食べ物や水分を飲み込むときの「音」と、体の状態は深く関わっています。
この「飲み込みの音」で嚥下機能のはたらきが分かることはご存知でしょうか?
何らかの嚥下障害がある場合は、飲み込み音も変わります。
本記事では「飲み込みの音」について以下の点を中心にご紹介します。
- 飲み込みの音から分かること
- 嚥下音を聴く「頚部聴診法」のやり方
- 頚部聴診法のメリットとデメリットとは?
飲み込みの音について理解するためにも、ご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
飲み込みの音(嚥下音)とは
食べ物や水分を飲み込むことを「嚥下(えんげ)」といい、その際に発する音が「嚥下音」です。
嚥下とは、噛み砕いた食べ物(食塊)が胃まで運ばれる一連の動作のことです。
このときの飲み込み音や、呼吸音を「嚥下障害」の判断材料にすることができます。
たとえば、大量の水分を一度に飲み込むときに「ゴクッ」と音がなります。
これは飲み込むために多くの筋肉や神経に力が入るため音が鳴るのです。
ほかに飲み込む物と一緒に空気が入ったり、筋肉が緊張して硬くなると音が大きくなる場合があります。
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飲み込みの音から分かること
飲み込むときに音が出てしまうのは、胸のつかえや胸痛などほかの病気のサインの場合があります。
飲み込みの音を聞くことで、さまざまな障害や状態を知ることにつながります。
食物認知障害
認知障害は、脳細胞の機能低下により「認知機能」に障害をもたらすことです。
日常生活においてもさまざまな影響があり、目の前の食物も認識しづらくなるといわれています。
そのため、食べ物を飲み込めなくなったり、むせて上手く食べれなくなるのです。
食物認知障害の場合、食塊が咽頭部へ送り込まれず嚥下音を聞き取ることがむずかしくなります。
食物送り込み障害
食物送り込み障害は、のどの上部あたりから食道の間に何らかの障害があることです。
たとえば、食べた物が鼻の奥から逆流したり、気管に入り込んだりしてむせてしまいます。
通常、飲み込んだ食べ物は筋肉の収縮で食道へと送られます。
しかし送り込み障害は、のどや周りの筋肉、それらをつかさどる神経に障害があり飲みづらさを感じます。
物送り込み障害の場合も、嚥下音は聴取されないことが多いです。
嚥下反射遅延
嚥下反射とは、食物を飲み込むときに一瞬で咽頭部の蓋が閉まります。
そして逆流や食道への侵入を防ぐ反射運動のことです。
この反射運動が遅延してしまうことで食べ物が気管へ流れ、誤嚥の原因にもなります。
嚥下反射遅延を判断するのは、飲み込む前の呼吸で水泡音のような湿性音が確認できたときです。
これは食べた物が咽頭部や喉頭内に貯留していることを意味します。
その場合は嚥下音は聴取されません。
喉頭挙上不全
喉頭挙上(こうとうきょじょう)とは食物を飲み込むときに、のど仏が上へあがる動作のことです。
食べ物が誤って違う場所へ送られないように、鼻や気管、口腔内のあらゆる部位が閉鎖し内圧を高めます。
その全体の強調によって食べ物が胃へと送られるのです。
喉頭挙上不全があることで、嚥下音が弱くなったり、嚥下が複数回にわたって繰り返されたりします。
喉頭蓋反転不全
喉頭蓋(こうとうがい)反転は気管の入口に蓋をする役割をし、食べ物を気管へ入れない役割があります。
嚥下音を発する部位は3つあり、そのうちのひとつがこの「喉頭蓋」を食べ物が通過するときであるという研究結果も報告されています。
喉頭蓋反転不全がある場合は気道の閉鎖機能の低下が疑われ「ギュッ」とつまったような音がします。
また「ゴゴゴッ」と低周波成分が多い曖昧な音であるといわれています。
食道入口部通過障害
かみ砕いた食物は、収縮していた上部食道括約筋が緩んで食道の粘膜とともに胃へと運ばれます。
食道入口部通過障害があると、嚥下時に「ギュッ」という異常な音を出します。
これは上部食道括約筋が十分に緩んでおらず、行き場のない嚥下圧が漏れるときに発生する音と考えられています。
誤嚥
誤嚥とは食べ物や水分が嚥下する時に、誤って気管に入ってしまう嚥下障害のひとつです。
唾液も誤嚥の要因になることがあり、口腔内の細菌が気管に入り炎症を起こすのが誤嚥性肺炎です。
嚥下後しばらくしてからむせた場合は、咽頭部に食べ物が残留して誤嚥や咽頭侵入をしたときに観察されます。
咽頭残留
咽頭残留は、喉頭拳上障害や食道入口部の弛緩が不十分であることなどが要因となります。
咽頭が正常に働いている場合は、嚥下を何度か繰り返し残留物をクリアさせる反応がみられます。
嚥下後の呼吸音が泡立ったような湿性音であれば咽頭残留であることが考えられます。
食道咽頭逆流
食道咽頭逆流の場合は、呼吸や嚥下とは異なるタイミングで「ジュジュッ」という音が確認されます。
この音は食塊が食道から下咽頭へ逆流するときの音であると考えられています。
咽頭逆流でのどの痛みや、声のかすれなどの症状もあらわれます。
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頚部聴診法のやり方
近年、医療現場でも嚥下障害を判断する一つとして用いられているのが「頚部聴診法」です。
聴診器を用いた方法は呼吸状態や咽頭部の貯留の程度をより正確に確認することができます。
頚部聴診法は、食塊を飲み込むときに生じる嚥下音や呼吸音を聴診します。
嚥下音の状態や、嚥下前後の呼吸音のタイミングを頚部から聴取して嚥下障害を判断します。
頚部聴診法の準備物
では「頚部聴診法」で準備する物を以下にまとめていきます。
小児用の聴診器
頚部聴診法では特別なものではなく、医療現場などで使われる通常の聴診器を用います。
可能であれば小児用の小さいサイズの聴診器が使いやすいです。
大人用の聴診器ですと、頚部の細い箇所は皮膚全体に密着させにくいことがあります。
瘦せている方はとくに、ゴツゴツと骨ばっている場合があるため小さめの聴診器が当てやすいです。
録音機器
頚部聴診温を記録するときは、音響信号検出機器を用いて音響分析を行います。
加速度ピックアップ(振動計)と併せて小型マイクロフォンなどで集音します。
測定する部位は、のど仏の真下にある軟骨周辺の「輪状軟骨直下気管外側上」が適しているといわれています。
また小型マイクロフォンを利用する場合は、マイクを聴診器のチューブにつなげると明瞭に嚥下音が検出できます。
嚥下試料
基本的に検査食に決まりはなく、普段の食事でも構いません。
ほかにゲル状食品や粥食、とろみのある飲み物などを使用するのも可能です。
一般的には、固形物よりも液体の方が明瞭な嚥下音が生じるといわれています。
とろみをつけた物ですと、とろみの低い物の方が大きな音圧で嚥下音を記録しやすい傾向があります。
重度の嚥下障害がある患者さんの嚥下試料は少量(1〜2ml)の氷水を使います。
これらの冷刺激により嚥下反射を誘発させ、むせや貯留の有無を評価します。
小さな氷砕片も比較的安全に検査を行うことができます。
頚部聴診法のやり方
では「頚部聴診法」の手順をまとめていきます。
口の中の貯留物を出す
まず、検査の精度をあげるために患者さんの口腔や咽頭部の貯留物を排出することが必要です。
動ける患者さんの場合は、強い咳をしたりハフィングなどの呼気動作をしてもらいます。
ハフィングは坐位で前かがみになり大きく息を吸い込みます。
次に「ハー」「ハー」とゆっくり息を吐き出し、貯留物を出しやすくします。
それでも排出が不十分だったり動けない場合は、吸引カテーテルを鼻や口へ挿入し貯留物を排除します。
頚部に聴診器を当てて呼吸音を聞く
貯留物が排除されたあとに呼吸音を確認します。
聴診器をあてる場所は、咽頭の側面や胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)が良いといわれます。
胸鎖乳突筋は耳の後ろから鎖骨に向かって斜めにのびる筋肉です。
のど仏のある首の正面は、咽頭の動きを阻害してしまうため避けた方が良いでしょう。
聴診器の聴診器の先端の接触子をしっかりと皮膚にあてて音を聞きます。
嚥下試料を飲んでもらい、嚥下音を聞く
準備しておいた嚥下試料を飲んでもらい、嚥下音を聴診します。
検査中に患者さんが緊張している場合は、飲み込んだあとの呼吸に遅れが生じることがあります。
あらかじめ「試料を飲み終わったら普段どおりに息をしてください」と声をかけておくことが大切です。
再び呼吸音を聞く
飲み終わった後すぐに呼気を出してもらい、貯留物の排出直後の呼気の状態を比べます。
その際に異常な嚥下音や呼吸音を確認した場合は、検査試料を変えたり体位の調整も必要になります。
また重度の誤嚥の症状がでた場合は、速やかに検査を中断し吸引処置を行います。
頚部聴診法のメリットとデメリット
頚部聴診法は造影検査や内視鏡検査のような精度の高い検査をすることができません。
しかしこれらの精密な検査を行う前のスクリーニング検査(振り分け)として有効であると評価されています。
頚部聴診法のメリット
では、頚部聴診法のメリットについてまとめていきます。
造影検査(VF)にも触れていますので併せてご参考になさってください。
簡単に検査できる
すぐに検査できることは最大のメリットで、自宅や施設など自室ですぐに行えます。
準備も簡単で、聴診器と試料があればすぐに始められます。
造影検査などは検査をする場所、機器、医師の調整など事前から準備が必要です。
しかし聴診法は、現時点の結果が欲しい場合でも直ぐに対応することができます。
頸部聴診法は気になるときにすぐ検査し、細やかなデータを残せるのが利点といえます。
日常的な食事の状態で検査できる
頸部聴診法は、普段の食事の時に検査ができます。
そのため日常の嚥下機能を評価することができます。
造影検査の場合は、バリウムや用意された飲み物など普段あまり飲まないようなものを使います。
そのため検査で緊張してしまったり、普段の状況がみえにくくなることがあります。
その点聴診法は、普段の食事をしながら検査できるので気持ち的にもリラックスして行えます。
侵襲が少ないので繰り返し評価できる
検査の中で手術や切開、薬物投与など侵襲が少ないのも大きなメリットです。
痛みを伴わないので、患者さんも医療従事者側も負担が少なくて済みます。
一方造影検査は、造影剤の投与をはじめ多くの準備が必要です。
エックス線検査も含むため被爆の懸念があり、頻繁に行うのは難しい検査です。
聴診法は一度で完璧な評価をするのが難しいときは、翌日に聴診するようにします。
何度もできるので、コツを習得しやすく検査評価に対する判断基準も理解しやすくなります。
簡便に繰り返し検査し評価できるのが聴診法の大きな利点といえます。
頚部聴診法のデメリット
ではここからは頚部聴診法のデメリットについてまとめていきます。
精度は造影検査に劣る
聴診法は、食物が咀嚼、嚥下、食道へ送られるまでの流れをみることができません。
一方造影検査は、食塊や嚥下運動など外からみえない部分を可視化することができます。
また咽頭部や食道の異常も確認することができることから、最も信頼性の高い検査といえます。
そのため聴診法の精度は造影検査などに比べると劣ると考えられます。
しかし造影検査が頻繁に行えないなどの欠点をカバーするための補助診断法として現場では多く普及しています。
嚥下音の発声機序にはまだ不明な点が多い
聴診法は可視での判断ではなく、発生する音を聴取して判断します。
そのため、呼吸の状態や咽頭運動の確認、さらに嚥下音を聞き分ける技術が必要です。
呼吸流量や時間的関係性なども視野に入れ、多角的に評価する必要があります。
医療現場でも最初から完璧に評価するのは難しいといえます。
嚥下音の発声機序は不明な点も多いですが、注意深く観察し聴診法から得られる情報が役立つことも多くあります。
飲み込みの音で正常と異常を見分ける
ゴックンという飲み込みの正常音
正常な飲み込み音は「ゴックン」や「コクン」と明瞭な音を発します。
高い周波数成分(1khz以上)を含み、軽快なクリック音を発します。
正常音をベースにして、さまざまな嚥下音を聴診すると違いが分かりやすいです。
飲み込みの音が聞こえない
咽頭部に食塊や唾液などが貯留しても呼吸流量が少ない場合は嚥下音は聴取されません。
しかし嚥下の際に振動音によって湿性音が聴取されることはあります。
考えられる障害は以下の通りです。
- 食物認知障害
- 送り込み障害
また少々の食塊が食道入口のくぼみである「梨状窩(りじょうか)」に貯留していても嚥下音は聞こえません。
ほかに声帯より深い場所に誤嚥物が入り込むと湿性音は発生しなくなります。
ギュッという飲み込みの異常音
「ギュッ」という飲み込み音は、詰まったような異常音です。
飲み込む動作をするときに咽頭や食道など多くの器官が収縮や弛緩をします。
これらを嚥下圧といいますが、食塊を押し込む力が不十分であると推測されます。
そのため「食道入口部通過障害」による異常音であることが考えられます。
「ギュッ」という異常音は弛緩が不十分で行き場無くした嚥下圧が漏れるときに出る音です。
また、口腔内や咽頭内に食塊が無くても同様の異常音が聴取されることがあります。
長い飲み込みの音は異常音
長い飲み込みの音は「嚥下音持続時間延長」ともいわれます。
考えられる障害は以下の通りです。
- 嚥下圧不足(咽頭収縮の減弱)
- 送り込み障害
- 喉頭挙上障害
- 食道入口部の弛緩障害
上記の障害により、食塊が咽頭部を通過するのに時間を要している状態です。
弱い飲み込みの音は異常音
弱い嚥下音は「長い飲み込み」と同様に「喉頭挙上障害」や「咽頭収縮減弱」が想定されます。
- 嚥下圧不足(咽頭収縮の減弱)
- 送り込み障害
- 喉頭挙上障害
- 食道入口部の通過障害
「咽頭収縮筋」は嚥下の「咽頭期」で最も重要な働きをします。
咽頭収縮が減弱することで「咽頭残留」を招いてしまいます。
複数回の飲み込みの音は異常音
食物が咽頭部に貯留している場合、正常であれば何度か嚥下を繰り返し、食塊を飲み込もうと反応します。
しかし嚥下障害を起こしているときの複数回の飲み込みは、さまざまな障害を引き起こしている可能性があります。
- 咽頭残留
- 嚥下圧不足(咽頭収縮の減弱」)
- 送り込み障害
- 喉頭挙上障害食道入口部の弛緩障害
正常な嚥下時は「無呼吸」状態です。
しかし複数回の嚥下によって、呼吸音が聴取された場合は「誤嚥」や「咽頭侵入」の可能性があります。
泡立つような飲み込みの音は異常音
嚥下時に泡立ったような音が出ることがあります。
「ゴボッ」また「カポン」といった異常音で嚥下圧が漏れていることが考えられます。
ただし「ゴポゴポ」と泡立つ音が混ざっている場合は「鼻咽腔」の逆流の可能性があります。
逆流し以下の症状を引き起こします。
- 咽頭残留
- 嚥下反射のタイミングがずれる
ゴボゴボといった泡立ちの異常音が出るときは「誤嚥」を起こしやすくなることも想定しておきます。
ギューという飲み込みの音は異常音
この時の泡立ち音が、食道入口部通過障害の「ギュッ」という音や他の障害の音と判別に迷うことがあります。
低周波数成分(500hz以下)を多く含んだ不明瞭な「ギュー」音は誤嚥性であるといわれています。
また嚥下したあとの呼吸音が、湿性した音であれば「咽頭残留」の可能性があります。
湿性音を聴取したときは「誤嚥」に注意が必要です。
ゴゴゴッという飲み込みの音は異常音
「ゴゴゴッ」と連続した不明瞭な異常音は「喉頭蓋谷」の食塊の残留によるものと考えられます。
咽頭部の収縮が弱くなることで、食べ物を奥へ押し込む力が減弱するのです。
ほかに食道の入り口の開きが悪かったり、咽頭部の乾燥でのどの粘膜に食べ物が付着してしまうためです。
ゴッゴッという飲み込みの音は異常音
「ゴッゴッ」といった不連続な少し弱い飲み込み音も、異常音であると考えられます。
「食道入ロ部開大不全」は食道入口が弛緩しにくく、食物が食道へ流れづらくなっていることです。
ジュッジュッという飲み込みの音は異常音
嚥下をしたあとに、呼吸音や嚥下と別のタイミングで「ジュッジュッ」という音が聴こえた場合は「食道咽頭逆流」であることが考えられます。
飲み込んだものが食道から下咽頭へ逆流している音と考えられています。
以下は呼吸音についてまとめています。
嚥下したあとの呼吸音が
- 湿性
- 嗽音(そうおん)
- 液体の振動音
である場合は、
- 誤嚥
- 咽頭部の貯留
- 喉頭侵入
の可能性が考えられます。
飲み込みの音のまとめ
ここまで飲み込みの音についてお伝えしてきました。
飲み込みの音について要点をまとめると以下の通りです。
- 飲み込みの音から分かることは、さまざまな嚥下障害や病気のサインである
- 嚥下音を聴く「頚部聴診法」のやり方は、まず聴診器と試料があればできる
- 頚部聴診法のメリットは、場所や時間にしばられなく患者負担が少ないこと、デメリットは造影検査と比較すると検査の精度が落ちること
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。