嚥下障害は高齢者がかかることが一般的です。
しかし近年は、20代の若年者の方が嚥下障害を発症するケースも増えています。
20代の嚥下障害の特徴・原因とは、どのようなものなのでしょうか。
本記事では、20代の嚥下障害の効果について、以下の点を中心にご紹介します。
- 20代の嚥下障害の原因
- 嚥下障害のセルフチェック方法
- 嚥下障害の予防方法
20代の嚥下障害について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
嚥下障害とは
嚥下障害は、なんらかの原因で嚥下がうまく行えない状態です。
嚥下とは、食べ物・飲み物を口に入れて飲み下す動作を指します。
嚥下には次の5段階があります。
先行期 | 目の前の食べ物を目・鼻などで「食べ物」として認識し、口に運ぶ段階 |
準備期 | 先行期で口に入れた食べ物をかみ砕き、食塊(かたまり)にする段階 |
口腔期 | 準備期でできた食塊を舌を使って喉の奥に運ぶ段階 |
咽頭期 | 「嚥下反射」という機能によって食塊が咽頭を通過し、食道に入る段階 |
食道期 | 食塊が食道から胃へ運ばれる段階 |
先行期から食道期のいずれかに支障が出ると、嚥下障害が起こります。
主な症状
嚥下障害の具体的な症状には以下があります。
- 食事中にむせる
- 食事に時間がかかり食べることに飽きてしまう
- うまく飲み込めず食べたものが口の中に残る
- 食後に声が嗄れる
- 固い物が食べられなくなる
発症する原因は大きくわけて5つ
嚥下障害の原因は、大きく分けて5種類あります。
内容 | 例 | |
器質的原因 | 食べ物が通過する器官に腫瘍などの疾患がある | 口内炎・咽頭炎・食道がん |
機能的原因 | 嚥下に必要な筋肉が衰えている | 老化・パーキンソン病・脳卒中 |
心理的原因 | 精神的な問題でものが飲み込みづらくなっている | うつ病・心身症・ストレス性胃潰瘍 |
医原性原因 | 他の病気の治療行為・手術などが原因となる | 術後の合併症・経管栄養・薬剤の副作用 |
環境原因 | 食事の環境・内容に問題がある | 食事用の椅子の高さが不適切・テレビがついていて注意がそれる・食事が固すぎる |
嚥下障害についてより詳しく知りたい方は以下の記事も併せてご覧ください。
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20代でも嚥下障害になる可能性はある
一般的に嚥下障害は高齢者の病気というイメージがあります。
しかし近年は、20代などの若年者でも嚥下障害を発症するケースが増えています。
ここからは、20代の方の嚥下障害の原因・リスクについてご紹介します。
若年層が嚥下障害になる主な原因
20代の方の嚥下障害の原因は、高齢者の方と若干の違いがみられます。
20代の方の主な嚥下障害の原因として、次の3つが指摘されています。
ストレートネック
20代などの若い方の嚥下障害の代表的な原因が、ストレートネックです。
ストレートネックとは、頸椎(首の骨)がまっすぐになる状態です。
頸椎は本来、ゆるやかにS字型に曲がっています。
しかし長時間前傾姿勢を続けるなどすると、頸椎が伸びやすくなります。
長時間の前傾姿勢の原因としては、スマホ・パソコンの使い過ぎなどが挙げられます。
では、なぜストレートネックが嚥下障害を引き起こすのでしょうか。
答えは、首周りの筋肉が凝りやすくなるためです。
首周辺が凝ると、嚥下に必要な筋肉が正常に動きにくくなります。
ストレートネックになると顎が上を向くのも、嚥下障害の要因の1つです。
顎が上を向くと、食べ物を飲み込んだときに、誤って器官に入りやすくなります。
結果として、むせる・食べ物をうまく飲み込めないなどの症状が出やすくなります。
病気・薬の副作用
20代の方の嚥下障害は、病気・薬剤の影響であらわれることもあります。
具体的な例は次の通りです。
【嚥下障害を引き起こす病気の例】
- 脳血管障害(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)
- ALS
- パーキンソン病
- 重症筋無力症
- 食道がん・口腔がん
脳血管障害・SLSなどは、嚥下に必要な筋力の運動に支障が出やすくなります。
食道がんなどは腫瘍が物理的に食べ物の通過を阻むため、嚥下が困難になることがあります。
続いて、嚥下障害を起こしやすい薬の例をご紹介します。
【嚥下障害を引き起こす薬の例】
- 向精神薬(抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬・抗精神病薬)
- 抗がん剤
- 利尿薬
- 抗てんかん薬
向精神薬や抗がん剤は、副作用として口渇(ドライマウス)が起こることがあります。
口渇とは、唾液が減って口内が乾燥した状態です。
口内が乾くと、食べ物が口・食道などを通過しにくくなるため、嚥下障害が起こりやすくなります。
向精神薬の中には、嚥下に必要な筋肉の運動を低下させるものもあります。
ストレス
ストレスは20代の方の嚥下障害の代表的な原因です。
ストレスなどの精神的な原因で起こる嚥下障害は、心因性嚥下障害とも呼ばれます。
心因性嚥下障害の多くは、咽喉頭異常感症です。
咽喉頭異常感症は、明らかな疾患などはないものの、喉になんらかの違和感を感じる病気です。
心因性嚥下障害では、特に唾液の飲み下しが困難になるケースが目立ちます。
個人差はありますが、食事や固形物の飲み下しはさほど困難ではありません。
心因性嚥下障害のメカニズムはハッキリ解明されていません。
ただし一説では、以下のような精神疾患がある方は心因性嚥下障害があらわれやすいと指摘されています。
- うつ病
- 心身症
- 不安症
- がんなどの病気への不安がある
嚥下障害のリスク
20代の方に限らず、嚥下障害にはさまざまなリスクが発生します。
嚥下障害に伴う主なリスクをご紹介します。
栄養不足・脱水状態になる恐れがある
嚥下障害は栄養不足・脱水を引き起こす可能性があります。
理由は、嚥下障害が起こると食事・飲水に苦痛を覚えやすくなるためです。
食事自体を敬遠しやすくなり、結果として低栄養・脱水が起こりやすくなります。
低栄養・脱水状態が続くと、食事を摂るための筋力などが弱りやすくなります。
結果、嚥下障害がさらに悪化し、ますます低栄養・脱水が進む…という悪循環が起こりやすくなります。
誤嚥性肺炎の発症・窒息などの心配も
20代の方でも、嚥下障害になると誤嚥性肺炎・窒息に発展する恐れがあります。
誤嚥性肺炎とは、誤嚥によって起こる肺炎です。
誤嚥は、食べ物が誤って気管に侵入することです。
食べ物に金などが付着していると、気管・肺で増殖して肺炎を引き起こします。
食べたものが気道を塞ぐと呼吸困難が起こることもあります。
呼吸困難から窒息死に至る可能性も否定できません。
嚥下障害の原因についてより詳しく知りたい方は以下の記事も併せてご覧ください。
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嚥下機能をセルフチェックしてみよう
嚥下障害は20代前後の方にも起こりうる病気です。
嚥下障害の重症化を防ぐには、日頃から嚥下機能のセルフチェックに取り組み、早期発見につなげることが大切です。
チェックリストで判断する
まずは、次のような症状がないかチェックしてみましょう。
【嚥下機能の低下のチェックリスト】
- 以前と比べて、食事中・後にむせやすい・よく咳をするようになった
- 食べ物が飲み込みにくい
- 水・お茶なしで食べ物を飲み込むのが辛い
- 食後に声が嗄れる
- むせやすい食べ物・固い食べ物を自然と避けている
- 嚥下後も口の中に食べ物が残る
- 唾液が口にたまる
該当する項目が多い場合は、嚥下障害が疑われます。
動作で確認する
嚥下機能をチェックするには、次のようなテストに取り組むのも1つの方法です。
結果がはかばかしくない場合は、嚥下機能が衰えている可能性があります。
【グーパーテスト】
- まっすぐ立って、両腕をまっすぐ伸ばす
- 10秒間数えながら両手をグー・パーと動かす
- 10秒でグーパー運動が20回に満たない場合は、ストレートネックの可能性が高い
【唾液を飲み込むチェック】
- 30秒間で唾液を3回以上飲み込めるかどうか
- 5秒以内に30mlの水をむせずに飲めるかどうか
- 1・2が達成できない場合は、嚥下機能になんらかの不調が疑われる
嚥下障害で病院に行くべき目安や治療方法は?
20代~30代の若い方でも、嚥下障害で病院を受診すべきでしょうか。
若い方の受診の考え方をご紹介します。
少しでも心当たりがあったら受診するのがオススメ
嚥下障害がある方は、年齢にかかわらず、できれば病院を受診してください。
具体的には、セルフチェックの結果が悪い方・嚥下に少しでも不安がある方が該当します。
嚥下障害は、放置すると誤嚥性肺炎や窒息などに発展することがあります。
いずれも命を落とす危険性が高いため、嚥下障害がある方は、一度は病院で検査を受けるのが無難です。
嚥下障害で受診する場合、診療科は耳鼻咽喉科・消化器内科が適当です。
歯科・リハビリテーション科・神経内科で対応してもらえる場合もあります。
病院で受けられる治療
嚥下障害にはさまざまな治療法があります。
嚥下障害が比較的軽度の場合は、間接訓練・直接訓練が行われることが一般的です。
内容 | 例 | |
間接訓練 | 嚥下に必要な器官・筋肉を鍛えて強化する | 嚥下体操・頸部可動域訓練・開口訓練・歯肉マッサージ |
直接訓練 | 実際に食べ物を使って行う訓練 | とろみ食・すりつぶし食・ペースト食 |
嚥下障害が重度の場合は、手術による治療が選択されることもあります。
代表的な手術方法には次の2種類があります。
嚥下機能改善手術 | 嚥下に必要な器官の機能を強化するための手術 | 輪状咽頭筋切断術・喉頭挙上術 |
誤嚥防止術 | 気道と食道を完全に分離させる | ー |
以下の記事では嚥下障害の治療法について解説しておりますので、よろしければご覧ください。
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嚥下障害を予防するためのセルフケア
嚥下障害は日頃のセルフケアで予防できます。
具体的なポイントをご紹介します。
日常生活を改善しよう
嚥下障害を予防するには、日頃の生活習慣を見直すことが大切です。
たとえば、次の3つのポイントに注意してみてください。
姿勢に注意する
食事中は、姿勢に注意しましょう。
具体的なポイントは次の通りです。
- 足の裏を床につける
- 椅子に深く腰掛け、お尻から膝までが座面に接触するようにする
- 上半身はまっすぐ伸ばし、やや前傾姿勢
上半身をしっかり起こすことで、食べ物がスムーズに食道から胃に到達しやすくなります。
自力で座るのが難しい場合は、腰にクッションをあてるなどして、上半身をなるべく高く保ちましょう。
食事方法・内容を見直して工夫する
嚥下障害の原因の1つは、喉・顎の筋力の低下です。
つまり嚥下障害を予防するには、日頃からの喉や顎の筋肉を鍛えることが大切です。
具体的には、食べ物をよく噛んで食べることを心がけましょう。
たとえば食材を大きめにカットすると、自然と咀嚼数が増えるため、顎が鍛えられます。
口内の衛生面に気をつける
嚥下障害の予防のためには、口内衛生にも注意しましょう。
具体的には、歯磨きをしっかり行ってください。
口内衛生が悪いと、雑菌が繁殖して虫歯・歯周病などが起こりやすくなります。
歯の状態が悪くなると、物をしっかり噛めなくなるため、嚥下に支障をきたしやすくなります。
口内衛生を守ることは、誤嚥性肺炎の予防の観点からも重要です。
口内に雑菌が繁殖していると、食べ物に付着して気道・肺に菌が侵入しやすくなるためです。
嚥下障害の予防のためにトレーニングやマッサージをしてみよう
嚥下障害を防ぐには、口のトレーニング・マッサージをするのもよい方法です。
ここからは、口のトレーニング・マッサージ方法をご紹介します。
嚥下体操
嚥下体操は、嚥下機能を強化するためのトレーニング方法です。
やり方は次の通りです。
- 「あー」と言いながら口を大きく開ける(10回)
- 大きく口を開けたまま、舌を思いきり前に出す(30秒)
- 口を開けたまま、舌を出したり引っ込めたりする(10回ずつ)
- 舌で上顎を強く押す(10回)
- 4の状態で口を閉じて「んー」と声を出す(10回)
- 口を「う」の形にして、「ふぅー」と息を吐き出す(10回)
腹式呼吸トレーニング
腹式呼吸は呼吸器官を強化する効果があります。
呼吸器官が強化されると、誤嚥によって器官に侵入した食べ物を排出しやすくなります。
腹式呼吸のやり方は次の通りです。
- ゆっくり息を吐き出す
- お腹をへこませるまで息を吐き出しきる
- お腹を膨らませるようにゆっくり息を吸う
腹式呼吸トレーニングは食前に行うのがオススメです。
呼吸器が強化されるだけでなく、心身がリラックスしやすくなるためです。
落ち着いて食事に臨めるため、自然と嚥下もスムーズに行いやすくなります。
首のトレーニング
首・喉の筋肉を鍛えるための方法です。
今回は4つのやり方をご紹介します。
【その1】
- おへそをのぞき込むように顎を引く
- おでこに手を当てる
- 喉仏にグッと力を入れるような感覚で、手とおでこを5秒間押し合う(5~10回)
【その2】
- おへそをのぞき込むように顎を引く
- あごの下に両手の親指を当てる
- 喉仏に力を入れ、顎は下・親指は上にそれぞれ力を入れて5秒間押し合う(5~10回)
【その3】
「イー」と5秒間発声しながら口を思いっきり横方向に広げる(5~10回)
【その4】
喉仏を意識して、つばをゆっくり・しっかり飲み込む(2~3回)
その1~その4を1セットとし、できれば1日1セット以上取り組んでください。
タイミングは食前がおすすめです。
口・舌のトレーニング
口・舌は、嚥下で重要な役割を果たす器官です。
よって口・舌をトレーニングすることで、嚥下機能の向上が期待できます。
やり方は次の通りです。
【口のトレーニング】
頬を膨らませる・へこませるという動作を繰り返す
ゆっくり「ぱぱぱ」「ららら」「かかか」という
【舌のトレーニング】
舌を前に出す・引っ込めるという動作を繰り返す
舌で左右の口角に交互に触れる
回数に決まりはありません。
自身の体力などにあわせて、無理のない範囲で取り組んでみてください。
唾液を促すマッサージ
唾液腺をマッサージする方法です。
唾液の分泌を促すことで、嚥下をスムーズにする効果が期待できます。
やり方は次の通りです。
- 1 耳下腺(耳の前から頬辺り)に手を添える
- 2 1のまま、後ろから前に円を描くように回す
- 3 親指と人差し指で、顎のやや奥を挟むように持つ
- 4 顎の内側をなぞるようにプッシュしながら、指を奥から前にすべらせる
ストレス解消も嚥下障害の予防に?!
若い方の嚥下障害の原因には、ストレスが目立ちます。
ストレスによる嚥下障害では、のどなどに明らかな疾患がないにもかかわらず、飲み込みに違和感・苦痛を感じるのが特徴です。
若い方のストレスの原因として代表的なのは仕事です。
実際に20代の労働者のうち、約6割の方が仕事・職業生活にストレスを感じていると回答しています。
なお、仕事でのストレスの内訳は次の通りです。
- 仕事の質・量:53.8%
- 仕事の失敗、責任の発生等:38.5%
- 対人関係(セクハラ・パワハラを含む。):30.5%
仕事でのストレスが積み重なれば、20代の若年者の方でも突然嚥下障害を発症する可能性があります。
嚥下障害を防ぐには、日頃からストレスをためないように工夫することが大切です。
出典:厚生労働省【1 ストレスとは:ストレス軽減ノウハウ|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト】
出典:厚生労働省【20 【労働者調査】 1 仕事や職業生活における不安やストレスに関する事項 (1) 仕事や職業生活】
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20代の嚥下障害のまとめ
ここまで、20代の嚥下障害についてお伝えしてきました。
20代の嚥下障害の要点を以下にまとめます。
- 20代の嚥下障害の原因は、ストレートネック・全身疾患・薬の副作用・ストレスなど
- 嚥下障害のセルフチェックには、飲み込みに支障がないかや、唾液を飲み込む回数を調べる方法がある
- 嚥下障害を予防するには、日頃から食事の姿勢・内容を見直したり、嚥下に必要な器官を強化したりすることが大切
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。