摂食嚥下能力を診断するツールに嚥下グレードがあります。
嚥下グレードとは、1993年に藤島一郎氏により提唱されました。
では、嚥下グレードとはどのようなものなのでしょうか?
本記事では、嚥下グレードについて以下の点を中心にご紹介します。
- 藤島摂食・嚥下能力グレードとは
- 嚥下グレードと摂食状況レベルの違いについて
- 嚥下グレードを活用してQOL向上を目指す方法
嚥下グレードついて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
藤島摂食・嚥下能力グレードとは
藤島摂食・嚥下能力グレードとは、摂食嚥下障害の患者に対して、どのくらい食べられているかを簡易的に評価できるツールです。
1993年に藤島一郎氏委員長により、日本摂食・リハビリテーション学会医療検討委員会によって提唱されました。
数多くの学会発表や論文でも使用されてきた基準となっており、信頼性、妥当性も検証してあります。
スポンサーリンク
藤島摂食・嚥下能力グレードの10段階
藤島摂食・嚥下能力グレードの10段階は、患者が食べている状況をそのまま評価します。
食べている状況を観察することで、観察評価の指針に役立ちます。
対象者の食事状況が以下の10段階のうち、どれに該当するかを観察します。
また、グレードが低いほど重症度が高くなります。
Ⅰ重症 経口不可
Gr.1 嚥下困難または不能、嚥下訓練適応なし
嚥下困難な状態であり、呼吸状態も安定していないため、嚥下訓練適応なしの状態です。
嚥下訓練ではなく、口腔清掃のみを目的とした口腔ケアを行います。
Gr.2 基礎的嚥下訓練のみ適応あり
食べ物を使用しない基礎的嚥下訓練のみ適応がある状態です。
実際に食べることが難しいため、食べるために必要な筋肉を動かし、刺激を加えて口腔周辺の運動感覚を促します。
また、口腔周囲筋や唾液腺の廃用の予防目的の嚥下訓練として口腔ケアを行います。
Gr.3 条件が整えば誤嚥は減り、嚥下訓練は可能
医師や看護師などの専門職や介護職員が、誤嚥、窒息のリスクに配慮するなど条件が整えば、誤嚥のリスクが減る状態です。
専門職や介護職員が、嚥下食を用いて嚥下訓練をすることは可能です。
Ⅱ中等症 経口と代替栄養
Gr.4 楽しみとしての摂食は可能
基本は代替食を摂取し、楽しみとして嚥下食が食べられる状態です。
代替栄養として、経管栄養、点滴などの非経口の栄養を摂れる状態です。
嚥下食では、ゼラチンやミキサー食など、食塊形成がしやすいものを摂ります。
Gr.5 一部(1~2食)経口摂取が可能
1~2食分の嚥下食を経口摂取できる状態です。
それ以外は、代替栄養として、経管栄養を行っている状態をいいます。
Gr.6 3食経口摂取が可能、代替栄養も必要
3食、嚥下食を経口摂取できる状態です。
しかし、薬と水だけは経管栄養が必要など、体が必要としているものを経口以外の方法で摂取する必要がある状態です。
Ⅲ軽症 経口のみ
Gr.7 嚥下食で3食経口摂取可能
3食、嚥下食で経口摂取できる状態です。
管栄養などの代替栄養を行っていない状態となります。
1日分の栄養・水分をすべて経口摂取のみで摂取し、かつ安定している状況です。
Gr.8 嚥下しにくい食品以外は3食経口摂取可能
3食経口摂取できる状態で、水や水分などにのみとろみをつけている状態です。
嚥下しにくく、とくに食べにくいもの以外は経口摂取が可能です。
Gr.9 常食の経口摂取可能、臨床的な観察と指導を要する
常食を経口摂取可能な状態です。
しかし、頻繁にむせてしまうなどの症状があるため、臨床的な観察と指導が必要です。
Ⅳ正常
Gr.10 正常の摂食・嚥下能力
臨床的にむせる、のどに食べ物が残っている感じなどの症状がない状態です。
普通食を3食経口摂取している状態をいいます。
私たちは、食事をするとき、無意識に咀嚼しています。咀嚼には、食べ物をかみ砕くこと以外にも、私たちの健康を守るためのさまざまな役割があります。咀嚼の役割や重要性は、どのようなものなのでしょうか。本記事では咀嚼について以下の[…]
嚥下グレードと摂食状況レベルの違い
嚥下グレードと摂食状況レベルの違いについて
- 嚥下グレードは「できる」能力を評価する
- 摂食状況レベルは「している」実行状態を評価する
- 嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査を併用する場合もある
などがあります。
それぞれみていきましょう。
嚥下グレードは「できる」能力を評価する
嚥下グレードは、いわゆる「できる」能力を評価しています。
グレードとレベルの両方を使用することで、治療目的が明確になります。
そのため、患者の指導にも役立ちます。
摂食状況レベルは「している」実行状態を評価する
摂食状況レベルは「している」状態をそのまま評価することです。
信頼性と妥当性の検証も実行済みです。
また、嚥下造影や内視鏡検査が行えない施設、在宅でも使用できます。
嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査を併用する場合もある
嚥下グレードと摂食状況レベルは、検査が行えない施設でも使用できます。
しかし、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査を併用することで、より具体的に評価できます。
摂食状況レベルの10段階
摂食状況レベルの10段階は、摂食状況レベルによって10段階に分かれています。
それぞれみていきましょう。
経口摂取なし
Lv.1 嚥下訓練を行っていない
唾液を含めてすべてを誤嚥するため、専門家による嚥下訓練を行っていない状況です。
呼吸状態が不良または嚥下反射が全く起きず、医学的な安定が保てないレベルです。
Lv.2 食物を用いない嚥下訓練を行っている
さまざまなものを誤嚥し、嚥下できない状態だが、呼吸状態は安定している状況です。
水分、半固形などで誤嚥があるため、食べ物を用いないでの嚥下訓練が有効です。
食べ物を用いない嚥下訓練は、摂食嚥下行動に関する臓器の機能改善を目的としています。
主に、誤嚥リスクが高い方に実施される訓練です。
Lv.3 ごく少量の食物を用いた嚥下訓練を行っている
水分を誤嚥してしまうが、ごく少量の工夫した食べ物であれば誤嚥しない状態です。
水分での誤嚥を認め、調整食などの食事形態を工夫することで、飲食可能です。
そのため、少量の食べ物を用いた嚥下訓練が有効です。
経口摂取と代替栄養
Lv.4 代替栄養が主体として1食分未満の嚥下食を経口摂取
誤嚥はある程度みられるが、1食分未満の嚥下食を食べられる状態です。
固形物と流動物のように形態が違う食べ物を交互に食べることで、口腔内に食べ物が残らないようにします。
食事終了後は、水分を最後に摂るようにします。
Lv.5 代替栄養を主体として1~2食の嚥下食を経口摂取
経管栄養などの代替栄養を主体とし、1~2食の嚥下食を経口摂取しているレベルです。
嚥下食では、ゼリーやミキサー食を摂ります。
ときどき誤嚥することがある、または咽頭に食べ物の残留がみられるなどの状態です。
Lv.6 3食の嚥下食経口摂取を主体として不足分を代替栄養で補う
誤嚥はみられないが、主体として3食の嚥下食を経口摂取している状態です。
普通食では、むせなどの嚥下障害があり食べられない状態となります。
経口摂取のみ
Lv.7 3食の嚥下食を経口摂取、代替栄養を行っていない
3食の嚥下食を経口摂取しており、水分やカロリーに不足がない状態です。
1日分の栄養を経口摂取のみで行っているため、代替栄養の必要はない状態といえます。
Lv.8 食べにくいものを除いた3食を経口摂取
本人の嚥下状態により食べにくいものを除いた3食を経口摂取できる状態です。
水分やお茶などがむせてしまう場合、とろみをつけて摂取します。
Lv.9 制限なく3食を経口摂取
通常食を3食、経口摂取できる状態です。
むせるなどの症状が少しあっても、通常食を制限なく食べられる状態です。
Lv.10 正常(摂食・嚥下に関する問題なし)
摂食、嚥下に関してとくに問題がない状態です。
たとえば、以前に摂食・嚥下障害があり治療を受けていたが、治療も終了していて症状もない場合もLv.10となります。
また、嚥下障害がみられた場合は、Lv.9となります。
嚥下グレードを活用してQOL向上を目指す
嚥下グレードを活用してQOL向上を目指すことが大切です。
では、具体的にどのように対象者のQOLを向上させるのでしょうか?
リハビリの目標設定に使う
対象者の嚥下グレードに合わせて、リハビリの目標設定に使用します。
何を目標にして、どんなリハビリを行うかは対象者の嚥下グレードにより異なります。
医師、看護師などの専門職らが、身体状況や日常生活の動作の様子を確認することが大切です。
対象者の症状に合わせたリハビリを行うことで、生活の質の向上につながります。
リハビリの効果を判定するために使う
リハビリの目標設定を行い、実際にリハビリの効果を判定するために嚥下グレードを使用します。
リハビリを行い、嚥下障害の機能回復を目指します。
リハビリとは単なる動作練習や体操だけでなく、対象者の病後の生活全般をより良いものにすることを目的としています。
対象者に適した食形態を判断する
嚥下グレードを用いて、対象者に適した食形態を判断します。
高齢者では、咀嚼能力の低下に応じて「普通食」「介護食」「嚥下食」へと嚥下が容易にできる食品へ移行していきます。
嚥下障害がある方では、嚥下状態に合わせて食形態を提供することが大切です。
在宅や施設でこまめに摂食・嚥下能力を評価する
嚥下グレードを利用し、在宅や施設でこまめに摂食・嚥下能力を評価できます。
摂食嚥下障害を診断する際に、第一に全身状態の評価が大切です。
全身状態の評価により、現在の栄養管理が適切かどうか検討します。
また、摂食嚥下障害のある方は、高齢者に多くほかの障害を合併していることもあります。
そのため、全身の評価を行ったあとに、摂食嚥下に関する評価と診断をするのが基本となります。
嚥下グレードまとめ
ここまで、嚥下グレードの情報を中心にお伝えしました。
要点を以下にまとめます。
- 藤島摂食・嚥下能力グレードとは、摂食嚥下障害の患者に対して、簡易的に評価できるツール
- 嚥下グレードと摂食状況レベルの違いは、嚥下グレードは「できる」能力、摂食状況レベルは「している」を評価
- 嚥下グレードを活用してQOL向上を目指す方法は、リハビリの目標設定、リハビリの効果を判定など
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。