甲南大学フロンティアサイエンス学部生命化学科 教授
藤井 敏司様
甲南大学フロンティアサイエンス学部生命化学科ではアルツハイマー型認知症の早期診断システムの開発のために、血液中に含まれるアミロイドβペプチドの濃度の検出に関する研究を行っています。今回はその研究内容について教授 藤井敏司様に詳しくお話をお伺いしました。
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研究内容
編集部:「アルツハイマー型認知症の早期診断システム」についての研究内容についてお伺いしてもよろしいでしょうか?
藤井様:アルツハイマー病の原因物質として有力なアミロイドβペプチドは、加齢とともにその血中濃度が緩やかに増加することが知られています。しかし、認知症状が顕著になる数年前に、その濃度が減少に転じる、という研究報告がありました。私たちの研究グループでは、この変化を捕まえられるよう、血液中に含まれる極微量のアミロイドβペプチドの濃度を簡単・迅速・安価に測定することのできる検出系の開発を行なっています。
編集部:その研究を行った結果どのようなことが分かってきているのでしょうか?
藤井様:現在、血液中に含まれるアミロイドβペプチドの濃度(数10 pM)を短時間で簡単に検出することに成功しています。しかし、実用化するには、まだいくつか越えなければならないハードルが残っています。
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研究を始めたきっかけ
編集部:なぜアミロイド β検出系の開発の研究を始めたのですか?
藤井様:この研究を始める前は、アミロイドβペプチドと銅イオンの相互作用に関する基礎的な研究をしていました。アミロイドβペプチドは一般に凝集させてその濃度を測定しますが、私たちの研究グループは基礎的研究の過程で、アミロイドβを素早く凝集させることのできるペプチドを偶然発見しました。それを何かに利用できないかと考えていたところ、前述の論文に出会い、発見したペプチドを検出に使えるのではないか、と始めたのがこの研究のきっかけです。
研究の意義
編集部:藤井様が考える本研究の意義を教えていただけますか?
藤井様:多くの人々の血中アミロイドβペプチド量を継時的にモニタリングすることで、アルツハイマー病の発症リスクを認知症状が顕著に現れる前に評価できるようになれば、今はまだ開発されていない症状の進行を止めることのできる薬剤との併用で、アルツハイマー病をかなり抑えこむことが可能になるのではないか、と考えています。本検出法は安価で迅速に測定できることから、健康診断の1検査項目として血中アミロイドβ量を継時的に測定し、アルツハイマー病の患者さんの数を大幅に減らすことが可能ではないかと考えています。
今後の目標
編集部:今後はどういった研究を進めていく方針なのでしょうか?
藤井様:現在、直面している課題を解消し、実際の血液試料で測定できるよう検討を進めていきます。全ての課題が解決すれば、測定の自動化など実用化に向けて研究を進めていく予定です。
編集部:藤井様が目指す最終的な目標を教えてください。
藤井様:健康診断の1検査項目として本手法による血中アミロイドβ量の測定を実施することです。さらには、糖尿病患者さんが使っている血糖値センサのように、ポータブルな血中アミロイドβ測定器を開発することです。
健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ
編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。
藤井様:今のところ、まだ実用化できるレベルにまで研究は進んでいませんが、出来るだけ早く課題を解決して、将来アルツハイマー病で苦しむ患者さん、ご家族の皆様の数を減らしたいと考えております。ご支援よろしくお願いいたします。