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【専門家インタビュー】日本人の認知症に対する意識や態度の啓蒙について

弘前大学医学部心理支援科学科

大庭 輝 准教授

弘前大学医学部心理支援科学科の大庭輝准教授らによって、日本人の認知症に対する認識が過大評価されているということがわかりました。

今回はその調査結果について、大庭准教授にお聞きしました。

研究に関するプレス発表資料

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日本の認知症に対する意識・態度

編集部:この調査の内容や行った意図を教えてください。

大庭様:もともとこの研究はオーストラリアで実施されていて、オーストラリアの研究者から日本でも実施したいということで始めました。この調査では、日本人の認知症に対する意識・態度・知識について尋ねました。

編集部:そうなのですね、日本とオーストラリアの方を比較して何かわかったことはありましたか?

大庭様:両国に共通しているのは、自分が認知症になった時は、できるだけ早く知りたいという人が約9割を占めるということです。
これは日本やオーストラリアだけでなく、どのような国でも大体同じ結果です。

一方で日本人は、配偶者や家族が認知症と診断された時に、本人にできるだけ早く伝えたいという人は7割弱にまで低下しました。
海外の方は、できるだけ早く伝えるという回答が多く、そこが日本と海外の大きな違いだと思います。

日本人が配偶者や家族には認知症の診断を伝えたくないという理由として、「不要な心配をかけないようにする」「普段通り生活してほしい」といった、知らない方が本人のためという考えに根付くものだと思います。

海外では個人の尊厳を重要視するため、「本人のためには伝えた方がいいだろう」という考えが強いことがこの結果が示された理由だと思います。

この辺りは今後、国際比較などを進めていく必要があるのかなと感じています。

編集部:他にはどういった調査結果が得られたのでしょうか。

大庭様:1番なりたくない病気は何かという調査で、日本人はがんが1番怖いと回答する人が多かったんですね。
がんは日本人の死因で1番多いですし、若い年代の人でもかかりうるので、全年代を対象にした調査ではやはりがんが1番に挙がります。

しかし、高齢者に限定して言うと、がんよりも認知症の方が怖いという人が多いということが分かりました。

やはり、若い人にとって認知症は遠い将来の話という認識が強いですが、高齢者になると認知症が身近になるので、怖いという思いが強くなるのかなと思います。

もしかしたら、高齢者の方はすでにがんを経験した人もいたかもしれないので、がんよりも認知症の方が怖いという結果が大きくなった可能性はあります。

編集部:がんや認知症が怖いと思われる理由についてはどういったことがあるのでしょうか?

大庭様:がんの場合はやはり薬の副作用や身体的な問題が理由です。

一方認知症の場合は、自分が鬱や孤独になってしまうのではないか、社会の偏見に晒されてしまうのではないか、日常生活ができなくなるということが大きな理由だと考えられます。

編集部:なるほど。
大庭様の研究内容のプレスリリースを読ませていただいた際、日本人の認知症に対する認識は過大評価されているという記述があったのですが、どういった意味なのでしょうか?

大庭様:「65歳までに認知症になる人はどれくらいいると思いますか」「85歳までに認知症になる人はどれくらいいると思いますか」という質問をしたときに、実態よりも認知症の人は多いと思われているということがわかりました。

この理由についてははっきりとはわかっていません。
ただ、日本の高齢者人口ってすごく多いわけですよね。
ですから、高齢者に接する機会が多いですとか、テレビで多く認知症のことが取り上げられるということが理由なのかなと思っています。

また、認知症になるのが怖い理由に「偏見に晒される」ということがあるように、社会で認知症に対する偏見があると多くの人が考えているんですね。

したがって、日本人の認知症に対する偏見をなくしていくことが重要ですね。

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日本人の認知症に対する意識改革のための啓蒙とは

編集部:日本の認知症に対するケアの質というのは、やはり海外に比べると高いのでしょうか?

大庭様:日本のケアは世界でトップの水準じゃないかなとは思います。
今の認知症ケアの基本的な考え方であるパーソンセンタードケアも、日本では広く普及しています。
また、介護保険というところでサービスの水準が整っているというところも日本のいいところだと思います。
人手不足という問題はありますが。

編集部:日本ではケアの水準が高いのに、認知症に対する恐怖心が強いということですが、こういった意識を変えるためには具体的にどうしたらいいとお考えですか?

大庭様:認知症は治らない病気と認識されていますし、事実認知症の原因疾患で最も多いアルツハイマー型認知症を治すことは今の医療ではできません。
ですから、診断を受けるのが怖いという気持ちもわかりますし、それがなかなか受診に繋がらない理由というのもわかります。

昔は、認知症の早期診断が「早期絶望」だと言われていたこともあります。
その時の空気が今の高齢者にもあるのかもしれません。

ですが、診断を早く受けることができれば、準備ができるんですよね。

例えば、認知症になった後の相続や財産管理の問題や、延命が必要になったときにどうして欲しいかを事前に話し合っておくことができます。
介護を受ける準備ができていれば、介護者の方も準備ができ、突然介護が必要になっても落ち着いて対応することができます。

もちろん認知症になりたくない気持ちは誰もが持っていると思いますが、人生思うようにいくことばかりではありません。
認知症にならないように生活習慣を改めたり予防になるとされる活動をしたりすることは大切ですが、どれだけ頑張ったとしてもなる時はなってしまいます。

したがって、認知症になったときにどうするかを考えることも重要だと思います。

健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

大庭様:やはり、誰もが認知症になる可能性はあるので、早めに備えることが大切だと思います。
認知症と診断されることで心理的にショックを受けることは正常な反応ですが、そこで留まってしまわずに、認知症になってからどうするかというところも考えて欲しいと思います。

また、日本では認知症と診断されてから介護保険サービスを受けられるようになるまでに、時間がかかります。
認知症ケアに携わる方には、認知症と診断されてすぐの頃から支援を受けられるような仕組みづくりを頑張って欲しいと思います。

大庭様の著書

認知症plusコミュニケーション 怒らない・否定しない・共感する|日本看護協会出版社

認知症の人はどのような苦しみを抱えているのか、私たちはなぜ認知症の人ともっとコミュニケーションをとるべきなのか、認知症の人とコミュニケーションをとる時にどんなことを意識したらよいのか、心理学の視点から認知症の人のコミュニケーションについて解説しています。

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弘前大学医学部心理支援科学科 准教授

大庭 輝おおば ひかる

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