会社勤めの方は、特に健康診断を受ける機会は多いのではないでしょうか。
健康診断とは、様々な病気を早期発見するためにも、とても大切なものです。
そんな健康診断には、種類があることはご存知でしょうか?
本記事では健康診断の種類について以下の点を中心にご紹介します。
- 健康診断の種類と概要
- 健康診断の項目
- 健康診断受診の義務
健康診断の種類について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までご覧ください。
スポンサーリンク
健康診断とは
健康診断とは、生活習慣病をはじめ、様々な病気の早期発見・早期治療はもちろん、病気そのものを予防することを目的とした検査です。
健康診断には、法律により事業者が主に対象である実施が義務付けられた「法定健診」と、一個人が任意で受けられる「任意健診」の2つに分けられます。
スポンサーリンク
健康診断は大きく3種類
健康診断には、大きく分けて以下の3種類あり、そこからさらに分類されます。
- 一般健康診断
- 特殊健康診断
- 行政指導による健康診断
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
一般健康診断
一般健康診断は、業界・職種を問わず全ての事業者や労働者が対象です。
パート・アルバイトについては、週所定労働時間が正社員の3/4以上の方や、契約期間が1年以上もしくは、無期契約労働者が当てはまります。
一般健康診断は、大きく分けて以下の6種類に分けることができます。
- 雇入時健康診断
- 定期健康診断
- 特定業務従事者健康診断
- 海外派遣労働者健康診断
- 結核健康診断
- 給食従業員の検便
それぞれについて詳しく解説していきます。
雇入時健康診断
雇入時健康診断は、「労働安全衛生法」により、事業者が常時使用する労働者を雇い入れるときに、医師による健康診断を行なわなければならないと明記されています。
例外として、労働者が3ヶ月以内の健康診断結果を証明できる書面を提出できた場合には、健康診断は免除されます。
事業者は、労働者の雇用が新たに決まると、健康診断を入職前に受診させるか、労働者が健康診断を個別で受診して、書類を事業者に提出する必要があります。
労働者目線でいうと、新卒での入社や、転職で新たに会社に就職する際に健康診断が必要ということになります。
また健康診断を受ける際は、医師による診断が必要です。
雇入時健康診断で異常が判明した際は、医師などの指導に努める義務があります。
定期健康診断
定期健康診断も、雇入時健康診断と同様で、常時使用する労働者が対象です。
実施期間としては、1年以内に1回実施しなければならないと、労働安全衛生法で定められています。
1年以上間隔を空けることはできないため、健康診断の実施時期を変更する際は注意が必要です。
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、「定期健康診断結果報告書」を所轄労働基準監督署長に報告しなければならないと、労働安全衛生法第66条第1項に定められています。
特定業務従事者健康診断
特定業務従事者健康診断は、労働安全衛生規則第13条第1項第2号に明記されている労働者が対象で、期間は下記業務へ配置換え時もしくは6ヶ月以内に1回です。
対象者は、以下の通りです。
対象者 |
⒈多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務 ⒉多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務 ⒊ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務 ⒋土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務 ⒌異常気圧下における業務 ⒍さく岩機、鋲びよう打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務 ⒎重量物の取扱い等重激な業務 ⒏ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務 ⒐坑内における業務 ⒑深夜業を含む業務 ⒒水銀、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務 ⒓鉛、水銀、クロム、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務 ⒔病原体によつて汚染のおそれが著しい業務 ⒕その他厚生労働大臣が定める業務 |
出典:e-gov【労働安全衛生規則第13条第1項第2号】
一般健康診断との大きな違いは、期間が6ヶ月に1回と短い間隔で受けなければならない点です。
深夜業を含む業務は、夜勤をされている方が当てはまります。
夜勤をされている方に限らず、対象者の方は業務が心身の健康に影響を与えてしまう恐れがあると判断されているためです。
海外派遣労働者健康診断
1989年に労働安全衛生法が改正されたことで、海外へ派遣される労働者が渡航前後で健康診断を受けることを義務付けられるようになりました。
対象者は、海外に6ヶ月以上派遣される予定の労働者です。
出張や駐在など派遣形態を問わず、健康診断を受ける必要があります。
実施期間は、海外に派遣される前に1回、海外に派遣後に1回の計2回です。
一時帰国の場合は、受ける必要はありません。
また、6ヶ月以内に健康診断を受けている場合には、省略できる項目があります。
海外派遣労働者健康診断の目的は、定期健康診断を受けられない代わりとして、さらに海外という普段と異なる環境で健康問題を予防し、早期発見・早期治療を目指すことです。
結核健康診断
結核健康診断は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第53条の2により規定されています。
対象者は、
- 学校に従事する労働者や学生
- 刑事施設に収容されている20歳以上の者や社会福祉施設の入所者
- 労働者
が当てはまります。
社会福祉施設の入所者については、65歳以上の方が対象です。
結核健康診断は、結核を早期に発見し、集団感染を防ぐことが目的です。
期間は、個人によって異なります。
基本的に労働者は、毎年度受けなければならず、学生については、入学した年度のみ受ける必要があります。
社会福祉施設の入所者、刑事施設の収容者は、対象年齢に達する年度以降に毎年度受けなければなりません。
給食従業員の検便
給食従業員の検便は、労働安全衛生規則第47条により定められています。
対象者は、全給食従事者で雇入時や業務に配置替え時に検便を受けなければなりません。
また学校給食衛生管理基準により、毎月2回以上実施する必要があります。
特殊健康診断
健康診断の2種類目は、特殊健康診断です。
職業病・労働災害などを未然に防ぐ目的があります。
厚生労働省は、特殊健康診断について以下のように定めています。
「厚生労働省によると事業者は、一定の有害な業務に従事する労働者に対し、医師による特別な項目について健康診断を行わなければなりません。」
一部の業務においては、その業務から離れている間も特殊健康診断を受ける必要があります。
労働者の特殊健康診断の結果によっては、就業場所・作業の変更や労働時間短縮などの措置や、作業環境の調査や改善措置を講じなければなりません。
結果は、記録を作成し、業務内容によって異なりますが、5年間または30年間保存する必要があります。
じん肺健康診断
土ぼこりや、金属の小さな粉、粉じんが発生する環境に従事する者は、じん肺健康診断を受けなければなりません。
そもそも「じん肺」とは、粉じんを長期間吸い込むことで肺が変化を起こして病気になってしまうことです。
本来肺は、弾力があって呼吸をするために伸縮していますが、じん肺になると肺は弾力がなくなり硬くなります。
硬くなることで、息苦しさや様々な病気を併発してしまう恐れがあり危険な病気です。
厚生労働省によると、対象者は常時粉じん作業に従事する労働者、過去に粉じん作業に従事していた労働者です。
じん肺健康診断の実施期間は、新たに就業時、1年もしくは3年に1回(じん肺管理区分により異なる)、離職時、一般的健康診断で「じん肺の疑いあり」「じん肺所見あり」とされたときと定められています。
有機溶剤健康診断
有機溶剤健康診断の対象者は、屋内作業場など有機溶剤を扱う従事者が対象です。
実施期間は、雇入時と6ヶ月以内に1回定期的に受けなければなりません。
有機溶剤は、塗装や洗浄、印刷など多くの職場で使用され、
- 揮発性
- 脂溶性
といった2つの性質があります。
揮発性があることで、蒸気になりやすく吸入してしまうと急性中毒を引き起こしてしまう恐れがあります。
脂溶性は、有機溶剤が皮膚に接触してしまうと皮膚の炎症や、二次感染を起こしてしまうこともあり、腎臓や肝臓に障害を起こしてしまうことも少なくありません。
有機溶剤健康診断は、症状の有無の確認や有機溶剤が原因かどうか確かめることにあります。
鉛健康診断
鉛健康診断は、鉛中毒予防規則第53条により、鉛業務に従事する労働者の方が受けなければならないとされています。
鉛や鉛化合物が体内に吸収されてしまうと、鉛中毒になってしまう危険性が高いです。
鉛中毒になると、手足の感覚麻痺や造血器障害などが症状としてあらわれます。
鉛業務としては、はんだ付けや鉛を含む製品の切断、溶接などがあります。
実施時期は、雇入時や鉛業務への配置替え時、6ヶ月以内に1回です。
電離放射線健康診断
電離放射線健康診断は、放射線業務に従事する労働者の方が受けなければなりません。
実施期間は、雇入時と該当業務への配置替え時、6ヶ月以内に1回です。
放射線は、遺伝子に影響を与えます。
少量の被ばくであれば、人体の修復機能により回復することが多いです。
しかし修復できなかった場合には、がんなど病気のリスクが高まってしまいます。
そのため電離放射線健康診断は、そういった病気を未然に防ぐことを目的としています。
特定化学物質健康診断
特定化学物質健康診断は、特定の化学物質を扱う業務に従事する労働者の方が受けなければならないとされています。
実施期間は、雇入時と該当業務への配置替え時、6ヶ月以内に1回です。
特定の化学物質は、頭痛やめまいなどの神経障害を引き起こします。
他にも造血障害や肝障害などのリスクもあり、特定化学物質健康診断はそれらを未然に防ぐことや早期に対応できるようにすることを目的としています。
高圧業務健康診断
高圧業務健康診断は、高圧室内業務または潜水作業に従事する労働者の方が受けなければなりません。
実施期間は、雇入時と該当業務への配置替え時、6ヶ月以内に1回です。
高圧業務は、
- 減圧症
- 酸素中毒
- 窒素酔い
を引き起こす可能性があります。
減圧症は、皮膚障害や呼吸器や神経に悪影響を与えます。
酸素中毒は、酸素分圧が高いガスを吸引することで、呼吸困難や意識障害などを引き起こしてしまうことが多いです。
窒素酔いは、窒素を多く取り込むことが原因で、集中力や判断力の低下を生じさせます。
歯科健康診断
歯科健康診断は、2022年10月から有害な業務に従事する全ての労働者の方の受診が義務付けられました。
有害な業務の対象となるのは、以下の通りです。
- 塩酸
- 硫酸
- 亜硫酸
- フッ化水素
- 黄りん
- その他歯またはその支持組織に有毒なもののガス、蒸気または粉じんを発散する場所に従事する労働者
メッキ工場や塗装業などで従事されている方などが当てはまります。
実施期間は、雇入時と該当業務への配置替え時、6ヶ月以内に1回です。
四アルキル鉛健康診断
四アルキル鉛健康診断は、四アルキル鉛を扱う業務に従事する労働者の方が受けなければならないとされています。
実施期間は、雇入時と該当業務への配置替え時、6ヶ月以内に1回です。
四アルキル鉛を多く取り込むと、「四アルキル鉛中毒」になってしまう恐れがあります。
症状には、
- 頭痛
- めまい
- せん妄
- 幻覚
などがあり、重症化すると血圧が下がり死に至ってしまうこともあります。
行政指導による健康診断
3種類目の健康診断は、労働安全衛生法で定められた業務の他に、行政が実施を勧奨している健康診断になります。
VDT作業健康診断
VOT作業健康診断は、1日4時間以上情報機器を操作する業務に従事している方が対象です。
目的は、VOT作業による負担を減らし、快適に仕事を進めていけるようにすることです。
区分の仕方については、非常に複雑であるため、気になる方は厚生労働省のガイドラインをご覧ください。
実施期間は、雇入時と該当業務への配置替え時、1年以内に1回です。
騒音健康診断
厚生労働省が、多くの騒音性難聴が発生していたことから、「騒音障害防止のためのガイドライン」を1992年に策定しました。
騒音健康診断は、騒音レベルが85㏈以上発生する職場に従事されている労働者の方が対象となります。
実施期間は、雇入時と該当業務への配置替え時、その後6ヶ月以内に1回、離職時です。
腰痛健康診断
腰痛健康診断は、腰痛の早期発見や正しい自己措置を取れるようになることを目的としています。
重量物を取り扱う業務に従事されている方や、介護・看護など腰に多くの負担がかかる作業に従事されている方が対象となります。
実施期間は、雇入時と該当業務への配置替え時、その後6ヶ月以内に1回です。
年に1度の健康診断は受けていますか?つい面倒で、しばらく受けていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。健康診断は、病気の早期発見や予防に欠かせません。 本記事では健康診断について以下の点を中心に[…]
健康診断の項目内容
各健康診断の項目内容について解説していきます。
定期健康診断
定期健康診断の診断項目は、以下の通りです。
項目 |
⒈既往歴及び業務歴の調査 ⒉自覚症状及び他覚症状の有無の検査 ⒊身長、体重、胸囲、視力及び聴力の検査 ⒋胸部エックス線検査及び喀痰検査 ⒌血圧の測定 ⒍貧血検査(血色素量及び赤血球数) ⒎肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP) ⒏血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセリド) ⒐血糖検査 ⒑尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査) ⒒心電図検査 |
出典:厚生労働省【職場のあんぜんサイト】
1〜3については、全て生活習慣病が起因して数値としてあらわれるものです。
定期的に健康診断を受けて早期に異常を見つけることは、非常に重要なこととなります。
血液検査でわかることは、貧血や、肝臓・腎臓の異常や糖尿病などです。
尿検査は、腎臓病や膀胱などの病気に限らず、心臓病や肝臓病も兆候を知ることができます。
特定業務従事者健康診断
特定業務従事者健康診断の診断項目は、以下の通りです。
項目 |
⒈既往歴及び業務歴の調査 ⒉自覚症状及び他覚症状の有無の検査 ⒊身長、体重、胸囲、視力及び聴力の検査 ⒋胸部エックス線検査及び喀痰検査 ⒌血圧の測定 ⒍貧血検査(血色素量及び赤血球数) ⒎肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP) ⒏血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセリド) ⒐血糖検査 ⒑尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査) ⒒心電図検査 |
出典:e-gov【労働安全衛生規則第45条】
定期健康診断と同様の診断項目となっています。
血液検査でわかることは、貧血や、肝臓・腎臓の異常や糖尿病などです。
尿検査は、腎臓病や膀胱などの病気に限らず、心臓病や肝臓病も兆候を知ることができます。
定期健康診断と違いは、健康診断の期間が短く、より早期に異常を発見しやすいことにあります。
特定業務従事者の方は、業務内容が心身の健康に影響を与えやすく、健康診断を受けることは非常に重要です。
海外派遣労働者健康診断
海外派遣労働者健康診断の診断項目は、以下の通りです。
項目 |
⒈既往歴及び業務歴の調査 ⒉自覚症状及び他覚症状の有無の検査 ⒊身長、体重、胸囲、視力及び聴力の検査 ⒋胸部エックス線検査及び喀痰検査 ⒌血圧の測定 ⒍貧血検査(血色素量及び赤血球数) ⒎肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP) ⒏血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセリド) ⒐血糖検査 ⒑尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査) ⒒心電図検査 ⒓腹部画像検査 ⒔血中の尿酸の量 ⒕B型肝炎ウイルス抗体検査 ⒖ABO式およびRh式の血液型検査 ⒗糞便塗抹検査(帰国時に限る) |
出典:e-gov【労働安全衛生規則第45条2】
12〜16の項目は医師が必要と判断した場合のみ実施します。
基本的に内容は一般的な健康診断と同様です。
16の糞便塗抹検査は、人体内部の寄生虫の存在を発見するためのものです。
結核健康診断
結核健康診断の診断項目は、胸部X線撮影と喀痰検査などです。
胸部X線では、白黒が反転します。
通常では白く明るく映りますが、結核など肺に異常があれば黒く光ります。
黒く光るだけでは、結核と判断できませんが、痰を顕微鏡で見ると、結核菌の有無がわかることが多いです。
給食従業員の検便
検便は、腸内の細菌を発見するためのもので、食中毒を未然に防ぐ重要な役割があります。
具体的には、以下のような腸内細菌があります。
- 赤痢菌
- サルモネラ菌
- 腸管出血性大腸菌
便を対象者自ら採取して、容器を提出します。
じん肺健康診断
じん肺健康診断の診断項目については、以下の通りです。
- 粉じん作業の職歴の調査
- 胸部X線撮影
- 胸部臨床検査
- 肺機能検査
- (疑いがある場合)結核精密検査その他合併症に関する検査
出典:厚生労働省【じん肺健康診断について】
粉じん作業は、肺に影響を与えることが多いため、肺に関する検査が多くなっています。
胸部臨床検査は問診などを含め、咳・痰・呼吸困難など
- 自覚症状
- 他覚症状
を調査します。
有機溶剤健康診断
有機溶剤健康診断の項目内容は、以下の通りです。
項目内容(必ず実施しなければならない) |
⒈業務歴の調査 ⒉有機溶剤による健康障害の既往歴の調査 ⒊自覚症状及び他覚症状の有無の検査 ⒋尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査 ⒌尿中の蛋白の有無 ⒍肝機能検査 ⒎貧血検査 ⒏眼底検査 |
出典:e-gov【有機溶剤中毒予防規則第29条】
医師が必要と判断した場合には、神経内科科学的検査などの検査が必要です。
他の健康診断との大きな違いは、尿中の有機溶剤の代謝物の調査や眼底検査です。
眼に有機溶剤が入ることで充血や、眼痛などの症状も発生するため、眼底検査ではそれらの症状がないかを調べています。
鉛健康診断
鉛健康診断の項目内容は、以下の通りです。
- 業務歴の調査
- 鉛による健康障害の既往歴の調査
- 鉛による自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 血液中の鉛の量の検査
- 尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査
出典:e-gov【鉛中毒予防規則第53条】
医師が判断した場合は、貧血検査や赤血球中のプロトポルフィンの量の検査などの検査が必要になります。
他の健康診断との大きな違いは、血液中の鉛の量の検査や尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査です。
体の中に鉛が含まれていないか、それによって症状が出てしまっていないかを調べています。
電離放射線健康診断
電離放射線健康診断の診断項目は、以下の通りです。
- 被ばく歴の有無の調査
- 白血球数及び白血球百分率の検査
- 赤血球数の検査及び血色素量またはヘマトクリット値の検査
- 白内障に関する眼の検査
- 皮膚の検査
出典:e-gov【電離放射線障害防止規則第56条】
放射線の影響を受けると、白血球の減少や白内障などの症状があらわれるため、それらを判断するための診断内容となっています。
特定化学物質健康診断
特定化学物質健康診断の診断項目は、物質によって異なりますが、全ての物質に共通する項目は以下の通りです。
- 業務経歴の調査
- 既往歴の有無の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の調査
出典:厚生労働省【特定化学物質健康診断】
物質数や検査項目が多岐に渡ります。
物質によって検査項目が全く異なるのは、物質によって身体に与える影響が異なるためです。
高気圧業務健康診断
高気圧業務健康診断の診断項目は、
- 第一次検査
- 第二次検査
の2つの検査があります。
高気圧業務健康診断の検査項目は、以下の通りです。
第一次検査
- 既往歴及び高気圧業務歴の調査
- 関節、腰もしくは下肢の痛み、耳鳴りなどの自覚症状または他覚症状の有無の検査
- 四肢の運動機能の検査
- 鼓膜及び聴力の検査
- 血圧の測定並びに尿中の糖及び蛋白の有無の検査
- 肺活量の測定
第二次検査
- 作業条件検査
- 肺換気機能検査
- 心電図検査
- 関節部のエックス線直接撮影による検査
高気圧が、手足の感覚や運動器官、呼吸器に影響を与えることが多いため、それらを未然に防ぐ、早期に対応できるような内容になっていることがわかります。
歯科健康診断
歯科健康診断の診断項目は、一般的な歯科検診と異なり、口腔周りの皮膚状況や歯牙酸触症など歯の状況確認、顎骨の確認です。
塩酸や硫酸などの有害物質は、歯に触れてしまうと、歯を溶かしてしまう危険性があります。
歯は酸に弱く簡単に溶けてしまうことから、有害な業務に従事されている方は定期的な歯科健康診断が必要です。
四アルキル鉛健康診断
診断項目は、以下の通りです。
- 業務の経歴の調査
- 作業条件の調査
- 四アルキル鉛による様々な症状の有無の検査
- 様々な自覚症状、他覚症状の有無の検査
- 血液中の鉛の量の検査
- 尿中のデルタアミノレプリン酸の量の検査
出典:e-gov【四アルキル鉛中毒予防規則第22条】
医師が必要と判断した場合は、貧血検査や神経科学的検査、赤血球中のプロトポルフィリン量の測定が必要となります。
血液中の鉛の量の検査については、前回の健康診断で受診していて医師が判断した場合のみ省略可能です。
VDT作業健康診断
健康診断の対象者に当てはまらないが、情報機器を操作する業務に従事している方については、自覚症状がある場合に同様の診断項目を受けられます。
VOT作業健康診断の診断項目は、以下の通りです。
- 業務歴の調査
- 既往歴の調査
- 自覚症状の有無の調査
- 眼科学的検査
- 筋骨格系検査
出典:厚生労働省【情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン】
VOT作業は、主に眼精疲労やドライアイなど視覚機能に影響を与えるものと、首や肩のこりなど筋骨格系への影響の2つが考えられます。
長期間ディスプレイを見続けていることにより視覚機能に影響を与え、同じ姿勢のままデスクワークをしていることなどが筋骨格系に負担が蓄積されていきます。
これらの診断結果によっては、作業環境・姿勢・時間の改善が必要です。
騒音健康診断
雇入時騒音健康診断の診断項目については、以下の通りです。
- 既往歴の調査
- 業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の調査
- オージオメータによる250,500,1,000,2,000,4,000,8,000ヘルツにおける聴力の検査
- その他医師が必要と認める検査
出典:厚生労働省【騒音障害防止のためのガイドライン】
定期騒音健康診断は、上記にプラスしてオージオメータによる1,000ヘルツ及び4,000ヘルツにおける選別聴力検査があります。
診断結果により、騒音作業時間短縮や防音保護服の着用などの措置が必要となります。
騒音性難聴は、治ることがないため、ならないように未然に防ぐことが必要です。
そのため騒音健康診断で定期的に聴力を検査しておくことは非常に重要なこととなります。
腰痛健康診断
雇入時腰痛健康診断の診断項目は、以下の通りです。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状
- 脊柱の検査
- 神経学的検査
- 脊柱機能検査
定期腰痛健康診断においては、医師が必要と判断した場合のみ
- 神経学的検査
- 脊柱の検査
を行うこととされています。
結果によっては、作業方法の改善や作業時間の短縮などの事後措置が必要となります。
健康診断は「企業の義務」だが「受診の義務」もある
健康診断の実施は、労働安全衛生法第66条第1項によって事業主側の責務と定められています。
さらに従業員も「自己保健義務」があり、会社が行う健康管理の措置や配慮に協力することが求められているのです。
休暇中であるなど特別な事情がない限り、従業員は全員健康診断を受けなければなりません。
仮に健康診断を拒否する従業員がいた場合、事業者側は職務上の命令として健康診断の受診を命じることが可能です。
健康診断は福利厚生としても認められており、実施をしなかった場合には50万円以下の罰金刑となる場合もあります。
自分の健康状態を把握できる機会でもあるので、健康診断は必ず受けるようにしましょう。
健康診断と人間ドックの違い
健康診断は、労働者に対して毎年行われる検査です。
人間ドックは、健康診断だけでは知り得ない身体の状態を把握することが可能です。
健康診断では、診断項目が10項目ほどですが、人間ドックは40〜100項目とかなり多くの診断項目を実施します。
福利厚生として人間ドックを実施している会社もありますが、基本的に人間ドックを受けたい場合は、自身で手続きをする必要があります。
人間ドックの費用は、一般的な健康診断よりも高額で健康保険も適用外となるため注意が必要です。
健康診断実施後の事業者の責務
事業者は、健康診断をただ実施するだけでなく、実施後においても責務があります。
1つ目は、従業員の健康診断結果の報告義務です。
定期健康診断結果や特定業務従事者の健康診断結果を所轄労働基準監督署に報告しなければなりません。
海外派遣労働者健康診断結果や雇入時健康診断結果については、報告義務がありません。
2つ目は、健康診断結果の保管義務です。
一般健康診断は、5年間保存する必要があります。
行政指導における健康診断結果については、保管義務がありません。
3つ目は、健康診断結果の労働者への通知です。
4つ目は、医師等の意見聴取で、事後措置を決定します。
このように事業者側は、実施するだけでなく、実施後についても様々な責務を抱えています。
健康診断の種類のまとめ
ここまで健康診断の種類についてお伝えしてきました。
健康診断の種類についての要点をまとめると以下の通りです。
- 健康診断の種類は、一般健康診断・特殊健康診断・行政指導による健康診断の3つに分けられる
- 健康診断によって、実施時期や診断項目が異なる
- 事業者には健康診断実施後に、報告の義務や保管の義務など様々な責務がある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。