骨粗鬆症の治療には医薬品が用いられることもあります。
医薬品は骨粗鬆症の改善に高い効果を示す一方、副作用のリスクが伴います。
特に注意したいのは、顎の骨が腐る「顎骨壊死」という副作用です。
本記事では、骨粗鬆症の薬の副作用について、以下の点を中心にご紹介します。
- 骨粗鬆症の薬の主な副作用とは
- 骨粗鬆症治療薬による顎骨壊死とは
- 骨粗鬆症治療薬による顎骨壊死を防ぐには
- 医薬品以外の骨粗鬆症の治療方法
骨粗鬆症の薬の副作用について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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骨粗鬆症とは
骨粗鬆症は、骨の量が少なくなる状態です。
骨の中がスカスカの状態になるため、ささいな衝撃・転倒でも骨折しやすくなります。
特に骨粗鬆症による骨折が起こりやすいのは、腰の骨・股関節です。
骨折の箇所・程度によっては歩行が困難になるため、そのまま寝たきりに移行するおそれもあります。
出典:厚生労働省【骨粗鬆症 | e-ヘルスネット(厚生労働省)】
カルシウムは骨を作るための代表的な栄養素です。しかし、実は日本人は慢性的にカルシウムが不足しがちであることをご存知でしょうか?カルシウム不足の原因は何でしょうか?また、カルシウムが不足するとどのような症状が出るのでしょうか?[…]
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骨粗鬆症の薬による主な副作用
骨粗鬆症の治療には医薬品が用いられることもあります。
医薬品は骨粗鬆症の改善に高い効果を示しますが、一方で副作用のリスクも存在します。
骨粗鬆症の治療薬による副作用としては、次のようなものが代表的です。
主な副作用
骨粗鬆症の治療薬による主な副作用は、消化器系の症状です。
- 吐き気・嘔吐
- 食欲不振
- 胃痛
- 下痢
- 便秘
場合によっては、めまい・ふらつきなどの精神神経症状が出ることもあります。
重大な副作用
骨粗鬆症の治療薬は、稀に次のような重大な副作用を引き起こすこともあります。
- 乳がん
- 急性腎不全
- 間質性腎炎
- 顎骨壊死(がっこつえし)
顎骨壊死とは、顎の骨が腐ることです。
骨粗鬆症の薬による顎骨壊死については、後ほど改めてご紹介します。
骨粗鬆症に使用される薬別の副作用
骨粗鬆症の治療薬にはさまざまな種類があり、それぞれ効果・副作用が異なります。
代表的な治療薬の特徴と副作用をご紹介します。
出典:【骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015 年版】
カルシウム薬
カルシウム薬は、カルシウムを体内に補充するための薬です。
骨粗鬆症の原因の多くは、骨の原料であるカルシウム不足であるためです。
主な副作用には以下があります。
- 便秘
- 高カルシウム血症
高カルシウム血症とは、血中のカルシウムの量が増えすぎる状態です。
主な症状は口の渇き・倦怠感・胃腸障害で、重症化すると命を落とすこともあります。
カルシウム薬は心血管系のリスクを上げるとも指摘されていますが、医学的な証明はされていません。
カルシウム薬は、多くの場合、他の骨粗鬆症治療薬と併用されます。
具体的な医薬品としては、L-アスパラギン酸カルシウム・リン酸水素カルシウムなどが代表的です。
カルシウムは骨や歯の材料として知られています。骨や歯が脆くなっていないかは外見だけではわかりません。そのため、骨粗鬆症になっていないか不安になる方もいるでしょう。では、健康で丈夫な骨や歯を保つために必要なカルシウム摂取量はど[…]
女性ホルモン薬
女性ホルモン薬は、その名の通り、女性ホルモンを補充するための薬です。
女性ホルモン薬の副作用には以下があります。
- 乳がん
- 心血管障害
- 脳卒中
- 血栓症
特にリスクが高いのは血栓症です。
女性ホルモンには、血液を凝固させる作用があります。
そのため長期使用した場合などは、血液が固まって血栓(血の塊)ができやすくなります。
血栓が血液に乗って全身に運ばれ、心臓・脳の血管を詰まらせると、心筋梗塞や脳梗塞が起こります。
もう1つの女性ホルモン薬の代表的な副作用は乳がんです。
乳がんのリスクが高まるのは、女性ホルモン薬を長期にわたって服用した場合です。
ここで、なぜ骨粗鬆症の治療に女性ホルモン薬を用いるのかをご説明します。
女性ホルモンのうちエストロゲンには、骨吸収を抑制し、骨形成を促進する作用があります。
骨吸収とは、古い骨が破壊されて吸収されることです。
骨形成とは、古い骨にかわって新しい骨を作り出すことです。
骨吸収の量が骨形成の量を上回ると、骨量が減少に転じるため、骨粗鬆症に至ります。
特に閉経後の女性は、エストロゲンの量が激減するため、骨吸収が骨形成を上回りやすくなります。
そこで女性ホルモン薬を用いて、不足したエストロゲンを補充するというわけです。
女性ホルモン薬は男性の骨粗鬆症に用いられることもありますが、日本では効果は実証されていません。
アルファカルシドール・カルシトリオール
アルファカルシドールとカルシトリオールは、ビタミンD薬と呼ばれることもあります。
ビタミンD薬は、その他の骨粗鬆症治療薬に比べると副作用のリスクは低めです。
ただし、場合によって高カルシウム血症などの副作用が起こることもあります。
高カルシウム血症は、血中のカルシウム値が高くなる状態です。
高カルシウム血症が起こりやすくなる理由は、ビタミンDにはカルシウムの吸収を助ける作用があるためです。
最近、健康診断の結果があまり好ましくない、かぜをよく引くなどの悩みはありませんか?「これは、食生活や生活習慣が原因なの?」と疑問を持つことがあると思いますが、実はビタミンDの摂取量が原因の可能性があります。今回は必須栄養素である「ビ[…]
エルデカルシトール
エルデカルシトールはビタミンD薬とも呼ばれます。
主な副作用としては、高カルシウム血症が報告されています。
あるいは、急性腎不全や尿路結石・腎結石などが起こることもあります。
メナテトレノン
メナテトレノンはビタミンKを補う薬です。
ビタミンKには、骨の中に蓄えられたカルシウムの流出を防ぐ作用があります。
具体的にいえば、ビタミンKは、骨吸収を促進する「破骨細胞」の働きを抑制します。
破骨細胞が抑制されると骨吸収のスピードが落ちるため、骨量が減少しにくくなります。
メナテトレノンの副作用には、たとえば以下があります。
- 胃痛
- 下痢・便秘
- 吐き気
- めまい・ふらつき
- 高血圧
- 動悸
副作用ではありませんが、メナテトレノンは服用方法に注意が必要です。
「ワルファリン」という医薬品と併用できないという点です。
理由は、メナテトレノンはワルファリンの働きを弱めるためです。
ワルファリンは血液の凝固を防ぐ医薬品で、不整脈の治療などに用いられます。
ビスホスホネート薬
ビスホスホネート薬は、破骨細胞の働きを抑制する薬です。
より簡単にいえば、骨吸収を抑制して骨量の減少を防ぐ効果が期待できます。
ビスホスホネート薬の主な副作用としては、吐き気・胃痛・食道潰瘍などの消化器系症状があります。
稀にですが、顎骨壊死が起こることもあります。
副作用ではありませんが、ビスホスホネート薬では服用方法に注意しなければなりません。
ビスホスホネート薬にはさまざまな種類があり、それぞれ服用方法が大きく異なります。
たとえば毎日服用するものもあれば、週1・月1で服用するものも存在します。
また、ビスホスホネート服用方法には、以下のようなルールがあります。
- 起床直後の空腹時に約180ccの水でかまずに服用する
- ミネラルウォーター(硬水)は避け、必ず水道水で服用すること
- 服用後は少なくとも30分は横になってはいけない
- 服用後は少なくとも30分は水以外を口にしてはいけない
ビスホスホネートの服用では、上記のことをすべて実践する必要があります。
上記を守らずに服用した場合は、消化器系の副作用リスクが特に高くなります。
SERM
SERMは女性ホルモン薬の1種で、選択的エストロゲン受容体モジュレーターとも呼ばれます。
不足した女性ホルモンを補うことで、骨吸収を抑制する作用があります。
代表的な副作用としては、皮膚のかゆみ・ほてり・乳房の張りが挙げられます。
また、SERMには女性ホルモン薬と同様に、血栓症のリスクも存在します。
血栓症は、心筋梗塞や脳梗塞に発展するおそれもあります。
一方で、SERMには女性ホルモン薬のような乳がんリスクはありません。
近年は女性ホルモン薬ではなく、SERMが選択されるケースが増えています。
カルシトニン薬
カルシトニンは、骨吸収を抑制する薬剤です。
具体的には、破骨細胞の数を減少させます。
カルシトニンの主な副作用には以下があります。
- 注射部位の疼痛
- 悪心・嘔吐
- ほてり
- 発熱
- 肝障害
副甲状腺ホルモン薬
副甲状腺ホルモンを補充するための薬剤で、代表的な薬剤にはテリパラチドがあります。
主な作用は、骨形成の促進です。
甲状腺ホルモン薬は骨密度を上昇させる効果が高いため、重度の骨粗鬆症の治療に用いられることが一般的です。
一方、副甲状腺ホルモン薬には、以下のような副作用が存在します。
- 胃痛
- 吐き気・嘔吐
- めまい・ふらつき
- 注射部位の疼痛
副作用ではありませんが、投薬方法にも注意が必要です。
副甲状腺ホルモンは、インシュリンのように、自分で注射を打って投薬します。
投薬は1日1回行うため、注射の手間が煩わしいと感じることもあります。
副甲状腺ホルモン薬は最長で24ヶ月しか投薬できない点も、デメリットの1つです。
デノスマブ
デノスマブは抗RANKL抗体薬の1種です。
主な作用は、骨吸収を抑制することです。
具体的には、破骨細胞を活性化させる「RANKL」という物質にアプローチして、骨吸収を阻害します。
デノスマブの副作用には、以下があります。
- 顎骨壊死
- 低カルシウム血症
- 皮膚のかゆみ
- 腹痛
注意すべき副作用は顎骨壊死や低カルシウム血症です。
低カルシウム血症とは、血中のカルシウム濃度が低くなる状態です。
低カルシウム血症の症状としては、筋肉の痙攣・抑うつ・錯乱などが挙げられます。
デノスマブは、副作用が抜けにくい点にも留意してください。
理由は、デノスマブは効果の持続時間が長いためです。
つまり薬が身体から抜けにくい性質であるため、副作用も長引くおそれがあります。
ちなみにデノスマブの効果の持続期間は半年程度です。
そのため、投薬も6ヶ月に1回のペースで行われます。
骨粗鬆症の薬の服用時は歯の治療に注意
骨粗鬆症治療薬の服用中は、歯科治療を併用できないこともあります。
骨粗鬆症治療薬と歯科治療を併用すると、稀に顎骨壊死が起こるためです。
顎骨壊死とは、顎の骨が細菌に感染して壊死することです。
顎骨壊死のリスクが高い治療薬には、ビスホスホネートやデノスマブがあります。
ビスホスホネートなどによって顎骨壊死が起こる理由は、骨吸収が抑制されるためです。
具体的にいえば、ビスホスホネートなどは骨からカルシウムが流れ出すのを防いでいます。
一方、歯や歯茎の軟骨組織もカルシウムを原料とします。
骨からカルシウムの流出が止まると、新しい歯や歯茎などが作られなくなります。
たとえば抜歯したあとの歯茎には穴があきます。
通常であれば、体内のカルシウムを使って歯茎の穴は修復されます。
しかしビスホスホネートを服用していると、骨からのカルシウム供給を受けられません。
歯茎には穴が開いたままになるため、細菌感染が起こりやすくなります。
結果、細菌が繁殖して炎症を起こし、顎の骨を腐らせるというわけです。
骨粗鬆症治療薬を服用する際は、歯茎が傷つくような治療は避けるのが無難です。
たとえば抜歯治療のほか、差し歯・インプラント治療などが代表的です。
出典:厚生労働省【ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死 】
顎骨壊死の副作用が起こらないようにするには
骨粗鬆症治療薬による顎骨壊死を防ぐには、まず、骨粗鬆症治療薬の服用と歯科治療をずらすことが大切です。
歯科治療は骨粗鬆症の治療の前か、治療終了後に行いましょう。
どのくらいの間隔を空けるべきかは個人差があります。
一般的には、骨粗鬆症治療と歯科治療は3ヶ月程度の間を設けることが望ましいでしょう。
ときには骨粗鬆症の治療と歯科治療を同時進行しなければならない場合もあります。
骨粗鬆症と歯科治療を同時に行う場合は、骨粗鬆症の治療薬を服用していることをかかりつけの歯科医に相談しましょう。
骨粗鬆症の治療中は、口腔を清潔に保つことも大切です。
口腔を清潔に保つことで、細菌感染のリスクが大きく低減するためです。
口腔の衛生を保つには、丁寧な歯磨きが大切です。
あわせてフロスや歯間ブラシを使うと、食べかす・汚れが歯に残りにくくなります。
もし顎骨壊死の症状があらわれた場合は、ただちに歯科医院を受診してください。
顎骨壊死の症状には、たとえば以下があります。
- 口中や唇に痛み・しびれがある
- 顎が腫れている
- 歯茎から膿が出る
- 歯がぐらつく・抜ける
顎骨壊死は、無症状のまま進行することもあります。
自覚症状があらわれない場合は、重症化するまで顎骨壊死に気づけません。
つまり、「気がついたときには顎の骨が腐っていた」という事態が起こりえるのです。
骨粗鬆症治療薬の服用中は、たとえ歯・口中に異常を感じなくとも、定期的に歯科医院で診察を受けることが大切です。
骨粗鬆症の薬以外の治療法
治療薬の副作用が心配な場合は、薬を用いずに骨粗鬆症を治療するのも1つの方法です。
薬物療法以外の治療法としては、生活習慣の見直しが代表的です。
具体的には、食生活の改善・適度な運動を心がけましょう。
たとえば食事で意識したいのは、カルシウムの摂取です。
カルシウムは骨の原料となる栄養素ですが、体内では合成されません。
そのため、カルシウムは食事などから摂取する必要があります。
カルシウムが豊富な食品は、牛乳や乳製品のほか、小魚・緑黄色野菜・大豆製品があげられます。
適度な運動も骨粗鬆症の改善に役立ちます。
運動時に身体に加わる物理的な衝撃は、骨を強くする効果があるためです。
たとえばウォーキング・ジョギングなどは、足の裏に適度な衝撃が加わります。
すると骨を作る骨芽細胞の働きが活性化されるため、骨量の改善が期待できます。
その他の治療法としては、禁酒・禁煙や日光浴もおすすめです。
お酒・タバコは体内のカルシウム量を減らす作用があります。
骨粗鬆症治療のためには、飲酒・喫煙はやめるのがベストです。
一方、日光浴には体内のビタミンDの量を増やす効果があります。
ビタミンDはカルシウムの吸収を助ける作用があるため、骨粗鬆症治療に役立ちます。
日光浴でビタミンDを増やすには、肌に直接紫外線をあてる必要があります。
紫外線を遮る日焼け止め・長袖・日傘の使用は、できる限り控えましょう。
ガラスも紫外線を遮るため、窓越しの日光浴はビタミンDの合成には役立ちません。
日光浴の時間は冬場なら1時間程度、夏場は30分程度が目安です。
日差しがきつい季節は熱中症などのリスクがあるため、無理に日光浴をする必要はありません。
どの治療法が適しているかは個人の状態によって異なります。
たとえば重度の骨粗鬆症の方が急に運動すると、かえって骨折しかねません。
自身に適した治療方針については、かかりつけの医師と相談することが大切です。
出典:農林水産省【大切な栄養素カルシウム】
出典:厚生労働省【骨粗鬆症の予防のための食生活 | e-ヘルスネット(厚生労働省)】
出典:厚生労働省【骨粗鬆症予防のための運動 -骨に刺激が加わる運動を | e-ヘルスネット】
カルシウムはさまざまな食品に含まれています。また、骨を強くする以外にもさまざまな効果があります。より効果を得るために、効率よく摂取する方法を知りたいと思う方は多いと思います。今回はカルシウムについて、以下の点を中心にご紹介します。[…]
骨粗鬆症の薬の副作用のまとめ
ここまで、骨粗鬆症の薬の副作用についてお伝えしてきました。
骨粗鬆症の薬の副作用の要点を以下にまとめます。
- 骨粗鬆症の薬の主な副作用は胃痛・吐き気などの消化器系症状だが、重篤な場合は乳がん・顎骨壊死などが起こることもある
- 骨粗鬆症治療薬による顎骨壊死とは、抜歯治療をした部位などが細菌感染して、顎の骨が腐ること
- 骨粗鬆症治療薬による顎骨壊死を防ぐには、骨粗鬆症の治療と歯科治療の時期をずらすほか、口腔内を清潔に保つことが大切
- 医薬品以外の骨粗鬆症の治療方法としては、食生活の見直し・適度な運動・日光浴・禁酒・禁煙など
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。