻑寿命化が図られています。 したがって植込み後もほとんど今までと変わらない⽣活を送ることができます。
スポンサーリンク
ペースメーカー適応となる不整脈
ペースメーカーは以下のような脈が遅くなる徐脈性不整脈の治療に必要とされます。
- 洞不全症候群
- 房室ブロック
- 徐脈性心房細動
それぞれの病態などについてご紹介します。
洞不全症候群
洞不全症候群の病態、症状、診断、治療について以下に説明します。
【病態】
洞不全症候群は心臓のペースメーカーの働きをする洞結節が機能不全になって起こります。
徐脈性不整脈の一種で高齢者に多く、通常は原因が特定できません。
原因が特定できないので洞不全症候群と呼ばれます。
症状
洞不全症候群の多くは症状が見られません。
持続性の徐脈の場合は脱力感と疲労が見られ、心拍が遅くなりすぎると失神することがあります。
診断
診断は以下のような症状と心電図検査の結果に基づきます。
- 脈が遅く不規則である
- 身体活動に関わらず脈が大きく変動する
- 運動中も脈が速くならない
治療
心拍数を上昇させるため人工的なペースメーカーを植込みます。
房室ブロック
房室ブロックの病態、症状、診断、治療について以下に説明します。
【病態】
房室ブロックは電気刺激が刺激伝導系を通る際に異常(伝導の遅れ)が生じる状態です。
房室ブロックは以下の3つに分類されます。
- Ⅰ度房室ブロック:心室への電気信号の伝導遅延
- Ⅱ度房室ブロック:刺激伝導が断続的に遮断
- Ⅲ度房室ブロック:刺激伝導が完全に遮断
徐脈性不整脈の一種で原因は加齢の他に以下のようなものがあります。
- 薬剤性(心不全や高血圧の薬など)
- 電解質異常
- 感染症(ウイルス性心筋炎)
- 急性心筋梗塞
- 心筋症(サルコイドーシスなど)
【症状】
Ⅰ度房室ブロックで症状がでることはほとんどありません。
Ⅱ度房室ブロックは心拍が遅いか不規則か、もしくは両方があらわれます。
Ⅲ度房室ブロックは心房からの電気信号が全く届かず、心室の拍動が遅くなります。
Ⅲ度房室ブロックは心室の拍動が50回/分未満、時には30回/分にもなる重篤な不整脈です。
症状は、疲労、めまい、失神がよく見られます。
【診断】
房室ブロックの検出は心電図検査で行います。
Ⅰ度~Ⅲ度までのいずれのブロックでも特徴的なパターンが認められます。
【治療】
人工ペースメーカの植込み治療はⅠ度~Ⅲ度によって以下のように変わります。
- Ⅰ度房室ブロック:ペースメーカー治療は不要
- Ⅱ度房室ブロック:ペースメーカー治療が必要になる場合がある
- Ⅲ度房室ブロック:すべての方がペースメーカーを必要とする
徐脈性心房細動
徐脈性心房細動の病態、症状、診断、治療について以下に説明します。
【病態】
心房細動では心拍数が140~160回/分と突然速くなります。
徐脈性心房細動は心房の脈が速すぎるために房室結節がうまく連絡できずに起こります。
房室結節がうまく連絡できないために結果的に心室の脈が遅くなってしまいます。
徐脈性心房細動は心房細動に房室ブロックが合併した病態となります。
徐脈性不整脈では心拍数が50回/分未満になります。
【症状】
他の徐脈性不整脈と同様、脈が遅くなることで疲れ、倦怠感、めまいなどが起こります。
まれに、心房細動に房室ブロックが合併して起こる症状があり注意が必要です。
合併して起こる症状は心房細動が持続しているのに脈が遅くて規則正しく打つ場合です。
【診断】
診断は心電図検査で行います。
脈が遅くなる夜間にホルター検査で心拍数を確認する場合もあります。
【治療】
脈が遅く症状がある場合はペースメーカーの植込み手術が適応になります。
徐脈性不整脈のセルフチェック
徐脈性不整脈のセルフチェックに関連して以下の4つが挙げられます。
- 徐脈性不整脈の症状
- 脈拍数の確認(自己倹脈)
- 徐脈性不整脈で病院を受診する目安
- 年齢と不整脈
それぞれ具体的な内容についてご紹介します。
徐脈性不整脈の症状
徐脈性不整脈になると⼼臓の拍動が減ります。
⼼臓の拍動が減ると、必要な酸素が全⾝に⾏きわたらなくなって以下のような症状があらわ れます。
- 眼前暗黒感
- 疲労感
- 作業時の息切れ
- 失神
- めまい
表記の眼前暗⿊感とは以下のような症状をいいます。
- ⽴ち上がった瞬間にくらくらする
- 意識が遠のいていく感じ
- ⻑時間⽴っていると⽬の前が暗くなる感覚
脈拍数の確認(自己検脈)
徐脈性不整脈であっても、日頃は無症状の方もいます。
日頃は無症状でも心房細動には脳梗塞などの合併症を発症するリスクがあります。
自己検脈はリスク低減のために大切なセルフチェック法です。
自己検脈の仕方は以下の通りです。
- 片側の手首を外側に回して手のひらを反す
- 手首の親指側にある動脈の位置を確認する
- 親指の付け根側に薬指の先がくるようにして、人差し指、中指、薬指の3本をあてる
- 15秒くらい脈拍の感覚やリズムを確認する
- 少し不規則なようであったらさらに1~2分続ける
徐脈の場合は、間隔が極端に長くなったりリズムの乱れが生じます。
徐脈性不整脈で病院を受診する目安
徐脈性不整脈で病院を受診する目安は以下の通りとなります。
- めまいや息切れ、失神などの症状が頻繁に出現する場合
- 自己検脈で普段より脈拍数が明らかに少なくなっている場合
- 自己検脈で脈拍の間隔が極端に長くなっている場合
心臓の機能低下や何らかの病気を原因として起こる徐脈性不整脈では突然死につながることもあります。
気になる症状がある場合は受診の目安を参考に早めに受診されることをおすすめします。
一方、アスリートには少ない拍動で十分酸素を摂ることができる徐脈の方もいます。
「スポーツ心臓」と言われる健康的な徐脈です。
年齢と不整脈
日本のペースメーカー植込み人数は年間約6万人で65歳以上が90%を占めています。
ペースメーカー植込みの平均年齢は80歳になっています。
子供についてのペースメーカー装着については明確な基準はありません。
しかし以下のような場合には将来のことも考えると迷わずに装着することが推奨されます。
- めまいや失神など徐脈の症状が強くなる場合
- 心機能が低下してきた場合
ペースメーカー植込み手術の実際
ペースメーカー植込み手術の実際について以下の5つをご紹介します。
入院期間 | 手術時間 |
不整脈に対するペースメーカーの効果 | 入院費用 |
ペースメーカー術後のリスク |
入院期間
ペースメーカー植込み手術の入院期間は、術後1週間から10日程度になります。
ペースメーカー植込み手術を受ける方への看護は術前後に注意深い観察が必要です。
看護の観察項目を以下に挙げます。
【ペースメーカー植込み手術前】
自覚症状・発作 | 健康レベル |
心電図モニター | 行動・運動制限 |
薬物の服用 | 生活水準 |
精神的不安 |
【ペースメーカー植込み手術後】
創部状態 | 合併症 |
自覚症状 | 動脈の触知 |
健康レベル | 行動・運動制限 |
薬物の投与 | 作動不全 |
ページング状態 | 社会復帰 |
自己倹脈 | 理解と把握(退院指導) |
手術時間
ペースメーカー植込み手術の手術時間は1~2時間程度になります。
ペースメーカー植込み手術には以下の2通りがあります。
- リード式ペースメーカ植込み術
- リードレスペースメーカー植込み術
どちらの手術も時間は1~2時間で終わります。
リードレスペースメーカー植え込み術は電極リードのないカプセル型でカテーテルを使用する手術となります。
不整脈に対するペースメーカーの効果
ペースメーカーは徐脈性不整脈に対して最も有効で確実な治療法です。
脈拍数をペースメーカーで維持し、徐脈が原因で起こる症状を改善することができます。
ペースメーカーを入れて体調が安定すれば通常の日常生活を送ることができます。
入院費用
ペースメーカー植込み術による入院費用は以下のような概算が示されています。
【筑波メディカルセンター病院 入院費用概算】
ペースメーカー移植術費用の概算 700,000円(入院日数7日、保険負担3割)
尚、ペースメーカー植込み術による入院費用は高額療養費制度が適用になります。
高額療養費制度を適用すれば自己負担限度額までとなります。
ペースメーカー術後のリスク
ペースメーカー植込み術で起こりうる合併症には以下のようなものがあります。
【術中の合併症】
気胸・血胸 | リードの移動・脱落 |
血管損傷 | 心室穿孔 |
心房穿孔 | 感染 |
横隔膜刺激 | 空気塞栓 |
【術後の合併症】
術後出血 | 皮下出血 |
血腫 | 血栓症・塞栓症 |
感染 | 不整脈 |
循環調節障害 | ペーシング・センシングの変化 |
【慢性期の合併症】
皮膚圧迫壊死 | リード断線 |
リード被覆損傷 | 感染 |
オーバーセンシング |
ペースメーカーの種類
ペースメーカーには以下の4つの種類があります。
- ペースメーカー(リード式ペースメーカー)
- ICD(植込み型除細動器)
- CRT(両心室ペースメーカー)
- リードレスペースメーカー
それぞれの特徴についてご紹介します。
ペースメーカー
徐脈性不整脈(洞不全症候群や房室ブロックなど)の治療に使われます。
ペースメーカーは本体とリード(電極リード)から構成されておりリード式ペースメーカーと呼ばれます。
本体は通常、胸の皮下にペースメーカーポケットを作って収納します。
リードは鎖骨の下の静脈内に挿入して心臓内まで通します。
リードは心臓の電気信号を感知したり電気刺激を与える働きをします。
ペースメーカーは電極リードを介して心臓の電気信号を24時間監視します。
心臓のリズムを整える必要があると本体から電気信号を送り正常に動くように補正します。
ICD(植込み型除細動器)
ICD(植込み型除細動器)は頻脈性不整脈の治療に使われます。
頻脈性不整脈のうち致死性の重症不整脈(⼼室頻脈、⼼室細動)に使われる治療法です。
ペースメーカーの基本的機能とともに、致死性の不整脈が出現すると頻脈を停止させます。
致死性の頻脈の出現で抗頻拍ペーシング(高頻度電気刺激や電気ショック)を働かせます。
CRT(両心室ペースメーカー)
CRT(両心室ペースメーカー)は重症心不全の治療に使われます。
心臓のポンプ機能の改善をはかるペースメーカー治療法です。
心室が何らかの障害によって電気信号にずれが生じると両心室の同期障害が起こります。
心室の同期障害によって起こるポンプ機能低下の改善をはかります。
リードレスペースメーカー
リードレスペースメーカーは従来のリード式ペースメーカーと同じ働きをします。
リードレス式ペースメーカーはより小型・軽量化されたリードのないカプセル型です。
リードレスペースメーカーの植え込み術はカテーテルを使用します。
ペースメーカーはカテーテルを使い脚の付け根の静脈から右心室まで到達させます。
リード式ペースメーカーに比べて以下のようなメリット・デメリットがあります。
【メリット】
小型・軽量 | 装着したままでMRI検査が可能 |
電池の長寿命化 | ペースメーカー装着の違和感が少ない |
感染症リスクが低い | カテーテル使用で体の負担減 |
【デメリット】
電池消耗時は本体ごと交換 | 心室のみ留置可能(現在のところ) |
心穿孔の可能性あり |
ペースメーカー植込み後の生活
ペースメーカー植込み後の生活について留意することがあります。
ペースメーカー植込みが完了し状態が安定するのには数日~2ないし3ヵ月かかります。
状態が安定すると、手術前のように一般的な運動も可能になります。
ただし以下の事は留意しておくことが重要です。
- ペースメーカーのペーシングシステムの定期健診
- ペースメーカー本体装置の交換(電池交換)
- リードの交換
- ペースメーカーに影響を与える環境や状況に注意する
ペースメーカーに影響を与える環境や状況には、例えば以下のようなものがあります。
マッサージチェア | 電位布団 |
家庭用ジアテルミー | 体脂肪計 |
全自動麻雀卓 | アマチュア無線 |
電気自動車の急速充電器 | 業務無線 |
電磁石 | 発電及び変電施設内 |
安全に使うためにはペースメーカー器具の取扱い注意事項を守ることが大切です。
不整脈とペースメーカーのまとめ
ここまで不整脈とペースメーカーについてお伝えしてきました。
不整脈とペースメーカーについての要点を以下にまとめます。
- ペースメーカー適応となる不整脈は徐脈性不整脈で洞不全症候群、房室ブロック、徐脈性心房細動の3つ
- 徐脈性不整脈のセルフチェックの方法は失神、めまい、息切れなどの症状と自己倹脈による
- ペースメーカーにはリード式とリードレス式、ICD(植込み型除細動器)、CRT(両心室ペースメーカー)がある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。