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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>高齢者の意思決定を支える制度を知ろう ―成年後見制度と被後見人への支援について―

高齢者の意思決定を支える制度を知ろう ―成年後見制度と被後見人への支援について―

四天王寺大学人文社会学部人間福祉学科教授

笠原幸子 先生

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成年後見制度における「被後見人」と「後見人」

認知症、知的障がい、精神障がいなどのために、自分のことを自分で判断することが難しい人を法律的に支援する制度として「成年後見制度」があります。

成年後見制度は、民法で定められている制度です。

成年後見制度においては、支援される人を総称して「被後見人」、支援する人を総称して「後見人」と呼ぶことが多いようです。
しかし、民法では、支援される人の判断能力によって、判断能力が不十分である人を「被補助人」(民法15条)、判断能力が著しく不十分である人を「被保佐人」(民法11条)、判断能力がない人を「被後見人」(民法7条)と定めています。
つまり、被後見人と呼ばれる人を、被補助人、被保佐人、被後見人の3つに分類しています。
そして被後見人に対応して、支援する人も「補助人」、「保佐人」、「後見人」に3分類しています。

本稿では、被補助人、被保佐人、被後見人を総称して「被後見人」と記述し、補助人、保佐人、後見人を総称して「後見人」とします。
また、加齢とともに心身機能が低下するにも関わらず、医療サービスや介護サービスの利用、これまで行ってきた役割の引継ぎ、自宅での生活が難しくなったときの居住場所の選択、不動産や金融資産の管理、亡くなったときの葬儀や埋葬、相続など、重要な意思決定が求められる“高齢期”に焦点を当てて記述します。

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後見人は、被後見人の生活の困りごとに対してさまざまな支援をする

先に述べたように、人は、人生の最期までさまざまな意思決定が求められます。
健康なときは難なくできるのですが、心身機能が衰え、認知症などを発症し判断能力が低下すると、意思決定が高齢者にとって大きな負担になり、生活をするうえでさまざまな困りごとが出てきます。
このような状況になった場合、高齢者が生活するうえで不利益を被らないよう、高齢者を保護するために成年後見制度が創設されました。
これは2000年に介護保険制度がスタートして、介護サービスを利用するために、利用者本人と介護サービス事業者で契約の締結が求められるようになったことが契機となりました。

認知症の人の増加を背景に、成年後見制度の利用者は増加しています。
しかし、よほど切羽詰まった状態でないと利用しないようで、「補助」や「保佐」の段階での利用は少なく、本人に判断能力がほとんどなくなった段階での利用、つまり「後見」が全体の8割を占めています。

後見人は、被後見人の生活の困りごとに対して支援をする人です。その支援は、大きく分けて、「①財産管理」と、「②身上保護(身上監護ともいいます)」の2種類があります。

①財産管理とは、例えば、現金、預貯金、不動産や有価証券などの金融資産の管理、納税や確定申告などの支援をすることです。
一方、②身上保護とは、例えば、家賃や光熱水費の支払い、医療サービスや介護サービスの利用が必要になったりした場合の契約や手続きなど、事務的な支援のことです。
また、日常的に被後見人を支援している施設等の職員、ホームヘルパー、介護支援専門員、相談支援専門員、主治医などの支援者が、被後見人の支援を適切にしているかについて、後見人としてチェックしたり、被後見人と支援者との関係調整をしたりすることもあります。

しかし、後見人になったからといって、被後見人に代わって何でも行えるわけではありません
例えば、施設への入所契約など、被後見人の居住場所に関する重要な決定を、後見人が肩代わりして決めることはできません。
後見人には、被後見人の意思を尊重し、課題があったとしても、なんとか被後見人の意思を実行できるように支援することが求められます。
そこでは、被後見人への支援として、“意思決定支援”が重要になります。

判断能力の程度に関わらず、誰でも意思決定は難しい

被後見人の判断能力の程度は多様です。判断能力が低下しているからといって、周囲の人たちが、「被後見人は自分で決められない」「手間や時間がかかるから被後見人には決めさせられない」「間違った決定をするから決めさせられない」「責任がとれないから決めさせられない」などと考えるのは矛盾があります。
なぜなら、私たちも自分で決められないこと、決めるのに手間や時間がかかること、間違うことがあり、すべてに責任がとれるわけではないからです。
成年後見制度における意思決定支援では、“すべての人は意思決定能力があることが推定される”という原則に立って支援することになっています。

しかし、高齢者の場合、自分の思いよりも家族の希望を優先することがあり、また、自分で決めたことを阻害され続けると、すべてをあきらめてしまう“学習された無力感”状態になる場合があると指摘されています。
被後見人の生活を豊かなものにするためには、被後見人の意向を理解することは欠かせません。
ここに、被後見人に対する意思決定支援の難しさとやりがいがあります。

意思決定支援は、いかに本人の意思や考えを引き出すかが大切

被後見人に対する意思決定支援とは、被後見人に必要な情報を提供し、被後見人の意思や考えを引き出すなどして、被後見人の意思(価値観・思い・意向など)にもとづく決定を支援することです。
これは、成年後見制度において、被後見人が本人らしい生活を維持・継続するために、なくてはならないものです。

筆者は、社会福祉士、弁護士、司法書士といった後見人に任命される方々に対して、被後見人への意思決定支援についてインタビューしました。
すると、このように語ってくださいました。

「いろいろな支援者と連携して、本人の生活を細かく見ていくようにしています」

「説明するとき、図やメモなどを使って、理解しやすいように工夫しています」

「居住場所を決めるということについて、ご本人の意向をどこまで反映して、どこまで現実に沿っていくのかが、なかなか難しいです」

「こうしようじゃなくて、“どうしよう”から始めるっていうのは、すごく大事です」

「決めた後が重要ですね。うまくいっているのか、決まった後の本人の様子をしっかりと見るのが重要かなぁ」


後見人は、被後見人と日頃から関わりのある福祉・医療等の支援者と情報を共有したり、被後見人が意思決定に必要な情報を理解できるように工夫したりして、被後見人の意思決定後、生じた望ましくない結果についても支援している状況がうかがえました。

自分の判断能力が衰えたときのために、今から備えておく

高齢期になると、加齢とともに心身機能が低下するにも関わらず、多岐にわたって重要な意思決定が求められることを述べてきました。
「老親の世話は家族がする」といわれた時代や、“呼べばすぐに来てくれる家族”がいた時代はよかったのですが、一人暮らしの高齢者など、家族に頼れない高齢者が増加しています。
私たちは、健康なうちから将来を予測して、手立てを講じておくことが求められています。

手立ての1つには、「任意後見制度」があります。成年後見制度の一種で、心身機能が低下する前、自分のことを自分で判断できるときに、あらかじめ後見人(任意後見人といいます)を決め、本人の判断能力が不十分になった後に、支援してもらう内容も決めておくという制度です。
家庭裁判所が必要と認めた場合、後見人を監督する後見監督人(任意後見監督人といいます)をつけることもできます。
このような備えが注目される理由は、自分にふさわしい意思決定をすることは、高齢者の生活の質を左右すると考えるからです。

【参考文献】

『認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン』厚生労働省、2018年

『学習性無力感 パーソナル・コントロールの時代をひらく理論』C.ピーターソン/S.F.マイヤー/M.E.Pセリグマン著、津田彰監訳、二瓶社、2000年

『意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン』意思決定支援ワーキング・グループ、2020年

四天王寺大学人文社会学部人間福祉学科教授

笠原 幸子かさはら さちこ先生

日本社会福祉学会
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