家や学校で痛んだ食べ物を摂取して食中毒になったことのある方は少なくありません。
しかし細菌やウイルスの種類による食中毒の違いはあまり知られていません。
食中毒になる原因はどのような分類があるのでしょうか?
食品別による食中毒の原因の違いとは何でしょうか?
本記事では食中毒の原因について以下の点を中心にご紹介します。
- 食中毒の原因とは
- 食中毒の潜伏場所とは
- 食中毒の予防方法とは
食中毒の原因について理解するためにも参考にしていただければ幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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食中毒とは
食中毒とは細菌など有害物質がついた食べ物を摂取することで様々な症状が出る病気です。
食中毒の原因により症状は異なり、症状がひどい場合は命にかかわる場合があります。
食中毒の一般的な症状は以下の通りです。
吐き気 | 嘔吐 | 腹痛 | 下痢 | 発熱 |
出典:農林水産省「食中毒の原因と種類」
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食中毒になる原因
食中毒になる原因は細菌性やウイルス性、寄生虫など様々です。
具体的には以下の通りです。
微生物性の食中毒
食品中に付着又は増殖した細菌やウイルスが作り出す毒素が原因で食中毒になります。
微生物性の食中毒は以下に分類されます。
細菌性食中毒
細菌に汚染された食品摂取による食中毒です。
感染型と毒素型に分類されます。
具体的には以下の通りです。
分類 | 概要 | 細菌の種類 |
感染型 | 食品内で増殖した細菌を摂取した結果、胃腸感染を発症させる | サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌、カンピロバクターなど |
毒素型 | 食品内で細菌が産生した毒素を、摂取して発症させる | 黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌など |
ウイルス性食中毒
ウイルスが原因となる食中毒です。
ウイルス感染した食品の摂取以外に人の手指を介して食品に付着する2次感染があります。
ウイルス性食中毒のウイルスの種類は以下の通りです。
ノロウイルス | サポウイルス | A型肝炎ウイルス | E型肝炎ウイルス |
化学性の食中毒
化学物質が食品の外部から混入、または生成することで食中毒が発症します。
化学性食中毒の主な発生原因は以下の通りです。
- 食品添加物など不適切な使用
- 環境汚染による食品の汚染
- 器具や容器包装使用における有害物質の溶出:やかんや水筒が原因の銅食中毒など
- 食品製造過程における有害物質の混入:ヒ素ミルク中毒など
- ヒスタミン中毒:アミノ酸を多く含む魚など
自然毒による食中毒
自然毒とは植物や動物が保有または食物連鎖により体内に蓄積された有毒成分をいいます。
食べられる食品と自然毒の食品を間違えてしまうことや調理の問題などが原因です。
毎年発生しており、死亡例の報告があります。
自然毒は植物性、動物性に分類されます。
具体的には以下の通りです。
植物性
食品名 | 毒性成分 | 似ている食品 |
ツキヨタケ | イルジンS | ヒラタケ、シイタケ |
チョウセンアサガオ | アトロピン、スコポラミン | ごぼう |
じゃがいも | ソラニン、チャコニン |
動物性
食品名 | 毒性成分 | 毒性成分を含む部位 |
フグ | テトロドトキシン | 筋肉、皮、精巣以外 |
ホタテガイ | アトロピン、スコポラミン | 中腸腺 |
その他
食品や水に付着した寄生虫が原因で食中毒になる場合があります。
食品分類別の寄生虫は以下の通りです。
分類 | 寄生虫の種類 |
生鮮魚介類 | アニサキス、肺吸虫など |
肉類 | 旋毛虫、有鉤条虫など |
飲料水、野菜、果物等 | エキノコックス、クリプトスポリジウムなど |
ときどき飲食店で食中毒による業務停止命令などが出ることがあります。しかし、それは氷山の一角で、実は家庭でも食中毒が起こっているのです。食中毒はどうやったら防ぐことができるのでしょうか。本記事では食中毒について以下の点を中心に[…]
具体的な食中毒の原因物質
食中毒は微生物の種類により食品などの潜伏場所や毒性成分は異なります。
具体的な食中毒の原因物質は以下の通りです。
サルモネラ菌
サルモネラ菌は家畜や河川、下水など自然界に広く生息している菌です。
2500種類以上の種類が発見されています。
潜伏場所
- 牛、鶏、豚など家畜の腸内
- 汚染された河川や下水
- 保菌したネズミやハエ、ゴキブリ
- ペット:犬、猫、亀など
原因となる食品
- 牛、豚、鶏などの食肉
- 卵(加工品を含む)
- うなぎ、すっぽんなど(河川に住む生きもの)
黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌はブドウの房のように集合している様子から名づけられた菌です。
自然界や動物に広く分布しており、人間の20~30%が保菌しているといわれています。
食中毒以外におできやニキビなどの原因菌としても知られています。
潜伏場所
- 哺乳類や鳥類などの皮膚や腸管
- ホコリ
- 人や動物の傷口(化膿した場所に多い)
- 人間の手指、鼻、のど、耳、皮膚など
原因となる食品
- 様々な調理加工品や菓子類
- 特に素手で調理する手作り食品は手を介して食品が汚染される場合がある
腸炎ビブリオ菌
腸炎ビブリオは主に海に生息する細菌です。
5類感染症疾患である感染性胃腸炎の1つに指定されています。
潜伏場所
- 沿岸の海水、海泥(15度以上で活発、4度以下でほとんど繁殖しない)
- 海産の魚介類
原因となる食品
- 海産の生鮮魚介類および加工品
- 魚介類調理後の手や包丁による2次汚染された食品
カンピロバクター属菌
カンピロバクター属菌は主に螺旋の形をした桿菌の1つです。
毎年10人に1人は発症し、世界の胃腸炎で最も多い原因菌といわれています。
潜伏場所
- 家畜(鶏、豚、牛)や野生動物、野鳥などの腸内
- 犬、猫などのペットの糞便
- 甲殻類
原因となる食品
- 食肉(特に鶏肉)
- 井戸水などの飲料水
- 生野菜のサラダ
厚生労働省「カンピロバクター感染症 (ファクトシート)」
セレウス菌
セレウス菌は土壌細菌の1つです
熱に強く、90℃、60分の加熱にも耐えられる芽胞を形成することができます。
毒素の違いにより、下痢型と嘔吐型の2種類に分類されます。
潜伏場所
- 河川
- 土壌
- ほこり
- 野菜や穀物などの農産物
原因となる食品
- 下痢型:バニラソース、スープ類、プリンなど
- 嘔吐型:焼飯類(チャーハン、ピラフなど)、麺類(焼きそばなど)
ボツリヌス菌
ボツリヌス菌は空気がない環境で生育できる嫌気性細菌の1つです。
熱に強く芽胞形成が可能です。
自然界に存在する毒素の中で最強の毒力があるといわれています。
潜伏場所
- 土壌
- 湖沼
- 動物の腸管
原因となる食品
- 酸素のない状態になっている食品(缶詰、瓶詰、真空パック食品など)
- 発酵食品
ウエルシュ菌
ウェルシュ菌はボツリヌス菌と同様、嫌気性細菌の1つです。
耐熱性が強く、芽胞を形成し100度、6時間の加熱にも耐えることができます。
潜伏場所
- 人や動物の腸管(特に牛、鶏、魚に多い)
- 土壌
- 水中
原因となる食品
- 汚染された肉類や魚介類等を使用した煮込み料理(カレー、シチューなど)
- 上記食品の室温放置
リステリア・モノサイトゲネス
リステリア・モノサイトゲネスは自然界に広く分布している細菌です。
人以外に様々な動物も感染するため人畜共通感染症の1つに指定されています。
潜伏場所
- 家畜・家禽
- 野生動物や昆虫
- 魚類
原因となる食品
- 乳製品(ナチュラルチーズなど)
- 食肉加工品(生ハムなど)
- 魚介類加工品(スモークサーモンなど)
- サラダ(コールスローなど)
厚生労働省「リステリアによる食中毒」
エルシニア・エンテロコリチカ
エルニシア・エンテロコリチカはボツリヌス菌同様、嫌気性細菌の1つです。
低温(0~4度)でも活性化できるため冷蔵庫内で増殖する可能性があります。
潜伏場所
- 豚、犬、猫などの腸管
- ペットなどの糞便
- 河川水
原因となる食品
- 食肉(特に豚肉)
- 野菜サラダ
- 生乳
- 豆腐
赤痢菌
赤痢菌は急性腸炎を発症させる細菌の1つです。
3類感染症疾患として指定されています。
志賀潔によって初めて発見されたことで知られています。
潜伏場所
- 人や一部の霊長類
- 保菌者の糞便
- 汚染された手指や食品、水、器物
- ハエ
原因となる食品
- 汚染された手や包丁などによる2次汚染された食品や水
- 汚染された輸入食品など
腸管出血性大腸菌
腸管出血性大腸菌はベロ度控訴を産生する大腸菌の1つです。
1996年、O157の名称で集団感染が確認され、社会現象になりました。
3類感染症疾患として指定されています。
潜伏場所
- 人や動物の腸管内(特に牛の腸管に多く検出)
- 自然界に広く分布
原因となる食品
- 生食や加熱不十分の食肉(牛肉や牛レバーなど)
- 食肉から2次感染した様々な食品
ノロウイルス
ノロウイルスは小腸粘膜に増殖し急性胃腸炎を引き起こすウイルスです。
1年中発生しますが、特に冬に流行しやすいです。
感染力が非常に強く、少量のウイルスでも発症する特徴があります。
潜伏場所
- ノロウイルスに感染した人の糞便、吐しゃ物
- 牡蠣など2枚貝
原因となる食品
- 牡蠣などの2枚貝
- 感染者から2次感染した様々な食品
E型肝炎ウイルス
E型肝炎ウイルスは急性ウイルス性肝炎を引き起こす肝炎ウイルスの1つです。
中央アジアや北アフリカなどで報告例が多く、日本でも発生が報告されています。
潜伏場所
- 豚や鹿、猪などの動物の肝臓
- 上記動物の糞便
- 汚染された下水
原因となる食品
- 豚や鹿、猪などの生肉、内臓
- 飲料水(生水)
アニサキス
アニサキスは体長2~3cmの寄生虫、線虫類の1つです。
アニサキスの幼虫は主に魚介類に寄生することで知られています。
潜伏場所
- 魚介類の内臓表面、筋肉
- オキアミなどの甲殻類の体内
原因となる食品
- アニサキスが寄生した魚介類を生食
- サバ、サケ、ニシン、スルメイカ、イワシ、サンマ、ホッケ、タラなど
厚生労働省「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」
食中毒を減らすには
食中毒対策として物理化学的・化学的・生物的の3つの方法があります。
具体的には以下の通りです。
物理化学的な方法
温度、電気、光など物理化学に基づいた方法で対応します。
具体的には以下の方法です。
温度
芽胞形成する一部の菌を除き、大半の食中毒菌は加熱処理で死滅させることができます。
細菌の増殖を防ぐために、10度以下または65度以上で管理することが推奨されています。
調理済みの食品や食品を搬送する際は上記温度管理を行う必要があります。
出典:厚生労働省「食事の提供における食中毒予防のための衛生管理」
電気
微生物に対する殺菌法の1つに高電圧パルス法という手法があります。
高電界のパルスを与えると細胞膜に物理的な損傷を与え、死滅させることができます。
出典:農林水産省「交流高電界による微生物制御技術の開発」
光
紫外線を利用した殺菌方法があります。
水や空気、調理台等に照射することで微生物の量を大幅に死滅させることができます。
出典:食衛誌「紫外線殺菌灯の食品衛生面への応用とその効果」
化学的な方法
食品成分や添加物、洗浄剤など化学的に基づいた方法で対応します。
具体的には以下の方法です。
食品成分
酢は殺菌力が高くほとんどの細菌は酢に数分つけると死滅するとの報告があります。
酢の主成分である酢酸はph値が低いため、細菌は酢酸内で生息できません。
わさびは細菌の繁殖を抑制する効果や寄生虫を麻痺させる殺虫効果があります。
わさびを分散させた塩水内ではアニサキスは15分で麻痺するとの報告があります。
添加物
食品添加物の内、保存料はカビや細菌の発育を抑制するため食中毒予防の効果があります。
保存料の種類と概要は以下の通りです。
名前 | 概要 |
ソルビン酸 | バラ科のナナカマドの未成熟果汁内に含まれる、安全性の高い保存料 |
安息香酸 | 細菌の発育や増殖を抑制する静菌作用がある |
プロピオン酸 | カビ類の発育や増殖を抑制する作用がある |
ナイシン | チーズなどに使用される乳酸菌が作る抗菌ペプチド |
洗浄剤
調理に使用するまな板や包丁は傷があると汚れに紛れて雑菌が潜む可能性があります。
また、洗い残した食器やふきんは雑菌が繁殖している場合があります。
上記物品に対し、洗浄剤で除菌することは重要です。
中性洗剤やアルコール製剤、漂白剤などを使用し、除菌・漂白処理を行いましょう。
生物学的な方法
微生物による発酵や拮抗微生物、溶菌酵素など生物学的に基づいた方法で対応します。
具体的には以下の方法です。
微生物による発酵
食中毒予防の1つにお腹の健康を維持する方法があります。
発酵食品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌は健康に有益な微生物です。
プロバイオティクスといわれ、O157など急性下痢症に有効であるといわれています。
出典:厚生労働省「プロバイオティクスについて知っておくべき5つのこと」
拮抗微生物
拮抗微生物は大腸菌などの微生物の活動を阻害する作用があります。
レタスやホウレンソウに生息する細菌はO157に対し拮抗的阻害作用があります。
溶菌酵素
卵白に含まれるリゾチームは黄色ブドウ球菌など細菌の細胞壁を溶かす働きがあります。
またリゾチームを加熱処理すると多くの細菌に対し抗菌作用が広がるとの報告があります。
加熱処理したリゾチームはノロウイルスの不活化効果も期待できます。
家庭でできる食中毒の予防法
家庭でできる食中毒対策として5つの方法があります。
具体的には以下の方法です。
食中毒の予防策
消費期限や賞味期限の記載された食品は期限を守って使用しましょう。
家に帰ったとき、食事の前など手洗いの習慣をつけましょう。
食品の保存
食品を保存する場合、保存場所が重要になります。
常温保存の場合直接日光が当たると食品が高温になる、また変色などの可能性があります。
直射日光を避ける場所に保管しましょう。
保冷環境(冷蔵、冷凍)が必要な食品は冷蔵・冷凍庫に保管しましょう。
注意点として保冷環境では細菌の活動は低下しますが死滅するわけではありません。
冷蔵庫・冷凍庫の食品はできる限り早く使用しましょう。
食品を保管する場合、生の食品から他の食品に細菌が移行する可能性があります。
生の食品と加熱処理された食品を分別して保管するようにしましょう。
また、生の食品は肉のドリップなど水滴が垂れてしまう可能性があります。
生の食品は水滴が垂れないよう2重に包み、冷蔵庫の下の棚に保管するようにしましょう。
手洗い
食中毒菌を他の食器や食料に付着させないため清潔に保つことが大切です。
石鹸を使用し、20秒以上手指全体をこすり洗うようにしてください。
下準備
下準備する場合は生の魚肉の調理に注意が必要です。
生の魚肉の調理後、同じ包丁やまな板を使用すると細菌が移行する可能性が高まります。
調理後の包丁やまな板はすぐ洗った後、熱湯をかけて消毒するとよいでしょう。
生野菜やカット野菜は土などが付着していると細菌が生息している場合があります。
調理前に水でよく洗い土などを落としましょう。
その他タオルやふきんなど使いまわしをしていると細菌が繁殖しやすくなります。
適宜新しいタオルやふきんの交換、また使い捨てのペーパータオルなどを使用しましょう。
調理方法
調理前、また生ものを取り扱った後は必ず手洗いをしましょう。
加熱が必要な食品は十分加熱し、半生などの状態にならないようにしましょう。
殺菌の目安は中心部の温度が75度以上で1分以上の加熱です。
調理済み食品は時間が経過すると細菌が繁殖する可能性があります。
電子レンジ等を使用し再加熱することをおすすめします。
出典:厚生労働省「厚生労働省:家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」
食中毒事件と患者数の推移
ここ20年における食中毒の事件数は年々減少傾向にあります。
平成15年の1565件と比較し、令和3年は717件と半分以下に減少しています。
食中毒患者数も同様に減少傾向です。
理由として、食品衛生法の改定による消費期限の表示や保存方法の徹底が考えられます。
サルモネラは産卵鶏に対するワクチン投与や割置き防止により発生数が減少しています。
腸炎ビブリオは市場で使用する海水の清浄化や保冷方法の見直しが効果を発揮しています。
一方ノロウイルスやカンピロバクターに関しては増加傾向にあります。
理由としてウイルス検査法の開発により原因不明の食中毒が減少したことが考えられます。
食中毒の原因のまとめ
ここまで食中毒の原因についてお伝えしてきました。
食中毒の原因の要点をまとめると以下の通りです。
- 食中毒の原因は細菌など微生物、化学物質による化学性、自然毒などがある
- 食中毒の潜伏場所は微生物により異なるが自然界や動物の体内など多岐にわたる
- 食中毒の予防方法とは手洗い、消毒、下準備、調理方法、保存方法などがある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。