フラココ舎 看護師
小林光恵 先生
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認知症の方の思いや行動を読み解く“視点”が増えてきた
認知症を病気としてとらえ、その症状を理解して接するために、最近は、認知症の方の一つひとつの言動にどんな理由があるのか、その頭の中を詳しく紹介する書籍や、web上の記事、マンガなどが多くなりました。
たとえば、お風呂に入るのを嫌がる方について。3日もお風呂に入っていないのに、「昨日入ったからいい」「さっき入ったばかり」などと何かしら理由をつけて、がんとして入ろうとせず、とうとう入浴しないまま1週間も過ぎてしまった……という事態になっているとします。
これは本人が単に面倒くさがっているのではなく、
- 入浴の手順がわからなくなっており(実行機能障害)、本人にとって、入浴がとても面倒な行動になっている
- 入浴する道具が認識できなくなっており、使い方もわからない(失認・失行)
- 裸を見られることに抵抗がある
- 病院や施設で、これまでとは違った入浴時間や、「新しいお風呂が、慣れたお風呂のつくりとは違う」といったことに戸惑いを感じている
などの理由が考えられます。そういったことを読み解く視点が増え、私たちもその情報にアクセスしやすくなってきたように感じます。
しかし、お世話を中心的に担っている、親子など近しい関係の人からは、
「理由があるのはよくわかっても、素直に言うことを聞いてくれないと困るし、どうして素直になれないのだろうって、いらっとする」
「こちらはたいへんな思いをして世話をしているのだから、病気だとしても、少しはこちらにも気を使ってほしい」
といった声が聞かれることがあります。一般論としてはわかるけれども、気の置けない身内だと、許せない気持ちになるのだと思います。
そう考えると、可能な範囲で認知症ケアのプロに対応していただくのがおすすめなのですが、それでも、近しい関係のご家族などが接する場面はあります。そこで、できるだけ和やかに、そしてスムーズに日常のケアをするためにも、認知症の方本人の「自尊心」を強く意識することを提案します。
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認知症の方も、「自尊心」は衰え知らず
認知症でなくとも、人間の自尊心は実に厄介です。自尊心を守ろうとしていることを悟られると、それによってまた自尊心が傷つく。前出の“入浴を嫌がる理由”は、わからなくなっている、できなくなっていることを人に見られたり、知られたりすることは自尊心が傷つくから、嫌なのです。
また、自尊心というものは実に丈夫で、認知症になっても衰えることはありません。認知症が進むなかで傷ついた自尊心は、さらにパワーアップしてその人のなかに君臨し、自尊心が傷つく要因について、たいへん敏感になります。
その自尊心を傷つけないよう、本人に接するためには、「恥をかかせない」ことです。
たとえば、入浴の手順がわからないようであれば、「お風呂はこの入り方がいいらしいから、ここに貼っておくね」などと説明して、入る手順を細かに書き出し、防水処理をして浴室に貼っておく、という方法があります。「どうしてわからないの」などと言って恥をかかせないようにします。
マッサージを目的とした“皮膚のふれあい”も、認知症ケアに効果的
認知症の方のケアにおいて、スキンシップの重要性もあちこちで語られています。
しかし、頭ではわかってはいても、肌に触れ慣れていない場合、自然に相手の手の甲に手を当てたり、手をにぎったり、頬や額にふれたりすることは、案外ハードルが高いものです。
そんなときにおすすめなのが、手や顔へのマッサージです。ひとつのケア行為として、本人に説明し、了承を得てから行います。何気なく触れることよりも、“マッサージ”という目的のために触れること、触れられることは、両者とも自然に、スムーズに、スキンシップとして導入できるのです。
私は、日本を代表する美容研究家でメイクアップアーティストの小林照子さんとともに、ケアに美容の視点とノウハウを生かすことを推奨する会(ケアリング美容研究会。「看護に美容ケアをいかす会」を改称)の活動を行っています。
この会で開催した“ケアに生かす美容ケア講座”で、私も生徒としてマッサージ技術などを習得しました。それを生かし、2017年から3年間、デイサービスで看護師としてパート勤務した際に、利用者のみなさまに「顔の疲れが取れて、気分も爽快になります」といった案内をしてフェイスマッサージを実施したところ、
「こんな気持ちいいことは人生ではじめてだ」
「すごく大切にされている感覚になった」
「できたら死ぬまでやってほしい」
といった声が聞かれ、予想以上に大きな手ごたえがありました。
認知症と診断された方たちの中には、マッサージの終了後にご機嫌になって踊りだしたり、スイッチを押したように明るくおしゃべりをした方もいました。
認知症ケアにおすすめの“手”“顔”のマッサージ方法
マッサージは、専門的な技術を得ていなくても行うことができます。その方法を1つご紹介します。
まずは、マッサージを行う前に、「疲れがとれて、身体にいいらしい」などと説明し、必ず本人の了承を得ましょう。
本人の了承が得られたら、クリームやマッサージオイル、乳液などを手にとり、本人の手(手の甲だけでも、肘から手先まででもOKです)をしずかにやさしく、なでるように、秒速5センチくらいの速さでマッサージします。
そして、マッサージした部分に温かいタオルを当てて蒸し、そのタオルでクリームやオイルの油分を拭います。最後に、乳液で保湿します。
顔も同様に、しずかになでるようにマッサージします。額や頬だけなど、行いやすい部分だけでもかまいません。
皮膚のマッサージは、受ける方だけではなく、実施する方にも、“幸せホルモン”と呼ばれているオキシトシンが分泌されるようです。ぜひ行ってみてください。