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高齢者の栄養不足を防ぎ、認知機能の低下を予防しよう

国立長寿医療研究センター
研究所 老年学・社会科学研究センター フレイル研究部 研究員
木下かほり先生

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年齢とともに、食べる量が減りやすくなる

高齢者では、食欲を調節するホルモンの分泌が減ったり、胃や腸などの消化管や、味覚・嗅覚の機能が低下したり、複数の慢性疾患にかかっていたり、薬の種類が増えて副作用を受けやすくなったりして、食欲の低下が起こりやすいと考えられています。
また、認知機能や身体機能が低下したり、人付き合いや生活環境など、身の回りに変化が起こることが多くなったりします。
これらの変化は、食事の準備や、食べることそのものに影響を与える場合があります。

たとえば、体力の低下や、住んでいる地域によっては交通手段が限られることなどから、高齢者は買い物へ出かける頻度が減少したり、重いものが運びにくくなったりする傾向があります。
すると、菓子パンや即席麺など、腐りにくくて軽い食材を選びやすくなることや、肉や魚、牛乳など、腐りやすいものや重いものは避けやすくなることが考えられます。
噛む力が弱くなったり、入れ歯が合わなくなったりすると、やわらかくて食べやすい食品に偏ってしまうこともあります。
ひざや腰の痛みから台所作業がおっくうになると、調理の簡単な料理に偏ったり、料理の品数が減ったりすることもあります。
また、配偶者や友人、ペットとの突然の別れから、孤独感や精神的なストレスを感じて、食欲が低下することもあります。

このように、心身の機能や生活環境が、食事の準備や食べることに影響を与え、栄養素の偏り、ひいては栄養不足をまねきやすい食生活になってしまうことがあるのです[図1]

 

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わずかな食事量の減少でも、長引くと体重が減ってしまう

1日の身体活動に必要なエネルギー量に対して食べる量が少ないと、体重が減少し、低栄養になりやすくなります。
とくに高齢者では、「肥満」よりも「やせ」のほうが死亡のリスクが高くなるため、体重減少をいち早く防ぐことが大切です。

しかしながら、高齢者においては、自分も家族も気が付かないうちにやせていた、ということがあります。
当センターの病院には「ロコモ・フレイル外来」があります。
私が管理栄養士として勤務していた頃、フレイル(いわゆる虚弱。要介護になりやすい状態)の予備軍などで栄養指導をさせていただく患者様に体重計に乗っていただくと、皆さんそろって「思っていたよりやせている!」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
ご自宅で体重を計る習慣のない方は、案外多くいらっしゃいます。

計算上ではありますが、たとえば、体重60kgの人の場合。
朝~夕の食事量から、毎食、にぎり寿司3個分の米飯を減らすと、3カ月で体重が3.6kg減る可能性があります。
わずかな食事量の減少でも、長引くと体重が減ってしまうのです。
このような意図しない体重減少は、フレイルの徴候のひとつです。
また、体重減少は認知症の発症リスクの上昇と関連していることも、疫学研究で報告されています。

食事の摂取量が少ない人こそ、質の高い食事が大切

食事からとる「摂取エネルギー量」と、身体活動のために消費する「消費エネルギー量」が釣り合っているとき、体重は安定します。
しかし[図2]のように、このバランスが崩れると、体重に変化が起こり、太ったり、やせたりします。

また、活動量の減少にともない、消費するエネルギー量が少なくなる場合は、食事からとる必要があるエネルギー量も少なくなります。
つまり、少ない食事量でも、体重が維持されるということです。
しかし、エネルギーは主に「炭水化物」、「脂質」、「たんぱく質」という栄養素からつくり出されますが、良好な代謝、免疫力の維持、細胞の修復などには、これらのほかに「ビタミン」、「ミネラル」などの微量栄養素も必要です。
活動量の低下した高齢者では、少ない食事量で必要なエネルギーが満たされ、それにより体重は維持されていても、微量栄養素は足りていないという事態が起こりやすくなります。
このようなことから、食事摂取量が少ない場合ほど、質の高い食事(栄養素密度の高い食事)が重要と考えられています。

日本人の朝~夕の食事と、その質を調査した報告によると、食事の質は夕食でもっとも高く、次いで昼食、朝食という順になりました。
食事の組み合わせパターンをみると、朝食では、パン食よりもごはん食のほうが食事の質が高く、昼食でも、パン食やめん食よりもごはん食のほうが、質が高いことが示されています。
その背景には、ごはん食の場合、主菜や副菜など、ほかのおかずと組み合わせて食べることが多いため、結果として多くの栄養素をとりやすくなることが関係していると考えられます。
したがって、食事による摂取量が少なくなりがちな高齢者は、主食+主菜+副菜を組み合わせた食事を心がけることが大切です[図3]

たんぱく質の“質”にも目を向けよう

近年、高齢者の健康維持には、十分なたんぱく質の摂取が大切だといわれています。
たんぱく質は「アミノ酸」が集まってできていますが、アミノ酸は筋肉、皮膚、毛髪などをつくるだけでなく、脳内で情報を伝達する物質の材料になり、認知機能や気分などにも関与しています。
アミノ酸の中には、体内で合成できるものと合成できないものとあり、合成できないものを「必須アミノ酸」と呼び、食事からとる必要があります。
そしてたんぱく質の“質”は、その食品のたんぱく質に含まれる、必須アミノ酸のバランスで評価します。
必須アミノ酸のバランスがよいたんぱく質は、質が高く、体内で効率よく利用されるのです。

また、食事全体のたんぱく質の質は、食品の組み合わせ方によって高めることができます。
たとえば、[図4]はどちらもたんぱく質20g前後の食事ですが、図の右側と比べて、左側の食事はたんぱく質の質が低く、効率の悪い食べ方となります。
この場合、[図5]のように食品の組み合わせを変えると、たんぱく質の質が向上します。

また、私たちは最近、食事に含まれるたんぱく質の質に着目した研究結果を報告しました。
1日の中で食べる量が少なくなりがちな朝食に注目してみると、朝食のたんぱく質の質が高い人ほど、将来の筋力が低下しにくい可能性が分かったのです[図6](文献1)
認知機能との関係でも同様の結果を得ており、たんぱく質の質が高い朝食を食べることは、筋力や認知機能の低下を防ぐために重要な可能性があると考えています。

質の高いたんぱく質を多く含む食品は、主に肉、魚、卵、大豆、牛乳で、私たちは日々、これらから多くのたんぱく質をとっています。
一方、主食である穀類(米、小麦など)からもたんぱく質をとっていますが、なかでも小麦は「リジン」という必須アミノ酸がとくに少ないため、たんぱく質の質が低くなりがちです。
できるだけ米飯を主食とし、主菜と副菜を組み合わせた食事を多く取り入れることが、高齢者をはじめ、栄養不足を防ぐ秘訣になるかもしれません。

【参考文献】

文献1)Kinoshita K, Otsuka R, Nishita Y, Tange C, Tomida M, Zhang S, et al. Breakfast Protein Quality and Muscle Strength in Japanese Older Adults: A Community-Based Longitudinal Study. Journal of the American Medical Directors Association. 2022; 23(5): 729-735.

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国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター フレイル研究部 研究員

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日本サルコペニア・フレイル学会 評議員

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