寝たきりになると心身機能とともに、嚥下機能が低下します。
寝たきりの方に対する嚥下マッサージは、嚥下機能改善や肺炎予防などが期待されます。
寝たきりの方に対する嚥下マッサージはどのような方法があるのでしょうか?
また、嚥下マッサージをする上でどのような注意点があるのでしょうか?
本記事では嚥下マッサージを寝たきりの方へ施すことについて以下の点を中心にご紹介します。
- 寝たきりの方に対する嚥下マッサージの注意点とは
- 効果的に嚥下マッサージをする方法とは
嚥下マッサージを寝たきりの方について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
嚥下マッサージ|寝たきりの方への注意点
寝たきりの方に嚥下マッサージをする上での注意点は以下の通りです。
- 姿勢の調整
- 声かけ
- 口腔内のチェック
- 力加減
それぞれ説明します。
姿勢の調整
嚥下マッサージをする場合、基本は座位姿勢をとることが推奨されます。
理由として嚥下マッサージ後に唾液分泌が増え、唾液で誤嚥する可能性があるためです。
しかし寝たきりの方の場合、座位姿勢を保持することが困難なことも少なくありません。
座位姿勢の保持が困難な方の例は以下の通りです。
- 脊椎や背骨に異常がある方
- 起立性低血圧が強く失神のおそれのある方
- 体幹などの筋力低下により自力で座位姿勢が取れない方
上記の場合、ベッド上もしくはリクライニング機能の付いた車椅子を使用しましょう。
重要な点として、ベッドや車いす上でも姿勢が安定できる位置まで角度を起こします。
理由として、仰向けに近い姿勢では誤嚥のリスクが高まるためです。
ベッドや車いすの角度を起こすとき、臀部が前滑りしていると姿勢保持が難しくなります。
ベッドや車いすを起こす前に、体を頭部側に引き上げてから起こすようにしましょう。
頭が後屈すると唾液が気道に流れやすくなり、誤嚥のリスクが高まります。
頭の保持が難しい場合は、顎を引いた姿勢になるようクッションなどで調整しましょう。
声かけ
嚥下マッサージをする場合、声かけはとても重要になります。
嚥下マッサージの際、患者さんの中には顔を触られることが嫌な方もいるためです。
また、見えないところから突然顔を触られると驚いてしまいます。
寝たきりの方は姿勢保持や自ら体を動かすことが難しい場合がほとんどです。
頭も動かせないことも多く、天井や一定方向以外に視線を向けることが難しいこともあります。
嚥下マッサージをする場合、必ず目線を合わせてから声をかけるようにしてください。
声かけとして、今から嚥下マッサージを開始することがわかるように伝えましょう。
十分な説明をした上で、嚥下マッサージを始めてください。
口腔内のチェック
嚥下マッサージをする前に、必ず口腔内をチェックしてください。
口内炎、歯肉炎、傷があると嚥下マッサージにより、痛みが出る場合があるためです。
事前にチェックすることで、毎日の状態に応じた嚥下マッサージが実施できます。
また、グラグラした歯は誤嚥のリスクにつながります。
十分に口腔内をチェックし、痛みや誤嚥につながらないよう心がけましょう。
力加減
嚥下マッサージには、顔の表面から唾液腺を押して刺激するやり方があります。
強く押すと顎や軟部組織を傷つけてしまう可能性があり、痛みの原因になります。
痛みを伴うとマッサージ拒否につながる場合があるため、力加減は大切です。
コミュニケーションが取れる場合は、痛みを尋ねながら押すよう心がけましょう。
コミュニケーションが取れない場合でも、表情や動作を見ながらマッサージしましょう。
スポンサーリンク
嚥下マッサージ|寝たきりの方へのやり方
寝たきりの方への嚥下マッサージの方法は、主に受動的なマッサージになります。
嚥下マッサージの種類は以下の通りです。
- 大唾液腺マッサージ
- 小唾液腺マッサージ
- 口腔ケア
それぞれ解説します。
大唾液腺マッサージ
大唾液腺とは、耳下腺・顎下腺・舌下線の3つの唾液腺のことです。
具体的な名称と部位、性質は以下の通りです。
名称 | 部位と性質 |
耳下腺 | 耳の前下方に存在する最も大きな唾液腺、全唾液量の25~30%、漿液性(サラサラ) |
顎下腺 | 顎の下で、顎の骨の内側にある柔らかい箇所、全唾液量の60~70%、主に漿液性の混合腺(漿液と粘液) |
舌下腺 | 舌の付け根から前にある扁平な唾液腺、全唾液量の5%、主に粘液性の混合腺 |
大唾液腺マッサージは、3つの唾液腺を外から刺激して唾液分泌を促すマッサージです。
出典:厚生労働省【唾液腺マッサージの実際】
効果
大唾液腺マッサージをすることで、口周りの筋肉がほぐれて開きやすくなります。
また口腔内の清潔保持や乾燥予防ができ、自浄作用が高まるので口腔疾患が予防できます。
タイミング
朝目覚めたときに行うと、脳の覚醒向上や活性化が期待できます。
また食事前に行うと唾液分泌が増えるので嚥下しやすくなり、楽しく食事摂取ができます。
方法
大唾液腺マッサージは、それぞれの唾液腺に対応したマッサージ方法があります。
具体的には以下の通りです。
耳下腺マッサージ
耳下腺マッサージの手順は以下の通りです。
- 耳から頬の間に親指以外の4本の指をあてる
- 上の奥から2番目の歯のあたりに中指が来るくらいの位置に固定する
- 後ろから前に向かって回すようにマッサージする
- 1~3を10回繰り返す
顎下腺マッサージ
顎下腺マッサージの手順は以下の通りです。
- 耳の下にある顎の骨の内側に親指をあてる
- 下から突き上げるように1~2秒押す
- 耳の下から顎の下まで5か所順番に押す
- 1~3を10回繰り返す
舌下腺マッサージ
舌下腺マッサージの手順は以下の通りです。
- 顎の真下に両親指を当てる
- 下から突き上げるように押す
- 1~2を10回繰り返す
小唾液腺マッサージ
小唾液腺は、口の中の歯肉と硬口蓋(上顎の硬いところ)以外の粘膜に存在する唾液腺です。
小唾液腺マッサージは、口腔内からアプローチするマッサージです。
唾液分泌を促すために人差し指を使い、口腔内の粘膜を刺激するようにマッサージします。
効果
大唾液腺マッサージと同じように、唾液分泌を促します。
口腔内の清潔保持や自浄作用、乾燥予防が期待できます。
タイミング
小唾液腺マッサージは口腔内を直接刺激するため、起床直後や食前は望ましくありません。
食後や歯磨き後、口の中が乾いたときに行うのがいいでしょう。
方法
小唾液腺マッサージは人差し指を使って舌や上顎、唇の内側などをマッサージします。
具体的な手順は以下の通りです。
- うがいをして口腔内を湿らせる
(うがいが難しい場合はスポンジブラシなどを使う) - 人差し指を使うため、手を消毒する
(ゴム手袋を着用、もしくはガーゼやスポンジブラシで代用してもよい) - 舌を前に出し、手前から左右になぞりながら奥まで進める
(奥に行き過ぎると吐き気の原因になるため注意する) - 歯の裏側の歯茎部分を、上下とも左右に指を動かしてマッサージする
- 頬の内側を前から後ろ、上から下にマッサージする
- 上唇、下唇の内側を左右に指を動かしてマッサージする
出典:厚生労働省【要介護高齢者の口腔ケア】
口腔ケア
嚥下マッサージにあわせて口腔ケアをすることで、口腔内を清潔に保てます。
口腔ケアの具体的な方法は以下の通りです。
保湿
嚥下マッサージをする前に、口腔ケアとして保湿をしましょう。
口唇の乾燥には、リップクリームなどを塗布することで開口時の痛みや出血を防ぎます。
口腔内は湿らせたスポンジブラシやガーゼを使用し、口腔内が潤うように対応しましょう。
口腔保湿剤を使用すると、乾燥した口腔内の汚れの除去や清潔保持が期待できます。
特に寝たきりの方は唾液分泌が少ないことが多く、口腔内や口唇が乾燥します。
ひび割れによる出血のリスクがあるため、注意が必要です。
歯磨き
歯がある方の場合は、歯ブラシによるブラッシングをしましょう。
歯を磨く順番を決めて1本ずつ磨くと、磨き残しを防げます。
寝たきりの方の場合、歯磨き粉を使用するときは注意が必要です。
歯磨き粉を多く使うと泡立ちが多くなり、口腔内観察が難くなります。
また、歯磨き粉が十分に拭き取れなくなるため、少量に抑えるようにしましょう。
歯肉や上顎などは、乾燥していると歯ブラシの刺激で傷つけてしまう可能性があります。
歯ブラシの固さを替える、専用の舌クリーナーなどを使用することをおすすめします。
ふき取り
寝たきりの方は嚥下機能が低下していることが多く、うがいで誤嚥するリスクがあります。
歯磨きなど口腔ケアをした後は、口腔内を水で軽く湿らせてガーゼでふき取りましょう。
口腔ケアで出た汚れが残ると誤嚥するリスクがあります。
口腔内の奥から手前に向かって、丁寧にふき取るよう心がけましょう。
また、歯とあわせて粘膜や舌も一緒にふき取ると、より清潔になります。
私たちは、食事をするとき、無意識に咀嚼しています。咀嚼には、食べ物をかみ砕くこと以外にも、私たちの健康を守るためのさまざまな役割があります。咀嚼の役割や重要性は、どのようなものなのでしょうか。本記事では咀嚼について以下の[…]
高齢社会白書
高齢社会白書とは、高齢者の実態や施策などについて内閣府が公表する年次報告書です。
高齢者の健康と福祉に関する項目では以下の内容が記載されています。
- 要介護度別認定者の推移
- どこでどのような介護を受けたいか
- 要介護者等から見た主な介護者の続柄
具体的には以下の通りです。
出典:内閣府【2 健康・福祉|平成30年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府】
要介護度別認定者の推移
図1-2-2-7によると、要介護・支援者の認定者数は年々増加しています。
特に多いのは要介護1と2の方です。
要介護2については、平成15年に比べ、平成27年には1.8倍以上に増加しています。
また、要介護認定者の総数では平成15年と比較し、1.6倍以上増加しています。
要介護度別では、要支援1〜要介護度5全てにおいて増加が見られます。
特に要支援者の認定数は平成15年と比較し3倍近くの増加です。
どこでどのような介護を受けたいか
40歳以上の男女を対象とした調査に「どこでどのような介護を受けたいか」があります。
図1-2-2-11では、男女とも70%以上の方が「自宅」を介護場所として希望しています。
長年住み慣れた自宅で生活を続けることが、安心につながると考えられるためです。
介護の内容は男女とも「家族に依存せず生活できる介護サービス」が最も多い意見でした。
家族負担を少しでも減らし、条件にあった介護サービスを利用したいという希望です。
女性のほうが「家族に依存せず生活できる介護サービス」を希望する方が多く見られます。
家事に不慣れな男性に負担をかけたくないという理由が考えられます。
一方、男性では「家族中心の介護」の希望が女性より10.1%高い結果でした。
家に身内以外の方が入ってほしくないなど、家族への依存度が高いことが考えられます。
要介護者等からみた主な介護者の続柄
図1-2-2-13では、要介護者等を支援する主な介護者として、60%弱が同居家族です。
最も多いのは配偶者で、全体の約25%を占めています。
配偶者にいたっては、女性が66%、男性が34%と、女性が圧倒的に多くなっています。
年齢別では男女とも60歳以上の方が主な介護者になっており、全体の約70%です。
近年増加している老々介護の原因の1つとして考えられます。
嚥下マッサージを寝たきりの方へのまとめ
ここまで嚥下マッサージを寝たきりの方へ施すことについてお伝えしてきました。
嚥下マッサージを寝たきりの方へ施すことについての要点をまとめると以下の通りです。
- 寝たきりの方の嚥下マッサージの注意点は、姿勢や声掛け、力加減など
- 効果的な嚥下マッサージの方法とは、唾液腺マッサージや口腔ケアなど
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。