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薬の効果や、生活でできることは? 有効な認知症予防を知ろう

あしかりクリニック精神科

中野区地域連携型認知症疾患医療センター副センター長

須貝佑一 先生

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アルツハイマー病の主な原因は「アミロイドβたんぱく」と「タウ」

認知症は、65歳以上の高齢者で460万人いると推定されています。
これは高齢者の6人に1人の割合です。
そしてその6割近くが「アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)」で、そのほかはまれな疾患を除けば、「脳血管障害による認知症」と、パーキンソン病に伴う「レビー小体型認知症」で占められると考えられています。
この3つは“3大認知症疾患”といわれています。

 

その中で、アルツハイマー病に関しては長い間、原因不明とされていましたが、最近、その原因の一端が明らかになってきました。
アルツハイマー病を起こしている主な原因は、長い時間を経て脳に「アミロイドβたんぱく」というたんぱく質の塊があちこちに溜まり出し、それが「タウ」という異常な脳内たんぱくを作り出して、神経細胞を傷つけて死滅させてしまうことによるものと考えられるようになったのです。

ただ、動物実験ではその通りですが、人ではまだ実証されていません。
それゆえ、いまだに“アミロイド仮説”になっています。
でも、有力な仮説だといえます。

したがって、仮説に基づけば、認知症の予防や治療の目標は脳にβたんぱくを溜めないこと、βたんぱくを脳から追い出すことにあります。
現在、有力な治療薬として、βたんぱくを脳から追い出すワクチンの開発競争が盛んです。
しかし、今のところどの薬もまだ確実な効果をみていないのが現状です。

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存在する治療薬は4つ。ただし、進行を食い止めることはできない

アルツハイマー病に関しては、20年以上前から治療薬が存在します。
「ドネペジル(商品名アリセプト)」のほかに「ガランタミン(商品名レミニール)」、「リバスチグミン(商品名イクセロン)」、「メマンチン(商品名メマリー)」の4種類です。

ただ、いずれの薬も病気を治すまでの力はありません。
これらの薬は、アルツハイマー病の原因とされるβたんぱくには作用せず、残された健康な神経細胞を活気づけることで、認知機能の維持作用を発揮します。
しばらくは認知機能を維持できますが、病勢が進行すると効かなくなります。
残念なことに、進行を食い止めることはできないのが現状なのです。

予防はMCI(軽度認知障害)の早期発見から

認知症になってからの治療はまだ難しいとなると、認知症にかからないことが一番となります。
そこで今注目されているのが、MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)と呼ばれる一群です。

MCIとは認知症の予備群のことで、「物忘れはひどいが、日常生活はでき、まだ認知症になっていない人」と定義されています。
認知症、とくにアルツハイマー病はこの中から移行する人が多く、年間10~15%程度とみられます。
また、5年で約半数が認知症化するという調査もあります。
多くはアルツハイマー病ですが、レビー小体型認知症や、そのほかの認知症も混在します。

MCIには、特別な治療法は確立していません。
困った事態ですが、光明があります。
MCIの予後を検討してみると、「MCIから認知症化する群」、「MCIのままでいる群」、「MCIから正常老化レベルに戻る群(リバーターという)」の3群がいることがわかってきました。
調査によっては、MCIのリバーターは約40%程度と見込まれます。

つまり、「MCIのままでいる群」と「リバーターになる群」で留まることが予防の鍵となります。

 

これまでは、MCIから認知症への移行を事前に予測することはできませんでした。
ところが、アルツハイマー病の原因物質とされるβたんぱくとタウたんぱくの脳内蓄積を画像化できる、ポジトロンCT(PET)技術が予測を可能にしました。
これを使えば、無症状の人やMCIの中からβたんぱくをみつけ、将来認知症に至る人を予測することができます。
これを「発症前診断」といいます。

そして、この先端技術とセットとなって進められているのが、先述のβたんぱくに対する抗体の開発です。
その中でも有力視されてきたのがエーザイ、バイオジェン社共同開発の「アデュカヌマブ」という治療薬(ワクチン)です。
2020年11月に、世界に先駆けて米国食品医薬品局(FDA)に承認申請されました。
結果は効果不十分で却下されたばかりで、日本でも先ごろ申請されましたが、結果不十分で保留になっています。

そのほかにも、多くの製剤が開発段階で控えています。

運動や食事、頭を使うことも予防に効果的

認知症やMCIの予防においては、薬にばかり頼ってはいられません。
どういう人が健常あるいはMCIからアルツハイマー病にかかりやすいか、というデータも集まりつつあります。そこから考えられる対策を紹介します。

◇運動

とくに、運動の効果は抜群です。
運動とは、呼吸をしながら行う“有酸素運動”のことで、おすすめはウォーキングです。
一日8000歩を目安にするとよいでしょう。
それ以上でも以下でも、効果は薄れるとの報告が最近出されました。

また、“おすすめはウォーキング”と述べましたが、有酸素運動なら何でもかまいません。
とにかく、普段の1分間の脈拍を20から30拍ほど増やす30分程度の運動が目安です。
散歩でも、ストレッチでも、ヨガでも、種目は問いません。
みな、認知症を予防する効果があります。

ポリフェノール

野菜や果物の中のポリフェノール類が、アルツハイマー病の予防にも有効と考えられるようになりました。
「にも」というのにはわけがあり、野菜、果物のポリフェノール類は、もともと抗ガン作用を期待されていたファクターでした。
主な作用点は、体にとって有害な“フリーラジカル”を体内から追い出すことにあります。
つまり、抗酸化作用です。このことが細胞のがん化を予防していたのですが、同じメカニズムで、アルツハイマー病のもとになるβたんぱくの蓄積をおさえることがわかってきたのです。

魚の脂

DHAやEPAも予防に役立つといわれています。
DHAは、神経細胞の働きと構造維持に欠かせないことがわかっています。

また、カロリーのとりすぎもアルツハイマー病のリスクとなります。
たばこも危険です。これらのデータが物語っているのは、糖尿病や心疾患といった生活習慣病と同じように、アルツハイマー病も生活習慣の一部が発病に深く関わっているという事実です。

頭を使う

よく「頭を使え」といわれますが、どのように頭を使ったらよいか迷う人も多いのではないでしょうか。
まずは、会話を増やすことです。
他者とのコミュニケーションが脳機能を活性化します。
たとえば、何かの会などに入り、意見を言い合うことは予防に最適です。
ボランティアのような活動に参加するのもよいでしょう。

社交性に乏しく、人との触れ合いが苦手という人は、文字表現を試みるのもおすすめです。
日記や、読んだ本の感想文を書く、各種の習い事もよいでしょう。
数独(ナンプレ)も役立ちます。

要するに、ぼーっとしている時間をなるべく少なくして、何かに集中できているときが「頭を使っている」ことになることを知ってほしいのです。
こうすれば、活性化した神経細胞の数が認知症で死滅していく数を凌駕することができます。有効な認知症予防といえるでしょう。

【付録】

  • この頃物忘れがひどいと思う
  • 他の人からも物忘れがひどいと言われる
  • 頻繁に、置き忘れや探し物をする
  • 何かしようと思っても、何をしようとしたのかすぐに忘れてしまう
  • 最近、見知った人の名前が出てこない
  • 覚えていたはずの漢字が書けないことがよくある
  • 今日が何日だったかよく忘れる
  • 家電製品やスイッチの操作にまごつくことが多い
  • 会話で言葉がすらすらと出てこない
  • 字を読むことが面倒で、新聞や本などを読まなくなった

3つ以上当てはまれば、とりあえず相談を

 

 

あしかりクリニック精神科 中野区地域連携型認知症疾患医療センター副センター長

須貝 佑一すがい ゆういち先生

日本老年精神医学会認定医・指導医
精神保健指定医

  • 日本老年精神医学会認定医・指導医
  • 精神保健指定医

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