認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち管理者
志寒浩二先生
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“自分らしい姿”を取り戻すレクリエーション
認知症は、“私らしさ”を脅かします。記憶があいまいになり、今いる時間や場所も不確かになり、人々や社会とのつながりも薄れていく。築いてきた私らしい日々が失われていく。その悲しみはたとえようもありません。また、介護する側にとっても、大切な人の悲しみを見るのは苦しいことでしょう。
その悲しみを和らげる手立てとなるのが、レクリエーションです。レクリエーションの語源は「再創造」というラテン語にあります。日々の生活に疲れたとき、体や心に困難を抱えたとき、私たちはレクリエーションによって、本来ありたい私らしい姿を取り戻していくのです。
認知症の症状がかなり進んだ状態の人であっても、レクリエーション中はまるで昔に戻ったかのように、かつての姿を取り戻されることがあります。
たとえば、Aさんは「きんぴらごぼう」という料理名やそのレシピは忘れていても、ごぼうと包丁を持つと、自然に皮を包丁でこそげ、ささがきにしていきます。
また、Bさんは記憶障害に加え、言葉が出にくい症状をお持ちですが、曲の出だしを聴くだけで、歌詞も滑らかに民謡を歌いあげます。
Cさんは洋裁の先生で、新品のズボンと糸を通した針をお渡しすると、まつり縫いで裾上げをしてくださいます。
たとえば、Aさんは「きんぴらごぼう」という料理名やそのレシピは忘れていても、ごぼうと包丁を持つと、自然に皮を包丁でこそげ、ささがきにしていきます。
また、Bさんは記憶障害に加え、言葉が出にくい症状をお持ちですが、曲の出だしを聴くだけで、歌詞も滑らかに民謡を歌いあげます。
Cさんは洋裁の先生で、新品のズボンと糸を通した針をお渡しすると、まつり縫いで裾上げをしてくださいます。
この三人は皆さん、日々の生活に常に手助けが必要な程度に認知症が進まれています。それなのになぜ、このようなことができるのでしょうか?
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“体の記憶”は失われにくく、自信を取り戻すきっかけになる
認知症の症状は元となった疾患によってさまざまですが、多くの場合、言葉や理屈で覚えたことより体で覚えたことのほうが、認知症が進行しても失われにくいものです。それは、言葉や理屈を担当している「前頭葉」や「海(かい)馬(ば)」という脳の部位に比べ、体の記憶を担当している「大(だい)脳(のう)基(き)底(てい)核(かく)」や「小脳」といった部位が、認知症の影響を受けにくいからといわれています。
手しごとやスポーツ、音楽などの活動は、その“体の記憶”が大きく関わっています。そうした活動は、認知症の症状が進んでいても十分に楽しめる可能性があり、その人が自信を取り戻すきっかけとなるでしょう。
さらに、その人の生活になじみがある活動であることも重要です。その活動がその人の歴史に深く根付いたものであればあるほど、取り組みやすく、効果の高いものになります。
その人がどのような生活を送ってきたか、何が得意で何を楽しんできたのか、そのかつての姿を一緒に探っていく過程もまた、レクリエーション=再創造といえるでしょう。
その人がどのような生活を送ってきたか、何が得意で何を楽しんできたのか、そのかつての姿を一緒に探っていく過程もまた、レクリエーション=再創造といえるでしょう。
レクリエーションを行うときの4つのポイント
認知症の人にレクリエーションに取り組んでいただくにあたって、大切にしたいポイントを紹介します。
【ポイント1】楽しむことを目的にする
周囲も、ときとしてご本人も、レクリエーションに認知症の予防効果を期待しがちです。しかし、それを目的にしてしまうと、その出来に一喜一憂し、満足がいかないときにはやる気を失い、自信の喪失につながります。ご本人は無理してがんばり、周囲も無意識にがんばらせてしまいます。結果として、長く続かず、レクリエーションが心の傷として残ることさえあります。楽しむこと、笑顔になることを目的にしてください。
【ポイント2】手助けはしても、し過ぎない
周囲の手助けが必要なときがあります。しかし、手助けをし過ぎてはいけません。
前述したAさんは、「ごぼうと包丁を手に持ってもらう」という手助けが必要でした。しかし、包丁の使い方まで指示してしまうと、こちらが教えている、やらせているという立場になってしまいます。そうなるとAさんは周囲に対して依存的になり、やる気を失うことでしょう。必要なところだけを手助けすることが重要です。
【ポイント3】その人の個性に合わせる
認知症の人一人ひとりに合わせた内容であることが大切です。
たとえば、仕事一筋でキャリアを積んできた女性にとって、不得手な料理のレクリエーションはむしろ自尊心を傷つけるかもしれません。前述した例でいうと、同じ音楽活動とはいえ、民謡がお好きなBさんに童謡を勧めても、裁縫の先生だったCさんに簡単だからと雑巾を縫ってもらうのも、満足な結果にはならないでしょう。人の個性が百人百色であるように、レクリエーションも百人百色の個性が必要です。
【ポイント4】レクリエーションに意味を持たせる
認知症の人は、症状が進行していく中でも、価値のある自分でいたいと願っています。役に立つ私でいたい、人生を誇れる自分でいたい。ただ漫然と調理をするよりは、それを食べて笑顔になってくれる人がいてほしい。歌うならあの日の思い出を語れる歌を歌いたい。描くなら大切なあの人に贈りたい。できた作品を玄関に飾るだけでも、かけがえのない意味が生まれてくるものです。
いくら得意なことでも、いつかはできなくなる日がきます。今日の笑顔が明日も続くとは限りません。介護を受ける側もする側も、辛いときも悲しいこともあるでしょう。だからこそ、今このときを、共に笑顔で送る。そんなレクリエーションを創造してください。