人は年を重ねると、身体のさまざまな部位に老化や異常を感じます。
若い頃は問題なかったことも、年齢と共に難しくなることも多いかと思います。
そのひとつに咀嚼機能低下が挙げられます。
そもそも咀嚼とはどのような意味でしょうか。
本記事では、高齢者の咀嚼機能低下の原因について以下の点を中心にご紹介します。
- 咀嚼の意味合いと高齢者の咀嚼機能低下について
- 咀嚼機能低下の原因となる疾患や薬剤について
- 高齢者の咀嚼機能回復トレーニングと食事や調理法の工夫
年を重ねても安全に食事するためにもご参考いただけると幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
咀嚼とは
まずはそもそも咀嚼とはどういった意味合いかご説明します。
咀嚼とは食べるときによく噛み砕いて味わうことを意味しています。
咀嚼することで、食べ物が細かくなるだけでなく、唾液の分泌も促されるので消化を良くする働きがあります。
咀嚼について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
私たちは、食事をするとき、無意識に咀嚼しています。咀嚼には、食べ物をかみ砕くこと以外にも、私たちの健康を守るためのさまざまな役割があります。咀嚼の役割や重要性は、どのようなものなのでしょうか。本記事では咀嚼について以下の[…]
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高齢者の咀嚼機能低下の原因疾患
次に咀嚼機能が低下する原因疾患についてご紹介します。
咀嚼が難しくなると、うまく飲み込めずに食べ物が誤って気管に落ちてしまう「誤嚥」を起こしてしまうリスクが高くなります。
誤嚥が起きてしまうと肺に炎症が起き、発熱や呼吸状態が悪化する肺炎につながります。
最終的には、命の危険にもつながるので、注意が必要です。
例えば、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が起きると、脳の機能が正常に働かないことがあります。
脳が正常に働かないことで、飲み込む際に必要な神経や筋肉を動かすことができなくなり、誤嚥につながります。
この他にも、パーキンソン病や重症筋無力症などでは、嚥下に必要な神経や筋肉の機能が低下します。
病気以外にも口内炎や扁桃腺などの炎症や歯の欠如や合わない入れ歯の利用などのさまざまな要因で誤嚥のリスクが上がります。
認知症が悪化すると、食べることに集中できなくなったり、食べ物を認識できなくなったりするので、咀嚼も難しくなります。
私たちは、食事をするとき、無意識に咀嚼しています。咀嚼には、食べ物をかみ砕くこと以外にも、私たちの健康を守るためのさまざまな役割があります。咀嚼の役割や重要性は、どのようなものなのでしょうか。本記事では咀嚼について以下の[…]
高齢者の咀嚼機能低下の原因となる薬剤
次に咀嚼機能低下の原因となる薬剤についてご紹介します。
以下に薬剤とその副作用についてまとめるので、参考にしてください。
どんな薬にも副作用があるので、副作用を考慮しながらうまく内服して薬と付き合っていってください。
薬剤分類 | 薬剤名(一般名) | 嚥下機能に影響する作用 |
抗精神病薬 | リスペリドン フルニトラゼパム | ※錐体外路症状 |
抗不安薬 | エチゾラム、ジアゼパム オランザピン | 集中力・注意力・活動意欲の低下 |
抗うつ薬 | アセナピンマレイン酸塩 アトモキセチン塩酸塩 | 口腔内乾燥、咳嗽・嚥下反射の低下 |
制吐剤 | アプレピタント メトクロプラミド | ※錐体外路症状 |
消化性潰瘍薬 | ランソプラゾール | |
抗コリン薬 | アトロピン硫酸塩 スコポラミン臭化水素酸塩 | 唾液分泌低下による口腔内乾燥 食道内圧低下 |
筋弛緩薬 | エペリゾン塩酸塩 スキサメトニウム塩化物 | 筋肉の弛緩、しびれ 活動意欲の低下 |
抗がん剤 | シスプラチン、ネダプラチン、カルボプラチン | 食欲低下、口内炎、口腔内乾燥、味覚障害 |
抗てんかん薬 | レベチラセタム、ゾニサミド、デスロラタジン | 活動意欲の低下 |
抗ヒスタミン薬 | レボセチリジン | |
利尿剤 | フロセミド、トラセミド | 口腔内乾燥 |
交感神経抑制薬 | プロプラノロール、ピンドロール |
※錐体外路症状:振戦・固縮・動作緩慢・不随意運動などの症状のこと
内服している薬に上記の薬剤がある場合には注意が必要です。
薬剤名についてはあくまでも一例になるので、気になった方は内服薬の種類を確認してみることをおすすめします。
高齢者の咀嚼の重要性
次に高齢者にとっての咀嚼の重要性についてご紹介します。
以下で咀嚼の役割や効果について詳しく説明していくので、参考にしてください。
高齢者の咀嚼に必要なパーツ
咀嚼をする際には身体のさまざまなパーツを利用しています。
まずは脳で食べ物を認識し、唾液の分泌を促進します。
例えば、梅干しをイメージすると唾液が出るのは、脳が認識して神経に伝達しているためです。
食べ物が口に入ると一般的には前歯で噛みちぎり、奥歯ですりつぶします。
歯にもいろいろな形があるのは、それぞれのパーツが機能的に働くようにできているからです。
顎の力を利用して咀嚼をすることで食べ物の塊を作り、嚥下しやすくしています。
咀嚼をする際には、舌に食べ物が触れて味覚が刺激され、唾液分泌が促進されます。
また、舌には筋肉があり、舌の動きによって食べ物を飲み込むことができます。
このように咀嚼には、さまざまなパーツが関わっています。
どれかひとつでもうまく機能しないと、飲み込みが難しくなるということです。
高齢者の咀嚼の効果
次に咀嚼にはどういった効果があるのかご紹介します。
咀嚼をすることで唾液が分泌されますが、この唾液にはアミラーゼという消化酵素が含まれているので、食べ物の消化の手助けをしてくれます。
また、唾液には自浄作用があるので、細菌の繁殖を防止する効果もあります。
そのため、虫歯や歯周病、口臭の予防にもつながります。
唾液が分泌して口腔内をうるおすことで、舌や喉の動きがなめらかになります。
舌や喉の動きがなめらかになることで、口腔内に残った食べ物を洗い流し、食事や会話がしやすくなります。
さらに、咀嚼することで脳に刺激が与えられ、認知症などの脳の機能低下を防止し、血液循環も良くなります。
このため、運動機能の向上にもつながるとされています。
このように咀嚼や唾液には非常にたくさんの役割や効果があり、私たちの身体を守ってくれていることがわかります。
高齢者の咀嚼機能低下の危険性
高齢者は加齢と共に咀嚼機能が低下する可能性が高いです。
そのため、ここからは咀嚼機能が低下することで考えられるリスクについてご紹介します。
咀嚼が難しくなると、食べ物を細かくできないので大きいまま飲み込んでしまい、喉に詰まらせて窒息や誤嚥のリスクが高くなります。
また、水気の多い物だと誤嚥することで誤って気管に水分が入ってしまい、むせ込みの原因にもなります。
加齢によりむせ込む力も弱っている場合には、誤嚥した物を自力で出すことができず、誤嚥性肺炎になってしまうこともあるので、注意が必要です。
咀嚼できない場合には、食べること自体が難しくなってしまうので、栄養失調にもつながります。
また、飲み物以外にも食事から思った以上に水分補給ができるので、食事が進まなくなることで、脱水にもつながります。
高齢者の咀嚼回数の目安とは?
現代人の咀嚼回数の平均は1口で10〜20回程度であるといわれています。
推奨されている咀嚼回数は、1口につき30回なのでプラス10回を目安に咀嚼を意識してみると良いでしょう。
よく噛むことで食事をよく味わうことができ、早食いも予防できるので少ない量でも満腹感を得られ、肥満を予防することにもつながります。
これは高齢者だけでなく、成人にとってもうれしい効果です。
高齢者が安全に食事をするための工夫
次に、咀嚼機能の低下のリスクが高い高齢者が、安全に食事をするためにはどのようにすれば良いのかをご紹介します。
以下で具体策を挙げて説明していくので、参考にしてください。
自助具について
高齢者は加齢により筋力が低下したり、何らかの疾患の影響によって自力で食べることが難しい人もいます。
そのような際には、自力で食べやすいように自助具を利用することをおすすめします。
自助具とは、例えばスプーンやフォークにグリップが付いており、握りやすくなっているものがあります。
この他にも器の底に滑り止め加工が施され、置いたままで食事摂取できるような自助具などがあります。
食事のペースについて
食事にかかる時間にも注意が必要で、食べるペースが早いときちんと飲み込みできず、口腔内に食べ物のカスが残りやすくなります。
食事をかき込んでしまう場合には、小さめのスプーンを用意して少量ずつ口に入れることができるように工夫することをおすすめします。
また、食事の際には適切なタイミングで汁物やお茶などの水分を摂取できるように周囲の人が声かけしたり、介助したりすると良いです。
ただし、食事の際には声かけのタイミングに配慮が必要で、高齢者が飲み込もうとしているときに声かけすることで誤嚥のリスクがあるので注意しましょう。
食事の環境について
食事の際の環境については、テレビは消すなどして食べることに集中できる環境を整えることが大切です。
静かな中で食べることに抵抗を感じるのであれば、テレビの代わりに落ち着いた雰囲気の音楽をかけるなどして工夫すると良いです。
認知症を患っている高齢者は、環境が変わることで不安や混乱を生じやすい傾向にあります。
そのため認知症を患っている高齢者には、できるだけいつもと同じ環境を整えることが大切です。
例えば、食器や食事の時間、座る場所などを同じようにしましょう。
また、誤食しやすいものは、側に置かないなどの配慮をしましょう。
メニューについては、食事そのものを家族と一緒に楽しめるようにとろみを付け、細かく刻む、やわらかく煮るなど工夫をすることをおすすめします。
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高齢者が咀嚼しやすい調理方法
次に高齢者が咀嚼しやすい調理方法の工夫についてご紹介します。
以下でいくつかの方法を挙げて説明していくので、参考にしてください。
高齢者が咀嚼しにくいもの
高齢者の中には、咀嚼機能が弱まっている方も多くみられます。
そのため、水気の少ないパサパサしたものや弾力があって噛みちぎりにくいもの、喉にはりつきやすいもの、むせ込みの危険があるものは避けるべきです。
高齢者が咀嚼しにくいものを以下にまとめます。
- パン
- もち
- イカ
- タコ
- 海苔
- ワカメ
- みじん切りした食材など
- 柑橘類
- 酢の物
高齢者が咀嚼しやすいもの
次は高齢者におすすめの咀嚼しやすいものをご紹介します。
喉ごしの良いものやとろみがあるもの、やわらかいもの、口の中でまとまりやすいものがおすすめです。
以下に高齢者が咀嚼しやすいものをまとめます。
- ゼリー
- プリン
- 茶碗蒸し
- お粥
- 煮物
- バナナ
- ヨーグルト
高齢者が咀嚼しやすい調理の工夫
次に高齢者が咀嚼しやすい調理方法の工夫についてご紹介します。
以下に咀嚼しやすく、誤嚥のリスクを軽減させる調理方法の工夫方法をまとめます。
- ミキサーなどを使用してムース状にする
- やわらかくなるまでじっくり煮込む
- 肉などの繊維は切断して嚙みちぎりやすくする
- 大きな食材は一口大に刻む
- 水気が多い食材はとろみを付ける
- バラバラになりやすい食材は、片栗粉などを使用してまとまりやすくする
便利な調理器具の活用
高齢者が咀嚼しやすいように調理する際には、手間や時間もかかります。
そのため、以下で調理を簡単にする器具をご紹介します。
- 圧力鍋:短時間で食材をやわらかく煮込むことが可能です。
- ミキサー:食材をペースト状にするときに便利です。
- 蒸し器:食材に均等に熱を通せ、食材の旨味を閉じ込めることができます。
- マッシャー:食材を押しつぶす際に便利です。
- フードプロセッサー:食材を細かく刻み、素早く混ぜることが可能です。
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高齢者の咀嚼機能回復トレーニング
次は実際に行える咀嚼機能回復トレーニングについてご紹介します。
日常生活で簡単に行える訓練を以下にまとめるので、ぜひ気軽に行ってみてください。
首と口周りの訓練
①首を前後左右に軽く倒しながらゆっくりと回して筋肉をほぐします。
②頬をふくらませたり、引っ込めたりしたりするのを繰り返します。
③舌を前後に大きく動かします。
発語訓練
①大きな声でリズム良く、「パパパパパ…」「タタタタタ…」「カカカカカ…」「ラララララ…」と発音します。
②「パ・タ・カ・ラ」と繰り返し発音します。
③慣れてきたら「パ・タ・カ・ラ」と早口で発音します。
喉の筋力訓練
①あごを手で上げながら下を向きます。
②おでこを手で押さえながらへそをのぞき込むように下を向きます。
③手の動きと反対の動きを喉に力を入れて繰り返すことで喉を鍛えられます。
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要介護高齢者の日常生活における関心事
最後に介護が必要な高齢者の日常生活における関心事についてご紹介します。
以下で関心事の上位から順にまとめます。
- 食事
- 行事への参加
- テレビ
この結果からわかるように、高齢者にとって食事は最も重要な楽しみのひとつであることがわかります。
そのため、食べることを楽しめるように周囲の人がサポートすることが非常に大切です。
食べる楽しみを感じる生活を送ることで、身体的な健康面だけでなく、生活にメリハリができ、生活の意欲が向上し、精神面の安定にもつながるといえます。
高齢者の咀嚼のまとめ
ここまで高齢者の咀嚼の重要性についてお伝えしてきました。
高齢者の咀嚼機能低下の原因の要点を以下にまとめます。
- 咀嚼とは噛み砕くことで高齢者は咀嚼機能の低下のリスクが高い
- 脳血管疾患や認知症、薬の副作用にて咀嚼機能低下をきたすことがある
- 咀嚼機能回復訓練や食事の環境や調理方法の工夫にて誤嚥を防止できる
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。