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【専門家インタビュー】要介護高齢者の睡眠に関する研究

城西国際大学福祉総合学部理学療法学科 教授
金谷 さとみ様

城西国際大学福祉総合学部理学療法学科では要介護高齢者の睡眠に関する研究を行っています。今回はその研究内容について教授 金谷さとみ様に詳しくお話をお伺いしました。

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研究内容について

編集部:要介護高齢者の睡眠に関する研究について教えてください。

金谷様:高齢になると睡眠機構(徐波睡眠とREM睡眠の減少、覚醒閾値の低下、中途覚醒の増加)や生体リズム機構(位相が前進する)が変化し、そこにライフスタイルなどが影響しあい、いわゆる高齢者の睡眠障害が起こります。要介護状態になると外出機会がさらに減り、活動量は減少し、光曝露も減少し、睡眠障害への悪影響は高まり、高齢者の生活を考える上で重要な課題となっています。

私の研究は、睡眠と運動機能に関する研究で、まだ研究途上です。しかし、睡眠が日中の活動と大きく関連することは明白であり、(特に重度化した)認知症においてはその活動の礎となる運動機能を如何に保つかが重要になります。そこで、今回は認知症が重度化してからの能力や運動機能に関するお話をしたいと思います。

編集部:認知症が進行してからも比較的長く保たれる能力について教えてください。

金谷様:認知症の認知機能障害の多くは、短期記憶の障害から始まり、徐々に即時記憶や長期記憶が障害されていきます。
認知症が進行しても自分の出身地などは答えられることが多いのはそのためです。
運動機能障害については、はじめはバランス障害などの通常は気付かない症状からはじまり、次第に歩行困難になり、中枢神経症状が出現してきます。認知症のケアやリハビリテーションは症状の進行をしっかりと把握し、残存能力をとらえて、その能力を生かして的確なアプローチをする必要があります。

認知症が進行してからも長く保たれる能力は以下のようになります。これらを駆使して残存能力を引き出し、たとえ認知症になっても生き生きとした生活を送っていただけるよう支援することが基本となります。

  • 手続き記憶~雑巾がけ、化粧、髭剃り、洋裁、料理、洗濯たたみなどの記憶、
  • 長期記憶~出身地や出身校、歴史上の人物、子供の数などの記憶
  • 粗大な運動機能~起き上がり、立ち上がり、自転車、ラジオ体操など
  • 音楽とリズムの理解~音楽に合わせた手拍子、盆踊り、歌など
  • 社会的技術~職業上身につけた技術、華道・茶道、盆栽、草むしりなど
  • 情緒的関心・記憶~他者の死亡の際の悲しみ、うれしい出来事など
  • ユーモア~冗談を言う、その場を和ませる、粋なことを言うなど
  • 感覚的な関心事~美しい風景、気持ちの良い温泉、きれいな花、寒い冬など

編集部:認知症が進行するとどのような運動機能障害が出現しますか?

金谷様:認知症予防のために効果的なものが「運動」であることは、今や誰もが知ることであり、全国的に認知症予防の取り組みが行われています。
また、Lewy小体型認知症ではパーキンソニズムによる錐体外路系の運動障害の出現が知られています。
しかし、認知症が進行してから起こる運動機能障害に関しては、認知機能も進行するために、その複雑さから明らかになっていないのが実情です。

認知症が進行してから起こる運動機能障害は主に錐体外路系由来の症状が中心で、そこに非活動的な生活から起こる廃用による障害も加わります。
脳梗塞などの明らかな麻痺ではない為にケア側に認識されず、「転倒」などにつながることが多いので留意しなければなりません。
歩行が困難になるほど進行して、前頭葉を中心とした脳の神経細胞の変性も顕在化し、運動機能低下だけでなく、ケアする者を悩ます理解不能な症状(抵抗、筋緊張亢進など)が出現し、介護負担が大きくなります。
このような前頭葉由来の運動機能に支障をきたす症状を以下に述べてみます。

①病的反射の出現

ケアする際に問題になるのが、手掌に何かが触れると反射的に把持する「把握反射」は強制把握となり、ケアの様々な場面での弊害となる。体と頭部が一体化してスムーズな身体移動を妨げる「うなじ頭反射」もケアの負担を大きくする。その他重度になればなるほど様々な病的反射が出現する。

②抵抗症(gegenhalten)の出現

注意が他に向けられていると筋の抵抗はないが、「楽にしてください。」などと指示されてその運動を意識すると受動運動に対して無意識に逆の力が入る現象のことで、ケアの際の大きな負担となる。

③動作維持困難(motor impersistence)

簡単な動作を持続して行うことができない。目を閉じる、舌を出すなどの動作を10秒以上持続できないなどの現象で、様々な生活場面に影響が出る。

④保続(Perseveration)

同じ動作や言葉を何度も繰り返すこと。

⑤その他

抑制機能の障害、感情失禁、仮性球麻痺など

編集部:どうやって運動機能を見極めればよいのでしょうか?

金谷様:運動機能を専門的に把握するのは難しいので、日常生活の中で誰もができる方法を紹介します。
私たちが日常生活で実施している基本的な動作、つまり、寝返り、起き上がり、座位、立ち上がり、立位、歩行の可否を捉えてください。
そして、重度化しても可能な動作は自力で行っていただき、過剰な介助をしないように心掛けなければなりません。

認知症が軽度なうちはすべての動作が可能で歩行も可能ですが、実はバランス機能が低下しています。
歩行機能低下を防ぐための検討が必要です。
認知症が進行し、転倒の危険性が高まった場合は車椅子に変更しますが、この場合の見極めも難しく、認知機能も低下しているために定着させるまで時間がかかります。
移動手段が歩行から車椅子に代わる時期、この時期をターニングポイントととらえ、ケアやリハビリテーションの方針を大きく変える時期として重点的にかかわる必要があります。

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健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

金谷様:認知症が進行すると認知機能を高めるようなアプローチは困難になってきます。
しかし、歩くことができるなら、散歩や外出などで運動する機会を増やしてみましょう。
適度な運動は高齢者の様々な疾患に対する抵抗力を高め、脳の血流にも良い影響を与え、質の高い睡眠を促します。BPSDの症状を軽減することも可能です。

認知症があっても残された能力を探り出して、活動的な生活を送っていただきましょう。
また、相手の心情などを感じ取る能力は残存していることが多いので、ケアする側も明るい気持ちで、前向きに接してみましょう。
きっと感じ取ってくださると思います。

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薬の使い方

城西国際大学福祉総合学部理学療法学科 教授

金谷 さとみかねや さとみ

博士(医学)
理学療法士
登録理学療法士

  • 博士(医学)
  • 理学療法士
  • 登録理学療法士

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