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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>健康長寿の鍵“フレイル予防”

健康長寿の鍵“フレイル予防”

東京大学 高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター 教授

飯島勝矢 先生

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フレイルは、健康と要介護状態の中間の時期

人生100年時代ともいわれる中で、わが国は国民が健康な生活と長寿を喜べる健康長寿社会の実現が急務となってきています。さらにご高齢の方々の地域活動や経済活動への積極的な参画を促すことによって、高齢者も「地域社会の支え手」となれるような新しい地域社会を追い求めたいですね。
その意味でも、健康は単なる身体の元気だけではなく、“幸せ”や“生きがい”も感じることのできる『健幸』ということも実現すべきです。なかでも健康寿命の延伸は国家戦略の中核であり、新しい考え方である「フレイル」をいかに食い止めるのかが鍵になります。
この新概念フレイルは、“虚弱”という意味です。特に、健康と要介護状態の中間の時期であり、非常にデリケートな段階です。気を緩めると、あっという間に要介護状態に陥りやすいのです。
フレイルの特徴として、多面性があります。「身体的フレイル(膝関節の変形など)」だけではなく、「精神心理的フレイル(うつ傾向になってしまうなど)」や、軽度認知機能低下(いわゆるMCI)に身体的フレイルが重複した「認知的フレイル」などもいわれております。さらに、「社会的フレイル(孤立、孤食、独居など)」も併存し、これらが負の連鎖を起こし、自立度の低下を促進します。
すなわち、ある病気だけでガクッと自立度が低下するわけではないのです。そして、そこに大きく関わる要因が「筋肉の衰え(医学的にはサルコペニアという名称)」です。
 しかしフレイルは、自身がその入り口にいることに気が付き、適切な日常生活の工夫や対応策を講じていけば、健常な状態に戻すことができる可逆性のある時期でもあります。前向きに立ち向かっていきましょう。

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高齢者の間で“コロナフレイル”が増加中

フレイルを予防していくには、「①栄養(食と口腔機能)」、「②運動/身体活動」、「③地域とのつながり/社会参加」この3つの柱が重要であり、特に、ご自身の日常生活の中で継続性のある形で3つとも底上げする方向性、すなわち『三位一体』での生活習慣の改善がポイントになってきます。
いちばん怖いのが、日常生活の活動レベルが極端に低下する「生活不活発」です。2020年から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題が浮上し、日常生活をいつも通りに過ごすことができず、重い空気感が続いていますね。ご高齢の方が重症化しやすいことは間違いありませんので、気を抜くわけにはいきません。
しかし、このコロナ禍で、感染自体は免れたとしても、高齢者の過剰な自粛生活長期化による生活不活発を基盤として、心身機能が明らかに低下してしまう現象が認められています。筆者はこれをいわゆる「コロナフレイル」とも表現しており、強く危惧しています。

筋肉量の減少を中心に、心や認知機能にも影響が及んでいる

具体的には、全身の筋肉量減少が多くの方に認められ、なかでも体幹部(腹筋、背筋、インナーマッスルなど)が顕著に低下していることが判明しました。同時に、握力の低下、ふくらはぎ周囲長の低下(筋肉量減少を示す)も確認されました。
並行して、食生活の乱れや、気持ちが塞ぎがちになり、いわゆるうつ傾向に傾いてしまった方もいます。
また、従来の通いの場や、人と集うことのできる企画がすべてにおいて中止されたことにより、人とのつながりや地域社会との交流も顕著に低下してしまいました。これにより、滑舌の低下が認められ、さらに一部では、認知機能まで低下してしまった方々もいます。
これらの現象は、生活不活発による筋肉減弱(サルコペニア)がかなり進行してしまっていることを意味しています。

十分な栄養摂取と運動・生活活動に加え、新しい社会参加の方法を考えよう

筋肉を大きく失うと、単に移動しにくくなるだけではなく、免疫力も大きく失ってしまうので、次には重症感染症になってしまう恐れも出てきます。感染予防の励行に加え、タンパク質とビタミンDを含む十分な栄養摂取、三密回避を意識した上での運動や身体活動、十分な睡眠時間などで日常生活の質を落さず、免疫力を維持していきましょう。
さらに、新型コロナ感染症のどの部分が未知であり、一方でどこまでがクリアにわかってきているのかなど、最新情報を日々確認し、“正しく賢く恐れるスタンス”をとりましょう。報道だけを見ていると、過剰に恐れ過ぎてしまい、いつまでも生活不活発や人とのつながりが低下したままの状態に陥りやすくなります。決して自分一人だけの判断ではなく、ご家族や友人、かかりつけ医や、自治体行政の方などとも交流を持ちながら、まだまだ慎重に進める部分と、胸を張って日常生活を維持する部分の両面を意識し、自粛気味の日常生活を徐々に戻して行きましょう。
そして、with/postコロナ社会を見据えて、地域での新たな集い方、新たな交流やコミュニケーションの持ち方にも工夫が必要になってきますね。従来の集いを徐々に再開しながらも、手紙や電話、そしてオンライン機能の新たなチャレンジなど、少し背伸びをしてみるのも、成長につながるかもしれません。
以上より、健康長寿の実現には“フレイル予防”が鍵になります。自分の日常生活の歯車を再び回し始める時期にも来ております。一緒にがんばりましょう!

東京大学高齢社会総合研究機構機構長・未来ビジョン研究センター教授

飯島 勝矢いいじま かつや先生

博士(医学) (東京大学)

  • 博士(医学) (東京大学)

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