令和2年の厚生労働白書によると、2040年には全人口の35.3%が65歳以上の高齢者になると予想されています。
そのような社会で問題視されるのは認知症です。
今回は県内の大学と医療機関が連携し、認知症に対する取り組みを行っている、熊本県の「認知症疾患医療センター」のセンター長、竹林実様にお話を伺いました。
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熊本モデル「認知症疾患医療センター」とは?
編集部:そもそも認知症疾患医療センターとはどういった施設なのですか?
竹林様:認知症の診断や対応、認知症に関する相談などを受け付けている医療機関のことです。
編集部:設立した経緯などを伺ってもよろしいでしょうか?
竹林様:コンセプトは「全ての熊本県民に認知症医療を等しく提供しよう」ということでした。
2009年に熊本県の認知症疾患医療センターは発足しました。最初は8箇所でのスタートでしたが、今では12のセンターがあります。
それを熊本大学病院が基幹として取りまとめる「熊本モデル」が完成したのが2016年です。
編集部:具体的にどのようなことを行っているのでしょうか?
竹林様:まずは認知症を正しく診断して治療するということが一番大切ですが、それを早期に診断するということも重要だと考えております。
また、認知症に伴う徘徊などの行動障害、精神的に不安定になるような周辺症状の治療なども行いますし、身体的合併症などの対応なども行っております。
かかりつけ医の先生方から認知症サポート医を増やすといった、認知症医療の普及活動、さらに広げて介護や福祉と医療を繋げる連携システムの構築なども進めています。
編集部:課題について教えてください。
竹林様:医療機関と介護・福祉の場を繋ぐシステムの整備を進めているところですが、高齢者や認知症の方は爆発的に増えており、現状対応し切れていない部分があります。
ですから繰り返しになりますが、かかりつけ医や認知症サポート医を増やす、介護と福祉の場とより連携していくことが一番重要だと考えております。
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熊本大学院生命科学研究部神経精神医学講座について
編集部:竹林様が教授を務めていらっしゃる熊本大学院生命科学研究部神経精神医学講座では、どういった研究をしているのですか?
竹林様:認知症に関して言いますと、熊本県の荒尾市の高齢者、約1,500名を対象に地域調査を行なっております。
そこで住まわれている方の中には、年々認知症になっていく方もいらっしゃいまして、そういった方の追跡調査を行なっています。
追跡調査を専門的にコホート研究というのですが、全国8つの大学や医療施設(熊本大学を含む)と協力しながら、日本全国の高齢者、認知症の方のデータを収集しております。約10,000人の方を対象としています。(認知症コホート研究の詳細について)
それを通じて、認知症になりにくい方はどういった生活をしているのか、といったことを調べることで、認知症の予防に役立つ情報を探しています。
編集部:生活習慣とは具体的にどういったことを調査しているのでしょうか?
竹林様:食生活や運動習慣ですね。
あとは例えば糖尿病を持っている方だと認知症になりやすいのか、脳のMRIの画像を事前に撮影しているので、こういった脳の病変がある方は認知症になりやすいのかといったことを調査しています。
編集部:調査の成果として、どのようなことがわかっているのでしょうか?
竹林様:認知症の方はやはりうつの症状をともなっている方が多いということがわかってきています。
また、睡眠時間に関しても、たくさん取ればよいということではなく、適度な睡眠時間を取るのが重要なのではないかということがわかってきています。
また、現在研究中ではあるのですが、脳の画像研究に関して言うと、脳の形態の変化は認知症になる前から生じており、認知症の前段階で出てくる健忘や歩行困難などの症状には脳の変化が関係しているという結果が出てきています。
編集部:研究室としての今後の目標などはありますか?
竹林様:今は研究内容を論文にまとめており、それを世界に広めたいといった目標を持っております。
編集部:では、竹林様個人としての目標などを伺ってもよろしいでしょうか?
竹林様:社会全体を変革させるのはなかなか難しいとは思っていますが、認知症を予防するための、うつ病の予防を含めた「熊本高齢者生活モデル」を提案できたらなと思っています。
健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ
編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。
竹林様:高齢者の介護や福祉に携わっている方が、一番早く認知症に気づけると思います。ですから、そういった方にぜひ認知症疾患医療センターの取り組みに関わっていってもらい、より一層認知症医療の向上に貢献していただけるとありがたいと思っています。
すでに非常に貢献していただいており、熊本県は認知症医療に関してはレベルが高いと思っておりますが、今以上に連携できたらと思っています。