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健達ねっと>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】病理解剖症例を用いたプリオン病の研究

【専門家インタビュー】病理解剖症例を用いたプリオン病の研究

愛知医科大学加齢医科学研究所 教授

岩崎 靖様

愛知医科大学加齢医科学研究所では神経疾患の病態を理解するために、病理解剖を使用した研究を行っています。今回はその研究内容について教授 岩崎靖様に詳しくお話をお伺いしました。

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研究内容

編集部:まずプリオン病についてご説明いただいてもよろしいでしょうか?

岩崎様:プリオン病は、脳に異常なプリオンタンパクがたまって発症する非常に珍しい病気です。

稀な病気なのであまり知られてはいませんが、馴染みのある代表的なプリオン病のひとつとして狂牛病が挙げられます。

プリオン病は動物から動物にうつる感染症で、プリオン病にかかっているウシを食べたりすると感染し、発症します。しかし多くは特に原因なく発生する特発性プリオン病です。遺伝子に異常があって発症する、遺伝性プリオン病もあります。

発症すると非常に進行が早く、認知機能障害や運動障害などを呈して必ず死に至る病気です。

編集部:そうなんですね。そのプリオン病の原因などを研究しているのですか?

岩崎様:そうですね。脳のどこにプリオンタンパクがたまるのか、なぜ脳の細胞が死んでいくのかなどを調べるために患者の病理解剖を行っています。病理解剖に関しては、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症などの研究にも同じ手法を使って研究しています。

編集部:なるほど。患者の病理解剖を行って研究をしているんですね。

岩崎様:はい。「アルツハイマー型認知症である」と診断されても、実際に解剖してみたらアルツハイマー型認知症ではなかったということもあります。ですので解剖をして正確な確定診断を得てから、脳の中で異常なタンパクが沈着している場所や量、病変の特徴などを調べています。

編集部:その研究を行った結果どのようなことが分かってきているのでしょうか?

岩崎様:病気によってそれぞれどのような異常タンパクがたまっているのかは、次第に明らかになっていました。

最近では、なぜ異常なタンパクがたまると脳の細胞が死んでしまうのか、なぜ病気によってそれぞれ萎縮していく脳の場所が異なるのかが分かってきました。そのような研究結果を生かして、発症メカニズムの解明や早期診断法の確立、治療法に結び付ける研究を行っております。

編集部:先ほど、診断されていた病気と病理解剖後に分かった病気が異なっていたという事例があるとお伺いしたのですが、そういった事例はよくあるのですか?

岩崎様:だいたい2,3割くらいですね。

また、高齢者になると2つ,3つの病気を持っていることが多く、生前に診断されていたのはアルツハイマー型認知症だったのですが、実は病理学的に検討するとアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の両方を持っていたという場合もしばしばあります。そういうことが病理解剖をすると分かるんですね。

編集部:それほどあるんですね。

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研究を始めたきっかけ

編集部:なぜプリオン病の研究を始めたのですか?

岩崎様:私が所属している加齢医科学研究所という施設自体が、もともと30年くらい前からこのような神経疾患の病理学的研究を行っていました。私は5代目教授なので3代目,4代目教授の引継ぎで研究を行っています。

編集部:そうなんですね。なぜ加齢医科学研究所に入所しようと思ったのですか?

岩崎様:やはり私自身が若い頃から神経病理に興味を持っていたからというのがあります。

脳神経内科の臨床で患者さんを多くみていると、診断に迷ったり珍しい病気に出会ったりすることがしばしばあります。
神経疾患の多くは最終的に病理解剖しないと診断がつかないので、不幸にして亡くなられた場合にはその患者さんを病理解剖させていただいて、その病理標本をできるだけ自分で見て研究していたのですが、それが非常に面白いと思ったので臨床の場にいながら研究もしていこうと思いました。

今後の目標

編集部:今後の目標をお伺いしてもよろしいでしょうか?

岩崎様:ここの研究所では様々な神経疾患の研究を行っています。脊髄小脳変性症や筋萎縮性側索硬化症などの研究も行っています。それぞれの研究結果を、病気の原因解明や診断、治療法開発の研究に繋げていければと思います。

あと認知症についてなのですが・・・。

治療可能な認知症もありますが、多くの認知症は発症したら治療はもう手遅れなんですね。

アルツハイマー型認知症でいうと、発症する20年以上前から脳の病理学的変化は始まっているんです。ですので、40歳代ぐらいの早い段階から健康的な生活を心がけたり、認知症の予防をするということが大切になってきます。

そのような認識を社会全体でもっと持った方が良いと思うんですね。個人的にも今後は認知症予防の薬の開発にも携わっていきたいと思っています。

編集部:せっかくなので、岩崎様が日頃行っている予防法やおすすめの予防法などお伺いしてもよろしいでしょうか?

岩崎様:健康的な生活を送ることですね。認知症の予防には運動習慣が最も大事だとということが疫学的にも分かってきているので、実際に私は毎日散歩をしたり適度な有酸素運動を行っています。

また、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病も脳に良くないので、血圧のコントロール、血糖値やコレステロール値の管理を行うことも大事です。
興味を持っていることや趣味を追求して脳を刺激したり、社会的なコミュニケーションをとることも大切です。肥満も脳に良くないので、体重増加に注意していただきたいです。

最近はコロナで家に篭る人が増えてきたので、今後が心配ですね・・・(笑)

健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

岩崎様:認知症介護の現場で一番困っているのは患者さんのご家族だと思います。
すぐには難しいですが、いずれ病気の原因を解明し治療法を開発することが、今後ご家族の方々の助けになるという想いで現在も研究を行っております。

医療体制もですが、看護や介護のサービスに関しても日本は非常に進んでおりますので、そういった社会的なサポートも積極的に利用しながら、ご家族の方々が疲弊することのないように介護していただければと思います。

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薬の使い方

愛知医科大学加齢医科学研究所 教授

岩崎 靖いわさき やすし先生

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