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【専門家インタビュー】地域協調を中心とした認知機能の低下の予防

秋田大学 高齢者医療先端研究センター

センター長・教授 大田秀隆様

秋田大学高齢者医療先端研究センターでは、秋田県で進んでいる高齢化や寒い気候の観点から地域協調を中心とした様々な取り組みを行っています。そこで今回はセンター長を務める大田秀隆様に取り組みの内容や今後の課題などを詳しくお話をお伺いしました。

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秋田県が抱えている課題

超高齢化社会の観点から

編集部:秋田県の高齢化に関する背景も踏まえて「秋田大学高齢者医療先端研究センター」をつくったきっかけをお伺いしてもよろしいでしょうか。

大田様:私は秋田県ではなく東京都で老年医学を専門とした仕事をしていたのですが、こちらで新しい高齢者研究センターができるということで、3年前からこちらで勤務させていただくようになりました。

このセンターができた理由はいくつかあります。
まず、秋田県は高齢化率が日本1位で38.5%(令和3年7月1日現在)であり、65歳以上の高齢者が非常に多い県です。世界的にみても超高齢化社会であると注目を浴びています。

また、健康寿命も非常に低い県です。県庁では「健康寿命日本一位を目指して」というスローガンを掲げていて、最近ついに最下位を脱出したんですよ(笑)。

あとは医療過疎地帯であることです。
秋田市内は問題ないのですが、県北や県南にいくと医者が少ないので、医療を受けるのが困難な地域があります。病院に行くのにも車で2時間くらいかかってしまう地域もあります。

このような地域医療などの課題も含めて、この大きな問題をなんとか解決したいという思いから、秋田県庁、秋田県の医師会、秋田大学が連携し協議した結果、このセンターがつくられました。

編集部:そうなんですね。では、認知症に関してはどのような課題があるのでしょうか。

大田様:はい。高齢化とともに認知症の方も非常に増えているのですが、地方では専門の医療機関が少ないという理由から、認知症の方々がなにも治療を受けられなかったり、さらに、認知症という言葉自体に偏見を持っている方も多くいます。

都内では認知症に関しての周知や啓発が進んでいますが、地方では、ご自分やご家族の方が認知症であると言い出せる環境も少なく、認知症であることを周りに知られたくないということもあります。
精神科病院に行くことも、周りの目が気になってしまうことがあります。

また、認知症について知ることやご本人の社会参加を地方で話すと、それを迷惑だと感じる方もいらっしゃいます。

患者様に対して、認知症と早期に診断し治療を行っていくことも非常に大切なことですが、そのことを迷惑だと感じる風潮も地方にはある、ということも皆さんにぜひ知っていただきたいと思います。

雪の多い気候の観点から

大田様:また、秋田県の特徴として、うつ病の方だったり足腰の筋力が落ちてきている方が非常に多いと思います。

秋田県では、特に12月、1月、2月は「注意すべき3か月間」といわれておりまして、雪が積もって外に出れないので、人となかなか会えなくてうつになってしまったり、足腰の筋力がどんどん落ちてきてしまったりすることがあります。

さらに私たちの分析結果から、このようなうつの傾向にある方や通常の歩行速度が落ちてきている方は認知機能も同時に低下してくる場合が非常に多いと出ています。

この3か月は、皆さん非常に辛い期間です。この3か月が過ぎれば、秋田県は非常に住みやすいです。春になると新緑が非常に美しく、また空気もおいしいところです。
私はこの3か月間をどのようにして過ごすかが、秋田県で認知機能の低下を予防する上で大切なポイントであると思います。

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気軽に受けられるようなもの忘れ検診を実施

編集部:認知症に関する課題に対してどのような研究を行っているのでしょうか。

大田様:はい。様々なものを行っているのですが、1つは、認知症の危険因子を明らかにするために追跡調査を行う疫学研究になります。

軽度認知機能障害(MCI)かどうかを調べるために、検診という形で気軽に無料で「脳と心の健康チェック」という認知機能検査をやらせていただいています。
その他にも日常生活調査や体力測定、フレイルチェックも合わせて行っています。

はじめてから約3年目になりますが、有難いことに徐々に多くの地域住民の方々に参加してもらっています。

将来、自分が認知症になることに対して怖いと思っている方は多く、実際にもの忘れなどの症状がある方で、認知症の予防のために自分の状態は現在どのようなものなのかを知りたくて参加する場合が多いと思います。

主に秋田県内の横手市からこの検診は最初に行っていったのですが、他の市町村でも少しずつ広がっているところです。

どうしても認知症の診断というと不安を感じてしまいますが、こちらの検診は「MCIという段階が自分には当てはまっているのかどうか」を気づく良い機会だと理解いただいた上でで、受ける方が増えてきていると考えられます。
たとえこの検診で引っかかってしまっても、MCIの段階であれば生活習慣などを改善していけば認知機能の低下を防いだり遅らせたりすることが出来る可能性もあります。

検診の本来の意味をご理解していただくことで、とても参加者が増えてきましたし、毎年のように来てくれる方も増えてきています。
この検診は地域包括支援センターで活躍している保健師の方にも手助けしてもらっており、多職種の方と緊密に連携しながら今後も検診を継続していく必要があると思っております。

編集部:色々な方と協力しながら検診を行っているのですね。実際に検診に引っかかった方に対してはどのようなサポートを行っているのでしょうか。

大田様:検診で引っかかってしまった方々に対しては、地域包括支援センターでそのことを把握し、1人1人に居宅訪問をして保健師さんが生活指導を行います。

居住空間や生活習慣、家庭環境などのどのような面がリスクとなっているのかは1人1人異なるので、保健師さんがそのリスクを把握し、適切にアドバイスが出来れば認知機能の改善にも繋がると思います。

横手市でMCIに引っかかった方は非常に多かったので、居宅でこのような指導をすることによって認知症の発症率が下がっててくれれば良いと思っています。

現在、自治体の後期高齢者検診ではフレイルの測定は行っていますが、認知機能チェックをやっているところは少ないです。
認知症やうつ病の検査が欠けている場合が多いので、将来的には公的なチェック制度としてこれらの検査も入れていく必要があると思います。

秋田モデルの構築を目指して

大田様:次に、これら秋田県の特徴的な環境下において、認知機能の低下を防いだり認知症の方の症状をさらに進行させないようにするための「秋田モデル」というものをつくろうとしています。

先ほども説明したように、外の環境により家に閉じこもってしまうことが、認知症の重要なリスク要因であると分かってきているので、今回はそこに着目しました。

「フレフレ!コグニ」というもので、認知症予防のための「コグニサイズ」という認知症予防体操があるのですが、それを発展させたものを現在開発しています。
「フレフレ!」は、応援するときの掛け声と「フレイル、フレイル」というフレイルの予防も出来るという意味を掛けて名付けました。

また、フレイルや認知機能の低下の予防はもちろん、認知症の方や寝たきりの方も参加出来るような体操を考えています。
どうしても一般的な体操やコグニサイズは運動の負荷が大きく、そのような負荷が少なく出来るような体操を考えています。

先日バージョン1をつくったのですが、大きな特徴は、今までデュアルタスクといって頭と体を同時に使う体操が主流だったのですが、それにプラスして社会参加を加えたことです。

皆さんで一緒に笑いながらゲームをしたり自己紹介をしたりして、人と人との社会的なつながりを強調したものになっています。

今はチームオレンジAKITAという大学発のベンチャーを立ち上げ、その「フレフレ!コグニ」のDVDを作成しております。

このようなさまざまなデバイスを活用しながら、冬の間でも家の中で認知機能の低下やフレイルの予防に向けた取り組みを行っています。

今後の課題について

編集部:現在研究を行っているうえでなにか気づいた課題などはございますでしょうか。

大田様:これらの予防は個々人によって条件が違うので、そこが難しいと感じています。

社交性がある方は、先ほどのみんなで行うような運動に参加したりする機会が多くなりますが、そのような活動をすることがイヤだと思う方もいますし、家に1人でいた方が幸せだと思う方もいます。

そういった方々をどのように参加を促し、巻き込んでいくかが大きな課題です。

その中でも、特に男性の方の参加はやはり少ないと思います。
日本各地でいえることだと思うのですが、健康体操などの公民館で行っているものに参加しているのは女性の方が積極的です。

その際には、参加者の方々に役割や責任を持たせることが重要だと思っています。
受け身の姿勢で参加するのではなく、自分たちで運営をするという意識を持ってもらうことが大切になってきます。

例えば、麻雀教室などでも認知機能検査を行っていたりします。
麻雀や囲碁、将棋などのみなさんが興味があるゲームをきっかけにすると、上手くいくことが多いようです。

認知症の新しい治療に向けて

大田様:また、認知症を既に発症している方々にどのように参加していただくのか考えています。

外に出たくない方や人にも会いたくないという方々に対して、どのようにすれば少しでも回復し、自分らしい生活を維持することができるのかを考えることはすごく難しいです。

新しい薬も開発されてきていますけれど、病気になってしまった段階ではほとんど効果がないので、重症化してしまった方でも、認知機能の改善や生活を維持できるようにするにはどのような方法があるのかを考えることが次の課題になっています。

高齢ドライバーの問題について

大田様:さらに重要な課題として、秋田県は公共交通機関が少なく車に依存している社会であり、近年免許返納の問題が深刻な問題となっております。

免許を返納した後でも、外出が促進できるような方法を現在は研究しています。

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最終的な目標

編集部:先生の最終的な目標をお伺いしてもよろしいでしょうか。

大田様:最終的な目標は「認知症」という言葉がなくなることだと思います。

認知症であってもなくても、高齢者自身が自分らしく住みやすい街になることを目標にしています。

「認知症」という言葉でレッテルを貼られることで社会から疎外されてしまう方も多いと思います。自分が住み慣れた地域で自分らしく生活を維持できるような社会が熟成してくれればいいな、と思っております。

一番の弊害は「認知症」という言葉だと思っております。

社会学の問題にもなると思うのですが、今は大家族や老人クラブ、近所付き合いなども少なくなりつつあり、独居老人など孤立化が進んできていると思います。
そのような人や社会との繋がりが薄くなっていく社会もとても危惧しています。

編集部:そのような社会的な面に関しては、秋田県は地域での繋がりは強くありますので、そこが良いところではありますよね。

大田様:そう思います。

これだけ高齢化が進んでいる地域でも、地域での繋がりを維持できていることは、今後強みになると思います。

秋田県の方々は、本当に様々な取り組みをしています。これらのことをもっと他県の人に知ってもらうべきなのだと常々感じております。

薬の使い方

健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

大田様:はい。皆さんが思っているほど、認知症に不安を持たなくてもいいと思っております。

正しい対応を学びながら上手く症状と向き合うことで、実際に年を重ねても幸せに暮らしている方は多くいます。「認知症」と診断されたからといって絶望する必要はありません。前を向いて共に頑張っていきましょう!

秋田大学 高齢者医療先端研究センター センター長・教授

大田 秀隆おおた ひでたか先生

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