肝臓病になるとお腹に水がたまりやすくなります。
なぜ、肝臓病では腹水がたまるのでしょうか。
また肝臓病で腹水がたまった場合、どのような治療法があるのでしょうか。
本記事では、腹水がたまる肝臓病について、以下の点を中心にご紹介します。
- 腹水がたまる肝臓病とは
- 肝臓がんで腹水がたまるステージの目安
- 肝臓病による腹水の治療法
腹水がたまる肝臓病について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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腹水とは
腹水とは、お腹の中に水がたまった状態です。
より具体的にいうと、腹膜と内臓の間にある腹腔という部分に水がたまった状態を指します。
腹膜とは、内臓を包んでいる膜のことです。
腹腔に大量の腹水がたまると、胃などが圧迫されるため、食欲不振・吐き気などがあらわれることがあります。
腹水が溜まる主な原因としては、肝硬変や肝臓がんなどの肝疾患が挙げられます。
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肝臓の病が原因の腹水
腹水がたまる代表的な原因が、肝臓の疾患です。
具体的には、肝臓がんや肝硬変が該当します。
それぞれの疾患と腹水の関係について解説します。
肝臓がん
肝臓がんは、肝臓の細胞ががん化することで起こります。
肝臓がんが腹水を引き起こすのは、門脈という血管の血圧が上昇しやすくなるためです。
門脈とは、腸と肝臓を結ぶ太い血管です。
門脈の血圧が上がると、肝臓や腸の表面の体液が染み出しやすくなります。
染み出した体液は、腹水としてお腹の中に蓄積されます。
特に肝臓がん末期の方は、腹水がたまりやすくなります。
肝臓がんは、重症化するまで発見されにくい病気です。
理由は、肝臓は多少の不調では自覚症状があらわれにくい「沈黙の臓器」であるためです。
肝臓がんも初期には自覚症状はほとんどあらわれません。
がんに気づいたときには、すでに治療が難しいほど重症化していたというケースは非常に多くみられます。
肝臓がんを早期発見するには、定期的に健康診断を受けることが大切です。
肝炎ウイルスに感染したり、肝臓でなにか不安な症状が出たりした場合も、念のため病院で検査を受けましょう。
肝硬変
肝硬変とは、慢性肝疾患などの進行によって肝臓が硬くなった状態です。
具体的には、肝臓全体に「線維」という物質が増えた状態を指します。
線維はタンパク質の1種で、本来は肝臓の炎症を修復する役割があります。
しかし肝臓の炎症によって線維が増えすぎると、肝臓がゴツゴツと硬くなり、サイズも小さくなります。
肝臓に炎症が起こる理由としては、B型・C型肝炎ウイルスへの感染や、大量飲酒・脂肪肝などが挙げられます。
肝硬変は、初期には自覚症状がほとんどあらわれません。
症状がない時期は代償期と呼ばれています。
肝硬変が進行すると、さまざまな自覚症状があらわれます。
肝硬変の症状があらわれる時期は非代償期と呼ばれています。
非代償期の症状としては、以下のようなものが代表的です。
- 黄疸
- 茶褐色の尿
- 浮腫
- 食道静脈瘤破裂による吐血
腹水も肝硬変の代表的な症状です。
肝硬変で腹水が起こる原因は、大きく分けて2つあります。
肝硬変による腹水の原因(門脈圧亢進)
肝硬変による腹水の原因の1つが、門脈圧亢進症です。
門脈圧亢進症とは、門脈という血管の血圧が高くなった状態です。
門脈は腸と肝臓を結ぶ大きな血管です。
具体的には、体内を巡った血液が肝臓に流れ込む通路が門脈です。
門脈圧亢進症が起こると、門脈の血流が悪くなります。
つまり、全身を巡った血液が肝臓に流れ込みづらくなるのです。
肝臓の入り口でせき止められた血液は、やがて門脈や肝臓の表面にしみ出して腹腔にたまります。
腹腔にたまった血液・体液が、腹水の正体というわけです。
肝硬変による腹水の原因(アルブミンの低下)
アルブミンの低下は、肝硬変による腹水の代表的な原因です。
アルブミンとは肝臓で作られる物質で、体内の浸透圧を調整する作用があります。
具体的には、アルブミンは血管内外の水分量を調整しています。
肝硬変によって肝機能が低下すると、アルブミンが作られにくくなります。
アルブミンの量が少なくなると、血液の浸透圧調整に支障があらわれます。
結果として、血管の中から外へ水分が漏れやすくなります。
血管内から外へ漏れ出た水分は、腹水として体内にたまります。
肝臓病による腹水の自覚症状
肝疾患によって腹水がたまると、胴囲が大きくなったり、体重が増えたりします。
重症化すると、お腹が丸く張り出す「蛙腹」になることもあります。
腹腔内に溜まった腹水は、他の臓器を圧迫することで、さまざまな不調をもたらします。
たとえば胃腸が圧迫されると、腹痛・食欲不振・吐き気・便秘などが起こりやすくなります。
腹水によって肺が圧迫された場合は、息切れなどの呼吸器系の症状が出ることもあります。
さらに腹水は、足首周りの浮腫を引き起こすこともあります。
体内にたまった腹水は、重力に引っ張られて足首にたまりやすくなるためです。
肝臓がんで腹水がたまってきたら
肝臓がんの末期には、肝硬変が進んで腹水がたまりやすくなります。
肝臓がんで腹水がたまり始めたら、余命について考えはじめるタイミングです。
肝臓がんの自覚症状
多くの場合、肝臓がんは、初期にはほとんど自覚症状がありません。
自覚症状があらわれた場合は、すでに中期から末期にさしかかっている可能性があります。
肝臓がんの自覚症状としては、たとえば以下が代表的です。
- 黄疸
- 浮腫
- 著しい体重減少
- むくみ
- 下痢
個人によって、あらわれる症状の種類や程度は大きく異なります。
腹水がたまるがんのステージの目安
腹水がたまるのは多くの場合、肝臓がんの末期です。
一般的なステージでいえば、ステージ3以降が該当します。
ちなみに、肝臓がんのステージは以下のように分類されています。
【条件】
肝がんが、
- 1個のみ
- 直径で2cm以下
- 血管・リンパ節の中に入り込んでいない
【ステージの分類】
ステージ1
条件1・2・3をすべて満たす
ステージ2
条件1・2・3のうち2個該当する
ステージ3
条件1・2・3のうち1個のみ該当する
ステージ4
条件が1個も該当しない
条件1・2・3にかかわらず、リンパ節転移・遠隔転移があるもの
出典:香川労災病院【肝がんとは | 香川労災病院 – 香川県丸亀市の総合病院】
がんで腹水が溜たまった時点での余命の目安
肝臓がんで腹水がたまっている場合、ステージ3以降の末期と考えられます。
末期の肝臓がんの余命は個人差があるため、一概にはいえません。
しかし一説では、末期の肝臓がんの5年生存率は10%以下と指摘されています。
肝臓癌末期にできる治療とケア
肝臓がん末期によるケア・治療は対症療法が中心となります。
対症療法とは、がんそのものを治すのではなく、がんによる症状の緩和を目指す方法です。
たとえば肝臓がん末期には、腹水がたまり、腹部膨満感やむくみなどに悩まされるケースがみられます。
対症療法としては、腹水を抜くなどの方法があります。
肝臓がん末期には死への不安・恐怖などが大きくなるため、心のケアも非常に重要です。
腹水の原因が肝臓の場合の治療方法
肝臓病による腹水を改善するには、まず根本原因の治療が大切です。
ここからは、肝臓病の主な治療法をご紹介します。
利尿剤投与
体内にたまった腹水を外に出すために、利尿剤が用いられることがあります。
利尿剤とは、尿の量を増やして排尿を促す薬剤です。
代表的な利尿剤は、スピロノラクトン・フロセミド・ラシックスなどです。
近年は、肝硬変による腹水治療にはトルバプタンを用いることも増えています。
アルブミン精製の点滴
利尿剤で腹水が改善されず、かつアルブミンの値が低い方には、アルブミン製剤が投与されます。
アルブミンは体内の水分量を調整する物質です。
肝臓疾患の方はアルブミンが体内で合成されにくいため、薬剤によって補給する必要があります。
腹水穿刺吸引
薬物で腹水が改善されない場合は、腹水穿刺が行われることが一般的です。
腹水穿刺とは、お腹から腹腔内に細い針を刺して腹水を抜く方法です。
腹水穿刺の際は、血圧低下・腎不全・ショック状態などに注意しましょう。
特に大量の腹水を一度に抜く場合は、水分と一緒に体液や大切な栄養素まで失われるため、副作用が起こりやすくなります。
腹水穿刺後にショック状態などがあらわれた場合は、アルブミン投与が行われます。
腹水濾過濃縮再静注法(CART)
CARTは、抜いた腹水を濾過して体内に戻す方法です。
具体的には、腹水から有害物質だけを取り除き、必要な栄養素を凝縮して身体に戻します。
CARTでは身体に必要な栄養や体液は保持されるため、副作用が起こりにくい点がメリットです。
副作用を減らすことは、腹水吸引後のアルブミン製剤の節約にもつながります。
経頸静脈肝内門脈大循環シャント(TIPS)
TIPSは、腹水穿刺などで対処できない難治性腹水の治療に用いられます。
TIPSとは、頸動脈から肝臓の門脈までカテーテルを挿入する方法です。
具体的には、血圧が高くなっている門脈から、血圧の低い方へ血液を流します。
すると門脈などから血液がしみ出しにくくなるため、腹水の改善が期待できます。
腹腔・頸静脈シャント(PVシャント)
PVシャントは難治性腹水の治療に用いられます。
PVシャントでは、腹水がたまった腹腔と頸静脈の間に、逆流防止弁つきのカテーテルを挿入する方法です。
水分が腹腔から頸静脈に逃がされるため、腹水がたまりにくくなります。
PVシャントでは、腎機能の改善のほか、利尿剤などの薬剤の効きが良くなる効果も期待できます。
腹水が引き起こす合併症
肝臓病による腹水は、さまざまな合併症を引き起こすことがあります。
代表的なのが特発性細菌性腹膜炎です。
特発性細菌性腹膜炎とは、腹腔内に細菌などが侵入して起こる腹水の感染症です。
特に肝硬変患者や腹水がたまっている方に多くみられます。
肝臓病の方は、免疫能が低下しやすいためです。
通常であれば排除できるような細菌・ウイルスが簡単に体内に侵入するため、腹水の感染症が起きやすくなります。
肝臓病の罹患数
平成31年の厚生労働省の調査を参照します。
男性のがん罹患数は99万9,075人でした。
男性のがんのうち、上位5位は以下の通りです。
- 前立腺
- 大腸
- 胃
- 肺
- 肝および肝内胆管
男性のがんのうち、肝臓がんが占める割合が大きいことが分かります。
対して女性では乳房・大腸・子宮などのがんが目立ち、肝臓がんは10位以下となりました。
具体的な男女の罹患数は以下の通りです。
男 | 2万5,339 |
女 | 1万1,957 |
総数 | 3万7,296 |
男女別でみると、肝臓がんは男性の方が半数以上多いことが分かります。
出典:厚生労働省【全国がん登録 罹患数・率 報告】
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腹水がたまる肝臓病のまとめ
ここまで、腹水がたまる肝臓病についてお伝えしてきました。
腹水がたまる肝臓病の要点を以下にまとめます。
- 腹水がたまる肝臓病とは、肝臓がん・肝硬変が代表的
- 肝臓がんで腹水がたまるのは、ステージ3以降の末期が多い
- 肝臓病による腹水の治療法は、利尿剤などの薬物療法のほか、腹水穿刺やCART法などがある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。