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誤嚥性肺炎を予防しよう

東邦大学医療センター大森病院 リハビリテーション科
海老原 覚 先生

誤嚥性肺炎を予防するための3つのポイント

  • 嚥下体操や声出し
  • 食事
  • 口腔ケア

年とともに、飲み込む力が衰える

日本人の死因の3位は肺炎ですが、その肺炎で亡くなる方のほとんどが、高齢者の「誤(ご)嚥(えん)性肺炎」です。認知症の高齢者も、誤嚥性肺炎で亡くなる方が非常に多くみられます。
誤嚥性肺炎とは、本来は食道を通って胃にいくべき食べ物や口腔内分泌物が、誤って肺などの気道に入ってしまい、炎症を起こす病気です。この誤嚥性肺炎が起こる主な原因は、高齢になって飲み込む力が衰えてくることにあります。飲み込む力が衰えると、食べ物を飲み込みにくくなったり、むせやすくなったりします。

年とともに飲み込む力が衰える原因は、大きく2つあります。
1つは、加齢とともに、のどを支える“筋肉”が衰えることです。
「喉(こう)頭(とう)蓋(がい)」は、食べ物が空気の通り道である気管に入らないように、気管の入り口を塞ぐ“ふた”の役割をする器官で、いわゆる「のどぼとけ」と連動して動きます。しかし、加齢とともに、のどを支える筋肉が衰えると、のどぼとけの位置が下がり、喉頭蓋の周囲の空間に食べ物が残りやすくなります。
また、のどの筋肉が衰えることで、喉頭蓋が気管にふたをするタイミングが合わなくなって、飲み込んだ食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥」や、「窒息」が起こりやすくなる場合もあります。

もう1つの原因は、のどの“感覚”が衰えることです。
のどの粘膜が食べ物を感じると、反射的にのどぼとけが持ち上がり、喉頭蓋が気管の入り口を塞いで“ごっくん”と飲み込む、「嚥(えん)下(げ)反射」が起こります。のどの感覚が衰えると、この嚥下反射がうまく機能しなくなってしまい、誤嚥を起こしやすくなります。

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嚥下体操や声出しで、飲み込む“筋肉”を鍛えよう

飲み込むときに使うのどの筋肉は、40歳代から衰え始めるといわれています。飲み込む力を維持するためには、喉頭蓋を支える筋肉を鍛える「嚥下体操」、のどや舌の筋肉を鍛える「声出し(発声訓練)」を行いましょう。
誤嚥は食べ始めのひと口目に起こりやすいので、食べる前に準備運動として嚥下体操や声出しを行うと、効果があります。いずれも顔や首の筋肉の緊張を解いたり、鍛えたりするのが目的です。片麻痺がある方の場合は、動かすことのできる片側で行うだけでも有効です。具体的な手順は次のとおりです。

①数回深呼吸する

まず、ゆっくりと深呼吸をします。口から息をゆっくりと吐き出して、鼻から吸い込み、吐くときは口を少しすぼめて、ローソクを吹き消すようにするとよいです。これを数回ほど繰り返します。

②ゆっくりと首を回して、左右に曲げる

次に、普通に呼吸をしながら、首をゆっくりと回します。右へ1回、左へ1回回したら、左右に1回ずつ、ゆっくりと首を曲げます。

③肩を動かす

肩をぎゅっとすくめるように上げ、スッと力を抜いて下ろします。これを2~3回繰り返したら、肩を中心に両腕をゆっくりと回します。

④上体、頬、舌を動かす

さらに、上体を左右にゆっくり倒したり、頬をふくらませたりへこませたりする運動や、大きく口を開いて、舌を出したり、引っこめたり、左右に動かしたりする運動を加えるといいでしょう。

⑤口を大きく開けて声を出す

次に発声訓練です。「パパパ、ラララ、カカカ」または「パラカ」とゆっくりと発声します。はじめはゆっくりと5~6回繰り返し、次に素早く5~6回繰り返します。この発生訓練は、発音するときの舌や唇の動きが、嚥下の動きと共通する部分が多いのです。

最後にもう一度、ゆっくりと深呼吸して終わります。また、額に手を当てて抵抗を加えながら、おへそを覗き込むように強く下を向く運動を、食事の直前に行うとより効果的でしょう。

食事でのどの“感覚”を刺激しよう

食べ物や飲み物の温度にも注意しましょう。体温に近い温度(30~40℃ほど)の飲食物は、嚥下反射が起こるまでに時間がかかります。体温に比べて熱かったり、冷たかったりするほうが、 のどの感覚を強く刺激し、嚥下反射が起こりやすくなります。
そのため食事は、 つくりたての温かいものや、料理によっては、冷たく冷やしたものをとることが勧められます。このような刺激を繰り返すことにより、飲み込む力が回復してくる可能性があります。

また、香辛料などを使った飲食物も、嚥下反射が起こりやすいです。いくつかの香辛料の刺激は、温度の刺激と同じセンサーを刺激することがわかっています。実は、昨年のノーベル医学生理学賞は、このような温度センサーの発見と特性の解明に対して与えられました。したがって、香辛料を食事のときに上手に使うことも、温度刺激と同じように、飲み込む力を高めるものと考えられます。

口腔ケアや、寝るときの姿勢も大切。“食べてすぐ寝る”はNG

その他に、誤嚥性肺炎を予防するためには、次のようなことを心がけましょう。

まず、ロの中を清潔に保つこと。毎食後と寝る前に、歯磨きと舌磨きを行いましよう。誤嚥性肺炎の原因菌は、口腔内雑菌である場合が多いです。

さらに、食後、すぐに横にならないことに留意しましょう。食後すぐに横になると、胃から胃液や食べたものが逆流して、誤嚥が起こりやすくなります。横になるのは、食後1時間以上経ってからにしてください。

そして、頭を少し高くして寝ることも重要です。胃液が食道に逆流するのを防ぐため、寝るときは少し高めの枕を使い、頭が少し高くなるようにして、背中にクッションを敷くなど、緩やな傾斜をつけるとよいでしょう。

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薬の使い方

東邦大学医療センター大森病院 リハビリテーション科

海老原 覚えびはら さとる先生

日本 臨床生理学会
摂食嚥下リハビリテーション学会
日本内科学会

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