腹水はお腹に水が溜まる病気です。
腹水にはがんを原因とするものもあります。
がんと腹水とはどのような関係があるのでしょうか?
腹水の治療にはどのようなものがあるのでしょうか?
本記事ではがんと腹水の関係性について以下の点を中心にご紹介します。
- 腹水が溜まる原因について
- 腹水貯留のメカニズムについて
- 腹水穿刺について
がんと腹水の関係性について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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がんとは
がんは悪性腫瘍ともいわれます。
腫瘍は体の中にできる細胞のかたまりで悪性のものと良性のものがあります。
悪性腫瘍は体の中にできた細胞がコントロールされることなく浸潤したり転移するものをいいます。
浸潤とは腫瘍が増殖しながら周囲に浸み出て広がることです。
また、転移は体のいろいろなところに飛び火し、かたまりを作ることです。
良性腫瘍は細胞のかたまりがゆっくりと増えるものの浸潤や転移はしません。
がん(悪性腫瘍)は、がん発生の細胞の種類によって、以下の種類に分けられます。
- 癌腫
- 肉腫
- 血液がん
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腹水とは
腹水はお腹の中に水(タンパク質を含む体液)が溜まった状態です。
通常、お腹の中には腸がスムーズに動くために50mL程度の腹水が存在しています。
正常時は腹水は腹膜などでの産生と、血管や腹膜での吸収でバランスを取っています。
腹水は「腹水の過剰産生」や「腹水の排出の妨げ」でバランスが崩れて起こります。
腹水はタンパク質がどのくらい含まれているかで以下のように分類されます。
- 滲出液腹水(タンパク質の多い液体の腹水)
- 漏出液腹水(タンパク質の少ない液体の腹水)
腹水が溜まる原因
腹水が溜まる原因について以下の3点を挙げます。
- がんの種類
- 病態
- 腹水が溜まる原因はがんだけではない
それぞれについてご紹介します。
がんの種類
腹水が溜まる原因の1つにがんがあります。
腹水の溜まるがんには以下のようなものがあります。
卵巣がん | 子宮体癌 |
乳がん | 大腸がん |
胃がん | 膵臓がん |
病態
がんを原因とする病態には以下のようなものがあります。
- がん性腹膜炎
- 腹膜播種
- 肝転移
- 血管内浸透圧低下
腹水が溜まる原因はがんだけではない
腹水はがん以外に以下のような疾患が原因で溜まります。
心不全 | 腎不全 |
肝硬変 | ウイルス性肝炎 |
膵炎 | 結核性腹膜炎 |
それぞれの原因についてご紹介します。
【心不全】
心不全の腹水は漏出液で血管内圧の上昇が原因となって出現します。
心不全により静脈での血液の滞留が血管内圧の上昇を招き、水分が浸み出て腹水が増えます。
【腎不全】
体の水分量は腎臓によって一定に保たれています。
腎不全の悪化で尿量が減ると体の水分量が増えて水分が滞留します。
お腹に滞留した水分は腹水となります。
【肝硬変】
肝硬変は体に症状があらわれる非代償期になると腹水などの合併症が出現します。
肝硬変の腹水は血管内圧の上昇とアルブミンの減少の2つを原因とする代表的な疾患です。
【ウイルス性肝炎】
ウイルス性肝炎は肝炎ウイルスによって肝機能障害を引き起こす病気です。
中でもC型肝炎は慢性化すると腹水の合併症を伴う肝硬変に進むことがあります。
【膵炎】
膵炎によって膵液が腹腔内に漏れ出して貯留する膵性腹水があります。
膵内で炎症が起こると活性化した膵酵素が血液や尿、腹水へと溢れだします。
【結核性腹膜炎】
結核性腹膜炎は細菌感染を伴う特発性細菌腹膜炎の1つです。
特発性細菌腹膜炎は結核や肝硬変、ネフローゼ症候群などに伴って発症します。
症状の1つに腹水貯留があります。
腹水貯留のメカニズム
腹水が貯留するには以下のような要因が挙げられます。
- 腹水の生産量が多い
- 腹水が吸収されにくい
- 排水が難しい状態
それぞれの要因についてご紹介します。
腹水の生成量が多い
腹水が起こる原因の1つに「腹水の過剰産生」があります。
腹水の過剰産生は主に腹膜の炎症によって起こります。
がん性の腹膜炎は、がんがもとの部位から腹腔内へ転移したときに起こります。
肝臓がんや大腸がん、胃がんなどが進行して転移したがんを腹膜播種といい、がん性腹膜炎を起こします。
がん性腹膜炎があらわれたときは、がんが末期に近い状態のときです。
腹水の溜まりによる痛みや腸閉塞、水腎症などの合併症を起こします。
腹水が吸収されにくい
腹水貯留の要因の1つに「腹水が吸収されずに排出が妨げられる」ことがあります。
腹水が吸収されにくい原因には以下の2つがあります。
- 血管内圧の上昇
- アルブミン不足
それぞれの原因について説明します。
【血管内圧の上昇】
がんが肝臓や肝臓へ血液を送る門脈に及ぶと肝臓内で血圧の上昇が起こります。
血管内圧が高くなると不要になった腹水を血管に吸収することができなくなります。
腹水を吸収できずに圧の高い血管内から水分が外に滲だして腹水になります。
【アルブミン不足】
アルブミンはタンパク質の1種です。
アルブミンの役割は血管中の水分量の保持と余分な水分を血管に吸収することです。
アルブミン不足は腹水の吸収不良をきたし、血管の水分が外に滲だして腹水になります。
排水が難しい状態
腹水貯留の要因のもう1つは「排水機能の低下」があります。
腹水は正常時は腹膜で吸収されて血管内やリンパ管を通じて排水されます。
がんの影響でリンパ管や血管の循環が阻害されて排水ができなくなることがあります。
排水ができなくなることで腹水が滞留したままになってしまいます。
がんに対する治療
がんに対する治療について以下の2つを説明します。
- がんにみられる主な症状
- 主な治療
がんにみられる主な症状
がんの種類によって違いますが、がんの主な症状は以下のようなものです。
癌性疼痛 | 腹水 |
胸水 | 腹痛 |
浮腫 | 黄疸(肝) |
嘔気(吐き気) | 嘔吐 |
吐血 | 腸閉塞 |
体重減少と疲労 | リンパ節の腫れ |
主な治療
主ながんの治療法を以下の表にまとめました。
【主ながんの治療法】
主ながんの治療法
治療の概要
手術(外科治療)
腫瘍や臓器の悪いところを切除する
薬物療法
化学療法(抗がん剤)、ホルモン療法、分子標的療法など
放射線治療
患部に放射線をあてがん細胞を死滅させる
内視鏡治療
口や肛門、尿道から内視鏡を挿入し治療する
造血幹細胞移植
造血幹細胞を点滴で投与する治療で血液がんや免疫不全症などに適用
免疫療法
免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法
がんゲノム医療と
がん遺伝子検査
ゲノム情報に基づく薬物療法
がん遺伝子検査に基づく個別化治療
がんとリハビリ医療
がんやがん治療による体への影響に対する回復力、体力の維持・向上目的として受ける治療
緩和ケア
がんに伴う心と体のつらさを和らげる治療法
出典:【診断と治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]】
腹水に対する治療
腹水に対する治療について以下の2つを説明します。
- 腹水貯留に伴う主な症状
- 主な治療
腹水貯留に伴う主な症状
腹水が少量のときは自覚症状があまりみられません。
腹水が大量になると胃の圧迫や横隔膜の押し上げで以下のような症状がみられます。
蛙腹になる | おへそが飛び出る |
胃の圧迫で食事が摂れない | 吐き気がする |
息切れ | 足のむくみ |
主な治療
腹水の主な治療方法には以下のようなものがあります。
【安静にする】
- 肝臓に血液が入りやすくして腹水の産生を減らす(肝硬変の方など)
- 腎臓に血液が届きやすくなり余分な水分を尿で排出できる
【塩分制限】
塩分を摂りすぎると血液中のナトリウム濃度を下げるために体は水分を溜めようとします。
利尿剤の効果を出すためには塩分の制限が必要です。
塩分の制限は水分の制限にもつながりますが、症状によっては水分量の制限も必要です。
【利尿薬】
食事療法による効果が得られない場合、通常は利尿薬(サムスカなどのV2-受容体拮抗剤)を使います。
【腹水の排出】
症状が強い場合や腹水を急いで減らす場合は、お腹に針を刺して腹水を排出します。
腹水ろ過濃縮再静注法(KM-CART)を用いて抜いた腹水の栄養分を体に戻すこともあります。
【アルブミンの点滴】
腹水の原因がアルブミンの不足である場合は血液製剤のアルブミンの点滴を行います。
アルブミンの点滴には使用日数制限があるので注意が必要です。
腹水穿刺
腹水穿刺について以下の5つを説明します。
- 腹水穿刺とは
- 腹水穿刺の注意点
- 腹水の量を測定する方法
- 効果
- リスク
腹水穿刺とは
腹水穿刺とは、針を刺して腹腔内に貯留した腹水を抜くことをいいます。
腹水穿刺の目的は以下のようなものです。
- 腹水貯留の原因が特定できない腹水の分析・診断
- 抗がん剤の注入
- 腹水貯留による苦痛緩和
腹水穿刺の適応は原因の特定できない腹水貯留と難治性腹水です。
腹水の分析で調べる内容は以下のようなものです。
腹水の種類(滲出性、漏出性) | 色 |
にごり | 血液 |
細菌 | がん細胞の有無 |
腹水をそのまま放っておくと、低栄養やがんの進行で腹水のさらなる貯留を招きます。
【腹水穿刺の排液量】
排液量については以下のことを考慮することが必要です。
- 排液量は1,000mL/時を超えないようにする
- 1回の排液量は1,000~3,000mLにとどめる
- 1回の排液量が2,000mLを超える場合は、代用血漿やアルブミンの頸静脈投与を考慮する
【腹水穿刺を行う場所】
腹水穿刺治療は合併症を発症するリスクがあります。
腹水穿刺は実施前、実施中、実施後も看護観察を必要とする治療です。
腹水穿刺治療は一般的に病院で行う治療法ですが在宅で行う場合もあります。
腹水の量を測定する方法
腹水の量を測定する方法には以下のようなものがあります。
- 超音波検査による定量
- 定期測定による体重増加量からの推定
腹水穿刺を行うのは1日に1,000ml以下を目安にします。
効果
腹水穿刺に伴う効果は以下のようなものがあります。
腹水が減る | 腹部膨満感の軽減 |
食事が摂りやすくなる | 呼吸が楽になる |
足のむくみの軽減 | 座位が保てる |
リスク
腹水穿刺治療における観察項目や起こりうる合併症には以下のようなものがあります。
バイタルサインの悪化 | 呼吸状態の悪化 |
穿刺部位の出血 | 排液量 |
排液の性情(血性、便汁様) | 腹痛 |
電解質異常 | ショック(急激な血圧低下による) |
腹腔内出血 | 消化管損傷(腸管穿孔) |
感染 | 循環動態 |
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がんの症状で腹水があらわれた|余命どれくらい?
腹水はがんの末期にあらわれることが多い症状です。
残された余命の目安は1~2ヵ月ともいわれますが人によって異なるため一概にはいえません。
余命は腹水が決定づけるというより、もとのがんの状態によって変わってきます。
腹水のあらわれた患者のケアは、主に腹水の排出促進、症状の緩和になります。
余命の改善については正しい緩和ケア医療によって余命が伸びるとの研究報告があります。
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緩和ケア医療について
緩和ケア医療について以下の3つをご紹介します。
- 緩和ケアの正しい認識
- 緩和ケアの介入により生存期間が延長
- 終末期の患者さんに点滴が必須でない理由
緩和ケアの正しい認識
正しい緩和ケアは手術や抗がん剤治療が始まったときからスタートします。
医療の基本は患者を苦しみから開放することにあるからです。
一般的に、緩和ケアは手術や抗がん剤治療などのがん治療の先にあるとの誤解があります。
WHOは緩和ケアを以下のように定義しています。
「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチ」
緩和ケアの介入により生存期間が延長
緩和ケアの介入によりがん患者の生存期間が延長するとの報告があります。
Temel, NEJM 2010の「早期からの緩和ケア」に関する臨床試験では以下のような結果が報告されました。
【診断からの余命】
診断からの余命はいずれの生存率でみても、緩和ケアを介入した方が長くなっています。
例えば、生存率30%では以下のような違いがあります。
- 通常のケア :余命約15ヵ月
- 緩和ケアの介入 :余命約25ヵ月
出典【進行がんの治療と緩和ケア(ページ8)】
終末期の患者さんに点滴が必須でない理由
終末期の患者さんに点滴は必須ではなく、かえって害があるといえます。
経口摂取が困難な場合は最低限の水分、薬剤を皮下投与することができます。
終末期の方は体の細胞が水分を取りこめない状態になっています。
強制的に水分を入れると腹水が増えて、かえってつらい状況を引き起こすことになります。
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がんと腹水の関係性についてまとめ
ここまでがんと腹水の関係性についてお伝えして来ました。
がんと腹水の関係性についての要点を以下にまとめます。
- 腹水の溜まる原因に卵巣がん、子宮体がん、胃がん、大腸がん、膵臓がんなどのがんがある
- 腹水貯留はがん性腹膜炎による腹水の過剰産生、血管内圧の上昇やアルブミン不足による腹水の吸収不良、排出機能の低下を原因とする
- 腹水穿刺は大量にたまった腹部に針を刺して腹水を排出する難治性腹水の治療法
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。